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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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踏み越えてはいけない一線

「ちょうどいいところに通りすがりましたね。デュエルさん。どう思われます?」

 はめられた。そう思った。

 金髪碧眼の童顔少年は、王子としての風格は一ミリたりとも出さずににこにこ笑っている。

 ジオに、この時間に西の門に来いと言われ、きてみたら、これだ。

 ルフレは、仕事中はかならず結っている、長い黒髪を今日はそのまま素直におろし、いつもは控えめな化粧は、今日は年頃の女性らしく完璧に仕上げてあった。

 確かに、軍人には見えない。

 だが、服だけは完璧に下町の娘になりきっているが、本人自身が悪い。

 普段から武器を手にし、訓練することで、引き締まっていながら、女性らしいラインを失わない完璧な肢体。

 普段は化粧がかなりに控えめなので、美人にとどまっているが、今日ほど完璧に化粧を施してしまえば、貴族の娘を通り越して、王族だと言っても差支えないほどの上品な美しさを醸し出してしまっている。

 しかも最悪なのは、本人にその自覚がないことだ。

 直視してしまえば、胸の動悸をおさえられなくなりそうで、どうしても少し視線を外したくなる。

「ルフレは、本気でその格好で目立たないと思ってるんだよな?」

 一応問いかけるが、彼女とは長い付き合いだ。

「鏡は見たわ。普通だった……たぶん」

 ある意味で、予想通りの返答で、デュエルは思わずため息をつく。

「デュエルさん。本人に直接、はっきり申し上げたらどうですか?」

 ジオがデュエルにとって最悪の発破をかける。

 ジオはデュエルとルフレが研修生の時、同じ配属だった以上のことは知らないはずだった。

 ロイとレンティの関係については、デュエルがあの日、線を引いていらい、お互い隠し通してきた二人だけの秘密であったはずなのだ。

 しかし、完璧にふるまっていると思っていた自分のどこに隙があったのか。彼には、自分がルフレに寄せる想いに気づかれているような気がするのだ。

「……五分くれるか?」

 その一言だけおいて、デュエルは走り始める。

 ―――帽子、がいいかな。

 とりあえず、目立たないためには、彼女の整いすぎた顔を隠してしまうのが一番だ。

 ロイとしてなら、彼女にきれいだと言ってしまっても構わないが、距離を置いている今、デュエルとしては、彼女にそんなことを言いたくなかった。

 言ってしまえば、デュエルとして守ってきた、彼女との距離感を崩してしまう気がしたのだ。

「タイムリミットは、あと一年か」

 彼女をもう傷つけないために、そしてなにより、一番近くで彼女を守るために、今は距離を置く必要があるのだ。

「あ、帽子」

 本来の目的を思い出し、各々の隊長の部屋がある建物の前に足を運ぶ。

「デュエル隊長。ちょっと、依頼があるんだけどいい?」

 セレスがなんとも絶妙なタイミングでデュエルに話しかける。

 彼女なら、ルフレのことをよくわかっていて、適任だ。

「セレス隊長。依頼は受けるから、個人的なことで至急頼みがある」

 狐につままれたような顔をしているセレスに、大まかに事情を説明する。

 すると納得したようにうなずいて、ちょうど近くにあったセレスの自室に入り、どこにでもありそうな女物の帽子を手渡してくれた。

「ルフレの自覚のなさは、本物だから、ちょっとデュエル隊長に同情するよ。恋人でもないのにきれいだとか言ったら、口説いてるみたいだもんね」

 セレスの言葉がぐさりとささる。

 今、ルフレとデュエルは、何の関係もない。

 それはデュエルが望んだことでありながら、一種の恐怖と不安となってデュエルに襲い掛かった。

「あれを嫌味じゃなく天然だと理解するまで、私は半年かかったから、他の人に誤解されないか、いつも私がひやひやなのよ」

 セレスの言葉に、デュエルはうんうんとうなずく。

「そういえばさ、五分くれって言ったんじゃなかったの?」

「あ、やばい」

「早く行ってきなさい。王子殿下を待たせるんじゃないわ」

 近衛らしい言い様に苦笑しながら、帽子を受け取ってひた走る。

 全力疾走したおかげで、ルフレのもとにたどり着いたときには息が切れてしまっていた。

「これ、かぶっていけば、たぶん、今ほど目立たないと思う」

「ありがとう。これ、かぶればいいのね」

 ルフレにお礼を言われて、一瞬、デュエルとしての自分を忘れかけ、ルフレに帽子をかぶせてやりそうになった。

 しかし、なんとか途中で気づき、ルフレに帽子を渡す。

 ―――今は、幼馴染としての接し方はまずい。

 演じきらなければ、身を切って言ったあの一言が不要になる。

「それなら大丈夫ですね。流石はデュエルさん。では、さっそく行きましょう」

 ジオの怪しげな笑みは、デュエルの背筋を冷やした。

 そんな心配をよそに、何も気づかず、彼女はジオと供に城門をくぐって出ていく。

 ―――大丈夫かな。

 黒髪の少女の隣に立っているのが自分でないことが、こんなに自分を苦しめるものだとは思っていなかった。

少なくとも、あの日には。

「まだ、足りない。レンティの隣に立つには、力が」

 あの日の誓いを、果たさなければならない。


 赤銅色の髪の青年は、そっと、誓いなおす。 


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