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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
10章 月は東に日は西に

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135/139

135:ヒトの発展に犠牲はつきもの……とか言わないよな?

 ジーニャはぐったりとした俺の体に注射器の針を刺し、血液を抜いていった。そして採血された血液の大半をガラス容器に移し替えラベルを張り付けたと思えば、にんまりと笑って見つめる。


 正直、その光景は……変態のソレだ。


 注射器に残った血液を検査装置と(おぼ)しき魔具に垂らし、反応を見ている。あれで何が分かるというのかは分からないが、ジーニャは記録を取りながら「う~ん?」と(うな)ったりしている。


「……なぁ、それで何が、分かるんだ?」


 声をかける事にした。

 というよりも訳も分からず血液を抜かれ、体は今なお逃げ出す気力も()いてこない。そんな状況の中で当人である俺は放置されているとくれば、自分の世界に(ひた)る目の前の少女に疑問を投げかけても仕方ない事だろう。


「ん~? これはね、君の一定量の血液にどれだけの魔力が含まれていて、含むことができるかを調べているんだよ!」


 ジーニャはニコニコしながら言うと近寄り、メモを俺に見せつけてくる。


「男性、健康体、魔力流量C、魔力量D~E、魔力操作の適正、あり……?」


「そそ! 検体(サンプル)数が多いとは言えないから、あくまでも参考程度なんだけどね~。神経薬剤の時も思ったけど、君は少ない魔力量でも応用でどうにかしてきたんだろうね~。基本の身体強化くらいしか使えないはずなのに凄い!」


 俺がそこに書かれた内容を読み上げると嬉々として反応を返し、早口で(まくし)し立てられる。

 勢いは尚も途切れそうにない。


「本当はね? 君の体の中の中まで、隅々(すみずみ)まで見てみたいんだけどさ? 無開花者の君に耐えられるかは分からないからね! それでも君がどうしてもやりたいっていうのであれば、私はいろんないんだけどね? そんなに協力したいって言うのであれば、ヒトの発展のために貢献(こうけん)してもらっちゃおうかな!」


「ちょ、ちょっと! ちょっと、待ってくれ!? 俺は、協力なんか、しない!! 勝手に話を、進めないでくれ!」


 そして更に言葉が加速し、勝手に協力をする事がジーニャの中で決まったところで、慌てて俺は途切れ途切れの声を出して否定した。


「え!? 協力はしてくれないの!? そっか……とても良い検体になったかもしれないのになぁ。なんだ、また思考が先走っちゃったな~」


 ジーニャは心底がっかりしたように言う。


 恐ろしい少女だ。自分の中の欲求に従うかのように話が進み、自身の中で結論へと()けていく。思考が先走るのが(くせ)のようだ。

 最初の出会いの時にも会いに来てくれた、と告げたように。


 止めてなければどうなってたんだよ……今までの検査ですら有無(うむ)を言わせずやられたが……もしかして、体を(きざ)まれてバラバラになんて事に……い、いや、流石に物の例えだよな? 体の隅々(すみずみ)ってのは……


「油断も(すき)も、ないな……」


「あははっ! すまないすまない! まぁ、隅々までは無理でも簡易的な検査はさせてもらうよ!」


 そう言うと、ジーニャは満足気に再び作業に戻っていく。


「はぁ……ダンジョンから、戻った初日。気絶し、気付けば、アマテア皇国。そして、検体扱い、か……」


 ジーニャの姿を見ながら、前途多難(ぜんとたなん)な未来に思わず愚痴(ぐち)(つぶや)く。


 再び暇になった合間に体内で魔力を循環(じゅんかん)させ、神経薬剤の効果を極力打ち消そうと……したところで急激な眠気に邪魔(じゃま)をされてしまった。


「……俺は、(しばら)く、眠る」


 (まぶた)は徐々に落ちていく。ジーニャには恐らく声は届いていないだろう。

 そのまま眠気に身を(ゆだ)ねた。



☆★☆



 そのままどれだけの時間が経ったのか……

 ジーニャに足を持たれ、ズルズルと床を引きずられていく感覚に目が覚めた。


「ノーマ。ほら、ここで寝ちゃ駄目だよ! 部屋に向かうよ! まだ、薬剤の影響が残ってるんだか、らっ!」


「……いや、(しび)れはあるが(つか)まりながら動ける程度になったと思う」


 足――体の感覚が戻ってきている。眠る前よりもはっきりとしたもので、言葉も普段通りに話す事ができる。


「あぁ! それは良かったよ! 実は採血するついでで腕にプスッと刺しておいたからさ!」


「……気付かなかった。何を刺したんだ」


「大丈夫、安眠剤さっ! 血流が落ち着きリラックス。更には寝ている間に代謝を(うなが)し、解毒もばっちり! ただ寝て起きると時間差で興奮しちゃうんだけどね?」


 ちびっ子はケラケラと笑いながら言葉を続ける。


「改良を加えても、どうしても興奮しちゃってね~。難しいよね!」


「そんなもんを俺に打ったのか!?」


「あっはっはっはー!」


 笑い声を響かせながら、俺の足をそのまま引きずるジーニャ。

 身を(よじ)ってうつ伏せになるとジーニャは俺の足から手を放さざるを得なくなり、その勢いのまま背中から倒れた。


「い、痛い。酷いなぁ、動くなら先に行ってよ! 私は君よりも身体能力に自信はないんだからさ!」


 バタッと倒れた衝撃で痛かったのだろう。背中をさすりながら(くちびる)をすぼめて俺に顔を向けると非難めいた口調で告げた。


「そいつは悪かったな。俺もいつまでも床を引きずられてホコリまみれにされたくなかったんでね」


 俺は起き上がるとジーニャに右手を差し出した。その手に躊躇(ためら)いもなく重ねられるジーニャの左手。


 すっぽりと俺の手に収まるかのような小ささ。華奢(きゃしゃ)な体つきだ。

 まじまじと彼女(ジーニャ)を見ていると、不思議そうな眼差しに変わり、そして笑顔を向けられた。


「なんだい? 私の事が知りたくなった? 夜は長いから、眠くなるまで語ってあげても構わないよ!」


「……遠慮させてもらうよ。そんな子守唄を聞く歳でもないからな……色々と起きて疲労が溜まっているのは事実だから、先にしっかりと休息を取らせてもらえるか」


 俺はそう答えながらジーニャの手を引いて、起こす。その勢いのままにジーニャが俺の懐にぶつかった。


 そして……

 なぜか、俺の足にジーニャの足が巻き込まれ――倒れた。


 倒れる瞬間に身体強化でジーニャをしっかりと体で受け止め守ってやる。


「わざとやってないか?」


 視線を自分の胸元に向けると、すっぽりと収まるジーニャの頭が見える。


「あはは、こんな事をわざとする奴がどこにいると言うんだい? それにしても、君の魔力は凄いね。至近距離で見ていても、惚れ惚れするほどの魔力量と早さだ……素晴らしいね」


 ニコッと笑いながら、俺の目をじっと見る。

 その笑った目の隙間には興味が尽きないとでも言うような視線が垣間(かいま)見える。そのまま俺の中身を見ようとしているかのような圧力だ。


 俺の方が圧力に負け、視線を()らした。


「さぁ、起き上がってくれ。今度は自分で起き上がれるだろ?」


 そして……

 お互いに別々に起き上がり、ジーニャに先導されて部屋へ向かう。


 会話は途切れ、二人の歩く足音だけが建物に反響する。

 ジーニャの指さす部屋。そこのベッドへと自然と足が向かう。


 そしてベッドに横たわると急に眠気が襲い……(まぶた)を閉じた。




 だが、深夜も深夜の時間になって目が覚めた。

 急激に体を動かしたくなり、筋トレや素振り、身体強化の鍛錬を何時間も行い、汗だく。


 無心で行い続け、興奮する体が静まるのを待ち続けた。


「アァアアアァァアッ!!!」


 そして、体の燃料が尽きる前に吠え、倒れこみながらベッドに上半身を投げ出して再び眠りにつこうと瞼を閉じる。


 なんてもん、打ちやがる……


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