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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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38 金欠の吸血鬼は金を求める

 テネリスは早速ログハウスの戸に手をかけた。以前、ドアノブが外れて無理やり開けたせいか、建付けがやや悪くなっているようだ。


 仕方がないので無理やり押し開けると、室内に風が入って埃が舞い上がり、机に放置していた本のページがめくれる。充満していた木の匂いは、どこか懐かしさすら感じるほどである。


 ・廃屋ですやん…

 ・本当にここ住んでたの?


「ああ、私はここで十数年の時を過ごしていた」


 ・十数年!?

 ・今何歳なんだ


「さあ、私にもわからん。それより、さっそく本題に入るとしようではないか」


 テネリスはドローンの位置を調整し、ボロボロのベッドに腰掛けた。長い時を過ごした相棒とも呼ぶべき寝具は、治療院のそれと比べるとあらゆる面で劣っている。


「改めて、私は巷で『インビジブル』と呼ばれている者だ。これから配信を行っていく。どうぞよろしく」


 ・随分あっさりしてるな

 ・隠そうとしないんだ

 ・どうせまた愉快犯じゃないのー?

 ・このチャンネルも寝落ち配信のチャンネルと別だしね

 ・新しくアカウントを作ったんですか?


「『あかうんと』は……多分、新しく作った。正直、あまりよくわかっていないが……」


 フミと思しきコメントが答えやすい質問を書いてくれたので、テネリスはそれに乗じることにした。配信者として、ある程度流れをコントロールしてくれているのだろう。


「それと、寝落ち配信とは何だ?」


 ・なんでもないよ

 ・気にしなくて大丈夫だと思います!


「そうか」


 語感から察するに、倒錯した趣味を持った層に人気の配信なのだろう。テネリスには縁のない話だ。


「では、まずは皆が一番気になっていそうなところから話そう。私が配信することにした理由だ」


 ・いきなりそこ触れるのか

 ・気になってた


「少し事情が複雑なのだが……結論から言うと、金が必要なのだ」


 ・草

 ・正直すぎるw


「見ての通り、私は普通のカメラや鏡には映らない。だが、私でも映せるカメラがあるとわかったのだ。わかったのだが……あまりに、高くての……」


 ・世知辛い

 ・相当高性能なんだろうなぁ

 ・つまり、インビジブルちゃんの姿が見たければ課金しろってコト!?


「そういうことになる」


 ・自首したら一億円まるっと貰えるんじゃないか?


「それは名案だな。ICOはその日を最後に崩壊するが、それでも構わないか」


 ・ダメですよ!?

 ・冗談なのはわかるけど、普通にできそうな感じがするのがなw


 実際、自首ではないが、インビジブルの情報を自分で通報して懸賞金をもらう案は考えたりもしたが……あまりに惨めなのでやめた。


 そんな冗談を交わしている一方、懐疑的なコメントも流れる。


 ・つまり、カメラが欲しくてってことだよね? 姿を見せる意味なくね?

 ・確かに、こっちから言うべきじゃないけど、インビジブルが身バレしていいことあるの?

 ・聞いた感じ、最初から配信自体はする予定だったみたいだけど


「その通りだ。だが今の私は、ICOから幹部疑惑までかけられ、討たれるべき悪しき存在のように扱われる一方だ。だからこそ、好き勝手に印象が塗り替えられてしまう前に、自ら動かねばならぬと思った次第だ。この場で宣言しよう。私は断じて、幹部などではない」


 ・まあ、そこは否定するよね

 ・人を襲った件についてはどうお考えで?

 ・血が欲しいとか言ってたよね


「うむ、確かに私は血が必要な体質ではある。だが、むやみに人を襲うのは好かぬ。だからわざわざこんな場所で暮らし、迷い込んだ人間から少し血を分けてもらう代わりに、安全な場所まで送り届けていたのだ。極めて善良だろう?」


 ・まあ、それが本当なら…

 ・ちょっと早口になってない? 大丈夫?


「だがそのせいで、私は世界に魔物が出るようになったとは知らなかったからの。誰も来ない状況に耐えかね、街に下りて……あとのことは想像がつくだろう」


 ・なんか熊みたいだな…

 ・色々と不運が重なったのか

 ・インビジブルからすれば幸運だったとも言える


「ああ。血を得られなかったら、今頃もっと取り返しのつかないことになっていた可能性もあろうな」


 ・本格的に敵対する世界線もあったのか…

 ・それはそれでゾッとする

 ・犠牲になった配信者に、敬礼

 ・↑死んでません

 ・そもそもインビジブルが味方と確定したわけでもないよ


「今はどう思われようが構わぬ。ただ、私は常に理性的に振舞うよう心掛けてきたし、二度と同じ過ちを繰り返すつもりはない……と、口で言うだけで信用されるとも思っておらんからの。これから行動で示していくつもりだし、そのための配信だ」


 ・なるほどね

 ・誰も聞いてないから聞こうかな 結局インビジブルって吸血鬼なの?


「ふふ、どうだろうな? 私の姿がカメラに映るようになったら教えてやろう」


 ・そうやって俺たちから金を奪おうって魂胆か!

 ・許せねえ……!

 ・払わなければいいだけでは

 ・払うに決まってるだろ!!


 ……単にICOに渡す情報を少しでも減らそうと思っただけなのだが、集金のために勿体ぶったように映ってしまったようだ。まあ、これはこれで結果的には悪くないのかもしれない。


「……と、こんなところか。私がインビジブルか疑う声もあったが、これでいくらか信じてもらえるとよいのだが」


 ・私は信じます!

 ・少なくとも、今まで見た中では一番本物っぽい


「それと気になっていたのだが、どうして私以外にインビジブルを名乗っている奴がいるのだ? それに何の意味が……?」


 ・炎上商法とか、一発ネタのしょうもないのばっかりだよ

 ・なりすましですらない。気にする価値はない

 ・ほんとそれ インビジブルちゃんの声がまた聞けると思って上がったテンション返してほしい

 ・ちなみに今は?

 ・テンション爆上がりして大声出したら隣人に怒られた

 ・草


「愉快犯というやつか。まあ、私が現れてなお続けるような奴はいないと思いたいが」


 近所に迷惑をかけている視聴者はどうでもいいが。それこそ、魔法少女のようにそれなりの力を持った者が「インビジブル」として好き勝手暴れるようなら対処が必要だが、そういうわけではないのなら、とくに手を下すことはない。


 ・今後はどうするの?


「今のところは、魔法少女の真似事でもしようかと思っておる。人々の信用を得るなら、魔物を倒すのが一番手っ取り早いだろう?」


 ・そうかな、そうかも……?

 ・インビジブルちゃん強いしね

 ・それってICOに真っ向から喧嘩売ってない?

 ・魔物の制圧を魔法少女以外がしてはいけないルールはないです

 ・なら問題ないか

 ・てかインビジブル的にはICOのことはどう思ってるの?


「まあ、快く思うわけがないな」


 ・でしょうね

 ・そうだろうとは思ったけど直球すぎるw


「連中、よく『私達が皆を守る』といったスローガンを掲げているだろう。あれを見るたび、自分は脅威扱いされているのだと思わされる。その証拠に、ICOは私を魔物と同列の――いや、もっと上の脅威として、手配までしているときた。何だ? 私はその仕打ちに足るだけのことをしたか?」


 ・変なスイッチ入ったw

 ・愚痴が止まらん


「……と、思うところはあるが。別に復讐などは企てていない。祥雲ユキのことも、気にしていない」


 ・ユキちゃんとは何があったの?


「例の男を匿っていたところ、誤解の末に魔法で襲われた。何だったか、エターナル……何とかだ」


 ・そら傍から見たら監禁に見えるわ笑

 ・魔法、エターナルフロストブリザードですか?


「確かそんな魔法だったはずだ」


 ・マジ? 殺意MAXじゃん

 ・よく逃げ延びたな


「当然だ。私だって伊達に長生きしていないからな、そう簡単にはやられまい」


 ・長生きと言えば 何歳かわからないって言ってたけど、大体でもわからない?


「そうだな……日記を遡ってみるか」


 テネリスはベッドから立ち上がり、机から古びたノートを取り出した。


 それは、気が向いたときにテネリスがつけていた日記だ。大した出来事が無ければ記録もしないので、更新頻度は年数回、記入量も数行程度――すべてのノートを合わせても、せいぜい十冊がいいところだ。


 内容もまちまちで、テネリスの移住記録だったり、ヴァンパイアハンターに関する噂だったり、当時の大きな事件を書き留めたりといった具合だ。そもそも人に見せるつもりが無かったから当然なのだが、統一感などまるでない。


 テネリスはそのうち一冊目にあたるノートを手に取り、最初の方のページをぱらぱらと捲っていく。


「ふむ、それなりに有名そうな出来事で言うと……ああそういえば、魔女狩りに遭っていたこともあったな……」


 ・ままま、魔女狩り!?!?

 ・最低でも400年くらい生きてて草

 ・そんなご高齢だったんですか!?

 ・↑言い方で笑った

 ・その日記見せてくれ 歴史的資料としての価値がある


「別に大したことは書いておらんぞ。ほれ、魔女狩りに遭って、返り討ちにしたとしか書いていない」


 テネリスは日記の一文が見えるよう、ドローンのカメラに寄せて見せた。


 ・古文書みたいなボロさ

 ・何語? 日本語でおk

 ・向こうもガチ人外が釣れてびっくりだろうな…

 ・魔女狩りって言いがかりで処刑されがちだったって聞くけど

 ・何で狙われたのか心当たりある?


「……容姿、か? 私はどうやら、目立つらしいからの」


 ・クソッ、見せろよ! 肝心の容姿を! 見せろよ!!

 ・キレすぎだろ

 ・ここから先は有料です^^


「当時は、理不尽な理由で吊し上げられることも多くあった。考えたところで仕方が――ん? よくよく考えると、私が今置かれている状況は、案外魔女狩りと似ているとも……言えなくもないか」


 ・まずい

 ・理不尽[要出典]

 ・一応真っ当な理由があって追われてるだろw

 ・お願いですから、返り討ちにはしないでくださいね…


「それはICOの出方次第だな」


 テネリスは笑いながら答えた。


 現在の視聴者数は三十人。体感でしかないが、今のところは順調な滑り出しであろう。

総合1000pt突破しました!

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