生産職じゃない?そんな事ないよ
ファンタジーとかで冒険者ギルドってあるけど、真面目に考えてみると黒いよね。
どんなに世界がファンタジーでも、冒険者ギルドの企業戦略は口減らしか生贄にしか見えない。
ハローワークと思わせておいて、言外に死んでこいって言ってるし。
ランクに応じた、最低依頼達成数。年間会員費用。手続きの手数料。
これ位はやらないと、ギルドが経営破綻するし……。
あと、仕事は自費で自己責任とか…。社畜の量産やんか。
時代背景もすごいよね、大体は中世ヨーロッパ。中世ヨーロッパって貧困に悩んでたわけだし。
貧困による口減らしのオンパレード、冒険者ギルドという受け皿、魔物に食われる冒険者。……うわぁ黒。
偏見かなぁ。いや、でもなぁ。
さて、と一息入れながら宿へ歩を進めるココ。リンゴ?を齧りながら先ほど教えてもらったギルドについてまとめていく。
「つまり、冒険者じゃあないってことなんだよねー。便利屋みたいな感じかな、金に困ったら行けって言われたし、日雇い派遣みたいだなー。」
世の中そんなに甘くはないということなのか。ゲームのくせに、微妙に、そして嫌に現実っぽいところに眉をひそめてしまう。
「なんか、んー、このゲームって流通がちゃんとしてそうだよね。嫌な所で現実っぽいし、うん。流通ありそう、経済ありそう。そもそもナビが言ってたね、無職だって。経済がなかったら、職業なんて無いわけだし。」
経済がありそう、という考えはココが見ているゲームの街の風景を現実のように感じさせた。ココは更に考える。ファンタジアで最初にやらなければならないことが、衣職住もとい、衣食住の確保になるだろう。別に問題ないでしょう、ゲームだし、なんて言っていられなくなった。嫌な所を現実っぽくしてるとしたら、衣食住の確保は必要になるのだから。油断していると、アウトドア(都会派)になってしまう。そんな自分の考えに自分で恐怖するココ、気持ち早めに宿を目指した。
「ようこそ、お客さん。ここは宿屋と料理屋だが、どっちだい?」
宿屋は意外と簡単に見つけることができた。というのも、店先の看板に"泊まるか、食うかの二択店"と書いてあったからだ。ココにはわかりやすかったので、すぐに店の扉を開けた。焦っていたこともあり、迷いなんてなかった。
「泊まりでお願いします。それと、食事って付きます?」
ココは、宿屋だからといって食事は付くなんて思っていない。素泊まりが普通だと思っているし、実際に、何も言わないと素泊まりになることがそこそこあるのだ。食事の確認は必須とも言える。
「いや、付かんよ。宿屋と料理屋は別料金だからな、看板に書いてあったろう?泊まるか、食うかの二択ってよ。」
詳しく聞き直した話によると、宿屋を選ぶと料理屋として使えなくなり、料理屋として選ぶと宿屋じゃなくなる。しかも、宿屋の部屋数と料理屋の席数はまとめて扱っており、極端な話、宿屋だけの日や料理屋だけの日になることもあるとのこと。ココは、部屋をキープすることにした。
「すいません、一部屋を長期利用できますか。」
「ああ、できるよ。宿を使う使わないに関係無く、取り置きって形になるからな。クレジットが足りている間は勝手に支払われるようになっている、1日250クレジットだ。足りなくなったらブタ箱行き。取り置くかい?」
「はい、お願いします。」
「二階の一番奥だ。ご利用、ありがとさん。」
部屋に入ったココは、ベッドに倒れ幻術を解いて糸を回収した。そのまましばらく時間が過ぎたが、起き上がる気力が湧かなかったために、仰向けになりつつ、ステータスとストレージを確認していく。
名前:ココ
種族:ポルターガイスト
スキル:
製糸 操糸 鋼糸 罠作成 幻術 念力 コスプレ
暗躍 暗殺 諜報
称号:教会アサシン
職業:裁縫職忍
スキル:コスプレ
髪型や服装を変えたが、別人になりきれなかったため、作り込んだような違和感がある。幻術を使って誤魔化しているだけで、変装ではない。
スキル:暗躍
本来なら、裏から糸を引いて策謀を巡らせる、などといった意味があるが、本当に糸を引いて策謀(変装からPKまで)を巡らせた(足で巡ったとも言う)。正体を当てられない限り、証拠がログに残らない。
スキル:暗殺
急所への不意打ち攻撃が即死攻撃になる。成功率は本人次第。失敗すると、攻撃が見破られる。
スキル:諜報
自動メモ帳。自分が知った事を簡単にまとめてくれる。相手プレイヤーの行動ログを閲覧できるが、「きさま!見ているな!」と言われると「ばれた!あぶない!」と返してしまう。
称号:教会アサシン
我こそは、裁縫職忍ココ!この糸は貴様らの血に飢えているのよぉ!!
本人は生産職のつもりだが、変装、暗躍、破壊工作、罠、諜報、暗殺などまるで生産職には見えない。死に戻りは生産していないが、何故か教会利用者は増えている。守銭奴の女神はお金が集まってウハウハである。
PKするたびに、女神が巻き上げた金額の半分を、女神から貰える。
「へー、教会ってお金取るんだ。いや、タダで復活は無いよね、デスペナルティってやつかな?」
それよりも気になるのは、まるで生産職には見えないとゲームシステムが判断した事である。
「全く、勘弁してほしいな。ちょっと、手癖が悪いだけなのに。」
ココはため息混じりに愚痴をこぼし、ストレージの確認に移っていく。
「何があるかなー、糸があるのは知ってるんだけどねー。」
ボロい糸(不壊)
ボロい糸、なのに壊れない。アイテムとして最低評価の糸で、材料として利用すると生産の失敗率9割を叩き出し、成功してもボロい〇〇になる。
朽ちた鋼糸(不壊)
朽ちたワイヤー、なのに壊れない。アイテムとして最低評価の鋼糸で、生産には使えないが、罠としてはそこそこ優秀である。傷つけた相手に低確率で【金属中毒】を引き起こす。
普段着
普通の服。半袖半ズボンの服装。
謎の肉塊たち
正体不明の肉塊である。注意深く見ると、肌色成分が多い様な気もする。これ以上考えてはいけない。
謎の骨たち
正体不明の骨である。パーツが沢山あり、どこかで似たものを見た気がする。何処からか視線を感じる?気のせいだろう。
謎の核石たち
正体不明の核石。何故か核石だとわかってしまう。握りこぶし程度の大きさで、透き通った赤黒い石という不気味さ。鼓動のようなものを感じるわけがない。
赤黒い生地たち
何処で作られたのかわからない生地。仄暗い赤黒さで、人の手では作れないような美しい色合いをしている。何か関係があるのか、時折鮮やかな紅色になる。
所持金:6,254,735
「………これは困ったなー。アイテムドロップが怖い。」
ココは、呪ってきそうなアイテムを見なかった事にしてストレージを閉じた。
糸を使ったチューブトップを胸に巻いて、その上から同じように、糸で短いベストを着ているように見せかける。ズボンの裾を繰り返し折り曲げて太ももの半ばで仮留めし、靴下が無いけど革靴を履いて感触を確かめる。髪と糸を一緒に編み込んで左側頭部でポニーテールを作り、幻術をかけて、細かい部分を誤魔化す。そして、床に赤黒い生地を何枚か敷いた上に10000クレジット以外のストレージ内全てを置いて行く。
「準備は出来た、死に戻り組も教会から散らばったよね、たぶん。早いとこ教会に死に戻りしないと、運営に抗議メール殺到するよ。たいへんたいへん。」
慌ててベッドに立ち、天井に鋼糸を括り付け首にかけると、大きく息を吸い目を強く閉じて。ココは床に向かって蹴り進んだ。
『あら、死んでしまうなんて大丈夫?……ええ、安心しなさいな。……これで良し。さあ、目覚めなさい来訪者、世界があなたを待っているわ。………あ、それと手間賃として有り金の半分は貰っていくわね、じゃ。』
「……なんか、すごいの来たね。このゲーム大丈夫かな?」
ぼやきつつ目が覚めたは、霊安室のような場所。少し大きめの広間に立てかけられた棺が沢山並んでおり、その最奥列の1つに死に戻っていた。ココは、棺の隙間から広間を覗き、さらに静かな事を確認してからゆったりと慎重に出る。
「……ふぅ、ドキドキするね。ホラー映画とかに出てきそうで怖いや。あと、首吊りなんかやるんじゃなかった。ゲームだけどもう絶対やだ、お断りだよね。」
小声で独り言をしつつ、顔をしかめる。どうやら初の死に戻りは、ココに苦手意識をもたらしたようだ。
広間をでると、やはりというか地下廊下のようで、ランプの明かりが廊下を点々と照らしており、ひんやりとした薄ら寒い空気が、肌を執拗に撫で回すかのように纏わりついてきた。そんな不快感を表に出さず、ココは地上へと続く階段を遠目で見た後、廊下の少し奥に見える立ち入り禁止と書かれた立て札の後ろ、閉ざされた扉へと目を向ける。
「…こういう誰もいない時ってあるよね、ホラー映画に出てくる開かずの間みたいなの。大体開いちゃうんだよねぇー。…ぇっ。………開い、ちゃうん、だよね。…………。」
開いていた。ついさっきまで閉じていたはずの扉が気がついたら僅かに開いていた。ココが扉に気づいて、足を下げようとした時。
背後から一歩、足音が聞こえた。
"私を迎えに来て、ここにいるわ"
立て札に書いてあった内容が変わっている。立ち入り禁止と書かれていたのに、今では呼ばれてすらいる。煩く聞こえてくる心臓の音に掌を濡らす冷や汗が止まらず。バカな事を言うんじゃなかった、お約束じゃん、ダメじゃんホラー。なんて考えて固まるココ。そんな彼の背にそっと添えて、立ち入り禁止の扉へと押してくる手のような何か。抵抗らしい抵抗も思い浮かばず、押されるままに進んでしまい扉の目の前で立ち尽くしてしまう。
「………。」
何も言えなかった。ひょうきんな物言いすら出てこず、頭の中では悔い改めて懺悔し始めていた。そんな彼の右腕が、何かに引かれるように扉の奥へと入っていき、少し弾力のある棒を掴まされた、まるで人の手首のような。ゆっくりと、しっかりと手首を掴み返された。
「……いやぁ、だめだって。こういうのよくないとおもうなぁ、やっちゃいけないことってある、と、おもう、なぁ……って。」
ココはもう外聞とか恥とかクソくらえと言わんばかりに、全力で腕を引いているが1ミリも動かすことが出来ず徒労に終わり、嫌々ではあったが少し落ち着きを取り戻した。
「よく考えたら、これゲームじゃん。……ダメじゃん、余計に怖くなっちゃった。どうしろって言うんだよぉ、押しても引いてもダメって、詰んでるよゲームオーバーだよ、罠じゃないんだからさぁ。………わな?いや、ミイラっぽいゾンビような何かに掴まれて罠って。」
散々文句を言い連ねていって調子を戻しつつあったココは、罠かもしれないと思うと更に頭を捻り、罠っていうかアイテムなんじゃない?とゲームにありそうなことを思いつく。
「いや、ゲームって思い込んでたけど、よく考えたら自由度高いんだった。たとえこの世に起きてきちゃダメなやつでも物ならアイテムだよね。」
思考操作でストレージを開き何も入っていない事を確かめると、一抹の不安をため息と一緒に吐き出しつつも、ココは覚悟を決めた。
「アイテムをストレージに持っていけないなら、ストレージをアイテムに叩きつければいいじゃない。」
このゲームのメニュー操作は、手動、思考操作、どちらでも行えるが共通する点はいくつかある。例えば、手の届く範囲に表示されること、目線より少し下に表示されること。さらに、メニューを操作してストレージを開いたとしよう。ただ開けば良いわけではなく、ストレージにしまう際はアイテムを手に持っている状態でストレージに押し付けなければいけない。
「つまり、このままストレージをぶつければ良いよね!」
そう言い切ると、右手先に表示したストレージから目を離さずに勢い良くしゃがんだ。
埋葬された花嫁の聖女(譲渡・廃棄不可・不壊)
生きたまま棺桶に閉じ込められた聖女の亡骸。
全く理解できないが、まるでただ寝ているだけのように見える。
時折、胸が上下しているような錯覚を覚える。
所有者に、称号:呪われた花婿、称号:ネクロフィリア、装備:誓いの指輪、を強制する。
花嫁衣装の聖骸布(譲渡・廃棄不可・不壊)
聖女の亡骸が身に付けていた花嫁衣装。
狂気の発想で、亡骸から衣服を全て剥いだ結果、聖骸布と判断された。
所有者に、スキル:新郎新婦の誓い、スキル:命のブーケ、を強制する。
花嫁の棺(譲渡・廃棄不可・不壊)
花嫁の聖女が閉じ込められていた棺。
蓋の裏側には爪で引っ掻いた跡が数えたくないほどにある。
所有者に、スキル:屍聖女、を強制する。
ストレージから顔を上げた時、ココは教会の講堂、長椅子に座っていた。講堂は物静かでステンドグラスから取り込まれる日光が、壁や床を色付けていた。
「……今度こそ、呪われたよ。PKがメープルファッジくらい甘く感じるほどに呪われてるよ。」
教会から出ても、気落ちしたままだったココは宿に戻ることにした。恐怖体験をしたことはよほど堪えたのだろう、気持ち足取りが重かった。
「よし、ギルドに行くのはやめよう。なんか揉め事起きそうだし。そもそも、開始直後に死に戻りするなんて思わないよね、まあ教会送りにしたお前が言うなってやつなんだけどさ。」
運営からゲームの開始を告げられて、スタートダッシュを決めるも即座に自滅する羽目になり、教会送り。何処をどう考えてもファッ〇ンジーザスとしか言いようがなく、ベッドに寝ていた所に運営メールの通知が届いたことで、自分の考えがあながち間違ってはいないと確信する。抗議メールの対応だな、と。
『首都ハジメシティ・広場にて、死に戻りの不具合が発見されたとの報告がありました。運営側でも確認しましたが、全プレイヤー死に戻りの不具合は確認できず正常であった為、システム上有効だと判断されました。謎の解明にはなりませんが、表には出てこないNPCや紛れ込んでいるNPCもいるため、それらを調べることも攻略の足掛かりにもなると約束します。』
どうやら、全プレイヤー死に戻りとして一纏めにされたようで、NPCの仕業かもしれないと仄めかすことすらしていた。
確かに、全プレイヤー死に戻り(罠PKと自滅)でNPCの仕業(有り金を巻き上げる女神)だった。強ち間違ってはいない、正しいことは言っていないが。
ゲームだと冒険者ギルドってシステムだから、いいんだけど。
鳥肌がすごかったので、ちょっとだけリアルな何でも屋にしました。これで安心。