第三話 その名は
今回はユウサリ視点です。
"リヒト"。彼女からは何度か聞いた名前だ。
私も何度か会う…というよりは見たことがあった。
そう考えていると、不機嫌そうに紅い瞳を睨み付けてくる時雨が見えたので、慌てて持っていた本のページを捲った。
…この本には人々の"輪廻"が書かれていて、羽ペンで調べたい人物の名を書き込めば、その人物の"輪廻"を見ることができる。
だが、その"輪廻"単体を見ることができるのは私だけだ。…かろうじてだが創造主も見ることができるらしい。
別に、この本が無くても自身の能力で"輪廻"をみることは可能だが、他人にも見せる場合にはこちらの方が都合がいい。
…私に見える"輪廻"は一つの帯みたいなものだ。端がなく、環になった帯といった方がいいだろう。
"輪廻"の歪みはその環に亀裂が入ったり、文字通り酷く歪んでいること。
時雨の輪廻は丁度後者の方だ。…とても環とは言えないくらいに酷く歪んでいた事を今でもはっきり覚えている。
「…おい。どうなんだよ?」
「……あ。すっ…すみません…」
時雨の声で自分の世界から現実に戻った。すぐに"リヒト"の輪廻を調べる。
枝分かれして、各世界に存在するであろうリヒトの輪廻を辿り、一つの輪廻についた。
…それに辿り着くまでの間にいくつか気になる綻びのような歪みが見えたのだが……
(あ、あった。)
「あ………」
案の定、というより"リヒトの祖体"にはさっき見た綻びより酷い個人の輪廻があった。
……あの時の時雨には圧倒的に…劣りますが。←
そう考えていると不意に肩を掴まれ、後ろに引かれる。
「…余計なこと考えんな。つか、俺の事そう考えていたのか……?」
笑顔だがどす黒いオーラを放ちながら時雨が私の肩をさらに強く掴んできた。
…これは、さっき考えたこと読まれた…!?
「ああ。読んださ。」
「なっ…!?勝手に人の心を読まないでくださいよ!!」「だったら見つかったのかどうか言えよ!阿呆!!」
そう言いながら私の肩を思い切り殴った。…痛い。普通に痛い……←
「うぅ…酷い……。わかりましたよ…"リヒトの祖体"の輪廻を見つけました。」
「だろうな…。で、何かあったか?」
「ええ、やはり歪みがあります。小規模だと思われますが、具体的にはまだ…」
「…そうか」
彼女は頷き、私に背を向け、書庫から出て行こうとするのを慌てて止めた。
案の定、不機嫌そうに睨み付けてきた。
「何だよ」
「時雨……貴女は、行こうとしているのですか?」
「当たり前だろ。…それが役目でもあるからさ……。」
そう言う彼女の表情は暗かった。
…きっと、その先が、明るいことではない…悲しみや憎しみに触れることになるとわかっているから。
「…その通り。でも、行かなきゃならねぇ。」
そう言う彼女の表情は
やはり、暗いままだった。




