第22話 幸薄トカゲと兎と少女
「あ。う、あ、え、わ」
私が名乗ると彼はよく分からないことを口走り始めた。
良く見ると、目を白黒させてかなり混乱しているようだ。あれ、なんで?
「あ、アリス様でいらっしゃいましたかーーーーッ!!ははーーーーーっ!!」
ビルさんは、そう言っていきなり私の部屋の床の上で、土下座し始めた。
「え、ちょ、ビ、ビルさん。いきなりどうしちゃったんですか!?」
正直言って、ちっぽけな十三年の私の人生の中で、初対面の人にいきなり土下座されたことなんて無い。っていうかそれが普通だよね!?
それよりも、この国は英国風だけど、土下座なんて概念は存在していたのか。そっちはそっちで驚きだぞ。
「すみませんスミマセンすみません!!何でも屋の俺如きがアリス様に色々とご無礼を働いてすみません!!」
凄い勢いで床に頭を打ち付けている。ヤバイ、痛そうだ。そして、私の部屋の床は痛まないんだろうか、心配だ。
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!! スミマセンスミマセン!! なんかお仕置きされても当たり前ですがどうか痛いことはやめて下さい!! そしてこんな何でも屋如きが命乞いしてスミマセンです!!うあーーーん!!」
それだけ言い切ると、荒い息をついて彼は床にグッタリと倒れ伏す。うわ、大丈夫かな…。
「あ、あの…大丈夫ですか? 私はそんなに偉い立場じゃないし、そんなに謝らなくても大丈夫ですから。さぁ、立って下さいな。…立てます?」
膝をついて彼を助け起こす。すると、今までよく見えなかった彼の容姿が見えた。
真っ黒に見える髪。艶やかなその髪は、微かに緑色が混じっているのが見て取れる。
瞳は深緑。エメラルドのような緑より深くて、じっと見ていると吸い込まれそうな色。
多分二十歳くらい?けど、全体の顔の作りは童顔っぽい。カッコイイ、より可愛いという言葉を思わせる顔立ちだ。
そんな彼が、私を見上げた。よく見ると、深緑のその瞳は涙で潤んでいる。げ、何?私何かした!?
「うう、そんな良いアリス様だったんすね…、俺、感動っす!!気女様は天使っす〜!!」
いやいや、それほどでも・・・?
ぎゃ、また抱き着いてきた。あ、初対面の人に抱き着かれるのも、そういえば初めてだな。
「は、はぁ…。どうしてそんなにアリスに恐怖心を抱いてるんですか?」
そうそう、気になっていたのだ。他の住人たちは私に好意を持ってるみたいだけど。だからビルみたいな反応は見たことが無い。
「え、えっと…前のアリスに色々無茶な依頼やらされて…もう一種のトラウマっすよ〜!!」
「はぁ、そうなんですか。大変でしたね〜…。」
ん? 前のアリス?
そう言えば変態キングもそんなコト言ってたな。
『それにしても、今度は結構年下のアリスなんだ。』とか何とか。
白兎は、『この国の外から入って来た少女は全てアリス=リデル』とか言っていた。でも、それなら私が他のアリス=リデルとなった少女に出会うことも有る筈だ。
けど私は他にアリス=リデルとなった少女を知らない。
だけど、もう居ないけど前にもアリス=リデルという存在はちゃんと居たわけで…。あれ? こんがらがってきた。
ここはもう、ビルさんに聞いてみるのが一番良いよね。うんうん。
「あの・・・ビルさん。」
私は腰に抱き着いたまま離れる様子の無いビルさんに、意を決して声を掛ける。
「ふぁい? なんすかぁ、アリス様。」
ビルが気の抜けた声で答えてくれた。っていうか様付けか、落ちつかねー。
「前のアリスって、…誰なんですか? そして、何処に行ったんですか?」
そう、前のアリス。それは誰で、何処に行ったか。
もう『前』と呼ばれている時点で、ここに居ないことは伺える。けど、その人は何処へ行った?
それを聞くと、さっきまで気の抜けたような顔をしていたビルさんの顔が、いきなり引き締まった。
……といっても童顔だし、そんなに緊急事態っぽくは見えなかったけど。
「え、えっと…そ、それは…。」
ビルさんは明らかに動揺している!効果は抜群だ!!
いや、そうじゃないだろ自分。とにかく答えて貰わなくちゃ。
「あにょ…はひぃ…えっと…」
ビルさんは混乱してかなりよく分からないことを口走っている。うわあ、なんか可哀想になってきた……めちゃくちゃ目が泳いでるぞ!!
「えっと前のアリスっていうのは…」
お、話してくれる気になったらしい。私はワクワクとビルさんを見つめた。ビルさんは言いにくそうに口をもごもごさせながら、それでも話し出そうとした。
「この国「何してるんですか?ビル。」
ビルさんの声を唐突に遮って聞こえたのは、聞き慣れた声。
そう。私がこの国で、始めに会った人。そしていつも微笑を浮かべていた人。
「ししししっししいっしっしししし、白兎様ァァァアァアァァァァァァァ!!」
ビルが叫んだ。そしてぴよーんと吹っ飛んだ。舌噛みすぎ、そして驚きすぎだ。
っていうか白兎にも様付けなのか……立場弱いんだな、ビル。
白兎は扉を開けて仁王立ちしていた。いつもの微笑は顔に浮かべていない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
ビルがまた土下座。……この人って怒られる前から土下座する癖でもあるんだろうか。防衛本能?
「それをアリスに知らせるのはまだ早い。彼女は昨日来たばかりです。ビルだって分かっているでしょう?」
「はい、すみませんでした。ごめんなさい。」
知らせるのはまだ早い? どういう意味?
なんで、どうして私には何も教えてくれないの?
体が、自然と後ろへ下がる。
覚えたのは、恐怖?
「アリス?ああ、何でも無いんですよ。さぁ、今日は夜も深けた。もうおやすみなさい。」
白兎の優しい声。でも、今それを信じても良いの?
「さぁ、アリス。おやすみなさい。」
白兎が手を伸ばし、軽く私の頭に触れた。とっても優しい手つき。
「……でも」
私が彼に反論しようとした、その時。
首筋に衝撃を感じた。
目の前が、段々と暗くなっていき、膝が床をつく。
「おやすみなさい、アリス」
優しい、その声。暗くなって行くその視界の中。途切れそうになっていく意識の中、最後に聞こえた声。
ぱたり。体全体が床に倒れ伏したのをかろうじで感じる。
それが、最後の記憶。
私は完全に意識を手放した。
あ〜…なんか最近ギャグ要素不足中だなぁ。まぁいいや。
ではでは、読者様からのコメント返信〜☆
ではっ!!アイリス・ローズ様から!
今日は幸薄トカゲこと、ビルさんからのお言葉です。
「え?あ、いつも見てくれて有難っす!!あと、これは作者とその他モロモロの登場人物の代弁でもあるけど、友達と仲直り出来て良かったっすね!!あと、何でも屋は…まぁ、続けていくつもりっす。色々大変な仕事だけど、意外にやりがいもあるっす!!」
ビル、アイリス様がチェシャと帽子屋と私の次に、君を応援してくれるって。
「マジっすか!!本当にアリガトっす!!感動で泣けてきたっす〜!!」
うっわ、ホントに無き始めた…涙もろいのか?
ではではお次は、佳月様からです!!
アリスのお姉さんとチェシャ猫さんが好き…チェシャ猫好きの私の同志、もう一人発見です!!凄く嬉しい♪
アリスのお姉さんが好きとは、中々マニアックですね!!でも確かに良い人かも。家の主人公の姉は凄いキャラになってますけど・・・。
あと、最後に書いてくれた、
『このお話は面白くて好きです。頑張って書いていってくださいね。』
というお言葉に胸がキュンとなりました…!!嬉し過ぎるぜ!!こんちくしょう!!
というわけで、お二人共有難う御座いました!!これからも見捨てないでやってね!!