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異世界の放浪者と  作者: 天音時雨
第三章 初代"異世界の放浪者"と過去
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第三十七話 影人

またもや新たな人物が出てきます


 真っ暗な闇の中に、オレはいた。


 不意に浮かんだのは、“私”のこと。そしてそれと関連のある、神のこと。


 ああ、恨めしい、怨めしい!!


 “私”があんな目にあったのは、全部あの神の所為。


「けれど、あの人は復讐しようとはしない」


 ならば


「オレが、復讐しよう」


 なあ、そうだろう……―――××(“俺”)




 ◇


 葉を模した光が描かれている扉の先にあったのは、森。美しい緑の森だ。


「ようこそ、ここが俺の神域だ……と言いたいところだけど、今はそうはいかないんだよなぁ…」


「どういうことだ?」


 俺がそう聞くと、譲葉は少し悲しそうな表情を一瞬だけ見せ、目を伏せる。が、次に目を開いた時には真剣な表情になっていた。


「…いいか、時雨。この先にいる奴は、君の不調の原因でもある。でも、“否定”だけはしないでくれ」


「は……?」


 言っている意味がわからない。俺の不調の原因?それを“否定”するな?…何がなんなんだか、さっぱりだ。

 ワケが分からない、というのが顔に出ていたのだろう、譲葉は「あー…」と言いながら頭を掻く。少し考えてからもう一度こちらと向き合う。


「この際…戦ってもいい。ただ、本当に“否定”だけはしないでやってくれ。じゃないと…きっと彼は消えてしまうから」


「そいつが何なのかは教えてくれないのか」


「……ああ。教えることは出来ない。」


 ハッキリと譲葉は言い切る。

 …詳細不明。だがそれ原因であり、“否定”をしない。…相手の雰囲気からして、軽い物ではない。けれど、俺でないといけないくらいはわかる。

 

 ――本当に、俺じゃないといけない。俺でないと、この不調は治せないというのだろう。


「…わかった。」


 頷けば、譲葉は少しほっとした表情になる。そうして、「こっちだ」と俺の腕を引いていく。


 しばらく森を進んで行けば、開けた場所に出る。そこには、複雑に絡んだ木の枝の塊、その前に佇むリットの姿があった。


「リット?どうしてここに…」


「ん。ちょっとねー…あと見張っていろって言われてたし…。」


「見張るって…コレを?」


 いかにも何かいる、といういうような感じの木の塊。俺が指さしながら聞けばリットは頷いた。


「一体、何が…」


「――来るぞ、時雨」


 リットにさらに聞こうとした時、譲葉がそう言った。まだ不調なのは変わらない。けれど俺じゃないとこれは治せない。ならば――


(多少の無茶もありだろうな)


 刀を構え、木の塊を見据える。次の瞬間、ビシリと大きくひびが入る。そして、黒い何かが譲葉目掛けて飛び出した。

 俺は譲葉の前に躍り出、刀に魔力を込めて切り払う。黒い影は寸での所を躱し、後方に退く。

 少し間を置いてから、俺の腕を掠めたのだろう、流れた血が数滴、地面に垂れていたのに気付いた。チラリと足元を見ると、俺の血とは別の血らしきものも落ちているのが見えた。

 改めて前を見て、俺は自分の目を疑った。


「は――?」


 目の前で対峙していたのは、少し譲葉と似た容姿の青年。

 長い金髪――なのだが、内側は青という変わった髪。蒼い左目と紅の右目。…何より、身体には所々ヒビのような物が入り、そこから黒い物――影のような物――になった異形の左腕、仮面の様に“生えた”顔の右半分。

 

 ――何処か、遠い昔に見たことのある、青年が目の前にいた。


「お前は……」


「…!!」


 青年が驚いたように目を見開く。


「あ、あ……何で」


 何度も首を横に振り、青年が数歩下がる。

 明らかな動揺。何故、ここまで動揺しているんだ、この青年は。否――


「違う、オレはアンタを傷付けたいわけじゃ…!」


「なら、時雨を見なよ。…キミが、力を持って行っているんだよ。だから、キミはここまでの力を出せた。…譲葉がここで、キミを仮封印状態にするくらい。」


 容赦なくリットが言葉を放つ。その言葉には棘がある。…珍しく、リットが怒っているとわかった。

 けど、彼女の言葉でわかった。目の前の青年が、俺から力を奪っていたということが。…だが、疑問が残る。何故、この青年は俺から力を奪えたのだろうか…?


「オレは、ただ……時雨に変わって、譲葉へ復讐をしようとしただけ…」


「なんで?時雨はそれを望んだことあった?アタシが“心”を読んできた限り、そんなものはないよ。」


「いや、しれっと俺の心読むなリット」


 思わず突っ込みを入れてしまう。…わかってる、けど俺のプライバシーはないのかこの神…!!

 …だけど、リットの言う通り、譲葉を恨んだことはない。というか、むしろ……懐かしいとか、何故か謝りたいと思う気持ちがある。


「本当に…?時雨は……恨んでいないのか?だって、アイツは“()”を散々苦しめた原因の一つなんだぞ!?わかっているのか!!?」


 譲葉を睨みつけ、声を荒らげる青年。しかし、その言葉は俺に向かって言ったものだ。


 そして何故。


(何で、“私”といったんだ、コイツは……)


 だって、その事を知るのは――俺だけのハズ。なのにどうして――


「何で、知っているんだ、()()


 思わず言葉を零すように、青年の名前を呼んだ。

 竜胆(りんどう)。そうだ、彼は――――


「そうか、そうだよな。…お前は元々“同じ”だもんな…そりゃ、知っていて当然か」


 ふ、と口元が緩んだ。俺はきっと微笑んでいるのだろう。

 前世――元々は同じ“私”という存在から、“半分人間で半分精霊の『時雨』”に転生した時に何故か分かれて、『時雨』と『竜胆』になってしまった。ユウサリに確認したこともあったが、特に問題はないと言っていた。

 故に、俺と竜胆は“同じ”。今となっては“別人”だが、ある意味では“同一人物”でもある。


 そんなことを思い出しながら、竜胆を見る。彼はというと、俺に名前を呼ばれたことに驚いたまま、固まっていた。そして、影に覆われた身体がゆっくりと元に戻っていく。同時に、俺に力が戻ってくるのを感じた。


「なんで、忘れていたんだろう、お前のこと。」


 転生して、リットとユウサリに会って。神になる前までは…兄弟のように接してきたのに。

 

「俺が忘れかけていたからか?その姿は。」


「違う、オレは人外の“影人(カゲビト)”だ…!」


「嘘を吐くな」


「違うって…言ってるだろ!!」


「時雨!!」


 否定するように、竜胆が悲鳴のように叫ぶ。何かを察したらしく、俺の名を呼ぶリット。

 …力が戻ってくるのが止まった。クソッ!まだ完全に戻って来てないぞ!? 具体的には8割くらいは戻って来てるが、残り2割が竜胆に残っている。その為、彼の姿はかなり「人」の姿に戻っているが、顔の部分と左手の部分だけが影のままだ。


「竜胆っ!」


「煩い…ッ!黙れ!!」


 錯乱状態、といったところだろうか。竜胆の呼吸は荒く、表情も強張っている。しかし、目――俺を睨みつける目だけは確かに、悲しみと同時に復讐心を宿している――そう見えた。


 


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