39 金欠の吸血鬼は初配信を締める
テネリスは立ち上がり、ドローンを両手で掴み、半ば強引にカメラを操作する。
「さて、私の話はこの辺でいいだろう。次は部屋を紹介してやる」
・ウキウキでかわいい
・紹介するほど見るものある?
・ホラーゲームによくあるセーフハウスにしか見えない
・確かにホラゲー感すごいなw
・バケモンの住処って意味では正しい
……テネリスは「ホラーゲーム」が何かは知らないが、文脈からして小馬鹿にされていることくらいは察せられる。
「好き放題言うな。私だって、住めるなら広い洋館で暮らしている」
・人外は辛いな
・結局ホラーゲームの舞台であることには変わりないんだ…
・お前ら文句言うな インビジブルちゃんの私生活に迫るチャンスだぞ
・私物には性格が出ますからね!
「まずはこれだ。昔、人間が置いて行った手鏡」
・いきなり他人のもん出すなw
・しかも映れないから何の役にも立たん笑
・紹介するぐらいだから何かすごいエピソードがあるのかも
・友達の物だったりしたらエモい
「次」
・え終わり??
・悲報 手鏡、何もなし
・大丈夫? このコーナー一瞬で終わりそうじゃない?
「私がずっと寝ていたベッドだ。これを見ていると、飢え苦しんでいた日々を思い出すな……」
・ベッドか、ふむ…
・インビジブルちゃん型に陥没してるのが、いいね
・↑この人たち、危険そうなので通報しておきました
・この配信は推定有罪システムが採用されています
テネリスはカメラを動かし、ベッドの反対側を映す。
「次。自作のチェス盤と駒だ」
・確かに、インビジブルはチェス上手そうな声してるもんね
・チェス上手そうな声ってなんだよ
・テーブルゲーム好きなのは解釈一致かも
・対戦相手は?
「ここには基本私しかいないのだから、私に決まっているだろう?」
・あっ……
・かなしい
「あとは読書も好きでの。これは昔入手した、当時流行りの戯曲をまとめた冊子だ」
テネリスはドローンから手を離すと、冊子を拾って埃を掃った。
「たしか、十七、八世紀辺りに入手したものだな。日記と同じく、大切に管理していたのだが……無事でよかった」
・十七世紀の書籍!?!?
・歴史的価値ヤバそう
・それ売ったら高級カメラ買えるんじゃない?
・インビジブルちゃんの真の姿、お披露目してくれ!
「駄目だ。これはもう手に入らないものだし、売るには愛着を持ちすぎてしまったからの」
・急にかわいいこと言い出すな
・三桁歳とか言い出すから怖かったけど、ちゃんと人間味あって良かった
・人間味のある人外
・そんなに大切なら、金庫とかに入れておけば?
「名案だな。最近はマンガや雑誌ばかり読んでいたし、日記と一緒に保管するとしよう」
・人間味通り越して俗っぽくなってきた
・最近読んで面白かったマンガとか、ありますか?
「うーむ……これというのはないな。強いて言えば、血がたくさん見られると嬉しい。最近気づいたのだが、白黒でも脳がそれを血と認識したら、ちゃんと興奮できるのだ。すごいだろう?」
・すごいだろうと言われましても……。
・どういう着眼点??
・うーん、これは人外
・人間になったり人外になったり忙しいなこの人……人でいいのか?
「私の部屋にあるのはこれくらいか。あとは椅子とか、それくらいだ」
・服はないの? 着替えとか
「服は自分で作っていた。汚れたら作り直せばいいだけだからの」
・裁縫!?
・今着てるお洋服も自作?
「いや、これは買ったものだ。私が作ったものは、私の体と同様、カメラには映らぬ」
テネリスは今着ている、フミと出かけた時に買った服をひらひらと振って見せた。
・どういう原理?
・もしかして、何か物質を作る能力みたいなのある?
・あー、ショッピングモールのドローン暴走事件で銃弾防いだりしてたのもそれか
・剣か槍か知らんけど、武器も作ってたっぽいよね?
「ふむ……少し喋りすぎたな。とにかく、私が作った服のお披露目も、カメラに映るようになってからのお楽しみだ」
・くっ、定期的に課金に誘導してくるなこの人外…!
・透明なら透明で、本当に服を着ているか疑う余地があっていいと思う
・何か別の意味でバケモン混ざり込んでない??
・よかったな、人外仲間だぞ
「私と変態を人外で括るな」
テネリスは最大限軽蔑する視線をコメント欄へ向けたが……まあ、映っていないだろう。
・寄付チャット送りたいんだけど…まだ無理そうだね
・まずは収益化を目標に頑張りましょう!
「収益化……」
そういえば、フミがそんなことを説明していたような気がする。登録者が何人行けばいいとか、動画の再生時間が何時間になればいいとか、そんな話だったはずだ。「テネリスさんなら気にするまでもなく一瞬です!」と言っていたのを真に受けて、まともに掘り下げなかったが。
・口座とかあるの?
「くちざ? 何だ、星座の話か……?」
・おい、あまり難しい言葉を使うなよ! インビジブルちゃん困ってるだろ!!
・えぇ…
・そもそも今の生活環境どうなってるんだ?
・服買えるくらいだし、案外人間社会に馴染んでいる気はする
・マジ? 今日からすれ違う人間全員インビジブルか疑わないといけない?
・それは考えすぎや……
「……よくわからんが、そのあたりは後で確認する。無理そうなら改めて考えるとしよう」
・それがいい
「さて、今日配信で話そうと思っていたことは以上だが……まだ何か、話すべきことはあるか?」
・そこになければないですね
・もっとお話聞きたいのに
・予想だけど、まず間違いなく次回以降の配信は荒れるよな
・むしろ今の民度が奇跡的なレベル
・何人か変質者も混ざってましたけど……
「荒れるというのは、どういうことだ?」
・目で追いきれない量のコメントが流れるってこと
・露骨な荒らしとか連投はシステムが排除してくれるけど、限度はあるからね
「ふむ……そうなると、こうして落ち着いた会話をするのは難しくなるのか?」
・その可能性が高いね
・え~、インビジブルちゃんと話せなくなっちゃうのかあ
・寂しくなるね
・応援してた子が人気者になると、成長が嬉しい反面、心のどこかで寂しさを感じるんだ…
・初配信で流れるコメントじゃなさすぎる
・私がインビジブルさんの第一登録者です!
・初配信で古参面するリスナーもいます
「私も、配信自体は打算ありきであったが……案外こうして話すのが楽しいと、思わないこともない」
テネリスが治療院で魔法少女の配信を眺めていた時のように、視聴者にとってテネリスは「画面の向こうの存在」でしかない。だからこそ、仮にもヴァンパイアであるテネリス相手に遠慮なく会話ができているのだ。
だが、自身の素性を必要以上に隠さず、素に近い状態で話せるというのは、とても新鮮な体験であった。それこそ、できることなら、今回限りにするのは惜しいとすら思える程度には。
「次は魔物討伐の配信をする予定だが……その時のコメントの様子を見て、とても会話ができそうになさそうであれば、何か対策を考えるとしよう」
・メンバー限定配信とか、コメント可能ユーザーの指定とか、色々ありますからね
・人外から温かみを感じる日が来ると思わなかった
・そもそも魔物以外の人外を見る日が来ると思わなかったけども
・これからもインビジブルちゃんとお話できたら嬉しいな~
「改めて、今日は私の配信を見てくれたことに感謝する。では、良い夜を過ごすがよい」
・お疲れ様~
・良い夜を!
・ぐんない!
「あ、それと変態は今後コメント禁止だ。悔い改めろ」
・草
・そんな
テネリスは最後に一言言い残すと、ドローンの設定画面で配信を停止した。




