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光の奔走  作者: 如月あい
三章 闇の追求
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建国祭③ 美形好きお嬢様と黒髪美男子

賑やかな王都をのんびりと歩いていると、人の波にあっさりと流される。

 建国祭である今日は、さまざまな音で満ち溢れ、ずらりと並ぶ屋台は、他国の商人が出しているものもあって、珍しいものが並んでいる。

「ヒラリーお嬢様、もう少しお気をつけて歩いてくださいませ」

 となりにいる侍女がそういうが、ヒラリーはそれを無視してのんびりと歩く。

 くじ運の良かったヒラリーは、建国祭の勤務なしだったため、一人で歩いていたところ、たまたま王都の祭りに参加していた家族と鉢合わせ、伯爵令嬢が一人で歩くなんてとんでもないと、家の侍女をつけられてしまったのだ。

 ヒラリーは軍属しているのだから、自衛はできるし、侍女がいれば逆に足手まといであると言うのに。

「クルクマ伯爵家のご令嬢なのですよ。御身を大事にしてくださいませ」

「お兄様がいますよ。それに、たかだか伯爵家です」

 軍には伯爵家よりも家格の高い人はたくさんいるが、そんな人が大仰に護衛をつけて歩いているかと言えば、全く持ってそんなことはない。

「まあ! 闇の家の長男はお嬢様にそんな暴言を吐かれたのですか!」

 相変わらずの反応に、ヒラリーは頭を抱えた。

 クルクマ家はルミエハ寄り貴族であり、その領地は旧ヴェントス侯爵家の西側にある。

 クルクマがルミエハを心酔し、急進派ではないものの、一貫して反オブスキィトをかかげるから、王都からの道が整備されないのだ。

 あそこに道を通してもらえれば、クルクマにも利益はあるというのに。

「違います。私がそう思っただけ、です。それに闇という言い方は、およしなさい。名前が、あるのですよ」

 そういってヒラリーがたしなめると、侍女は不満げな顔をする。

 正直言って、ヒラリーには、何がそんなにルミエハ当主夫妻を魅力的に見せているのか分からなかった。

ルイスとダンテ・ルミエハに心酔している者が大勢、両親も含め、クルクマ伯爵家にはいるのだが、ヒラリーには良くわからなかった。

ルイス・ルミエハは、それこそ人類の生んだ芸術品のごとく美しく、まさに絶世の美女と形容するにふさわしく、とても子を産んだ女性には思えないが、その考えの読めなさというか、心に潜む闇が、ヒラリーにはどうしても受け入れられなかった。

美形好きであるとはいえ、ルイスの美しさはヒラリーには届かなかったのだ。

「そういえば、お嬢様は、ルフレ様とはお話になりましたか?」

「え? ええ。そう、いろいろあってね、少しだけ、ルフレ隊長に指導していただくことができたの」

「まあ、それは本当でございますか? さすがはルフレ様。誰がルミエハに忠誠を誓っているのか、ご存じなのですね」

 またもや的の外れた返事に、ヒラリーは今度は頭が痛くなった。

 しかし、ルフレの話題である限り、彼女について褒めても全く問題ないだろうから、こちらの方が楽と言えば、楽かもしれない。

「本当に、素晴らしい女性よ。ルフレ隊長は」

「そうでしょうね。あのルイス様とダンテ様のお嬢様ですもの」

 ほとんど恍惚状態の侍女を放置し、ヒラリーは大通りから、住宅地へつながる道へと身を寄せる。

 そちらの方も、装飾がなされていて、いつもより活気があるが、人並みにもまれることはない。

 そこで休憩しようと、少し気を抜いた直後だった。 

「あ、この前の軍の人」

 背後から声をかけられ、思わずぎょっとして振り返る。

 そこにいたのは癖のない黒髪に、とても整った顔立ちの青年。

「レオ、さんですか?」

 それがケルドで会った人だと分かり、緊張を解いて、記憶をたぐりよせながら聞く。

「そうそう。よく覚えてたな。今日は休み?」

 尋ねられてから、自分が軍の制服ではなく、私服であることに気づいた。

「あ、はい。えっとレオさんは?」

「俺は連れとはぐれて捜索中」

 ため息をついて言う彼を、やはり美形すぎて直視できないながらに首元あたりを見つめて聞く。

「お付き合いしている方ですか?」

「ん……一応、婚約者」

 少し照れたようにいった青年が、非常にヒラリーのツボにはまり、これは運が良かったと、思わず微笑んでしまう。

「じゃあ、早く探してあげないとですね」

「ああ。そうだな。……そういえば、ルフレって、今日は休み?」

 さらりと尋ねられた名前に、ヒラリーは固まる。

「ルフレって……あのルフレ様とお知り合いですか?」

 いつのまにやらヒラリーを見つけ出したらしい侍女が、隣に立って、きらきらとした目で聞いている。

 彼がヴェントスに住んでいる人間だと知ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。

「知り合い、っていうか、なんというか」

「ルフレ隊長は仕事です。私は運がよくてお休みを頂いただけなので」

「そっか。じゃあ、あきらめるかな。ファリーナに怒られそうだし」

 ファリーナというのが婚約者の名前だろうか。

 その名を呼ぶ時の青年の顔は、その冷めた雰囲気を払しょくするくらい、優しいものだった。

「ヒラリーお嬢様、この方とはいったい?」

 となりにいた侍女がヒラリーの名を呼んだ瞬間、レオが何かに気づいたようにこちらを見る。

 たまたま目が合ってしまい、視線を逸らせずにそのまま見つめることになってしまった。

 ―――心臓に悪いです。

 美形を見つめるのはなかなかに度胸がいる。

 十秒ぐらいだろうか、お互いに見つめあって静止していたら、ヒラリーは気づいた。

 彼の瞳が、黒色だとおもっていたが、実は深い藍色だと言うことに。

「ヒラリーお嬢様って……もしかして、クルクマ伯爵家のご令嬢?」

 ヒラリー自体は珍しい名前ではない。しかも、どちらかというと庶民に多い名前だ。

 だからこそ、お嬢さまと呼ばれるような人で、ヒラリーの名を持つのは、ヒラリー・クルクマぐらいなのだ。

「そう、です。ヒラリー・クルクマと申します。ところで、婚約者の方をお待たせしてよいのですか?」

「あ、よくない。ただ、一つだけ聞きたいんだけど」

「なんでしょうか?」

「ルミエハ寄りのクルクマ伯爵家令嬢から見て、デュエルさんはどんな人?」

「とても素晴らしい方です。ルフレ隊長と同じぐらいには」

 迷いなく答えたヒラリーに、黒髪の青年はその整った顔立ちにきれいな笑みを浮かべて、満足そうにうなずいた。

「だと思ったよ」

 そう言い残して、足早に大通りへと消えていく。

「あの方は一体誰ですか? それに、どうして彼の家の長男をほめていらっしゃるんですか!」

 侍女の追及から逃れるように、ヒラリーもまた、大通りへと戻って行った。


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