緊急魔神軍会議
朝の魔王城の食堂に魔王である俺含め、将軍格のみんなが顔を揃えた。
それぞれが自分の頼んだ朝食を運びながら、軽い挨拶を交わす。
「あーっと、みんな、食べながらで良いから聞いて」
一斉に全員の注目が集まる。
「今日、マーリンとモニカに緊急会議の提案を持ち出されてね、せっかく、主戦力のみんなが揃ったんだ。それぞれの報告や情報の整理などを行おうと思うんだ。出来れば早めにしたいんだが」
その発言に補足をつけるように、マーリンが、前に出て話し始める。
「会議の場所は五階の多目的室でいいでしょう、テーブルなども既に準備は始めてる」
リネアは……マーリンが余程嫌いなのかな目を合わせることもしない。何か悪いことでもしたのか?
「とりあえず、何をするにも、まずは、腹を満たさないとね。出る案も美味しいご飯を食べると出やすいからね」
みんな同意するように食事に手をつけながら小さくうなずく。
全員の同意が、確認された後、少し食べる速さを上げて、朝食を下げる。
「先に向かっているね」
そそくさと、五階に向かう。
五階は魔王城どの方角にも位置をとっているドでかい階層だ。東方向は八階まで西は六階北は九階南は五階と言う感じでどの方角にも直面する共有階層だ。
だからと言うべきか、行くたびに周りから「魔王様」というコールラッシュが止まらない。
(いったい何の罰ゲームだよ!)
リネアと一緒にいた時は目を光らせていたのかもな。
「多目的室、多目的室…ここか」
扉を開くと広い部屋の真ん中に人数分の席と束になった資料が置かれている。
席の間は大体二メートルくらいだろうかキチンと幅が置かれていた。
資料の他にそれぞれの名前が書かれた札がある。
未だに自分の名前が慣れない、魔王様と、呼ばれることが多いからそれで定着してしまっているからだろう。
全員が揃うまで資料の見直しや誤字、脱字などを調べておこう。
緊急会議の五分前に将軍格が全員揃った。
それぞれ、あらかじめに資料をパラパラめくったり、本を片手に時間を確認したりしている。
リネアは入り口から見て俺の右の席に座り、マーリンは俺の左の席に座る。
「…少し早いけど全員揃ったから、これより、魔神軍緊急会議を開きます」
話の主導権を取りそれぞれの議題に取り掛かる。
「まず、今回の会議はモニカとマーリンが提案した事だけど、緊急をつけるという事は何か重大な議題があると思ったのだけど」
マーリンが待ってましたと言わんばかりに声を張り上げた。
「はい、皆様にこの前の報告書がまとめ上げたのでそれを簡潔にまとめ上げたものがあります。資料の28ページをご覧ください」
それぞれが、紙をめくり指定されたページを開いただろう。
「今回注目してほしい所は見ていけば分かるのですが、城塞都市ヴォルヘンにより情報を集めた事により、重大な事に気付きました。それは…勇者の事についてです」
勇者の単語に少しざわついたもののすぐに落ち着きを取り戻しマーリンは話しを続ける
。
「今まで魔王城を落城させようとした者は多くても未だに難攻不落の魔王城に歯が立たないというのが一番の自慢である我が魔神軍ですが、初代の勇者は先代の魔王様との一騎打ちにまで持ち込んだという話し、知らないわけではないでしょう」
話を遮るようにオルズが手を上げた。
「でもよ、今までの話は初代の勇者がって話だろう?二代目、三代目は六階に行く前に倒したとか聞いたぜ?」
「オルズ、またあんたはタメ口を…」
おっとまずい。
「今は会議中よ。説教や暴行は控えなさい」
「っ!…申し訳ありません。魔王様」
ギリアは少し沸点を高くしてほしいな。悪い所はちゃんと直すべきだ。
「続けますね。先ほどのオルズの発言は良い質問です。ですが、今回は明らかにマズイ状況です。実は勇者のパーティは大体3~6人が選ばれます。そこは変わりありませんが、勇者一行の事についてです。」
「少し回りくどいぞ。重要な所を上げないか、我はともかくロザリー、ナナリー姉妹がウトウトし始めたぞ」
「「ハッ!大丈夫です大丈夫です。寝てません寝てませんよ!!」」
「ははっそのようですね。では、重要な部分を言います…」
「勇者は56人選ばれすでにその半分の一行はここに来ているとの事です。」
その言葉をきいた全員が戸惑いの声をあげる。
「バカな!?勇者が56人だとっ!?」
「勇者は選ばれたものしかなれないはず、それが、そんなに多くなどあり得ない…!」
混乱の渦に包みこまれた、落ち着かせようとした時バンッと机をたたく音がした。
「っ!…」
少しの静寂が訪れる。
「貴方たち落ち着きなさい」
机を叩いたのはリネアだった。その声はいつもより低く威圧感があった。
「マーリン、その勇者一行は確認したの?」
「シェイプトランスで各地によって確認した勇者一行の数は7つしかもそれぞれ、魔剣や聖剣持ち、取り巻きはそんなに強くないのが救いかな」
…ん?でも、おかしい、どう考えてもおかしい。
そんなに勇者がいたら56人の勇者だけのパーティにするのも可能なはず、多くて足を引っ張ってしまうのなら、勇者のみのパーティを幾つも作った方が一番手っ取り早い。
魔神軍を早く倒すだけの事考えてる感じじゃないよな?
56人…勇者…魔神軍だけ、じゃなくて、他にもターゲットがいた?それなら互いにつぶし合ってくれた方がありがたいが、それは無理だ。
この世界は大体が魔神軍の領地だ地方の一帯を仕切るやつがいなくなったら一瞬にして崩れる。その中で一番効率がいいのが、拠点であるこの魔王城を落とす。
そうしたら、魔王を失った配下や周りの指揮も落ちて一瞬にして領地が無くなる。
「いくらなんでも大がかりな事だね」
「確かにそうですね。念のため偵察隊を何部隊か派遣してますが、動きに迷いが無いと…」
「密告者の可能性があると…?」
「考えたくありませんが」
「ねー、それならさー、ぎりあにーちゃんがつくったしっぱいさくはどう?」
その言葉を聞いた後全員が動きを止めて少しした後、不敵な笑みを浮かべた。
「あー、その手があったかぁ…ふ、ふふふあはは、そうだねぇ、あの子たちを処分するためにも最後くらいは俺たちの役に立って逝ってほしいね」
嫌な予感と同時に前にリネアが言ってたことを思い出す。
レベルアップをする時、魔族はいないの?って言った時ギリアに渡して全部ダメになったって、そうだ、全部と言う事はそれなりの数があったというわけだし、と言う事は…
「この会議が終わった後、早速準備に入らせていただきますね」
ウキウキとした顔でその場で軽く踊るギリアを見て見ぬふりをしながら、マーリンは話を続ける。
「それとは別の話になるのですが、この前に帰ってきたときに魔人族になりすましたうちの部隊が伝書魔から手紙が届いて来て、分かったのですが、魔人族の中にヨアケガラスがいる…と」
「ヨアケガラス?」
「なーに?それ?」
俺はともかくモニカも知らないのか。
「私から説明します。ヨアケガラスとは、その名の通り魔人族の中では珍しい部類で、烏の翼を生やし、その色は夜明けのような付け根は白くそこからだんだん黒くなるまさに夜明けに似ている事からヨアケガラスと名付けられたものです」
「ふむ…でも、そいつがどうしたの?」
「一番の特徴がさっきいった翼なんですが…厄介なのがその能力です。奴は自身の力を魔人や魔獣、魔族などに分け与えるというものです。しかし、その分け与えた力の分だけ強くなるのではなく潜在能力を120%引き出すというものです。」
「つまり、一回でも力を分けると爆発的な強さが出るってわけ?」
「その通り、下手すると、その魔人一人で無敵部隊を作れるというわけです。」
「しかし、そのヨアケガラスを利用して魔王城を落とすという動きは見せないんですよね。そこが不気味と言うか何というか…」
「よし!」
「魔王様、なにかお考えが?」
「マーリン、リネア、ホビル、モニカ以外は勇者の動向を探ったり、地方の指揮官に警戒態勢を強めるように呼び掛けて、部隊も幾つか派遣して、班分けは私が後で送る」
「魔王様方はどうするのですか?」
「…東の魔人族達に会いに行く」
それを聞いたマーリンは目を見開きモニカは固まりホビルは飲んでいた炭酸飲料を吹き出しリネアはその炭酸飲料を被った。
「「「え、ええええええええええええ!!??」」」
「目がぁ!目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」