指先
霜月 透子様『ピュアキュン企画』参加作品です。
あなたへ
これは 独り言です
追憶の海へと流してしまう
ボトルメールです
*
わたしは恋を知らないけれど
あなたが笑うと見とれてしまう
あるとき あなたを怒らせて
その激しさにさえ見とれてしまって
呆れた あなたが笑い出して
わたしも楽しくなってしまって
わたしの最後のとき
「何にもいらないから このままでいて」
そういって見つめた切れ長のあなたの瞳が
この世の中で どれほど綺麗なのかを
そのことが わたしとって 今もこんなにも大切なのだと
わたしは 遂に伝えることが出来なかったから
わたしには忘れることなんて出来ない
微かに あなたのゆびに触れただけで
全身に喜びが駆け抜けたことを
どんなに目の前が暗くても
あなたの姿を見るだけで
今日の全てが光に照らされたことを
追い詰められて胸が苦しくて
立っていることにも耐えきれない時にさえ
あなたの笑顔を見れば わたしも笑顔になったことを
あなたのことを わたしには忘れることなんて出来ない
幻のような日があった
鮮やかな新緑を透かした光の下
あまりにも透き通った あなたの横顔に魅入られてしまった
わたしの指先と あなたのほっそりとした指先は ほとんど近くて
あの時 あなたは 本当に知らないふりをしていた
あなたは 掬いあげられることを待っている薄紅色の小鳥のようだった
あなたの吐息にふれるほどに近づいたあの日
もしも そっと肩を抱き寄せたなら あなたは拒んだだろうか
それとも何も言わず 静かに わたしに凭れかかってくれただろうか
今も夢の中で あなたに出会う
薄紅色の羽毛の温もりとなって あなたの香りが馥郁と蘇える
わたしは 何度も 何度も あなたを空へ放ち続ける
そうして 朝の白さに目覚めるたびに
どうしてと 己の指先を見つめ
届かなかった あの木漏れ陽の横顔に
時を止めた あのひと時の躊躇いに
あなたのことを想い この詩を綴っている
恋は躊躇いに始まり後悔で終わる。
……うーん。やっぱり柄じゃないな。