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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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44 金欠の吸血鬼は副業に励む

「――テネリス、少しいいか」


「ああ。どうした」


 ベッドでマンガを読みながら寛いでいたテネリスは、ゆっくりと身を起こしてユウジに向き直った。


「前に頼まれてた口座の件だ。スマホはあるか?」


「ああ」


 テネリスが「すまほ」を手渡すと、早速ユウジが操作を始め――すぐに返してきた。画面には、見覚えのないアプリが一つ増えていた。


「細かいことは省くが。ひとまず、使えるようになった口座と連携して、残高が確認できるようになった。細かい情報はここに書いてあるから、あとで確認してくれ」


「わかった」


 ……とは言ってみたものの、受け取ったメモに羅列されている暗証番号や口座番号などの情報の一切が、いつどこで使うものなのか理解できなかった。とりあえず、大事に保管しておけば間違いはなさそうだ。


「で、もう一つ話があるんだ。お前が配信で金を稼ぐつもりなのは知っているが、それ以外にも稼ぐ方法が欲しくないか」


「なんだ。この私に働けというのか?」


「そんな引きこもりのニートみたいに身構えるなよ」


 テネリスの言葉にユウジは苦笑しつつ続ける。


「お前、この間立ち入り禁止区域に行っただろ?」


「ん? ああ。ICOがお怒りだったな」


 そう、ICOはテネリスが魔物討伐配信を終えた二日後くらいに、インビジブルを名指しで「大変遺憾」とのコメントを出していたのだ。


 逆に言えばそれだけで、具体的に何か行動が起こったわけではないのだが。次はないという牽制の意味でも込められているのかもしれない。


「実は、ああいう場所は他にもあってな。配信する馬鹿がいないだけで、お前以外の輩もしょっちゅう侵入しているんだ」


「今、遠回しに私を馬鹿と言ったか?」


 テネリスが問いかけるも、ユウジは何事もなかったかのように続ける。


「そいつらは『回収屋』なんて言われていてな、立ち入り禁止区域の物品を回収してほしいって依頼を引き受けているんだ。魔物が湧く危険な場所だから、当然、報酬も高くつく」


「ふむ、つまり落とし物探しのようなものか。私にそれをやれと?」


「ああ。お前なら余裕だと思ってな。ネット上でのやり取りだから顔もバレないし、別に義務でもないから、好きな時に引き受けたらいい。どうだ?」


 聞いた限り、悪くない話に思える。それに、今は配信活動をして表社会での信用を得ようと試みているわけだが、裏社会側でも多少は名声を積んでおいた方が、表でやっていけなくなった時の保険として効くかもしれない。


「そうだな。一度試してみるとするか」


 ずっと配信絡みのことで悩んでいても仕方がないし、ここは一つ新しいことを始めてみるのも一興だ。テネリスはユウジの言葉に頷いて返した。




 テネリスが乗り気になったと知るや否や、妙に張り切ったユウジによりあっという間に諸々の準備が整えられた。曰く、「アングラなサイトで活動するのはテンションが上がる」とのことだ。まったくいい年した闇医者が何を言っているのだか。


 ともかく、そのおかげでテネリスの「すまほ」には新たに、依頼確認用のアプリが導入されている。


 これを見ることで、国内各地に点在する立ち入り禁止区域の場所や侵入方法、回収屋間で共有されているノウハウなどがすべて確認できる。ただ、空を飛べるしカメラにも映らない体のテネリスにとっては、そのノウハウの半分くらいは無用である。


 そんなわけで、テネリスは夕暮れ時に治療院を出発し、数時間の飛行の末、目的地であった立ち入り禁止区域に堂々と降り立った。以前は配信していたので騒ぎになってしまったが、こうなっては誰もテネリスの存在に気づけまい。


 さて、今回の場所は比較的大きな街だった霧が丘街とは違い、平面的な畑とまばらな家屋しかない、静かな村だった。地図によれば貯水池も近くにあるようだが、どこも人の気配はなく、家屋や畑も荒れ放題である。


 当然電気などなく、あたりは真っ暗だ。化物側のテネリスでもなければ、幽霊が怖くてやっていられないに違いない――いやそもそも、こんな仕事を夜中にこなすこと自体、普通はしないか。


「それで、依頼内容は……民家に残された人形の回収、報酬七万円……」


 テネリスは改めて「すまほ」に表示されている依頼を確認する。どうも、最初は強制的に割に合わない報酬額の依頼を回されるらしい。これが加入試験の代わりにもなっているのだろう。


 しかし、確かに色々な意味で危険な場所とはいえ、人形を回収して七万円というのは十分破格にも思えるが……少なくともこの業界的には割に合わないようだ。ただでさえ金銭感覚が身についていないテネリスには、業界の価格感などわかるはずもなかった。


「難しいことは考えず、やるべきことをやればよいな」


 立ち入り禁止区域は長くいると魔物が現れる場所――つまり、さっさと用事を済ませて離れれば、魔物が湧くこともない、というのが回収屋における基本知識の一つである。ちなみに、確実に安全が保障されるのはおおよそ二十分程度だという。


 幸い、今回の依頼者は元々この街に住んでいたのだろう、目的地の家屋の場所まで丁寧に共有してくれている。テネリスはそこに行って人形を見つけ、また数時間、空を旅すればいい。実に簡単な仕事だ。


「夜明け前に帰れたらよいのだが……」


 テネリスは地図を片手に村を彷徨い、そして目的地にたどり着いた――倒壊し、入口がどこかすらわからない、かつて家だったであろう、それを。


「……まさか、この中から見つけろというのか?」


 何かの間違いであってほしいとばかりに「すまほ」を片手に彷徨い、地図を回転させたり、空を飛んでみたりしたが、何度やっても指示されているのはこの廃屋である。


「……よかろう。ならばやってやろうではないか」


 魔物と戦いに来た以前とは違い、今回の時間は有限だ。観念したテネリスは腕をまくり、倒壊した家の瓦礫を持ち上げた。




 そして約十分後。


「――はぁ、はぁ……やっと、見つけたぞ……」


 テネリスは、人形探しの過程でどかした瓦礫と、着物を着ていかにもな雰囲気を漂わせる日本人形と共に、地面に大の字になっていた。家屋をどかすだけなら一瞬なのだが、中身まで吹き飛ばさないように慎重に作業していたせいで無駄に神経を使うし、やたらと長く感じる十分であった。


 故に、倒壊した家屋の中でなぜか無傷のこの人形を不気味がる余裕もない。今のテネリスの胸中は、達成感で満たされている。


 そして同時に理解した。なるほどこれは割に合わない。依頼者もこんな事態は想定していなかっただろうが、もしかしたらこの仕事はこんなのばかりなのかもしれない。


「これは、普通の人間だったらどうするのが正解なのだ……?」


 それは後で考えるとして、今はこの人形を回収所へ届けるのが先決だ。テネリスはあらかじめ用意していた鞄に人形を詰めると、早々に空へと飛び立った。




 最寄りの回収所は、山を下った先の街中のビルであった。真夜中なので屋上に着陸し、階段を下りて目的の階へと向かう。


「ここか」


 一見してただの部屋にしか見えない扉を開けると、全面がコンクリート製の無機質な部屋に、いくつものロッカーが半開きの状態で並んでいた。


 ここに物を入れて閉め、回収品を届けた者の登録名を入力すると、自動で鍵がかかる仕組みになっているそうだ。よく見ると、他に一か所だけ鍵が閉まっている場所があった。


 当たり前だが同業者がいるのだな、などと思いつつ、テネリスは人形を納品してロッカーを閉め、「Teneris」と入力して鍵をかけた。


 この仕事が将来積み上がる名声の一つとなることと、人形を回収した者が呪われないことを祈るばかりだ。


「さて、これで終わりか」


 始まりから終わりまですべて無人というのは非常にありがたいことだが、今後続けるかどうかは慎重に考えたほうが良さそうだ。テネリスはそう思いつつ、また空を飛んで治療院へと向かった。


 治療院に着いたのは、夜が明けてからのことだった。




 それからおよそ二日後、依頼確認用のアプリに一件のメッセージが届いていた。


『Teneris さん 今回は依頼を引き受けてくださりありがとうございました。祖母の思い出の人形とのことで、死んでしまう前にもう一度見たいと言っておりましたが、不気味さも相まって誰も引き受けてくださらず…。二度と見られないと思っていたところだったので、大変喜んでおりました。あなたは祖母の恩人です。これからのご活躍をお祈りしております』

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― 新着の感想 ―
すごくゲーム脳にはなると思いますけど、テネリスさん以外の場合の回収屋は最近一部では人気なルート系に聞こえてちょとワクワクしました。難しいですけど楽しそうですね。
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