-Side Episode-09 本気
今回は少し長めです。
「む~……」
「先ほどから何やら唸っているが……一体どうしたのだ?フィオーネ?」
旅を始めてから二日目の夜。
辺りは暗く木々のざわめきが若干恐ろしく感じるが、月が煌々と輝き辺りを照らしその存在を主張しているおかげで周囲の見晴らしはいい。
撃剣と飛竜の団、護衛対象の貴族一行は適当な岩場に寄り添うように馬車を停め、今日の陣を敷いている。
現在は食事も終わりそろそろ就寝しようかという頃合だ。
各パーティごとに設置されていた火種も一つだけを残し、その他はすでに消されている。
依頼主のツェーザルとフィオーネ用の寝床は馬車の内部に設置されてある備え付けのソファを折りたたんで作られた簡易的なベッドに、更に寒さに堪えることが出来る様に厚手の布やマント、シーツなどが何重にも敷いてある。その他のメイド達は外で寒さに堪える様に寄り添いながらマントやシーツを羽織って眠っている。
近衛の騎士たちは野外の見回りを交代で行う為に二人一組になりながら一方は周囲を警戒し、もう一方は焚火のそばで器用にも座りながら眠っている。他の冒険者のパーティも同様だ。
ツェーザルとフィオーネの二人はベッドに横になり、寝床を共にしている。
「何でもありません……」
「はぁ……何かあるようにしか感じんのだが……、大方あのヴォルフという男についてだろう?」
「ち、違います!」
頬を軽く赤く染め、必死に否定するフィオーネ。
だがしかしその態度こそがむしろ肯定といわんばかりの態度だ。
「まあ、気になると言えば私も気になっているぞ?今日の夕食など「自分が作る」と言い出した時は何事かと思ったがやらせてみればどうだ、普段我らが口にする料理と並ぶかそれ以上の物を作り上げよった!いやあれには驚いたな!」
「ま、まあ野外であれほどの料理が食べられたのは少し感動しましたけど……じゃなくて!あの男は装備や見た目ばかりいいくせに実際に戦闘や野営の準備など全然出来ていませんでしたよ!」
「ふむ……確かに料理は中々美味かったが、肝心の冒険者として知識や技術がイマイチ欠けているな……野営の準備が下手糞な冒険者というのも中々笑えるぞ!」
ツェーザルはあまり音を立てずに小さく笑いフィオーネに返す。
それ受けてフィオーネが更にふくれっ面になる。
「フィオーネよ……一体どうしたのだ?確かに色々と妙な者だとは思うが、そこまで不機嫌になるほどのものでもなかろう?」
「わ、私が言っているのはあの者のテキトウな対応が問題だと言っているのです!彼が身に着けている鎧や剣は単なる飾りや見栄えのみを優先したものではありません。混じりけの無い”本物”です。お父様も分かってるでしょう?」
「ふうむ……」
向かい合う体勢だったツェーザルはそれを戻し、一時考え込むように馬車の天井を見る。
フィオーネの言わんとすることはツェーザルにも分かっている。
彼、ヴォルフガングの実力がどれほどの高みにあるか。それは騎士団や領主お抱えの軍を保有し、何人もの冒険者などの実力者を見てきたツェーザルですら計り知れないほどの”底無”の力。
「……確かに彼は凄まじい力を持っている。だがそれを振るわぬ者は悪などと言うのもさすがに傲慢だぞ?」
「さ、さすがにそこまでは言いません……。ただ…………」
「ただ?」
「…………///」
フィオーネの頬がほんのりと薔薇色に染まっているのを暗がりの中でも正確に読み取ったツェーザル。
それを見てははあ…………と独り言ちる。
「フィオーネよ。おそらくそれは…………」
「それは?」
「…………いや、やっぱり言うのはやめておこう」
「ってなんでですか!言って下さいよ!お父様!」
「明日の朝も早いぞ。私はもう寝る。お休みだ、フィオーネ」
「もう~!」
ふくれっ面になったフィオーネはそれでも父のいう事をよく聞き、大人しく寝入る。
それを確認したツェーザルは娘の寝顔を見ながらつぶやいた。
「好いたあの人にはもっと毅然とした態度を取っていて欲しい。実力があるならなおさら…………といったところか…………」
娘を起こさない様にそっと、確認の様に喋るツェーザル。
だがツェーザルもまだまだ娘がかわいいのである。例え娘が惚れていてヴォルフ自身がその気であろうが絶対に婚約など許さんと、多少の親馬鹿心を発揮しつつもツェーザル自身もようやく寝入った。
三日目の昼前。護衛依頼は順調に進んでいる。
これまでの道中、二回ほどモンスターの襲撃にあったがさすがにそこは熟練したパーティの撃剣と新鋭気鋭の飛竜の団である。
撃剣の的確なモンスターの誘導と飛竜の団の攻撃力が見事にかみ合い最終防衛線である近衛の騎士達が特に働くことも無く順調に進んでいる。
「いや~平和だね~」
呑気に喋っているのは俺ことヴォルフだ。特にやることもなく先頭を務める飛竜の団のメンバー達に語りかける。ちなみに撃剣は殿の担当だ。なんでもモンスターへの警戒能力では撃剣の方が圧倒的に高いからだとか。
「平和なのはあんただけよ!私たちはきっちり仕事して危険な目に遭ってるわよ!」
文句の一つでも言わなければ気が済まないラウラ。特にラウラはシーフという職業柄モンスターを釣っておびき寄せる、単独で調査に赴くなどの戦闘こそあまりしないが特に危険度の高い仕事をしているのだ。のほほんと構えているヴォルフに文句の一つでも言いたくなるのは当然だろう。
「いや~はっはっは!ほんとお疲れ様です!あ、肩揉みましょうか?」
露骨なごますりでラウラの機嫌を取り戻そうとするヴォルフ。それを見てさすがのラウラも溜息をつかざるを得ない。
「はぁ~…………」
「まあまあ、そんなに気にしなくてもいいじゃないか。私個人としてはヴォルフがいて良かったと思ってるよ。まさかあんたがあそこまで料理が上手いなんてね」
赤い髪を揺らしたセシリーが宥める様にラウラに語りかける。
「ぐむ!…………ま、まあ確かにそこそこ美味しかった……かな……」
「あ~確かにホントに昨日の夕食は美味しかったですね。僕もそこそこ自信はあったんですが……いや、参りました」
この天気だとさすがに暑そうに見えるローブを着込んだカールが答える。
というかカールがこのパーティの台所担当なのか。まぁ確かにラウラもセシリーも料理できそうに見えない。クリスタさんはどうなのだろうか?
「このパーティってカール君が食事を作ってるのか?」
「ええ、魔法薬の調合の練習がてらやってたら中々うまく作れるようになりましてね。基本的には私がやってます。まあクリスタさんも出来ますけどね」
「あ、やっぱり?何かお姉さんっぽい人って料理上手そうなイメージだし」
「お姉さんっぽいじゃなくてホントにお姉さんなんだけど……まあ私は冒険者になる前から家の家事手伝いをしてたしね。それくらいは出来るわ」
「おお!さすが!」
その後も能天気にお喋りを続ける一行。
だがしばらくしてリーダーのクラースが何やら妙な物に気付いた。
「ん?」
「?どうしました?クラース?」
突如立ち止まったクラースに声を掛けるカール。
その他のメンバーもそれを見て足を止める。
「いや、なんか妙に木の枝が散っていると思ってな……」
「木の枝……ですか?まあ近くに森もありますし辺りも草もそこそこ生えていますが……」
現在一行が進んでいるルートはなだらかな平原を抜け大きな森の周囲を迂回するルートである。
さすがに森には馬車は入れないためその周囲をぐるりと回るルートを取っている。
この森の入ってすぐの浅い領域はCランク以上の冒険者に解放されている区域のため、中に入らず周囲を回ればそこそこ安全ではある。とはいえすぐそばがCランク以上の冒険者にのみ解放されている未開拓領域なため危険といえば危険なルートでもある。だがそういう事態をこそ考えて冒険者を雇っている為そこまで急いで逃げる必要性や緊急性も今は存在していない。
「う~ん……いや、やっぱ気になるな。姉ちゃん、一旦進行を止めてもらう様に本体に伝えて。ラウラ、お前は森に入って何か不審な物や気になる物がないか調べてきてくれ」
「わかったわ」
「りょーかい!」
クラースが伝え終わるやいなや二人はすぐさま行動に移す。
やはりこういうときはちゃんとリーダーやってるんだな、と感心するヴォルフ。
「クラース……ひょっとして前に言ってたアレかい?」
セシリーがクラースに近づき確認する。
それを受けてまだ悩んでいるといった風なクラース。
「…………まだわかりません。けどもしかしたら……という場合もあるかもしれません。用心だけはしといて下さい」
「あいよ……」
「ん?何かあったのか?」
やはり呑気に質問してくるヴォルフ。頼みの綱がコレなのだから現状ではいくら心配してもしすぎるという事はないだろう。
「いえ、何でも。とりあえずはラウラの帰還を待ちましょうか」
「?ああ、わかった」
「(なんかあったのか?)」
何やら不審に思い始めるヴォルフ。
その後クリスタの停止の要求に答えて本体と撃剣のメンバーは不審に思いながらも一旦停止した。だが彼らの予想よりもずっと早く脅威は迫ってきていた。
「な、何よコレ……!?」
森の中でラウラが発見した異常。
それは本来この辺りには生息していないはずのBランクモンスター、バジリスクの死骸である。
蛇に似た巨大な体躯を持つ大型のモンスターであるバジリスクは紫や青の鱗を持ち背中や頭部に生える金属質の棘には常に毒液を纏わせているモンスターである。
自分達の実力ではまだ敵わないモンスターはどんなものがいるか理解しておくために他の冒険者から聞いたり挿絵付きの本を見て確認したことがあるためラウラはバジリスクのことは一応知っていた。
本来このモンスターはこの森の深部をねぐらとしており滅多に外に出てこない。だからこそこの森の外周区はCランクに設定されているのだ。だというのに実際には森に入ってすぐの場所で、しかも死骸で発見されている。どう考えても異常である。
そして見た限りではその厄介なモンスターの躯が一部は焼け焦げ、一部は切り裂かれ、一部は食い荒らされている。
一体何が起こった!?何が起こっているのだ!?
「と、とにかく戻って報告しないと……!」
踵を返し、戻ろうとしたとき本体がある方向から悲鳴が聞こえてきた。
「みんな!?」
「ちくしょう!!一体何が起こってやがる!!??」
本体の方に現れた異常事態。
それはワイバーンの襲撃であった。
翼竜”ワイバーン”。
それは伝説の生物である龍の因子を受け継ぐとされる巨大な一対の翼を持つAランクのモンスターである。
全長10メートル、両翼展開時の全幅は15~20メートルほどにも及び鋼にすら勝ると言われる金属質の鱗を持つモンスターである。
このモンスターは本来険しい山の山頂や洞窟などに巣をつくるモンスターでありこんな森や平野部が続く場所に現れるモンスターではない。
「と、とにかく逃げるぞ!!足の速い奴は馬車のそばに付けて急いで撤退させろ!!」
オイゲンが声を荒げ指令を全体に伝える。
その間もワイバーンの羽ばたきによる暴風によりほとんどの者達は身動きがとれずにいた。
「ツェーザル様!!急いでこの場を離脱します!!荒っぽい運転になりますがご容赦下さい!!」
「う、うむ」
御者が声を荒げ他の者達には目もくれず急いで手綱を振るう。
近衛の騎士達やメイド達すら放置して馬車を急がせる。だがそれも仕方のないことだ。
Aランクの冒険者など数えるほどしかいないこの世界で、しかもAランクモンスターの頂点に君臨すると言われる竜の襲撃。
この場においては勝つ為の手段を探る、数秒持ちこたえ粘るなどという選択肢すら存在しない。Aランクモンスターというのはそれほどの脅威なのだ。
彼らに出来ることといえば派手な行動で竜の興味をこちらに向かせる。それだけでも御の字だろう。
「お父様…………!」
フィオーネが目に涙を貯めながら、縋る様にツェーザルに声を掛ける。
それを受けて効率的な手段を探る領主としての人情を排した冷徹な表情で正面を見据えるツェーザル。
「…………諦めろ。…………彼らの決死の努力により我らの安全が確保されているのだ。ならば我らは彼らの努力が無駄ではなかったと、世に示さねばならん」
詭弁である。発言したツェーザル自身にもそれはよく理解している。皆が働いている横で尻尾を巻いて逃げる。その悔しさや憤りはなによりツェーザル自身が最もよく理解している。
「(なぜワイバーンがこんなところに現れる?どう考えても異常事態だ!一体何が起こっているのだ!?)」
焦りを抱きつつツェーザルが事態の確認の為に少しの間思考していた時、新たなる脅威。
すなわち、”もう一匹のワイバーン”が現れた。
「な!!??」
「っ!?」
「きゃあ!?」
突然のワイバーンの出現により動揺した馬車馬が急停止をし、また御者も手綱の操作を誤り馬車は横転してしまった。
凄まじい衝撃が馬車を襲い、中にいたツェーザルとフィオーネはミキサーのようにかき混ぜられる。
「ぐううぅっぅ…………!!」
「きゃああぁぁっぁ!!!」
「ギャアオオオオオオーン!!!」
竜の方向に周囲の木々が振動し大気が震える。
その存在を主張するかの様に両翼を広げツェーザル達を威嚇する。
「くそ!…………これまで…………か!」
悔しさとどうしようもない絶望が襲いかかりツェーザルは未だかつて経験したことの無いような激しい感情に襲われる。
「だがなんとしても、フィオーネ……!!お前だけは……!!」
半壊した馬車からなんとか這い出て気絶したフィオーネを抱き歩き続けるツェーザル。
彼の目的は森の中に入り、入り組んだ木々を盾としてワイバーンを何とかやり過ごすというものである。
だがそんな逃げをもう一匹のワイバーンが許すはずも無く…………。
「ギャオオオオーン!!!」
「っ!!??」
ワイバーンが鋭い牙の生えた大口を開きこちらを食おうと襲いかかってくるのが嫌でも確認できてしまう。
それでも何とか娘を守ろうとせめてもの抵抗として抱きかかえたフィオーネを庇う様にワイバーンに対して背を向けるツェーザル。
ツェーザルは間違いなく死を覚悟した。
だがどれだけ待ってもその時はやってこない。
怪訝に思ったツェーザルが目を開くとそこのは驚くべき光景があった。
「…………?……な!?」
「よう貴族様。ご無事ですかい?」
なんとあの白銀の鎧の男、ヴォルフが大口を開けたワイバーンの両顎を掴み突進を止めているだ。
必死に力を強めこちらに対して踏ん張ってくるワイバーンだがそれでも状況は変わらず一ミリも進攻は進んでいない。
「え~っとカルド候だったかな?ちょいと荒っぽく行きますがご容赦くだ、さい!!!」
その瞬間、ヴォルフは掴んでいたワイバーン両顎に入れていた力を更に強め一旦持ち上げたかと思えばそれを投げ飛ばした。
恐ろしいまでの膂力である。常識的に考えてどう見ても持ち上がるわけがない。だがそれをやったのだ!この男は!
「さてと、急いでもう一匹の方を追いかけてきたからさっさと片付けないとな!」
そう言うや否や、ヴォルフは背負っていたクレイモアを抜く。彼の鎧と対照的なそれはあらゆる光を吸い込む混沌とした黒い輝きを放っている。
そのクレイモアを正面に構えヴォルフは高らかに吠えた。
「さあ行くぜ!鳥野郎!!今晩は焼き鳥だ!!!」
そう言って風の様な素早さでワイバーンに近づき嵐の様な連撃を叩き込むヴォルフ。
正直に言ってこれまでの活躍を台無しにするようなセリフだがそんなことはどうでもいい。それほどまでにツェーザルの心は”英雄”の登場に高鳴っていた。
「(こ、これが!これが本物の……!)」
「う…………う、ううん?」
あのAランクモンスターであるはずのワイバーンが一方的に叩きのめされている。
その衝撃や剣戟の音によりフィオーネの意識が戻った。
「おおフィオーネ!気が付いたか!」
「お父様…………?一体何が…………え?あ、あれは一体!?」
「英雄だよ…………あれこそが本物の”英雄”だ!」
「えい…………ゆう…………」
自分達を一方的に追い詰めた恐怖の顕現であるはずのワイバーンが一転して一方的な攻撃を受けてか弱い小鳥の様に悶えている。
フィオーネは見た。世界を覆い尽くす暗雲を打ち払う救世の一筋の光を!
「あれが…………”英雄”…………」
鋼の如き堅牢さを持つはずのワイバーンの鱗や翼は豆腐の様に切り刻まれ見るも無残な姿になっていた。
だがそれでも竜。ずば抜けた生命力で何とか持ちこたえる。
もはや敵わぬと悟った竜は踵を返し飛び立ち、逃げ出そうとする。が。
「あ…………!」
「逃がさねえよ…………この落とし前は付けてもらうぜ!!」
ヴォルフはクレイモアを横薙ぎに構える。
「はあああああああ!!!!」
ヴォルフが力を貯める同時に黒い刀身に眩いばかりの蒼き光が宿る。
その強烈な閃光と膨大な熱量に思わず手を眼前に出し目の前をふさぐツェーザルとフィオーネ。
「はあ!!!!!」
目で追いかけることが敵わないほどの素早さで剣を振りかぶる。
そして刀身から放たれた蒼き光は半月状の刃となってワイバーンに襲いかかりその首を容易く切り落とした。
「グギャ……ガ…………!?」
まるでお遊びの狩猟のような容易さで見事に撃ち落される。
ズドドンッ、とその重量を示す様に小さな地震と供に崩れ落ちるワイバーン。
「ふう…………済まねえなカルド候さん。まだもう一匹の方がまだ片付いてねえからちょっと行かせてもらうわ」
「あ、ああ…………」
それだけ告げると素早く地を駆けまだ戦っているであろう撃剣と飛竜の団の方向へと向かうヴォルフ。
「本当に、障害にすらならんのだな…………あのワイバーンがまるで小鳥の様だった…………」
「…………あれがあの方の本当の実力なのですね」
「ああ…………どうやらあの者は紛うことなき”本物”のようだ」
「はあはあ…………」
自体は依然として絶望的である。
死者こそまだ出ていないがそれももう時間の問題である。
今までは逃げに徹していた為なんとか敵の攻撃を躱すことが出来ていた。
だがワイバーンの猛攻は自分達の想像よりも遥かに激しくじりじりと体力を削られていっている。
「くそ!おい飛竜の!!俺達が囮になってなんとか時間を稼ぐ!!お前らはその隙にカルド候と合流してなんとか依頼を達成しろ!!」
「何言っているんですか!そんなこと出来ませんよ!!第一俺達飛竜の団と撃剣が全員ででようやくワイバーンの集中攻撃を躱せてるんですよ!?そんなことしたら皆さんが!?」
「はあはあ……くっ!!?大丈夫だ!手持ちのアイテムを全部注ぎ込んで全力を出しゃあ5分程度は粘れる!!」
ワイバーンの羽ばたきによる暴風と脚部の爪による切り裂き攻撃、そしてここぞというときに使ってくる竜の顎による咬みつき。それらを必死にいなしながらなんとか命を繋ぎ止める。
「くそ!!それしかないのか!?」
だがもう限界である。
必死に皆で粘って全員死ぬか、一方を犠牲にし一方が助かるか。
「(まだだ、まだ俺の勘は外れちゃいない!!)」
クラース達が現状を留めている理由。
それは一発逆転の切り札を待っていたのである。
だが時は無情にも過ぎていく。
突如としてワイバーンが飛び上がり自らを包み込むように翼を閉じる。するとワイバーンの全身から赤いオーラが放ち始める。
「おいおいおいおい!!??まさか野郎!ドラゴンブレスを撃つ気じゃねえだろうな!!??」
「ドラゴンブレス!?」
オイゲンが零した単語は飛竜の団のメンバーには聞き覚えの無い物だった。
「名前の通りだよ!竜種はその体内に特定の属性の属性核を持っていやがる!その属性を開放して放たれる特大の威吹こそが”ドラゴンブレス”だ!!」
なんということだ!今までの竜の攻撃は本気では無かったという事なのか!?
「もう…………だめだ…………」
オイゲンが絶望したように先ほどまで力強く握りしめていたはずの剣を落とす。
撃剣のメンバーも力落ちたかのように膝を地に付けている者がいる。
「(くそ!くそ!くそ!こんなとこで!こんなところで俺は…………!)」
だが彼らの祈りは届かない。
ドラゴンブレスのチャージは完了した。竜の意思により赤きオーラが口の前に集まり、超高温の火のエレメントが周囲の大気を歪ませる。
ドウッ!!!と大砲の様な衝撃と共に発射されたブレスが彼らの頭上に落ちる。
だが彼らに火の洗礼は舞い降りなかった。
「……っ!!…………?」
目を開けた時に立っていた人物。
白銀の鎧を着込んだ彼は黒いクレイモアと共に一体どこから持ってきたのか、まるで石碑に似た剣先の存在しない長方形の様な形をした純白の大剣を盾の様に逆手持ちで構えていた。
それこそが飛竜の団リーダーのクラースが見出した”切り札”。
ヴォルフその人である。
「ヴォ、ヴォルフさん!!」
「ようクラース君!いや~ぎりぎりだったな。遅れてスマン!」
まるで場違いな、相変わらずの能天気な声が今は何故か、とても頼もしく聞こえる。
ヴォルフは新たに召喚した純白の大剣と漆黒の大剣を構え直し、ワイバーンに向きなおす。
「後は休憩しとけ。今晩は鳥鍋がいいか?焼き鳥がいいか?ま、どちらにせよフルコースなことには変わりねえけど、な!!!」
言い終わると同時にとても鎧と大剣二本分の重量を背負っているとは思えないない軽やかさで舞い上がり、黒と白の大剣を同時にワイバーンの脳天に叩きつける。
「づ、りゃああ!!!!」
「グゴガ、ガ……!!!???」
天に座す神を叩き落とす様な、本来ならばとても人が立ち向かえるような存在ではないワイバーンが見事に叩き落とされる。
「ん?ちょっと滑ったな…………まあ今までまったく戦闘してなかったわけだししょうがねえか」
あれで本調子ではないとでも言うかの様なセリフに一同は絶句する。
この男の限界は一体どうなっているのか。
「グガ……ガ……!」
脳天を揺さぶられたワイバーンだがさすがAランクモンスターといったところか、回復力も尋常ではなくもう起き上がり始める。
さすがにまずいと思ったのだろうか、このワイバーンもカルド候達を襲った個体と同様に逃げ始める。
「あ!ヴォルフさん!」
「わかってる。手前にはクラース君を痛めつけてくれた礼に……とっておきをくれてやる!!」
ヴォルフは先ほどまで振るっていた二本の剣を大地に突き刺し、何やら空中に浮いた薄っぺらな蒼い光を操作する。
「(?あれは……?)」
ヴォルフがメニューを操作し新たに召喚した剣。
それは天空城の最上階にある生命の樹のに連なる第一のセフィラ、ケテル《王冠》を司るダイアモンドの剣である。
召喚されたロングソードは刀身全てが絶妙なカッティングを施されたダイアモンドで施されており、眩い光を何重にも乱反射させている。
「始まりの光”ケテル”よ!世に輝きを齎したまえ!!」
ヴォルフが呟いたその言葉が鍵となり祈りとなり剣が呼応する。
刀身が凄まじいまでの光を放ち始め、相対的に周囲が暗闇に見える様な錯覚に陥る。
光りはさらなる成長と拡大を続け、その光の刀身は全長30メートルはあろうかとういうほどにまで伸びている。
「な、なんだ!?これは!?」
「ヴォルフさん…………あなたは一体…………!?」
何者なんですか。
クラースはそこまで言葉を出すことが出来ず、その場にいるすべての者達は輝きの剣に見入っていた。
「はあああああ!!!おお、りゃあああああ!!!!!」
一筋の光の柱と化した剣をワイバーン目掛けて振り下ろす。
飛び立ち始めたところに直撃を受けたワイバーンはぎりぎり射程範囲外だった翼のみを残し、塵も残さず浄化された。
後に残されたのは直線状に存在していた者が全て消滅した浄化後とそれを起こした張本人であるヴォルフ、そしてそれらを茫然と見ていることしか出来なかった撃剣、飛竜の団、近衛達だけであった。
「ふう…………終わったぜ。戻ろうか」
「あ、……はい」
「え、あ、ああ……」
少し離れた場所で待機していたツェーザルとフィオーネ。
眩いまでの輝きを放つ光の柱が今逃げ出そうとしていたワイバーンを叩き落とすところをしっかりと見ていた。
「お父様、あれは…………」
「ああ。間違いなくヴォルフ君だろう」
二人はその光景に戦慄や歓喜の入り混じった複雑な感情を抱いていた。
「ふ、世界は広いな…………まさかあれほどの者がいるとは…………」
腕を組み、今後の展開を考え思わず笑ってしまうツェーザル。
「お父様は……あれを見て怖いとかは思わないんですか?」
「そりゃ思うさ。けどそれ以上に、人があれほどの極地に至ることが出来るのかと、感心せずにはいられない」
「確かに……凄い人ですね」
ほう……と小さく息を吐いたフィオーネ。
「ふうむ…………こりゃますます欲しくなってきたな。お前の夫にすることも真剣に検討してみるか?」
「ちょ、お父様!?馬鹿なこと言わないで下さい!?」
「いや、あれほどの逸材なら欲しくなるのは当然だろう?それに、お前もまんざらではないでないか?」
「そ、それは……うう~…………///」
本当に分かり易い子だ、とツェーザルはフィオーネが抱いていた先ほどまでの焦りや恐怖が見事に安らいでいるのを確認する。
吊り橋効果の様に思えなくもないが、絶対絶命の窮地を救ってもらったのは事実。これは相応の礼をしなくては。と考えたところでヴォルフに合流すべくツェーザルは歩き出した。
「あ、ちょっと、お父様!もう!」
もう一話続きます。
次回は後日談です。




