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光の奔走  作者: 如月あい
四章 光の策略
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今日だけは

 栗色の髪の少女は、トレリの城内を、ただ歩いていた。

 すれ違う人の髪の色を見て、また金髪かとため息をつく。トレリ標準装備の金髪は、どこにでもいるが、少女が探しているのは、赤銅色の髪の青年だ。

「あ! いた!」

 廊下の角を曲がったら、目的の人がいた。

 しかし、そこにはスミアの天敵とも言える、金髪碧眼のわりと美形な少年が一緒にいた。

「う……レティス邪魔……」

 どうしても話したいことがあるのだが、レティスに聞かせてよいことなのか、正直判断がつかない。

 そうやって右往左往していたら、向こうの方がこちらに気づいた。

「スミア、お前、研修は?」

「今日はちょうどお休みなんです」

 レティスの問いに、デュエルがいるため、一応笑顔で答える。

「あの……私、デュエル隊長に聞きたいことがあるんです」

「でも、今、研修中で……」

 デュエルが困ったようにレティスの方を見た。

 ―――今、話したいのに!

「隊長、先に話聞いてやってください。研修中ずっとつきまとわれる方が迷惑です」

「え?」

 絶対に協力してくれないだろうと思っていたのに、レティスがそんなことを言うので、拍子抜けして思わず声が出た。

「いいのか?」

「長くなければ」

 そういって、その碧い瞳をこちらにまっすぐと向けてくる。

 ―――何を考えてるのかしら?

 レティスの意図は読めないが、都合がいいことにはかわりない。

「聞きたいことって?」

 デュエルの赤銅色の瞳がこちらを向く。

 レティスを遠ざけるのは無理だ。

 それならば、どうにかデュエルにだけ分かるように話さなければならない。

「隊長が心配でした」

「は?」

 頭の中は混乱している。それでも、ある程度正直に話していくしかない。

「だから、ベランダからたどって、立ち入り禁止の部屋まで行ったんです。デュエル隊長が倒れているときに」

 しっかりと前を向いて、デュエルの瞳を見つめる。

 彼の瞳に、驚きより恐怖の色が浮かんだ。

「それで……何を聞いたんだ?」

「デュエル隊長が、いつもとは違う呼び方で、呼んだ名前だけ、私の耳に届きました」

「……それで?」

 デュエルの顔に明らかに安堵の色が浮かび、それでも先を促す。

「だから、調べました。登録票で。そこで、ジオに会って……」

「聞いたのか。由来を。そうか、それで……あいつ知ってたんだな」

 後半は声が小さすぎて聞こえなかったが、何かを納得したようだった。

「好きなんですか?」

 ストレートに、いつものスミアなら絶対にしない、計算のない質問。

 これが、自分の逃げ道を無くすと分かっていても、スミアは確かめずにはいられなかった。

 それでもレティスの言葉がずっと引っかかっていたのだ。

 逃げるのかと言われた、あの言葉が。

 ゆがんでると言われて、否定できなかった自分が、許せなかった。

 それでも、後悔するかと思っていた。

 もっと待てばよかったと。

「……本人にも言ってないんだ」

 しかし、良かったと思ってしまった。 

 はっきりとは答えないけれど、それでも、赤銅色の髪の青年が、とても優しく、そして、照れたように微笑んでいたから。

 胸にこみあげてくるものを感じて、ぎゅっと、抑える。

 意地なのだ。

 あの日から決めている。

 泣いてはいけない。

 覚悟は、してきたのだ。

「……てください」

「え?」

 声が、震える。

 それでも、大きく息を吸って、言った。

「がんばってください! 頑張らなかったら、盗られますよ! あんな美人な人」

 目頭が熱くなる前に、どうにか、笑みを浮かべる。

 デュエルの顔が、驚きから、また、優しいものに変わる。

 その赤銅色の瞳は、スミアを助けてくれたあの時と同じ色。

「がんばるよ。絶対に、隣に立つって、決めてるからさ」

 もう、限界だった。

 スミアはデュエルの言葉にうなずき、デュエルが来た方向へと足早に立ち去ろうとする。

 デュエルの横を通り過ぎ、そして、レティスの横を通り過ぎようとしたとき、聞こえた。

「見直した」

 予想外の言葉に、一度足を止めそうになって、それでも、流れ落ちる涙が止まらないことを感じると、そのままそばを通り過ぎた。

 そのあとは覚えていない。

 それでも下を向いたまま部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。

「……っ……ひっく……」

 今日ぐらい、泣いたって許されるはずだ。

 両親が殺され、デュエルに助けてもらったあの日に、誓ったのだ。

 絶対に泣かないで強く生きるのだと。

「……しあ……わせに……なっ……て……。私……あっ……てる?」

 レティスの言葉を思い出す。

 あれは、認めてくれたのだ。

 スミアが正しいと言ってくれたのだ。

「……うっ……っ」

 栗色の少女は、ただ一人、あふれだすものを止めることなく、ただ、そこにいた。

 両親が亡くなって以来、一度も流していなかった涙を、彼女は今、流していた。


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