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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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目立たないための心得

 彼と対峙した時、彼の赤銅色の瞳は、強い意志と、迷いの色を浮かべていた。

 彼が言葉を発する前から、分かっていたのだ。ルフレには。否、レンティには。

 レンティにはロイの考えていることはお見通しだった。

 そして、その決意を邪魔したくない、とも思った。

 それが彼のためでもあり、そしてなにより、ルフレ・ルミエハのためだったのだ。

「あと、一年……」

 期限は刻一刻と近づいている。

 ルフレは、部屋を出て、城の西の門の方へ向かう。

 今日は、王子グラジオラスことジオと、そこで待ち合わせているのだ。

 歩いている途中、何人かの兵士に出会って、挨拶をする。

 なぜか、みんなルフレを食い入るように見つめた後、はっと目を見開いて、ルフレの名をよび敬礼する。

 ―――髪を下ろすと、そんなに別人かしら?

 西の門まで歩くと、すでにジオはそこで待っていた。

 打ち合わせ通り、彼の格好はただの下級兵士に見え、とてもこの国の王子には見えない。

「おはよう。ジオ」

 ルフレが話しかけると、ジオが一瞬、虚を突かれたような顔をして、それからいつものように作り物の幼さを身にまとって、挨拶を返す。

「……おはようございます。ルフレさん」

 今日は、終始、彼を研修兵として扱うと決めているので、ルフレは彼に敬意を払うことはない。

「ん……。ルフレって呼び方は問題があるかも。ちょっと目立つ気がする」

 ルフレ・ルミエハは、諜報科特殊部隊A系統第五小隊の隊長として、少し名が通り過ぎていた。ルフレの部隊は、特殊部隊というだけあって、諜報科でも、特殊で、諜報員でありながら、公に顔を出す部隊だからだ。

 せっかくの目立たないための変装が、ルフレの名で台無しになる可能性がある。

「ちょっと目立つって……それは僕の呼び方より、あなたの存在そのものでしょう」

 ジオが何故か呆れたようにルフレを見る。

 意味が分からないルフレは、首をかしげた。

「目立つ?こんな恰好してる女の子、城下町でよく見るわよ?化粧も、それなりに年相応にしたから、あんまり軍人っぽくないと思うし」

「何を……本気で?本気で気付いてないんですか?はあ。ちょうどいいところに通りすがりましたね。デュエルさん。どう思われます?」

 ジオの言葉に、ルフレは反射的に後ろをふりむく。

 そこには赤銅色の髪の青年が、微妙にルフレから視線をずらして立っていた。

「どうって……。ジオ……でいいんだよな?」

 デュエルはジオに確認を取る。そのやりとりで、ルフレは彼もジオについて知っているのだと理解する。

「ルフレは、本気でその格好で目立たないと思ってるんだよな?」

 デュエルにまでそういわれ、ルフレはたじろぐ。

「鏡は見たわ。普通だった……たぶん」

 軍服以外の服だと、ルフレの着るものは基本的にドレスだった。貴族の令嬢として育ったため、普通の下町の女の子がするようなファッションには疎い。

 ―――何か間違ってる?

 必死に思案するけれど、分からない。

「デュエルさん。本人に直接はっきり申し上げたらどうですか?」

「そうよ。はっきり言って」

 なぜかにこやかにほほ笑むジオに、デュエルは逆にとても困った表情を見せる。

 あの日、デュエルは線を引いて以来、ルフレに本音を漏らすことが極端に少なくなった。

 それは、当たり前といえば、当たり前なのだが。

「……五分くれるか?」

「え? ちょっと、どこ行くのよ」

 ルフレが許可を出す前に、デュエルは走って行ってしまう。

 そんな様子を、相変わらずジオがにこやかに見ている。

「お二人は、仲が良いんですね」

「え?」

 おもわぬ言葉に、ルフレは固まる。

 ―――深い意味はないはず。

 デュエルが決定打を放ったあの日以来、二人は、決めたのだ。幼い日のロイとレンティは、二人の心の中だけのものにしようと。

 明言したわけではない。デュエルはただ一言、言っただけだ。

 それでも、ルフレにはその意図が読み取れた。

 だから、ルフレは彼の決意に合わせようと思ったのだ。

「それは、まあ……。一年間、同じ場所で研修してましたから」

 冷静さを装っていったのに、敬語を使ってしまい、失敗した、と思った。

「一年の研修でも効果はあるのですね。ルミエハとオブスキィトの因縁は、わが家にも伝わっていますので、心配していましたが」

 ルフレはふと顔をあげる。

 金髪碧眼の少年は、王子のオーラをまとっていた。

 ルフレの失敗を、失敗でなくしてくれた彼に、少し感謝する。

 そして、彼の意図は、両家にあるいざこざの割に、という意味だったのだろうと悟って、少し安堵した。

「デュエルと私で、一致している意見なのですが、軍に所属し、仕事をするうえで、ただ敵家だからと敬遠するのは、効率が悪いな、と」

「なるほど。それで、歩み寄りの精神が必要だと?」

「ええ。ルミエハ当主は、オブスキィトの子息と肩を並べることに対して、かなりうるさいですが、私はそこまで家信奉者ではなく、わりと現実的な考えを持ったようで。彼がオブスキィトの人間だろうが、他国の人間だろうが、孤児であろうが、仕事上の能力と、個人的な性格に差支えがなければ、彼と手を組むことになんの躊躇も感じません。しかし、仕事以外で、彼と親密である、などと誤解を受ければ、たちまち両家が騒ぎ出すでしょうから、できれば不用意な発言は控えていただけるとありがたいのですが」

 ルフレは、レンティシアとして、グラジオラス王子にお願いをする。

「わかりました。そうですね、軽率でした」

 ジオはいっきに王子オーラをひきはがし、その幼い顔立ちに見合った雰囲気を醸し出す

「あ、デュエルさん、戻ってきましたよ」

 その声は、ジオのものであると感じて、ルフレも隊長として、話す。

「なんか持ってるわね……帽子?」

 ずっと走ってきたのか、デュエルがルフレの前まで来たとき、肩で息をしているのが分かった。

「これ、かぶっていけば、たぶん、今ほど目立たないと思う」

 デュエルが持っていた帽子は、これといって特徴のない帽子だった。

 ―――確かに帽子かぶってる子もいたわね。

 城下町の様子を、記憶をたどって思い描いてみる。

「ありがとう。これ、かぶればいいのね」

 デュエルから帽子を受け取ろうとして、デュエルの手が少しルフレの手からずれて、帽子が落ちそうになる。

 どうにか帽子をつかんで、ルフレはそれをかぶった。

「それなら大丈夫ですね。流石はデュエルさん。では、さっそく行きましょう」

 ジオはまた楽しげにルフレに言って、デュエルの方に微笑みかける。その笑みは、何かをたくらんでいるような笑みだった。


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