建国祭① 赤銅色と近衛隊長
町中そこらかしこで演奏されている様々な楽器の音や、ここぞとばかりにそれぞれの一座の歌姫が歌い、店は特別に装飾された屋台が立ち並んで、大通りはいつも以上ににぎやかで華やかだった。
いつもは馬車が三台は横にならべる大きな道も、今は通行規制がかかっていて、人の姿しかない。
それでも人が多すぎて、歩くのにはそれなりの注意力が必要だ。
「はあ……なんで、よりによって建国祭に、デュエル隊長と私なんていう無駄な組み合わせで巡回なわけ?」
短いさらりとした短い金髪に碧い目の女性が、ため息をつく。そのかわいらしい顔立ちに反する話し方は、慣れない頃は違和感があった。
「無駄って……俺がそんなに嫌か?」
「嫌じゃないけどね。デュエル隊長とルフレの組み合わせのが、いろいろと面白かったのに」
思いがけないセレスの言葉に、おもわずデュエルは動揺を隠さないままに、セレスの方を見てしまった。
「やっぱり、デュエル隊長は、気がある感じか」
「やっぱりって……」
軍に入ってからは、きっちりと線を引いていたはずなのに、ジオといい、セレスといい、こんなにあっさりばれてしまうとは、デュエルの演技不足なのだろうか。
「ルフレの話を聞いてなければ、そんなこと思わなかったわよ。ルミエハとオブスキィトだもの。でも、聞いてると、二人はたぶん、何かあるのかなって、思えてくるんだよね。
まあルフレがどう思ってるのかは、私にも分からないけどね」
「ルフレが、俺のこと何か話してるの?」
「なんていうか、とこどろころに、デュエル隊長を信頼しているような言動があるし、なんだか、やっぱりそれなりの情を感じるというか。スミア騒動の時に、ヒラリーを引き取ったのも、個人的な感情がゼロではないと思うのよね」
セレスの話を、素直に喜んでいいのか悩む。
確かにルフレはデュエルを信頼してくれているだろうが、デュエルが望んでいるのは信頼どころの話ではないのだ。
本当のところ、自分は二十歳まで縁談は絶対にないが、ルフレにいつ婚約者ができてしまうのか、戦々恐々としている。
デュエルが微妙な顔をしていたら、セレスがいたずらっぽい笑みを浮かべて問う。
「それで、認めるの? 認めるなら、応援してあげるわよ。オブスキィトもルミエハもどうにもできないけれど、ルフレのことなら、それなりに分かるしね」
周りから見れば、セレスから言い寄られているように見えるだろうと思いぐらい、その愛らしい顔をぐいっと近づけてにこにことしている。
しかしデュエルにはこれが、からかいの笑みであって、デュエル自身にセレスが一ミリも興味がないということが分かっている。
「スミアに見られたらややこしいから離れてくれ」
とりあえずそういうと、不満げな顔をして、歩いていたデュエルの前に回り込み、行く手を阻むように前にたち、腰に手をあててこちらをにらんだ。
「なんでそこの名前がスミアなの? そこはやっぱりルフレでしょう?」
「ルフレが嫉妬してくれるなら、喜んでセレス隊長とくっついているさ」
「ってことは認めるのね?」
さすがはルフレの友人というべきか、頭のまわる人だ。
「認めるよ。そもそも、ここで否定して、信じるのか?」
「いいえ。だって私は絶対に間違ってないもの」
不敵に笑うその笑みは、愛らしい顔立ちには似合わないが、セレスには相応しいものだった。
「応援してくれるっていうなら、ちょっと頼まれてほしいことがある」
どうせなら利用できるものは利用してやる。
そのぐらいの心意気がなければ、ルフレを落とすのは無理だろう。
「あら、意外と素直ね」
「まず一つ、このことは口外しないでくれ」
「それは当たり前よ。ルフレが困るから」
ルフレとの友情はどうやら本物らしい。セレスの至極当たり前だと言う口調に、デュエルは少しほっとした。
「もう一つ、なぜルフレに婚約者がいまだにいないのか、聞いてみてくれないか? ルミエハのことだから、俺には調べられなんだ」
希望的予測をするのなら、デュエルのことがあるからだ、という理由が挙げられる。
しかし、ルフレはともかくルミエハ当主が、誰かほかに想い人がいるからとか、そんな理由で認めるとは思えない。
もっと他に、合理的な理由があるのではないだろうか。
「ああ……それはね、私も不思議に思って聞いてみたことあるわ」
「それで?」
「本人の抵抗と、あとは親が見繕った相手が、五人連続で家が没落したらしいわ」
「本人の抵抗?」
後半部分はきっぱりと捨てて、前半だけに食いついた。
「そこは重要じゃないでしょう? 自由に生きたいから、って言ってたわよ」
応援すると言った割には、あっさりとデュエルの希望を打ち砕くような答えをする。
そして、がっくりと肩をおとすデュエルを呆れたように見つめる。
「それで、五人連続没落っていうのは?」
「んーなんかね、見合いの席を設けようと動き始めると、相手方の家が没落するらしいわ。一人ならともかく、五人ともなれば、偶然ではないわよね。本人が手を回したってわけではないみたい。本人は潔く見合いの席で、相手を振る気だったみたいだけど」
「ルミエハの人間だからこそ成せる業だな」
この国において、ルミエハと同等はオブスキィト、それ以上の格の家は王家になってしまうため、ルミエハの人間が見合いをすれば、確実に相手は格下貴族になる。
上位の貴族が下位の貴族を気に入らないということは、よくある話なので、ルフレもそうするつもりだったのだろう。
「確かにね。でも、ちょっと、調べてみたい気もしたんだけどね。参考までに、教えておくわ」
「そうだな……。ありがとう。セレス隊長」
近衛隊長のセレスより、こういう話を調べるのは、デュエルの方がやりやすい。
「セレスでいいわよ。私もデュエルって呼ぶから。ちょっとは妬くかもしれないし。私なら完璧に誤解なんて解いて見せるしね」
その自信とプライドの高さは、デュエルにはないもので、少しだけ彼女がうらやましいとともに、新たにできた味方を心強くも思っていた。
「わかった。じゃあ、セレス。よろしく頼む」
「任せなさい。デュエルとルフレのこと、全力で応援するわ」
そういって笑った顔は、その愛らしい顔に見合った、自然な笑顔だった。




