炎の選択肢は闇にゆだねられ
黒く長い艶やかな髪の女性と、赤銅色の髪の女性が、静かな部屋で二人向き合っていた。
「久しぶりね」
赤銅色の髪の女性が、黒髪の女性に微笑みかける。
歳に見合わない、若々しく、愛らしい顔立ちが、その微笑みでより引き立つことになった。
「お久しぶりですね」
「三回目、かしら?」
「ええ。一度はオブルミの森。もう一度は、四年前のあの日」
黒髪の女性は、部屋の中を見回しながら、すっと、赤銅色の髪の女性に焦点を合わせる。
「頼みがあってきました」
「……ルミエハの長姫が、オブスキィト当主の夫人に?」
長い黒髪が、女性が首を横に振るとともに揺れる。
その美しい顔立ちに、浮かんでいるのは、強い意志だった。
「いいえ。ただのレンティシアとして、私の母の、友人のあなたへ」
深い緑色の瞳が、赤銅色の瞳を捉える。
「どこでねじれたのかしら。そうでなければ、今頃……」
「あなたの隣に、もっと近くに、私の母はまだ、いたかもしれません」
赤銅色の髪の女性は、ふと立ち上がって、部屋の中をゆっくりと歩く。
それはまるで気持ちの整理をつけるためのように見えた。
「頼みとは、何かしら」
ゆっくりと、こちらを見て聞く赤銅色の女性は、母親のような慈愛に満ちた表情をしていた。
「レン・ヴェントスとシェリア・ヴェントスの二人の子供の名をご存知ですか?」
いまだに慣れないその扱いに、目を細めて、黒髪の女性はぽつりとつぶやく。
「ミオ・ヴェントスと……弟ならレオ、妹なら、リアと、最後に会った時に聞いたわ」
「弟か妹の方は、どのみち両親の名を取る気だったようですね」
「ええ。音の響きが似るように、と言っていたわ。ミオという名は、トレリの三代目にして、稀代の名君と言われた女王、ミオ・シュトレリッツからとっていると聞いたけれど」
どこか遠いところに思いを馳せるように、赤銅色の女性は宙を見つめてぽつりとつぶやく。
「それで、どうして名前を? 純粋な好奇心?」
「いいえ。その、レオ・ヴェントスについて、話があるのです」
「……! まさか」
はっとしたように目を見開いて、黒髪の女性に赤銅色の女性が詰め寄る。
「はい。彼は生きています。クロエ・ダールの血縁として、レオ・ダールを名乗っていますが―――」
「クロエ・ダール? あの元王妃付の近衛隊長の?」
「……ご存じなんですか?」
黒髪の女性が初めて驚いたような様子を見せる。
「知っているわ。優秀な人だったもの。会ったこともあるしね」
「そうですか。それで、無事だったんですね」
「って、そうよ! レオが無事ってことは、シェリアは生きているの?」
赤銅色の女性の瞳が輝き、もともと若く見えた見た目が、よりいっそう若返ったように思えるほどの変化だった。
しかし、黒髪の女性は、静かに、首を振る。
「シェリア・ヴェントスは……四年前、私がヴェントス領についた三日前に、亡くなっていました」
平坦な、感情を押し殺した声が、その場に響く。
赤銅色の女性は一気に落ち込んだ表情を見せ、そして、ふと、何かに気づいたように顔を上げる。
「……あなたは、直接は……会ってないの?」
少し震える声で、問うその問いかけに、黒髪の女性は、ただ、首を縦に振った。
「どうして……では、どうしてレオのことは?」
「レオとはその日に会いました。黒くて癖のない髪に、深い、藍色の瞳の少年でした」
「藍色……。レンと同じね」
「私はレオと会ったあと、クロエさんに会いました。そして、彼女が知るすべてを聞きました」
「……間違いなく、シェリアの息子なのね?」
「はい」
「それで、どうしてほしいのかしら? 私に」
深い緑色の瞳が、赤銅色の瞳を捉えなおして、そして、ゆっくりと口を開く。
「選ばせてあげてください」
「え?」
「彼に、レオ・ダールとして生きるのか。レオ・ヴェントスとして生きるのかを」
黒髪の女性は、ふと視線を切って、部屋の中をさっと見回す。
それは赤銅色の女性に考える時間を与えるものだった。
「……私が、私たちが、オブスキィトが保証人になればよいのね? その子が本物であると」
「はい。オブスキィトが証明すれば、ルミエハ以外は黙ります」
「ルミエハはどうするの?」
聞くまでもないことだろうという表情を浮かべて、黒髪の女性は答える。
「もちろん私が、黙らせます」
「真実をさらけ出して?」
しばしの沈黙。
そして、黒髪の女性は口を開く。
「真実は、真実だとみんなが思えば成り立つものですよ」
黒と見間違うほど深い緑色の瞳は、すでにもう、この場所を見てはいなかった。
三章完結!
次から四章です!
すでにわかりかけている謎が、
ようやく収束していく章です!
ここまで読んでくださった皆様には
ようやくお話に終わりが見えてまいりました。
三章までを事件編とするのならば
四章と終章は解決編。
どのようにロイとレンティは
動いていくのか……
もう少しお付き合いいただければ幸いです。




