一途な同情
廊下をリネアはマーリンと一緒に歩いている。
「…」
あんな事言った手前で一緒にルーツの見舞いに行くことになったけれど、き、気まずい。なんか話題も地雷踏みそうで切り出そうにもそれが出来ない。
「ところで…」
「は、はいぃ!」
突然マーリンの方から話しを振られたことにびっくりして素っ頓狂な声を上げてしまう。
「君、レン様の事をどう思っているの?」
「魔王様を?」
「いいや、これは魔王としてではなく、一人の個体名であるカイン・ノウシュヴァンルーデ・レンとして、君はどう思っているのか、ということだよ」
つまり、立場としての事ではなく、個人としてどういう風に見えているのか、という意味なのか?
「…そうね、言葉で表すのは難しくなくとも、身体と精神、つまり、フィジカルとメンタルに強い優等感と劣等感が同居している。悪く言うとアンバランスな人だと思うわ」
「全く同感だけど、案外と言うこと辛辣だね、初めてじゃない?そういう事言うの」
「まぁ、元々あなた除いて魔神軍総括代理をしていたから、その時の名残で」
「それでも、魔神軍に入ったころの君を見ている気分だよ。あの時はとにかくがむしゃらに走っているイメージが強かったからね。先代様と話している時だってとにかく発言を稼ぐ事に必死だったじゃないか」
昔の私、か。確かに、そうだったのかもしれない、あの時の私はいろんな物事や人々から目を背けたり、逃げたりしていた。だからこそ今の自分がいるのかもしれないけれど、もし、違う道が用意されていたら、一体どうなっていたのかしら?
「その話しは、また機会があれば聞くとして、だ。アンバランスな人にはどのような行動が正解か分かるのかい?」
「…あなた、いや、マーリンは私に質問しているの?それとも問題をしているの?言いたいことがあるならはっきり言ってくれないかしら?」
マーリンはふむ、と口元をゆがめてこう続ける。
「リネアはレンを誰よりも見てきたやつだ。だから、理解する必要があるし、受け入れる必要も、それだけじゃなく、何よりも中途半端な同情を一切捨てて、最後まで面倒をみる覚悟を見せてもらいたいんだ」
「レン様の中にあるもう一つの命の事?」
「…ふふっ気づいていたなら、真っ先に言っておけばよかったものを」
「今まで、レン様を一日たりとも見ない日はなかった。あの日、覚醒したレン様を見て驚きはしたものの、それだけで、王妃様との約束は守る気持ちが揺らぐことはない」
「…」
リネア、それは、レンのためじゃなく王妃のためじゃないのかい?君は魔神軍に入ってすぐの頃は先代様にさえ心を許さなかった。
思い返してみれば君は王妃とあった日からは別人みたいにいろんな人と話すようになったし、腹を割って話すことも人並みに冗談を言うようにもなった。
でも…それは今、本気でレンの役に立っているといえるのかい?そう思うと、リネア、君は…
「また、王妃様の話しだ。真剣な話をしようとしたら、君は王妃様の事をいうな、気持ちは分からなくもない。あの人は誰にでも優しくただ存在するだけで、暖かな気持ちにさせてくれる。そんな人だった」
「みんなの心の支え、とでもいうのかな。レンも王妃様に出会っていれば、そう思うと、何とも言えない気持ちになる」
「私は、レン様と初めて会った時忠誠を誓ったの、それだけじゃない、あの時、誰かに言われた気がしたの、「この子の力になってあげてね」って誰の声かはわからない、老若男女いろんな人が入り混じった声、だから、私は、今ここに立ってレン様のために生きているの」
ああ、そうか、きっと、こういうやつだからなのか
「そうか、それなら、これ以上何かを聞こうとはしないよ。むしろ、ここまで答えてくれたご褒美に一つアドバイスをしてあげるよ」
「今までの忠誠を貫くんじゃなく常に一つ上の忠誠心を志した方がいいよ。」
きっとそれが、本当の意味の同情なんだからね。
「さてと、ここが、ルーツの病室だ。包帯の替えを手伝ってもらうぞ」
同時刻 城内 特務室
カイとケイはどう思うだろう、誰だって死は怖いだろう。大陸を渡ればそこは敵の本拠地。命の保証なんてどこにもない。
でも、今できることはこの事をこの子たちがどう受け止めるか。
「ということだ、正直な事を言うが、君たちがここに残ることを選んでくれたらどれだけいいか、そう思っている。だけど、これは命令するなんてことは出来ない。ここで命令をしてしまえば、戻ってくることを約束できない。
だから、これは君たちが決めることだ。俺は、君たちの意志を否定しない。ここに残るか、一緒に行くか、でも一緒に行くというなら、地獄を味わうことになることは覚悟しておいて」
「「行くよ」」
二人はこの選択を即答した。
「ケイと話していたんだ。すでにお姉様の弟分と妹分になると決めていた時から常に一緒がいいって」
「それに、お兄ちゃんとおねぇちゃんと一緒にいる時点で天国なんて望んでいないから、それに、帰る場所もない、でも、私たちにとってはおねぇちゃんといるのが」
「「自分たちの一番の居場所になってくれているの」」
その言葉は一途な同情の言葉だった
次回8月17日月曜日予定




