闇に隠れし光の襲撃
金属が重なる高い音がその場を制す。
いつもなら、港町であるこのオードラン領は、風に乗って潮の匂いが漂う、活気のある町だ。
「くそっ! 人質を取り返されちまった!」
顔に布を巻いた男が、悪態をつく。
その男が話したと同時に、赤銅色の髪の青年が剣を振るう。その剣をかわせなかった男は、紅い血をその場に散らしながら、どさりと崩れ落ちる。
「予想外に多い……」
赤銅色の青年は、あたりを見回した。
ルフレに頼まれた人身売買の取り締まりの任務。規模が大きいことも想定はしていたのだが。
デュエルのまわりにはすでに十数名の死傷者が横たわり、デュエルの隊は死に至るような怪我をしたものがいないことは唯一の救いだが、売りとばされようとしていたものの、何人かはすでに犠牲になっている。
ひといきを着く間もなく剣を振るい、相手の剣戟をそらす。
「隊長っ! あれ!」
誰かの声で振り向けば、デュエルが今相手をしている男たちと同じような布を巻いた男が五人と、一人、布をしていない、武器さえ身に着けていない男が、馬に乗ってせせら笑っている。
「オードラン子爵……」
デュエルはオブスキィトとしてその男に会ったことがあった。
武器を持たぬ男は、デュエルに向かって馬を走らせる。ほかの隊員がこちらを見るが、彼が連れてきた五人が動いていないことと、そもそもその男が武器を持っていないことで、そちらは後で良いと判断したのだろう、それぞれ自分の周りの敵を相手している。
「お久しぶりですね。デュエル・オブスキィト殿」
「……ルミエハ側だったのか」
無駄な挨拶はいらないとばかりに、デュエルはオードラン子爵をにらみつける。
もともとこの依頼は、オブスキィト側のオードラン子爵に協力を得ようと言うものだったのだが、オードラン子爵に会いに行き、今日は都合が悪いと断られての直後の出来事。そして、戦闘の場になっているこの場所に、武装し、顔を隠した男五人を引き連れ、自分は武器ひとつ持たずに来る段階で、この男がどちら側の人間なのかは予想がつく。
襲われない自信があるから、武器を持っていないのだ。この男は。
「私が敬愛しているのは、いつだってルイス様とダンテ様。まあ、副稼業が思いのほかうまくいって、自分の予想以上にルミエハのお役に立てたようですが」
嘲笑を浮かべた男は、さらりとそんなことを言ってのけた。
予想はしていたものの、人身売買の組織を、子爵自らが行っていたのかと思うと、トレリの爵位制度を疑いたくなる。
「オブスキィトの人間はばかだ。自らに牙をむく者が、内側にいないと信じ込んでいる。私のような優秀なスパイは、確かに他にいないが、一人いれば、十二分に効果があるというのに」
どこか恍惚状態でいう男の言葉に、デュエルは内心安堵した。
すくなくとも、このオードラン子爵の知っている範囲では、彼と同じようにオブスキィトを裏切っているものはいないということだ。
「だが、すでに半分以上を取り押さえた。抵抗はやめて、投降した方が身のためじゃないのか」
デュエルは右手で剣を構え、左手で場を指しながら言う。
まだ場は落ち着いていないものの、明らかにデュエルの隊の方が優勢だった。
「私はオブスキィトなどに屈しない。それに、ルフレ嬢のような方ならともかく、あなたごときに、ルミエハを敬愛するものが負けてはならぬのですよ」
一瞬、ちらりと長い黒髪の女性の姿が頭をよぎる。
それが集中力を削いだ。
「隊長っ!」
誰かが叫ぶ声が聞こえた。
腹部に感じる痛みと、熱さが、デュエルの身を焦がす。
「っ……」
腹部を切り裂いた切っ先を、どうにか剣ではねのけて、あざ笑う男を睨みつける。
しかし、視界は暗転し、デュエルはそのまま意識を手放した。




