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異世界の放浪者と  作者: 天音時雨
第一章 鬼の子
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第九話 青年との話

前回と違い今回は長いです。

(……やっぱりな)

姿を見たときから薄々わかってはいた。実際にも異世界のリヒトにも会ったことがあるからな←

(…とはいえ。)

まさか、声が出せないとはな。それに…さっき書いた事も気になる。


『【オレも平気だ。この体にされてから(・・・・・・・・・)回復が早いから。】』


この体にされてから?

一体何を指す……ん?

(まてよ…)

そういえば…リリアから話を聞いた時…

『青年はその罪を永遠に償うために、永遠の命を与えられた。』


"永遠の命"

言い替えるなら不老不死とかだろう。つまり…

「不老不死だから、傷の治りが早い…」そう呟くとリヒトが目を見開いた。


【どうしてわかった?】


メモ帳にはそう書かれている。

「どうしてって…お前が言ったようなものだろ?『この体にされてから回復が早いから。』なんて…な。」

俺が言うと拗ねたようにムスッとした表情になるリヒト。そしてまたメモ帳にペンを走らせた。


【その通りだ。オレは鬼の子だ。無理矢理、永遠の命を与えられた】


そっぽを向きながら見せてきたメモ帳にはそう書かれていた。…そのリヒトの横顔が寂しそうな気がしたがな…。

「…寂しくなかったのか…?」

思わずそう訊くが、リヒトは何も答えない。

ただ、床に視線を落として今にも泣きそうな表情をしながら立っていた。


言葉にしなくても、なんとなく察した。

…寧ろ、寂しくない方が変だ。何百年も経っているのに…無理矢理永遠の命を与えられ、ずっと罪を償うために生かされているようなもんだからな。

「んなもん……辛いに決まってるよな。」

リヒトは答えない。だが、目に溜まった涙を見れば十分でわかる。

思わず手を伸ばし、くしゃっと頭を撫でた。

「…そんな顔すんなって。」

涙が零れてしまいそうなのを堪えながらリヒトは頷いた。


…俺だって似たようなもんだ。元々は人間で、あることに「怖くなったから」不老不死を望み、最終的には神になったのだから。

俺がいる世界は神と精霊しかいないから、誰かを"死"で失うことはほとんどない。

でも…そうじゃない世界にいたら……きっと俺は………―――


【そういえば、あんたの名前は?】

メモ帳にはそう書かれている。

「ああ…言ってなかったな。俺は時雨だ。」

そう答えると頷き、何かを書き始めた。


【シグレ、悪いことは言わない。オレに訊くことがあるなら、さっさと終わらして帰った方がいい。】


そう見せてきたリヒトは睨むように俺を見つめてきた。

「…わかったよ。んじゃ、まずは…何で声が出せないんだ?」


俺がそう訊くと、すぐさまメモ帳にペンを走らせ、書き終えるとメモを差し出す。


【永遠の命を与えられると同時に声を奪われた。二度と他人と話すことが出来ないようにと。】


「でも…筆談出来るよな。意味はあんのか?」

リヒトは少し考えながらペンを取った。


【多分、あると思う。声じゃないといけないことがあるから。例えば、術の詠唱とか。魔力で作ったナイフを飛ばすのは詠唱の必要がないから。】


「…ああ。成る程な。」

術の中には詠唱なしで発動させる事も出来なくはないが、その数は少ない。余程魔力の高い魔術師じゃなければ詠唱なしで術の発動をやるのは難しい。中には心の中で詠唱するヤツもいるみたいだしな。

まあ、それが出来るのは魔力がかなり高いヤツか俺らみたいな神ぐらいか。

…でも、妙に引っ掛かる。それだけの理由で声を奪う必要があるのか?

そこまでリヒトは居てはいけない存在なのか?


或いは誰かにとってそれが不都合だから?

……わからん。←

ともかく、もうひとつ訊きたいことがあるからな…

「じゃあ…お前は何故"忌み子"扱いされているんだ?」

そう訊くとリヒトは悩みだしながらもペンを動かす。


【わからない。ただひとつ言えることはある。】


「言えること?」

リヒトは頷き、また書き始める。


【オレは捨てられた子供だ。】



*回想*


オレは少し貧しい家に産まれた。


でも、オレが産まれてからもっと貧しくなり…更には母親が病気で死んだ。


死に間際、母親はこう言った。

「アンタなんか産まなきゃよかった。」って


それからずっと、父親から暴力を受け続け、とうとう家から追い出されてしまった。


いく宛もなく、ただ道を歩き続けていたら体力が尽き、倒れてしまったんだ。


オレは死を覚悟した。


でも……オレは死ななかった。


リアンに助けられたから。


あいつの家に使用人として、住むことになってからは幸せだった。


でも、幸せは続かない。


ご当主が病気で倒れた。


しかも、街にはご当主がかかった病気が流行していた。


そして、ある日オレはある使用人に手を引かれて森へ行った。


そこで使用人は森に来た理由を話してくれたんだ。


「占い師がキミを疫病神と呼んでいたんだ。だから…奥様から殺せと命令されたんだ。」


でもそいつはオレを殺さず代わりにオレの長かった髪を切り、逃がした。


オレは別の街へ向かい、その郊外で静かに暮らし始めた。


暮らし始めて数ヶ月たった日に、噂を聞いた


「疫病神が死んで流行り病がおさまった」と


…別に何も感じなかった。


ただ…屋敷から連れ出されたときに見たリアンの悲しそうな顔だけが心に残っていた。


それから十年経ってオレはその街に行くことにした


もうオレの事なんてみんな忘れていると思ったから。


でも、違った。


リアンに呼び止められた時


「あの…ひょっとして昔…会った事がありますか…?」


アイツは覚えていた。正直嬉しかったけど…


オレは嘘を吐いた。




そのせいなのか、




オレが本当に忌み子だからか




リアンは大怪我を負ってしまった。




その時思わず名前を呼んでしまった。




まだ名乗っていないのに「リアン…!!」ってな。




一命を取りとめたリアンにオレは正体を明かした。




「あの時、殺されたはずの使用人の少年はオレだ」って。その時、何故か涙が止まらなかった




そのせいで、オレはあの時の人物だってみんなにバレてしまった。


即座に捕らえられ尋問される。


オレは全て認めた。


でも…


「リヒトは悪くないわ!!彼に…何の罪があるというの…!?」


ただ一人、リアンだけがオレを庇ってくれたんだ。


でも…オレは…


「いいんだ…。…リアン…オレは本当に忌み子だから…。もう、いい。」


そう言って止めた。


リアンはあの時みたいに悲しそうな顔をしていた。





それから、街一番の賢者が魔術でオレに永遠の命を与え、声を奪った。



そしてこの神殿を建て、オレを閉じ込めた。



仮に出られるようになっても、両足に着けられた足枷によって街には近づけないようにして。





――――――



【それから誰かが"鬼の子"と呼び始め、それが定着した。オレが知っているのはこれくらいだ。】

「……成る程。リリアの話通りだな。」

そう言うとリヒトは首を傾げる。

「リリアってのは…さっき話に出てきたリアンの子孫だ。」

リヒトは少し驚きつつもペンを動かした。


【もはや、オレの事は昔話と言うより伝説みたいだな。】



皮肉るような笑みを浮かべながらメモを見せてくるリヒト。

「…全く…ヒトってのはそういう所が怖いよな。」

そんな風にする人間がいるから…かつて、反人間派ができてしまったんだろうな。

リヒトが皮肉るのも無理もない。

さて…大体訊きたいことは全て教えてもらったか……

あ。そういえば…

「…これ、返しとくよ。」

リヒトにさっき捨てたナイフを手渡す。

「あんたにはこれが大事なんだろ?」

俺がそう言うとこくりと頷いた。

【ありがとう。でも、すぐに帰ってくれ。もう用はないだろ?】


無表情でメモを突き付けるように差し出す。

「…冷てぇな。まあ…リヒトの言う通り、訊くことはもう殆どないからな。」

じゃあな、と言って俺はリヒトに背を向け、神殿の出口に向かった。



リヒトは何もしなかったが



『いかないで』



そんな心の声が聞こえてきた。


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