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「信用出来そうな方が担当についてくれて良かったですわ」


「完全に目が銭だったけどな」


 ギルドからの帰り道。必要なモノを買い込んでから我が家に帰宅する。我が家、と言ってもまだ馴染みがないのでお客さん気分は否めないけれど。

 話題は本日顔合わせした新しい受付係、クラーラのことだ。有能そうで安心、という部分は二人とも一致している。


「けれど…私たちの狩る量っておかしかったんですね」


「おかしいっつーか…アイテムボックス持ちの普通ってところだな。

 …この界隈でアイテムボックス持ちはほぼいないってだけで」


 そのことをウィリアムはすっかり失念していたらしい。指摘されてはじめて思い至ったそうだ。


「まぁお陰でクラーラさんにもギルド長であるピーターさんにも、ほぼ確実に昇格できるとは言われましたし。

 あと、今晩のご飯の確保も出来たのでいいのでは?」


 台所には本日の戦利品であるオーク肉と、市場で買い物してきた食料品が並んでいる。


「あー…疲れてるところに飯作らせてしまって悪いな」


「いえ、料理は私の趣味でストレス解消でもありますから。

 ただ、ちょっと疲れてはいますので簡単なものでいいですよね?

 本当ならうさぎ肉で実験もしてみたいところだったんですがさすがに…。仕込みをする時間も体力もないですから」


「作ってもらった料理に文句は言わないぜ、俺は」


 ウィリアムから許可も貰ったので、今夜は簡単にオーク肉のステーキだ。ただ、それだけだと口の中がくどくなる気がする。ウィリアムはいくらでもいけるかもしれないけれど、ルイにはちょっと辛い。胃もたれしてしまう。


「オーク肉のステーキと…野菜の即席ピクルスにしましょうか。ほんとは明日まで浸けた方が美味しいんでしょうけど、今は仕方ないですね。

 ということで、ウィリアムさんはオーク肉を焼いてください」


「!? 俺ぇ!?」


 予想外の台詞だったのか、ウィリアムの声が若干裏返った。若干面白い。

 だが、そんな気持ちは表には出さず、当然でしょう、という顔をして見せた。


「はい、飲み物に火魔法を付与しておきますので。あ、先に出来たヤツ食べて待っててもいいですよ」


「…なにそれスパルタの意趣返し?」


「あぁ、そういうのもアリですね。

 ですが別にそういう意図はありませんよ。火魔法の練習になるのと、自分で焼き加減調節できるじゃないですか。あと熱々出来たてをすぐ食べられますしね」


 言いながら野菜を取り出し風魔法で切っていく。その傍らで調味料の準備だ。酢と砂糖と最後のスープストックを混ぜ合わせ、ついでにちょっぴり唐辛子も入れておく。

 サクサクとルイが料理をはじめたことで観念したのか、ウィリアムももそもそと動きはじめた。


「もしエールのほうが良ければそちらに付与しますけれど…」


「いや、酔っ払って黒焦げ肉作ったら俺が泣く」


「ふふ、そうですね。では頑張って下さい」


 付与した魔法はそこまで強くはないので黒焦げには出来ないはずだ。ウィリアムの魔力量は多くないため一気に魔力を全開にしない限りそんな事態にはならないとは思うけれど。


「うう…むずい、肉が…肉が勿体ない…」


「最初は強火で表面を固めて、あとはじっくり火を通すとよいかと」


「言うは易しやるは難しだな!?」


「その言葉、回避スキルや探知スキルを覚えようとしてたときの私に聞かせてあげたいですねぇ」


 ダンジョン内でスキル獲得のためにアドバイスを求めたのだが、似たようなことを言われてしまった。最終的には「難しいときは耳に頼ろう」と言われ、5階のオークメインの場所ではオークの微かな鳴き声まで聞き取れるようになったのは冒険者としては良いことかもしれない。


「やっぱ意趣返しじゃないか!」


「最初はそんなつもりなかったんですよね。

 意趣返しか、と言われたのでそんな方法もあるかと納得した次第です」


「あああ。俺が墓穴掘ったのか」


 頭を抱えるウィリアム。そんな会話をしながらも、肉はきちんと焼けていく。かなり弱火だが、まぁ食べられる範囲だろう。焼き上がるのに合わせて根菜をおろした特製ソースも準備する。

 塩コショウにするか、おろしソースにするかはお好みで、だ。


「や、焼けたはず…」


 若干ぐったりしたウィリアムの前には美味しそうに焼けたオーク肉。質が良さそうなのを残したので火を通すだけで十分美味しいはずだ。


「焼き足りなかった場合は教えて下さいね。焼き直しますから」


「よろしく。

 ってか、魔法めちゃくちゃ疲れるのな…」


 ウィリアムが焼いた肉は3枚だけ。それでも肉が焼けるだけの炎を維持するのは難しかったようだ。


「付与した火魔法はレベル的には十分だったはずですよ。なので純粋に魔力の扱い方の問題だと思います」


 せっかくの焼き立てなので冷めないうちに、二人で食前の祈りをすませて食事をはじめる。脂ののったオーク肉単体では少しくどいが、おろしソースをかけることで幾分さっぱりと食べられるようになった。とはいえ、ウィリアムのようにおかわりはできないけれど。

 合間に即席ピクルスを口にしながら今後の相談をする。


「もし魔法を本格的に使うつもりがあるのでしたら、寝る前に魔力を使いきる勢いで使った方がいいですよ。

 ただ、本当に使いきると苦しいので手前で止めるのをおすすめします」


「…もしかして、そうやって魔力増やしたのか?」


「ええ。水魔法の適性がかなり低いとわかった幼少時から毎日です」


「そりゃそんだけのモノになるはずだよなぁ。

 魔力ってのは寝たら回復するものなのか?」


「少なくとも使いすぎて回復しなかったという日はないですね。

 なので安心して具合が悪くなる直前で…あら? そういえば鑑定スキルで残りの魔力が見えるのではありませんか?」


 ルイは今まで体調の変化で魔力の残りをなんとなく把握していた。しかし、ウィリアムの鑑定スキルであればもっと分かりやすいのではないだろうか。


「うん、数字で見えるな」


 もぐもぐと三枚目のオーク肉をペロリと平らげて、こちらに新たな肉を寄越してくるウィリアム。魔力コントロールがまだまだ上手くできないのでやってくれ、ということだ。ルイにとっては別に手間でもないので話の傍ら促されるままにステーキを焼いている。ただ、やいているだけで胸焼けがしそうではあるのだけれど。


「具合が悪くなるのが残量なのか、それとも総量に対する割合なのかというのは非常に興味深いのですが…」


「…わかった。協力します」


 降参するように両手をあげるウィリアム。


「その分食事は頑張りますね。

 あ、そうでした。もう一つ提案があるのですが」


「ん? なんだ?」


「実際にダンジョンに潜ってみてわかったのですが、現時点の私の体力では毎日がこれだと料理をする分が残りそうにありません。

 それと、いくつかの作りおきの食材も底をついています。

 なので、二日ダンジョンに潜ったら一日休養日にしませんか?」


 正直に言うと、食べながらでも眠れそうなほどにルイは疲れていた。それを気力のみでここまでもたせている。だが、これが毎日となると少々辛い。

 何より一番の趣味である料理をする時間と体力がないのはきつい。

 本当は一日おきに休養を挟みたかったのだが、それだと冒険者としての腕がいつまでたっても上がりそうもないため二日おきを提案した。


「なるほどなぁ。俺もうまい飯は食べたいし、何より馬車馬のように働かなくてもなんとかなるだけの財力はある。

 んじゃ暫くはそういうスケジュールで動こうか」


「いいんですか?」


 こうもあっさり許可が出るとは思わなかった。


「いいっていいって。休みを自分で決められるのも冒険者の自由の醍醐味の一つだ。

 特に考えてから行動派っぽいからな、ルイは。一度動いたあとに再検討する時間も必要なんじゃないか?

 ただ、欲を言えば俺は毎日魔法練習したい派だから、それの付与飯は作ってもらいたいけど」


「それはもちろんです。

 というか魔法の鍛練は私も怠る気はありませんでしたしね」


 まずはお試しということで、今後のスケジュールが決まった。

 


閲覧ありがとうございます。


不定期に12時頃更新を予定しています。


よろしくお願いします。

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