表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
29/109

研修という名のお忍び

 昼前の城下町は、相変わらず人でいっぱいだった。

 まだ寒いのに、とても活気づいている。

 少し歩くたびに、商人の元気な声がかかり、適当に断りながら、ジオと並ぶ。

「そういえば、名前、どうお呼びすればいいでしょうか?」

 忘れていた。

 先ほどは、ルフレの見た目の話で、最初の話は流れてしまっていたのだ。

「本名以外なら、なんでもいいわ」

 何か適当に、呼びやすい名で呼んでくれればいい。そう思ったのだが、案外それは難しい注文だったらしい、ジオが困りはてた顔をして、こちらをみる。

 その困りはてた顔も、少々違和感のあるものだったが、王子だと気取られないための演技だろうと割り切った。

「何か、希望の名前はありませんか?」

 ジオの問いに、ルフレは少し考える。

 思いついた名前はある。でも、それを使ってよいのか。

 ―――ちょっとだけ、名前を貸して。お姉ちゃん。

 心の中で呼びかけてから、ルフレは言った。

「……レイラ。レイラって呼んで」

「レイラさん。わかりました。ご友人ですか?」

「彼女は、頼れる姉のような存在にして、私の尊敬する行動力と知性を持ち合わせた女性よ」

 その言葉に嘘はない。

 ただ、一つ、付け加えなければいけない説明があるが。

「レイラさん。僕、田舎から来たので、あんまり町のお店とか、見たことないんです。首都はやっぱり賑わいが違いますね」

 深く沈んできそうな想いは、彼の幼く、華やいだ声に救われた。

「そうね。入りたい店があったら言ってね」

「じゃあ、あの雑貨屋を見てみたいです」

 そういってするりと人ごみを抜け、ジオは走って行ってしまう。

 慌てて彼を目で追いながら、あの様子では、どこからどう見ても王子には見えないな、と苦笑する。

 そのあとも、いくつか店を、楽しそうに満喫した後、昼食を食べるのにおすすめの店はないかと聞かれ、古い知り合いの店の名をあげた。

 ジオが同意したので、そこに入る。

 店の中は、大きくはないが、それなりの賑わいを見せていた。

 テーブル席もあったが、あえてカウンターを選んで、座る。

 カウンターの向こうには、厨房が見えていた。

 そして、そこにいる人物に、とてつもない安心感を感じる。

「アンナ」

 名を呼ぶと、その女性は、こちらに気づく。

 そして、カウンターの向こうから、ルフレの姿を見ると嬉しそうに微笑んだ。帽子をかぶったままだったが、しっかりと分かったらしい。

 アンナは、ルフレの乳母だったが、ルフレが養成学校を卒業した際、ルミエハの家から出ていった。

 そして、夢だったらしい、自分の店を持つことになったのだ。

「お久しぶりですね。あら、もう年かしら……お名前を失念いたしましたわ」

 さすが、というべきか、ルフレの格好を見て、なんとなく事態を察したらしい。

「レイラ、よ」

 覚悟はしていたが、アンナの顔が一気にひきつる。

 ジオは敏い。彼に隠していることが露見しそうで、ルフレは内心焦った。

「以前お伺いしたけれど、お名前の由来は……なんでしたっけ?」

 訳せば、なぜその名を選んだか、ということか。

 どうせあとで、ジオには説明しなければいけないだろうと思っていたので、彼が問いたくなるような言い方をしてもいいだろう。

「後悔と懺悔の証らしいわ」

「あなたが懺悔するんですか?」

 口調が乳母の時に戻っている。アンナのルフレをしかりつけるような表情は、愛情の一種だと知っているので、怖くはない。

「本来は、違う。でも、本人がしなそうだから、私が代わり」

 ルフレはアンナの目をしっかりと見つめる。

 アンナは、ルフレの意志がかわらないことを悟ったらしい。

「ご注文は?」

「そうね、この店のおすすめで」

 貼ってあったビラを指さしながら言った。

「お連れ様は、初めまして、ですね。お名前をうかがってもよろしいですか?」

「ジオ、と言います。僕もレイラさんと同じので」

「わかりました。ディーナ! おすすめ2だよ」

 振り返ってアンナが叫ぶ。

「はーい」

 元気な女の子の声が聞こえ、調理にとりかかる。

「娘さんですか?」

 何も知らないジオが尋ねる。

 しかし、ルフレの予想に反して、アンナは平然として答える。

「娘のようにかわいがっております」

 ジオにはその一言で十分だったらしい。

 小さくすみません、と謝った。

 そのあと、店おすすめのメニューが出てきて、二人でそれを堪能する。

 アンナはほかの客の接客に行ったので、少し安心しながら、食事をとっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ