第三十二話 辿り着いた世界は
お久しぶりです。
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「…久しぶりね、時雨」
そう言って微笑む女性…命を見て、俺は少し驚いていた。
「…ユミル、どうしてこの世界に…」
俺がそう言ってみれば、ユミルは目を丸くする。
「え…特に意図せずやっただけだけれど……」
…つまり、まぐれか。いや、神や精霊に限ってそれは無いか。となると…何か意味があってこの世界に…?
あるとするなら……
(…………)
…ああ、確かにある。あるが、あまりいい思い出ではない。
「それにしても…まさか貴女の先代様も来るなんて意外ね。」
「…だろうな。というか俺もついさっき会ったばかりだし。」
「そうだね…時雨。」
「あら、その程度なの!?」
なんだかすごいわ~…と驚いている命。それはさておき。
「特に意味なくこの世界に来た…とは考えにくいな。」
「…それって、君が一緒だったから…?」
「その可能性もある」
なんだかんだでここの世界との縁はある。…いい意味より悪い意味の方が個人的には思うが。
とはいえ、折角着いたというのにそのまま帰るというのもどうなんだろうか。意図してないとはいえ、ユミルにも失礼だろうし。…一応、軽くは見ていくか。
「…よし。久々に行ってみるか」
「…行くって、そこの国に?」
そう言って向こうに見える国を指差すユミル。和風建築の建物が多いということが遠目でも何となくわかる。
「ああ。…一度来たことがあるが、もう何百年も昔の話だ。変わってる方が多いだろうし…気になるからな」
俺がそう言えばユミルは納得するように何度も小さく頷く。そうして何かを思い付いたのか、命の方に向き直る。
「…成る程…。あ、命様」
「何かしら、ユミル」
「向こうの国で、何か名物とか特産物ってありますか?」
…何を言っているんだろう、この先代様は……。
思わず呆れた顔を向けるが、ユミルは気にすることなく命に「どうなんですか」と聞く。…しかも、何だか嬉しそうだし。
命はしばらくユミルを見詰めた後、吹き出した。
「ふふっ…やっぱり、あの神の遣い達は変わり者ね」
一頻り笑った後、いいわよ、と彼女は答えた。その時のユミルの表情ときたら…本当に嬉しそうで、目もキラキラしていた。
「じゃあ、着いてきて。私は人間達に気付かれないように姿を消していくけど、貴方達には見えるから」
そう言って、その場でくるりと回り、魔力を纏ったのを感じた。特殊な魔力と自分の持つ神力を混ぜ合わせて“姿を消す”。この術はある意味幻覚にも近い。あまり姿を見られたくない、そういう神がよくやることだ。
さらに、使用者が認めた相手にだけは見えるようにする、という調整も可能らしい。だから、確かに姿消しを行ったのにも関わらず、俺達の目には命の姿が見えていた。
(……何百年ぶりの街に、思い出すようなことはないだろう。それに、俺は――)
「時雨?」
ぼんやりと考え事をしていると、命が俺の顔を覗き込んできていた。
「いや、なんでもない」
適当にそう誤魔化す。…どうも駄目だな、ここの世界は…。普段はそんな事ないのに。
先を行く、ユミルと命を一度見て、空を仰ぐ。
綺麗な、青空が広がっていた。
◇
「さて、着いたわ!人間たちの噂話とかだけど、ここのお店の御団子、いいらしいわよー」
「(成る程…)」
街の中。命はある店を指差しながらニコニコとしている。俺とユミルにしか命は見えていないため、ユミルは小声で返し、小さく頷く。
そして、その店へ向かっていく。…チラッと見えた横顔は、先程見た時のように目がキラキラしていた。
「…アイツ、どんだけ食うこと好きなんだか…」
「そうねー。これで十軒目だけど…やっぱり、あの神の遣いって何か変わっているわぁ…」
十軒目の店で団子を注文しているユミルを見ながら、命が苦笑しながら言う。…さっきからよく聞く“あの神”って一体何なんだ。一度周囲を確認してから、命に話しかける。
「(…なんなんだよ、その“あの神”っていうのは)」
「あら、知らない?〝神樹の精霊王〟の事。あるいは〝大樹の神〟。」
「(神樹の…?)」
「そう。私や兄弟神である月詠と同じように、神精霊世界ではない世界で役割を果たしている神の一人よ。名は“譲葉翡翠”っていうんだけど……」
命がそこまで言った時、俺の横を一人通り過ぎて行った。
思わず、その人物を目で追う。
白い髪で、指先まで包帯が巻かれた少年。
――昔、俺が見たことのある少年によく似ていた。
「 」
思わず、名前を呟く。
振り返るはずなんてないのに。
少年は振り返った。
「…あの、呼びました?」
あの時と、同じ声で。
あの時と同じ紫の瞳が俺を捉えた。
そんな、ありえない
だって、だってお前は――――
もう、昔の人間のはずだろう?
「時雨!?」
命の声がした。
けど、答える気力もない。
(わからない。わからないんだ……)
訳の分からない現実に、俺は意識を手放した。




