身勝手な成長
言われた扉の前についたら、中からうめき声が聞こえる。
問題が起きたら、すぐに連絡が来るので、それほどではないものの少し警戒しながら扉を開ける。
「うぅ…ぎっ…」
中に入ると聖女がお腹を押さえて端のソファに横たわっている、机には何かのどんぶりとその反対側には聖女を見ながら紅茶をたしなむマーリンとモニカがいた。
「えっと…これは…」
「あっまおうさま」
「いや、なに少し前に、話を聞こうと思って食べながら聞こうとしたら、豚丼の油に当たったようで…」
聖女は胃が弱いのか?
おっと、そんなこと気にしている場合ではない…が、こんな状態では何も聞けやしない、どうしたものか。
「ん?…むーっ」
さっきまでがっしりと腕にしがみついていたケイが離れラファエルの腹部に手をかざす。
「えっと、ここらへんかな…リフレッシュ」
ケイの手からきらきら光る小さな粒子がラファエルの中に吸い込まれるように入るとピクリと体を震わせると、何事もなかったかのように起き上がる。
ラファエル自身も自分に何が起こったのか分からないように、自分の身体をペタペタ触る。
「これは、状態異常回復魔法?」
毒などをきれいさっぱり無くすようなゲームでも、よくある回復魔法…なのだが、油に当たったりしても効果があるのは少しびっくりした。
現代社会でもあったら二日酔いとかにも役に立ちそうだな。
そんなことを考えていたら、ケイはトテトテと戻ってきて甘えてほしそうに見上げる。
「よしよし、えらいえらい、ケイちゃんは魔法を覚えたんだね、可愛くて、癒せるなんてケイちゃんは天才だな~」
褒めながら頭に手を当てて優しくなでる。
最初は恥ずかしそうに笑っていたが、撫でているうちに骨抜きになったようににやけて胸に顔を当てて頬をすり合わせる。
「お姉様!俺も、俺もケイに負けないくらいの魔法覚えたんだ変換魔法!物質を変化させていろんな形にできたりするんだ!」
そういうとカイはポケットからゴムみたいなものを取り出してそれを、両手で強く握ると光がカイの手に集まり、ゴムは長い棒状になり、金平糖のような形にもなり手の中でいろんな形に変形する。
興味津々に形を変えるゴムをまじまじと見ていたら、マーリンが隣に来て耳打ちする。
「因みにこれは人体にも可能なので、人体を皮のみにしたり、逆もまた可能です」
怖い、魔族だからというのもあるのだろうが、なんでそうやろうとしている事がえぐいんだよ。
しかし、なるほどこの技術は使える、精密機械も作れるし構造さえ理解していれば、ドでかい柵なども作れるだろう。
ともかく、兄妹を褒め倒して隣の部屋に一旦待っててもらうことにした。
「それで、二人は何か聞きそびれた事でも聞きに来たの?」
「まあ、そんなかんじ」
「私の方ではあえて、聞かなかったことですがね」
「私は後でいいから二人からどうぞ」
マーリンが軽く頭を下げると、懐からクリスタルを出して、画面を開きラファエルに見えるように方向を変える。
画面に表示されているのは勇者たちの顔写真だ。
「ラファエルさんになら、全員の名前が分かるのではないかと思って、この空欄に名前を書いてもらいたいんです」
ラファエルは、勇者たちの写真を見て眉をひそめる。
その後、名前が分からないのか入力せず、次の写真、次の写真へと、顔を通す、程なくして、驚きと悲しみの表情を浮かべて、体を震わせて震えた声を発する。
「嘘…なんで、成長しているの…?行方不明の子供たちが…まだ、十歳にもなっていなかった子も、兄妹もいなかったはず、でも…この顔も、この顔も…面影がある…なんで、なんで?」
成長、子供…発言を見るからに勇者たちの正体は…
「やっぱりね」
言おうとしたときに納得した、という顔でモニカが頷く。
「この都市、ぱっと見でもわかるんだけど、子供が全くいないの、一人残らず、報告書では5千件以上生まれたばかりの赤ん坊や、少年、少女の失踪事件が報告されている、その捜索結果が全部未達成どころか、行われていない」
「身勝手な成長…」
マーリンがポツリと呟く。
「魔術でも魔法でもないおとぎ話にしか目にしたことがない、最低な術、対象の年齢を無理矢理上げる、というだけならいいのですが精神年齢や、知識などはそのまま、しかも、無理矢理なため対象は激しい痛みを伴う、確かそのようなものだった、だとしたら」
「反逆の福音は結構やばい組織かもね」
おとぎ話でしかない術なんて、一生かけてでも完成させることはできないだろう、魔法でも何十年何百年かけてようやく完成させて、さらにデメリットを無くす研究もされる。
一般公開もされない危険な術を子供達にして、魔剣で、魂を喰い、そして、各地に放り出す、そして、人間の村だろうと何だろうと滅ぼすか。
しかし、なぜ、ケイとカイは生き残った?あの眼を植え付けられただけで、それ以外は殺戮した、あんな強大な力を持ったら、危険だと分かるのに連れて行かずに逃げられた。
子供の足だそんなに遠くにも行けないし歩いてでも歩幅の大きさで簡単に捕まえられる。
「ふむ…ショックな出来事だろうね、協会の者は孤児の保護、教育なども、任されている、その為子供と多く過ごす時があっただろう、その子たちが、こんなことになっているなんて…」
「多分なんだけどさ、二人共この地図見て」
モニカが取り出したのは三枚の紙、どうやら地下と一階、二階の見取り図だろう。
見比べてみるとある事に気付く。
「左下の倉庫の形が違う」
マーリンが指をさした所は倉庫上の階も下の階も同じ倉庫だが、一階の倉庫が不自然に欠けている。それだけではない、地下の見取り図も合わせてみるとそのあたり周辺が玉座から地下へ向かうルートではたどり着けないような、言わば隠し部屋がありますと言わんばかりだ。
「…くすん、隠し部屋…?倉庫?…この城に倉庫は一つしかありません…ぐすっ」
涙を流しながらラファエルが言う。
「…恐らく何があるかは大方予想がつくけど…行ってみる?聖女さん、あなたには正直見せたくないし、実際に見たわけではないから、確証もないけど…」
ラファエルは乱雑に涙を拭き、行きます と言い歩き出す。
そのあとを静かについていく。
次回2月24日月曜日




