第二十話 大天使と妖精と龍神
長い上、新キャラ追加です。
ふわり、と着地。
『……ここは?』
キラキラとした光が雨の様に降り注ぐ。その光をリヒトは見つめながら訊いてきた。
「光雨神社だ。言っとくが、すでに神精霊世界……神と精霊の世界だからな。」
『わ、わかってるって!』
因みに、いつもなら光雨神社には寄らない。
理由は色々だ。←
「フラン、飛んできたら捕まえとけ」
「はーい」
俺の言葉にフランは頷いた。
リヒトはというと、何のことだかわからない様だった。…まぁ、普通そうだよなぁ。
そう考えながら、境内を見渡す。
他の神々が居るところとは違い(殆どの神達は洋風の造りの建物だ。)、和風の造りになっている。"神社"と名前が付くくらいだから、鳥居もちゃんとある。
…まぁ、ここの神主というか…巫女というか…そいつはかなり洋風な服装だがな…。←
そして妙に変わったヤツでもある。
「……ん!待てぇー!」
なんて考えていると、フランが必死に何かを捕まえようと追いかけていた。
それをリヒトは首を傾げて見ていたが……まぁ、すぐにわかるだろ。うん←
「……?」
ふと、別の気配を感じる。フランが追いかけているアイツとは、また別の……
直後、何かが風を切る音が聞こえ、咄嗟に横に避けた。
さっきまで俺が立っていた所を見ると、クナイが突き刺さっていた。
「…何のつもりだ!」
気配がする所に拳を突き出す。
が。
「病み上がり相手にそれはないでしょう?」
いきなり現れたそいつに片手で受け止められた。…しかも、軽く。
「ルーシェ……」
「久しぶりね、時雨。」
そう言ってそいつは微笑んだ。長い空色と青の髪をハーフアップにした蒼瞳の少女…ルーシェ。
いや、少女ではないな……背中には純白の翼が一対ある…天使。
『シグレ……その人は?』
俺にリヒトが訊こうとしたが、ルーシェが彼に近づいていく。
「貴方がリヒト=ルーシェトスね…。」
『は、はい。』
「私はルーシェ=セレスタイト。この光雨神社の神主兼巫女であり神子です。」
サァ…と風が境内を吹き抜け、彼女の長い髪を揺らした。
「捕まえたー!」
「コラアアア!アタシを捕まえるなああああ!!」
おー。見事に雰囲気をぶち壊す声だこと。←
漸くフランはアイツを捕まえたらしく、その手の中には小さな妖精が抜け出そうと騒いでいた。
「……何なの、これ…」
そう言ったのは見慣れない金髪の少年だった。長い髪を一つに纏めており、毛先が赤色。空色のハチマキのようなものを巻き、海色の瞳で左目は前髪で隠れている少年。
「…誰だお前。」
「アンタこそ誰だよ。」
そう少年は言って睨みながら、一歩近づく。
その瞬間、強い気配を感じた。
(……何だ、この強い神力は…)
…明らかに、この少年が気配の元なんだろうけど……。多少ガタついている様にも感じられるが、そう滅多にあるような神力ではない。
多分コイツも神なんだろうけど……何の神だ…?
俺が色々考えていると、いつの間にか隣に来ていたルーシェがクスリと笑った。
「やっぱり、貴女にもわかったかしら?」
「わかった…と言えばそうだが、何の神なのかはわかんねぇな。」
そう答えると少年が目を丸くし、ルーシェを見た。
「ルーシェ……様、コイツも神なの?」
「ええ、そうよ。…ね、時雨。」
「ああ。」
俺が頷いて肯定すると、更に少年は信じられない!とでも言いたげな表情をしていた。
「ホントに…?少しだけど、人間の匂いも血の匂いもするのに…」
“匂い”?それだけで、そこまでわかんのかよ…!?
やっぱり、神力が高いヤツは……恐ろしいな、うん。←
今度は俺が驚いていると、ルーシェはまた笑った。
と思えば、その間にフランから抜け出すことに成功したらしい、人形の様な大きさの妖精が割って入ってきた。
そして、溜め息を吐きながら
「あぁ……漸く解放されたー…」
と言った。長いアクアブルーの髪と青色の瞳で、背中には透き通った羽。まさしく妖精だ。
「大丈夫か?アクア。」
「大丈夫よー……って、アタシをフランに捕まえろって言ったのは時雨なんでしょーー!?」
「だってお前、たまに鬱陶しいくらい飛び回ってる時あんだろ?人間サイズにもなれるんだから、そっちでいろよ。」
「それは急いでいるからよ!人間サイズだと都合悪くなる時もあるの!もうッ!!」
軽くからかうと妖精…アクアは頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いて拗ねてしまった。
…やっぱ、容姿も少し幼い少女だからか、性格も子供っぽいなぁ……←
『なんなんだ……この状態は…』
「それは言えてる……」
ほったらかされていたリヒトと少年がそう呟くのが耳に入った。
◆
あの後、神社から少し離れた所にある、ルーシェ達の屋敷(和風)に移動した。
俺はと言うと、縁側で一息ついていた。かと思えば、さっきの少年がこちらを見ているのに気づく。
外見年齢はフランと同じくらいか。…気が合えばいいけど。
「…で?何なんだよ。」
「それはこっちのセリフだよ。アンタこそ何なんだよ?」
…あー。名前とか言わなければダメか。まぁ……多分この少年も神だから隠す必要はないだろうがな…。
「…霜月時雨。闇を光に変える神で"異世界の放浪者"だ。」
そう名乗ると、少年は目を丸くしていた。…なんで?
「…アンタが、"異世界の放浪者"…?」
「そうだが……。って、お前は名乗らないのかよ?」
俺がそう言うと、少年は少し不満げに名乗った。
「……八雲海瑠。龍神で“八雲”と呼ばれてた。」
龍神か……。どうりで神力が高い訳だ。
「んで、カイル。何が言いたいんだ?」
「何って……何で時雨から人間の匂いがするのさ?」
「そりゃ元人間だから。」
「………あー…それもアンタなんだ。」
それもアンタなんだって…なんだよ←
俺がしかめていると「アクアから聞いたんだ」と答えた。…アクア、なんて言ったんだ、おい。
「…まぁいい。俺が元人間だとなんか悪いのか?」
「そうじゃない。……聞きたい事があっただけ。でも…」
「でも?」
「…きっと、アンタからはこの質問の答えは出てこないと思う。だから、聞かない。」
質問…?色々気になるが、まあ…人間云々が関わるなら、多分カイルの言う通り、答えは出ない。
神の素質があると知った時、自ら神になると迷いなく言った俺には……きっと。
「……ま、それはある意味正解だな。」
「…やっぱり。」
「おい、なんだよその目は。」
ジト目でカイルは睨んでくる。…なんなんだ、コイツ。
「……仲良くなれそう?」
「「うわっ!?ルーシェ(…様)!?」」
びっくりした…。いきなり出てくるから、俺もカイルもデカイ声あげちまったよ!…というか、気配しなかったよ、ルーシェ……!
…という、ツッコミはさておき。改めて俺はルーシェと向き合う。
「…で、来たってことは……リヒト用の"霊玉"はあった訳だな。」
「ええ。……念のため、神力測定でもしておこうかしら。」
「……ああ、あの物理か。」
「失礼ね、あれは測定法の一つよ。」
「あれがかよ……」
……まあ、アレだな……。
リヒト、頑張れ。(色んな意味で。)←
◆
再び境内に入ると、アクアは人間サイズに変化して、木の小箱を手にして跪いている。
フランとカイルも大人しく黙って遠巻きから見ていた。そこに俺も混じっていたけどな。
かなり一変したことにリヒトは戸惑っていたみたいだが、ゆっくりと彼に近づくルーシェを見ると、自然に跪いた。
ルーシェは一礼し、リヒトの頭に右手をかざす。そしてその手を振り上げ、拳を作り……
ごんっ!
『いだぁっ!?』
降り下ろした。と言うか、殴った。
『な……いきなり、何が…!?』
「貴方の神力を測定しただけです。」
『測定!?あれで…!?』
まぁ、普通はそうだよなぁ……。フランとカイルもリヒトに向かって憐れみの目線を送っていた。
昔は、術やお札とか道具を色々使ってやっていたが、急にあの方法……つまり殴る方法に安定させた。
しっかし……俺もやられたことがあったが……痛い。凄い痛いよ、本当。
リヒトが若干涙目で殴られた頭を押さえているのを横目に、ルーシェはアクアの持つ箱から何かを取り出した。
蒼い石の勾玉の首飾り。
その石からは強い力を感じた。
「……霊玉…。」
カイルがそう呟く。その視線は鋭く、睨んでいた……が、どこか悲しげでもあった。
ルーシェが手にしている物に気がついたのか、リヒトは体勢を正した。
そして、その首飾りを彼に掛ける。
「リヒト=ルーシェトス、貴方に"霊玉"を授けます。」
静かにそう言い、リヒトは頷く。
それを見たルーシェは優しく微笑んだ。
◆
儀式を終え、俺達はリヒトの元へ駆け寄ると、色々聞きたいことがある、と言いたげな表情をしながら立っていた。
『…で、"霊玉"って何なんだ?』
「"霊玉"は、俺ら神々及び精霊達の神力を安定させたりする為のアイテムだな。」
『へぇ……。じゃあ、フランのリボンに付いている緑の飾り石も…』
「"霊玉"だよ。」
服のリボンを軽くいじって、胸を張りながらフランは自慢気に言った。
『でも、時雨は付けてないよな?』
「ああ、別に常に付けていなくても構わないんだ。ただ、神に成り立てみたいなヤツには常に付けていた方が、神力も安定しやすい。」
『つまり、今のオレの場合は常に付けていた方がいいと……』
「そう言うことだ。それと、俺の"霊玉"は武器とかを仕舞っている空間にあるから、常に付けている状態でもあるぜ。」
『マジか。やっぱり凄いんだな、シグレは…』
そう言ってリヒトは頷く。
…同時に、何故か視線を感じる。振り返ると、カイルがジト目で俺を見ていた。
さっきから何なんだ、この龍神少年は…
「カーイールー!」
「うわ!?なんだよ、いきなり!」
お。ナイス、フラン!←
ニコニコしながらフランはカイルの腕を引っ張り、屋敷の方に連れて行ってしまった。その向こうからアクアの声も聞こえる。多分、遊びたいから連れて行ったんだろう。
それと入れ替わるように、今度はルーシェがやって来た。
「さて、リヒトには修行してもらわなくてはならないわね。」
『修行?』
リヒトが首を傾げるとルーシェは頷き、答えた。
「ええ。貴方は最近神体を得たばかりだと聞いたわ。だから、神力の安定や能力の強化の為にもこの神社で修行してもらいます。」
霊玉を貰っただけでは意味がないからね、と続けた。
「それと、貴方の"声"も……ね?」
『!』
「どうにかしたいでしょう?なら、私の所に来なさいな。神見習いさん」
いたずらっぽい笑みを浮かべながらルーシェは言う。
…確かに、リヒトは"リヒトの声"を封じた石を壊したから。状況が状況だったからな……
そのせいで、声はもう戻らないと思っていたが…
リアンとの別れ際にリヒトは声を発した。完全ではなかったものの、あれは奇跡としか言い様がない。
となれば……
「上手くいけば、取り戻せるかもな。リヒト」
「それに、レウスの霊薬や神薬を使えば……可能性はかなり上がると思うわ。」
…あの悪趣味持ちの水と海の神兼薬屋やってるレウス、ねぇ……
まぁ、レウス本人はかなりアレだが、薬の効果は本物だからな…。
リヒトは暫く驚いた表情のままだったが、やがて頷いた。
『…やります。それに、オレは神様になれると知ってからは…神様になりたいと思っていますから。』
もう、誰も傷付けないように。
もう、誰かを不幸にしないように。
『誤った力を得ないように……お願いします、修行させて下さい。』
そう言って、深く礼をするリヒト。
それを見てルーシェは頷き、微笑んだ。
「よかった、貴方の決心も聞けて。」
修行は明日から行います、とルーシェはリヒトに告げると彼は大きく頷いた。
「但し、神見習いとしての修行だけじゃありませんからね。掃除、洗濯その他諸々、雑用もしてもらいます。」
『え?あ、はい!』
…恐るべし、ルーシェ式の修行。←
でも、リヒトはどこか嬉しそうな表情をしていた。
…そうだ。
「なぁ、ルーシェ。カイルって一体何なんだよ?俺が反撃しようとした時、『病み上がり相手に…』って言ってたし…」
「病み上がり相手に、はそのままの意味よ。」
「何で病み上がり…?」
俺がそう言いかけたとき、カイルがこちらに向かってくるのが見えた。
「カイル…」
「……時雨、だっけ。」
「ああ。」
相変わらず、俺を見るときは必ずと言っても言い程ジト目だ。
「…やっぱり、わからない。」
「何が?…と言うか、お前…霊玉は持ってないのか?」
霊玉を持つ神や精霊からは、僅かにだが気配が異なる。
でも、カイルからはその気配を感じない。
カイルは背を向けながら答えた。
「ないよ。人間に壊されちゃってね。」
吐き捨てるようにそう言うと、フランとアクアが呼ぶ声がして、そちらにカイルは駆け出した。
「壊された…?人間に…?」
「ええ、そうなのよ。だから今、彼の霊玉は修復中よ。そんなに時間はかからないと思うけど……」
ルーシェは一度言葉を切り、カイルが向かった方を見詰めた。
その目はどこか悲しげで、でも鋭く射抜く様だ。
「彼が人間を信じられるようになるまでは、霊玉を返す事はしないわ。」
正直、ルーシェの言葉に俺は驚いた。リヒトを見ると、彼も同じように驚いていた。
『それは、どうして…』
「…話は長くなるわ。それでもいい?」
そう言うルーシェの表情は明るいものではなかった。
一体、あの龍神少年に何があったのか。
俺とリヒトは頷き、話を聞くことにした。
カイルは一体なんなのやら…




