第三十三話 いつもと違う“決意”
お久しぶりです…!
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――わからない、わからないんだ、俺には……
そんな声が聞こえた気がして重い目蓋をあけると、いるハズのないあの娘の姿が見えた気がした。
一瞬見えたその姿は、いつもとは違って、とても弱々しく感じたのはきっと気のせいではないだろう。
「――…随分と、あの娘らしくない。」
ふぅ、と息を吐きながら俺は目を閉じた。
そうして、目の前の“影人”を見る。変わらず、俺に対して恨みのこもった視線を向けてくる。
「――どうするつもりだ、“俺”を」
「…………」
“彼”の問いには答えず、ただ俺は―――
◇
「……っ」
「あ…気がついた?」
「……命?」
目を覚ますと、心配そうに覗き込む命の姿が目に入った。その背景は青い空、そしてはらはらと舞う桜の花弁だ。
…昔と同じじゃなくてよかった、と安堵し、改めて周りを見る。
どうやら、最初に見た桜の木の下で俺は横になっていたらしい。…普通なら室内だろうが、多分、さっきの気絶の原因は霊力や神力に関係していたのだろう、だから霊力及び神力が濃く漂っているこの場所に連れて来られたのかもしれない。
「どれくらい気を失ってた?」
「20分くらいよ。…ねぇ、本当に大丈夫?ユミル達も心配してるわ」
「………」
大丈夫か、と聞かれて何とも言えない。本当に今日の俺はおかしい。自分でも、どうしてこんなに動揺しているのか、わからない。
この世界に来たせいか?確かにこの世界には良い思い出はない。
だからといって、ここまでなるのか?
「…なんとも言えないな。」
それにしても、何故…あの子がいたのだろうか。確かに〝昔に会った〟ハズだが、あれは何百年も昔の話。人間ならとうの昔に死んでいる。なのに…
昔と同じ姿で、生きていた。
だが、俺のことは覚えてはいないみたいだった。となれば、あれは他人?いや、でも…名前を呼んだら反応したし、他人ではないハズだろう。
一度冷静になろうか、俺。自分にそう言い聞かせながら深呼吸をする。
落ち着いたのか、ふとあることを思い出した。…リヒトの一件で、関わったあの少女――リリア改めリアンのことだ。
リアンの場合も特殊だとは思うが…後日ユウサリに聞いてみればあの少女もまた“祖体”であった。だが、“祖体”であるのに関わらず、記憶を意図的に植え付けていくという行為をしていた。
俺の記憶の中にある“あの子”と先程会った“あの子”では少し異なる点があった。…何故か包帯を巻いている箇所が増えている、という所だ。
まさかとは思うが、リアンのように何かをしているのか…?それと、“あの子”自体が“祖体”であるのか色々と気になる点が多い。…参ったな、ここに来て謎だらけというのも…。
「…時雨、大丈夫?甘い物でも食べる?」
「相棒…たまに思うけど、やっぱりマイペースで抜けてるよね…」
考え込んでいればユミルが来てどら焼きを差し出す。その横で人の姿をしているラトナが肩をすくめて苦笑していた。…ラトナの気持ちはわからなくないが、まぁ…気分転換としてはアリかもな、と思いながらどら焼きを受け取り、一口齧る。生地はしっとり、上品な餡子で変に口に残るということはない。…流石、食に拘っているユミル…いい物を見つけてくるんだな…。
「…美味いな」
「でしょ?お店の人に聞いたら素材から拘っているらしくて…」
「相棒、ステイ」
解説しようとするユミルをラトナがチョップで止め、「あいたっ」と小さく悲鳴を上げる。
…食べることに関しては本当、饒舌になるんだな、ユミルは…。もう一口、とどら焼きを齧りながらそんなことを心の中で呟く。
そんな俺達のやりとりを命が心配そうに見ていることに気付く。…食べ終わったら、聞いてみるか。
◇
「なぁ、命、あの子は一体何なんだ?」
「あの子って?」
どら焼きを食べ終わり、ずっと気になっていたことを命に聞いてみる。…さすがに「あの子」では伝わらないか、と思っていると、彼女は納得したように「ああ、あの子ね…」と頷いていた。
…おい、まさか通じるとは思わなかったぞ。
「貴女の言う、“あの子”ってこの子のことでしょ?」
そう言って命は、木の根元のある一角を指さす。そこには、先程見た白い髪と包帯まみれの少年がすやすやと眠っていた。
「いや、なんでいるんだ!?」
「…昔っからこうなのよ、この子。私や月詠に懐いているというか、何と言うか…。」
うーんと唸りながら命は少年に近付き、頭をそっと撫でる。そうして彼女は俺の方を見る。
「この子―――ムクロのことは貴女も知っている。そうでしょう?」
「………」
「その無言は肯定として捉えるわ。そして、不思議でしょう?時雨、貴女がこの子にあったのは何百年も昔のこと。なのに、昔と殆ど変らぬ姿で生きている。」
そのことがずっと疑問だった、そうでしょう?と命が言い、俺は頷いた。
「…多分だけど、ムクロは“祖体”なんじゃないのかしら」
命が言うには、五十年ごとにあの国で「ムクロ」として、容姿も名前も何もかもが同じ彼が生まれているらしい。なので蒼夜や命は成長したムクロや老いたムクロのことも見たことがあるという。
しかし唯一異なる点、それが身体の刻印。「ムクロ」が生まれる度にこの刻印は増えていっているようだ。今の彼が何回目の「ムクロ」なのかはわからないが、以前俺が見た時より包帯が増えていたというのは刻印も増え、隠す場所が増えたから、ということらしい。
「だから、明らかにわかりやすいとは思うけど、多分“祖体”なんじゃないかと…思っているわ」
「…確かに可能性はゼロじゃないだろうな…」
ただ、俺はユウサリじゃないし、このことを確定付けるにはまだわからない。
しかし、増えていく刻印か…。その刻印には何か意味があるのか?と思って聞いてみるが、命は「そうねぇ…」といって考え出す。
彼女が考えている間、俺もムクロの近くに寄る。相変わらず寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。…改めて見ても、俺の記憶の中にいる「ムクロ」と同じだ。違うとすれば、包帯が増えているくらいか。
その姿を見ていると、まるで“あの過去”に戻ったような錯覚を覚える。
(ああ、ならば俺はもう―――)
「ふぅん?何度も“同一の存在”として転生し続ける“祖体”かぁ」
不意に、そんな声が頭上から聞こえた。同時に総毛立つ。以前、聞いたことのある、この声は――!!
即座に声のした方を見る。霊力で咲く桜の木の枝に腰掛ける、黒の青年。――あの世界でリヒト達を狙った、アイツ…!!
青年は赤と黄色の瞳を細めながら笑う。赤いスカーフがなびいたと思えば、枝から降りたらしく、今度は俺達の目の前に立っていた。
「――随分と面白そうな存在だね、その子。」
その言葉を聞いて、全身が強張るのを感じた。同時に、強い決心をする。
――コイツの思い通りには、絶対にさせない。
いつもと違う、そんな決意を。




