06 一歩
「……ん」
まだ朧げながらも意識が段々と覚醒し始める。
確かご飯を食べたら安心して寝ちゃったんだっけか?
「ふぁ~、っと。よく寝た」
僕は今となっては小くなってしまった体を起こし周囲を見渡す。
大きなベッドに精緻な装飾が施された机、部屋の内装は高級ホテルにも引けを取らないほどだ。
「あ~そういやこんな部屋作ったっけか。なんだか懐かしいな」
天空城製作の一つに各々の部屋はどんな形にしようか?と考え様々なホテルの内装をイメージして作り上げた部屋だ。
とはいっても既にそういう部屋のモデルを作っている人や素材として壁面や調度品も作っている人がいたからそこまで時間はかけて無いんだけどな。
と、そこで外からノックの音が聞こえる。
「イニス様、お目覚めになられましたでしょうか?」
扉を叩いたのは召喚してからそのまま放置していたらしいマルクのようだ。
「ああ、もう起きてるぞ。入っていい」
マルクが失礼しますといいながら部屋に入ってくる。
扉を一時的に解放状態に留めておきマルクは引っ込んだと思ったら今度はワゴンを押してやって来た。
「とりあえず寝起きという事でパンと野菜のスープ、それにミルクをお持ちしました。全部は食べなくてもよろしいのでとりあえずお召し上がりください」
なんと気が利く料理人だろう!
自分が作っておいてこんなことを言うのもアレだが僕よりも立派なんじゃないか?
僕はマルクが持ってきた焼きたてのパンと栄養たっぷりのスープを無心で頬張る。締めは牛乳だ。
あぁ、さっきの炒飯も美味しかったが今度の料理も絶品だ!
マルクを作成しておいてホントに良かった。
「ふぅ、ごちそう様!マルクありがとう!すごく美味しかったよ!」
「そう言っていただけると光栄でございます。さてイニス様、少しお時間をよろしいでしょうか?」
マルクが近くに寄り真剣な顔で語りかける。
「ああ、なんだ?」
「はい。お話とはこの城の維持についてです。料理に関しては私がおりますが、私はあくまでも料理人です。イニス様が召し上がる料理を作りながら城の清掃や庭の掃除等はさすがに手が足りないもので、つきましてはいくらか人員を増やしていただきたいのですが……」
マルクの話を聞いて納得する。
確かになんでもかんでもマルクにやらせるのはどう考えても無理だし、仮にここが現実であったならば城の手入れなどをしなければすぐに荒れ放題になるだろう。
……しかし今の話を聞いていて疑問が残る。
「……なぁマルク。お前はどうして僕が人員を増やせる……つまり人を召喚できると知っているんだ?」
そうこれだ。生み出された側の存在である、つまりFrameWorksで作成された存在であるはずのマルクがなぜ僕の能力を知っているのか?
しかし帰ってきたのは意外な答えだった。
「どうしても何も、私の様な創造物はイニス様やヴォルフ様の能力によって召喚された時にある程度の知識や自我の様なモノを付加されて生み出されますので……まぁ、なんと言いましょうか?最初から知っていたとしか言いようがございません」
なんと、マルクの言葉から察するにここは僕とヒロが作り上げた”天空の王国”が再現された世界、というより”FrameWorksで作った天空の王国”が再現された世界のようだ。
同じじゃないかと思うかもしれないがこの差は全然違う。
現にマルクは自分のことを、この王国の住人というよりは僕の下僕や僕というようなスタンスでの振る舞いの方が強い。
もちろんマルクというキャラを作成した時に”王国民の一人”という説明文も入れてあるはずだが、僕という存在に対して造物主に尽くすというような雰囲気が感じられる。
「……なるほど、よく分かったよ。あと最後に質問だがヴォルフというのはこの王国の王……でいいんだよな?」
特に気合を込めて作ったヴォルフガングのことはよく覚えているが召喚した覚えはない。
というかヴォルフのデータは前にヒロの奴が”アバターとして使ってみたい!”とか言い出したからヒロのデータファイルの中にあるはずだ。
「はい、我らが偉大なる王にしてイニス様と同じ創造主のお一人でございます」
ん?
僕と同じ……創造主!?
「ちょ、ちょっと待てマルク!?お前は今ヴォルフガングが創造主だと言ったか!?」
「は、はい。確かにイニス様とヴォルフガング様は偉大なる創造主ですが、それが何か……?」
なんということだ!
今のマルクの言葉から推察するに、ひょっとしてヴォルフガングとはつまりヒロのことなんじゃないのか!?
現に僕の体がセフィロトの精霊であるイニスの体になってしまっているんだ。ヒロの奴も同じような現象に巻き込まれている可能性は高いと思う!
なんだか希望が見えてきた!
そうとわかれば早速探しに行きたいが……僕が動き回ってもはっきり言って何の手がかりも見つけられないまますれ違いに終わってしまう可能性がある。
だからこそ、まずは人員を増やして部下を派遣して探させよう。
下の世界がどうなっているのか分からない現状、身を守る手段すらないんじゃまともに探索もできない。
何よりこんなちみっ子の体じゃ冒険できるほどの体力もないだろうしな。
「うん、分かったよマルク。お前の言うとおりまずは人員の補強をすることにするよ」
「ほ、……ありがとうございますイニス様。私もこれでより一層美味しい料理を作ることに専念できます!」
マルクがにこやかな笑顔で答えてくる。
あ!そういえば……。
「……なぁ、マルク。僕って厨房で寝ちゃってた気がするんだが、ひょっとしてマルクがこの寝室まで運んでくれたのか?」
「はい、その通りにございます。あんな場所では寝づらかろうと思いまして、ここまで運ばせていただきました」
マルクが頭を下げながら答える。
なんていい奴なんだ!料理は最高に美味いし気遣いも出来るし、マルクを作っておいて本当に良かった!
「ありがとうマルク。ここまでしてくれて。これからは僕も頑張らせてもらうよ!」
「いえ、僕として当然のことをしたまでです。これからも何かあれば存分にお申し付け下さい!」
よ~し!なんだかやる気が湧いてきた!
いっちょやってやるか!!!
食事に恵まれているタクミと何時までも空腹なヒロシ。
いったいどこで差が付いたのか……。
設定
タクミとヒロシでは保存しているオブジェクトデータファイルの内容が全然違います。
タクミはキャラクターや小物等のサポート系が多め。
ヒロシは武器やアイテムなどの戦闘系が多め。