3.精霊界のクリスマス市、器用な隣人の工芸品
ここのクリスマス市を見物するには、入り口の門前のチケット売り場で入場券を購入する。
いちど入場券を買えば、クリスマス市が終わる12月25日まで出入り自由だ。
僕は招待券なので、ロイゼさんといっしょに正門の横にある関係者用出入り口から入場した。
赤い実がついたヒイラギの輪飾り(リース)や常緑のモミの枝葉がたくさん飾られた木の門をくぐれば、もう露店がひしめくクリスマス市の通りだ。
露店といっても、木造やレンガ造りのしっかりした小屋が立ち並ぶ。クリスマスまでの間だけ存在する、おとぎ話から抜け出した小さな村に迷い込んだみたいだ。
空はうすい曇り空。ときどき粉雪がちらついている。屋外だと凍りつきそうなくらい寒いけど、クリスマス市を見物するにはぴったりのお天気だ。
僕は毛糸の帽子をしっかりかぶって首には毛糸のマフラーを巻き、毛糸の手袋もはずせなかった。
広場のところどころに、金色の大人よりも大きな雪だるまが置かれている。雪だるまのお腹の中では薪が赤い炎をあげて燃えている。屋外用ストーブだ。
広場は格子状に区画され、道ごとに、食べ物屋が集まっている〈ごちそう通り〉や〈お菓子通り〉だの、〈雑貨のお店通り〉に木工細工や鍛冶屋など専門技術者が集まる〈職人の店通り〉など、わかりやすい名称があった。
露店を出しているのは、この国の人間のほか、〈器用な隣人たち〉と呼ばれる人々だ。彼らは精霊界でも物作りが得意で有名な種族だという。
〈器用な隣人たち〉は人間に比べるとちょっと小柄な体格の人々が多く、昔から手先の器用さで知られていたそうだ。
そのため、人間が戦争を起こしていた時代には、その物を作り出す才能と手先の器用さによって生き延びてきた歴史があるという。
初めに歩いたのは軽食の店が多い通りだった。鼻先をふわっと温かい風がかすめた。
熱くて甘いスパイシーな香り。ホットワインの屋台だ。ホットワインを売る店は何軒もあり、〈ごちそう通り〉以外にも店があった。
とにかく外にいると寒いから、お酒を飲める人は体を温めるためにたくさん飲むらしい。店ごとにワインやスパイスの種類が異なり味もちがう。
滞在型の観光客のなかにはぜんぶの種類を飲んでいこうとする人もいるそうだ。
ロイゼさんがアルコールの入っていないこども用のホットドリンクを買ってくれた。
紅茶にリンゴやオレンジやブドウなど果物を入れて煮込み、砂糖やハチミツで甘味をつけた熱い飲み物だ。
肉の焼ける香ばしい匂いと煙が流れてくる。ホットドッグの露店だ。
店先の調理カウンターには肉をはさむ切れ込みのあるだ円形のパンが積み上げてある。
その手前の長さ二メートルはありそうな焼き網では太くて長いソーセージやぶあついステーキ肉が、ジュウジュウ音を立てていた。
僕は熱くて甘いホットドリンクを飲み、焼きたてのソーセージをはさんだ大きなホットドッグをかじった。
ホットドッグを食べ終わると、ロイゼさんがパン皿みたいな大きさの揚げたてドーナツを買ってきた。そのドーナツを食べ終えたら、シナモンロールを買った。
僕らはお行儀悪く食べながら歩いた。
手芸品の専門店が並ぶ通りでは、布や糸を売るお店で暖かそうな毛糸の帽子や手袋が売られていた。
花や葉の図柄や複雑なもよう編みのセーターやカーディガンがたくさん積まれていた。
それらは虹の七色がぜんぶあって、濃い色から薄い色までそろっているので、自分に似合う色合いを選べるようになっていた。
キルティング細工の店は、キルトらしい幾何学的な模様や、クリスマスふうの刺繍をほどこしたブランケットやラグマットがよく見えるように吊るして展示してあった。いちめんクリスマスモチーフの花や木の刺繍入りのスリッパや暖かそうなガウンもあった。
どれもていねいな手縫いで作られていて、刺繍の針目は細かく、きっと名人の作品なんだろうと僕は思った。
そのおとなりは柳細工の店だ。
細くしなやかなヤナギの細枝で編まれた大小さまざまなバスケットやおしゃれな小物入れのカゴ細工が売られていた。
リネンの店では、店先にリネンの無地のハンカチや、テーブルかけやシーツが山のように積まれていた。それらは無漂白のリネン特有の、薄い黄色みを帯びた淡い灰色の生成り色という、自然のままの色合いをしていた。
リネン製品はさらっとした手ざわりが特徴だが、ここのリネンは絹のように細くしなやかな糸で緻密に織られていて、信じられないほどやわらかな風合いの最高級品だ。
もしも僕の住む町でこれだけ品質が良いものを手に入れようとすれば、かなりの高額な買い物になるだろう。
あれもこれもぜんぶを親方とおかみさんへのおみやげにしたいけど、ステキなものが多すぎる。
こんな楽しい気分でどんどん買い物をしたら、とんでもない金額を使ってしまいそうだ。
クリスマス市に入る前にロイゼさんに注意されたとおりになっちゃったな。
買い物はあわてて買わないこと。
今日はしっかり見物して、買いたい物が見つかれば、それを覚えたりメモするなりしてホテルへ帰り、一晩じっくり考えなさい。それでも欲しいと思うなら、翌日に購入すれば良ろしい。
クリスマス市の品物はたくさん用意されていて、よほど高価な一点物の作品でもないかぎり、めったなことでは売り切れたりしないから――とアドバイスしてくれたのだ。
たしかに僕はすごく楽しくて、見る物すべてが欲しくて、持ち帰りたい気分だった。
軽食などは持ち帰りがむずかしいものもあるけど、持って帰れそうなものは三日目の帰り際に買うつもりだ。親方の好きそうなワインとか、おかみさんの好きそうなお菓子とか。
だって、ロイゼさんのオオカミ犬の犬ゾリなら、家まで30分ほどで帰れるんだもの。
こんなふうに僕は、あれは親方が喜びそう、こっちはおかみさんに似合いそう……なんて、お二人へのおみやげのことばかり考えていた。
おみやげを買うためのおこづかいはじゅうぶんある。親方とおかみさんが持たしてくれたのだ。
クリスマス市で使える通貨は、僕の町で流通しているものとはやや異なっていたので、出発前に親方がロイゼさんと相談して両替してもらっていた。
ロイゼさんは精霊界にある銀行でこちらの通貨に交換してもらうそうだ。
市の真ん中あたりを歩いていたら、風に甘い匂いが混じった。
ハチミツみたいな香りのみなもとは、その店先に灯されている何十本ものロウソクだった。
「ミツロウのロウソクだ!」
ミツバチの巣から取れる蜜蝋で作られたロウソクである。それもクリスマスらしい形がいっぱいだ!
小さなツリー、田舎風の家、塔に時計台、薔薇の花に蝶々に天使。サンタにトナカイ、羽のある妖精に雪だるまなど、楽しい形がいっぱいある。
クリスマスツリーに飾るオーナメントの専門店では、定番の赤や緑や黄色や青のガラス玉から大小のベルに金銀の星飾りまで、サッと見ただけで百種類以上はあった。
僕はガラス細工の店の前で止まった。
澄んだ氷のようなクリスタルガラス製の人形たちがところせましとならべてある。
定番のサンタたちのシリーズに羽のある妖精に、一角獣などのおとぎ話の生き物たちがいる。雪をかぶった小さなツリーは透明から緑色までそろっているし、金銀のステッキや六角形の雪の結晶はかぞえきれないバリエーションがあった。
スマートな犬に、かわいい猫、ゾウにキリン、ライオンにワニ。切り子細工のリンゴに洋ナシ、夕陽みたいなオレンジ。あかね色に透けるサクランボ。
僕の住んでいる町ではとうていお目にかかれない、宝石におとらぬきらめきをはなつ作品ばかりだ。
ひとつなんてとても選べない。
いつまでも眺めていられそうだけど、クリスマス市のお店はまだまだたくさんある。
僕はなごりおしい気分を押さえ、ガラス細工の店を出た。




