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 不人気ダンジョン「機械の廃墟」は入り口の見た目と同様、何かの鉱物で作られた無機質な場所だった。ところどころ鉄板だか銅板だかわからない素材が剥がれて土や岩がむき出しになっている部分がある。そういうところが廃墟という名前の由来になっているのかもしれない。

 そしてダンジョンの内部にはたくさんの鳥型機械。これはアイアンスパローという魔物らしい。飛んでいる割に体が重いらしく、動きは緩慢だ。飛ぶことを諦めて地面で無駄に鉄板をつついているやつもいる。

 ただ、その量が尋常じゃなかった。適当に石を投げても当たるのではないか、というような密集具合。

 そのうちの一部が侵入者の気配に気付いたらしく向ってきた。


「うわぁ…」


「……っ!?」


 うんざりしたような声でとっさに剣を抜くウィリアムと、あまりの多さに半ばパニックになるルイ。

 勝敗は一瞬だった。

 今日は最初から魔法を連発することになると踏んでいた。なので、付与魔法でバフを盛りまくってきたのだ。そして、突如襲いかかってくる想定していた数を遙かに上回る量の魔物。

 経験の浅いルイには、もう自分の命を守る以外のことが考えられなかった。

 詠唱もそこそこに思い切り炎をぶちまける。頭の片隅に、同行しているウィリアムの安全があるだけだ。


「……うわぁ…地獄絵図ってこういうことかね」


 視界が一瞬赤く、明るく染まる。

 あと、熱い。

 当然だ。とっさに放ったのは炎なのだから。

 燃え広がったのは一瞬ではあるが、その間にダンジョン一面が焼け焦げた。どろりと溶けた金属と、燃えてはいけない何かが燃えた匂い。


「あっ…やってしまいました」


 変なモノを燃やすと毒ガスが発生する場合がある。

 そう学んでいたから今日は風魔法を中心に使う予定だった。でも、今のは不可抗力ではないだろうか。

 とりあえず、変なガスを吸わないように風魔法で匂いを散らす。


「流石に燃えたぎった鉄板? の上を歩くのはイヤだしちょっと待とうか。

 それとまぁ…炎を使うのはガス発生を考えるとちょっと危険だったかもしれないけど、あの量は一掃できるならそうした方がよかったから結果オーライ」


「…はい。とっさに使うのはどうしても得意なものになってしまうのですよね。

 風魔法でもできなくはなかったのでしょうけれど」


「まぁ最初はそんなもんだって。徐々に状況判断できるようになればいいさ。

 俺も今日は魔法オンリーって思ってたけど、剣に手がのびたもんな。

 …しかしこの量はちょっと…。研究したいのはわかるけど、冒険者ギルドに手を入れて貰った方がいいだろうな」


 火魔法のせいで未だ赤く光る地面の上に、多数のドロップアイテムが転がっている。一層のドロップはたしか釘だったはずだ。アイテムボックス持ちであるルイたちであればこの量を運ぶのも大した苦にはならない。しかし普通の冒険者であれば大した稼ぎにもならない釘拾いはしないだろう。

 ちなみに、今回からウィリアムにも小さめのアイテムボックスを渡している。それぞれが倒した魔物のドロップアイテムを分けて収納するために昨日急いで用意したものだ。時間があまりかけられなかったのもあり、ルイが持っているアイテムボックスの容量の半分程度だ。それでもあるとないでは雲泥の差がある。

 ウィリアムは基礎魔力が低いため、回復用の付与をかけた飲料や予備の飲み水も渡しておいた。

 今倒した集団のドロップ品は、ルイのボックスに収納する。手のひらからはみ出そうな量の釘にちょっとめまいがした。これだけの数の魔物がひしめき合っていたということになる。


「かなりの数の魔物がいたみたいですね。

 納品ついでに、ギルドには早急に人員を割いてほしいと報告しましょう」


 話している間に真っ赤に燃えていた金属がゆっくりと元の姿に戻っていく。ダンジョンの再生能力はやはり何度見ても面白い。


「こっからはできる限り単体で狩っていこうか。

 そうじゃないと気配スキルとか回避スキルとか育たないし」


「…頑張りますわ。

 でも正直これは石投げても当たるようなものですし、回避はともかく気配探知に意味はあるのでしょうか」


 耳をすまさなくてもそこかしこで機械の音がする。

 結構耳障りなのでやかましい。


「うーん。確かにめちゃくちゃ気配ってか音はするんだけど、正確に位置がわかるかってーとそうでもないんじゃないか?」


 ウィリアムに言われて気配を探ってみる。そこかしこからアイアンスパローの駆動音が聞こえてくる。ただ、ダンジョン内に反響していてどこにいるか正確にあてろ、と言われれば難しそうだ。


「なるほど。確かに正確な位置を調べようとすると大変かもしれませんわ」


 正確な位置を探知して、攻撃を回避しながら一匹ずつ仕留めていく。

 確かに良い修行になりそうだ。


「うん。ただ、今回は量が多すぎるから君の魔力に頼った方がいいかもしれない。

 本当は偵察くらいの予定だったけど、帰りがけに大量虐殺してもらえるか?」


「…別に構いませんけれど、もう少し言い方を…」


 まるでルイが大量殺戮兵器みたいではないか。


「いやぁ…だって圧巻の地獄絵図だったし」


 とっさに地獄絵図を作ってしまう不審人物みたいではないか、と言おうとしてやめた。客観的に見るとその評価はあながち間違いではないからだ。

 気を取り直して、道を進んでいく。


「あの…」


「あーうん、気配察知どころじゃねぇな。

 倒すぞ!」


「はい!」


 二人の目の前には入り口と然程変わらない量のアイアンスパロー。よく見ると自分のスペースを広げるためか喧嘩している奴等すらいる。

 この不自然に密な状況を打開するためにもルイは懸命に風魔法を操った。

 魔法で攻撃する分には、アイアンスパローは結構脆い。どんな角度からでもスパスパと一刀両断できる。

 一方火魔法の練習のためにきたウィリアムは剣術を織り混ぜて戦っていた。倒すこと自体に問題はない。二人とも危なげなく戦えている。特にルイは安定して狩ることができていた。きちんと確認すれば、相応のスキルが成長していることだろう。Cランクへの道もそう遠くはないように思える。様々な冒険者を見てきたウィリアムから見ても、彼女は実戦経験さえ積めばきちんとそこまでは上り詰められる優等生だ。人柄も信頼できるし、少々常識がぶっとんでるが、冒険者という枠組みでは許容範囲内だろう。何せ探せば変人など湧いて出てくるような界隈だ。色々差し引いても、最終目標が冒険者としての大成でないことが少々もったいないくらいの人材だとウィリアムは評価している。

 直にウィリアムからのアドバイスも必要なくなるだろう。

 そんな評価を下しつつ、ウィリアムは周囲の気配を探る。ルイに関しては安心できるが、このダンジョンの状況は安心からはほど遠かった。倒しても倒してもすぐにわいてくるような、そんな状況。

 さすがに変だと思いながらも、戦う手を止めてしまえば思わぬ痛手を負いかねない。特に魔力総量が多くはないウィリアムには油断する暇はない。そんな状況で戦うこと数十分。先にウィリアムの魔力が尽きたようだ。


「すまん、大分だるくなってきた。

 一度ダンジョン外に撤退してもいいか?」


「構いません」


 最後に特大の一発をぶちかましてから逃げよう。そう思って魔力を練っていると、ジワリと嫌な気配がした。

 ウィリアムもそれを感じ取ったのか、ルイを庇うように前に立つ。


「なん、ですの…?」


 ルイの言葉と同時に、地面が揺れる。

 突然のことに理解が追い付かない。ウィリアムは踏ん張っているものの、ルイはうまくバランスをとれず転んでしまう。それほどの揺れだ。

 一体何が、と考えるまもなく目の前の空間がユラリと揺れた。


「っ…!?」


 今まで相手にしていたアイアンスパローとは比べ物にならない気配。濃厚な敵意がねっとりとルイたちにまとわりついた。



閲覧ありがとうございます。


明日も12時頃更新予定です。


よろしくお願いします。

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