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メグルの街は比較的若い冒険者が集まる街だ。実力に見合ったダンジョンを選べば食いっぱぐれることはあまりない。その分大きく稼ぐことは難しいため、ある程度の実力をつけることができれば街を去って行く。そういった、冒険者ならば一度は通る道、というような街だ。
そしてそんな冒険者たちに需要があるだろうと、彼らのレベルに見合った装備や道具が売られている。だが、全てが冒険者に合わせられているというわけではない。
例えば、ゴミの除去や街道の整備などはどんな街であってもなくならない仕事だ。それらをやるのが街の住人か、それとも冒険者かという違いはあるけれど。ここメグルの街ではそういった雑用依頼も冒険者に任せることが多い。
だが、食い扶持を求めてここに来た冒険者は、あまりそういう仕事をやりたがらない傾向がある。冒険者の醍醐味はダンジョンでの戦いだ、というのはわからなくもない。ついでにそういった雑用は、単価が安い、というせいもあるだろう。
ルイが今回受けたのは、そういった類いのものだ。
二人の目の前には、街道と言うには少々雑草が生えすぎた道がある。
「はー…街道整備なぁ。懐かしいわ」
「…こういった依頼は軽度の罰則にも適用される、と聞きましたが」
感慨深そうに道を見つめるウィリアム。ルイとしては彼が依頼を失敗することなどあるのだろうか、と少し疑問に思ってしまう。今現在ベテランのAランク。しかもギルドの密偵を頼まれるほどギルドからの信頼も厚い彼が。
そう思っていたのだがあっさりと肯定された。
「おう、罰則受けたぜー。俺にも駆け出しの時期はあったんだって。
そんときは確か依頼達成期限を越えちまったんだよなぁ。報酬はきちんと貰えたけど、規定は規定だからってことで次の依頼に街道整備してこいって指名されたのさ」
「なるほど」
誰にだって駆けだしの時期はある。それはそうなのだがやはりちょっと想像がつかない。今よりも若いウィリアム。髭がなくて、体つきは今より細いのだろうか。大食漢である部分は変わらなさそうだから、もしかしたらいっつもお腹を空かせていたかもしれない。
そんな想像をして思わず笑みを零してしまう。
「何笑ってるんだよ。コツ教えないぞ」
ルイの笑みをどう解釈したのか、ウィリアムが少し拗ねる。
そういう部分もあまり年上には見えないのが少し困ったところだ。ついつい余計な一言が多くなってしまう。仮にも師匠なので敬意を持って接したいところなのだが、良く言えば彼はちょっと親しみやすすぎるかもしれない。
ただ、ルイはこれから冒険者として生きていくにあたり、どんな些細な情報も聞き逃すわけにはいかないのだ。あまりからかって機嫌を損ねないようにしなければ。
「以後気をつけますよ、お師匠さん。
で? コツ、なんてあるんですか?」
「あるある。こういう依頼でも効率的に稼げる…というか、やらないとこの依頼は全然稼げないんだよな。値段覚えているだろう?」
ウィリアムからの問いかけにルイは頷く。結構な範囲を草刈りする重労働にも関わらず、高いとは言えない値段だった。これは本当に駆け出しか、草刈り以外に実力がない人間くらいしか請け負わないだろう。
だからこそ、目の前の生い茂る草があるのだろうけれど。
しっかり頷いたルイを見て、ウィリアムが頷き返す。
「かなり安いよな、値段。
君の場合はもろもろの事情で潤沢な資金があるけど、普通の駆け出し冒険者は少しでも稼げるときに稼がないとじり貧になるんだ。
街道の整備ってのは、ようするに草刈りだってのは聞いてるよな?」
「えぇ、そう説明を受けました。
あとは馬車の通り道から石ころを避けておいてほしい、と。
正直私にお勧めするにはちょっとどうかと思ったんですが…」
この依頼を選んだ理由は単純で、冒険者の初心者だと受付で言ったら進められたのだ。どう考えても女性に勧めるものではないと思うのだが、冒険者を志すのであればこれくらいは出来て当然、という意味だったのだろうか。
ちなみに、依頼を受けるのも経験ということでウィリアムは受注時にはいなかった。
「そうそう。結構な重労働だよなぁ…ま、それはあとでだな。
受けちまったんだからやり遂げよう。
まず、雑草の中にたまに薬草や食べられるものが混じってるんだ。それを分類して、とっておくってのがこういう依頼で稼ぐコツになる」
「ああ、そういえば常時依頼が出ているタイプもありますよね。
持って行けばいつでもギルドで買い取ってくれる薬草とか。街道の草むしりをして、混ざっている薬草などは売る、ということですね」
メグルのギルドも、例に漏れず依頼の掲示板がある。その一角が常時買い取りを行っているものの一覧だ。時期や在庫によって多少買い取り価格は変動するが、覚えていて損はない情報である。駆け出し冒険者っぽい人達が熱心に見つめていたのが記憶に新しい。
「そういうことだ。
で、こういう経験を積んでいくと、自然と薬草学ってスキルが身につく。っていっても知っている薬草を素早く判別出来る程度なんだがな」
「薬草限定の、鑑定に似たスキルという感じでしょうか」
「そんな感じだ。なんとなく毒っぽい草だなってわかったりとか、その程度だけど。
依頼によっては野っ原を駆け回らなきゃいけない場合もある。そんなときに先回りして危険を察知できるのは悪いことはない。
というわけで…この辺りで買い取って貰える草と食べられる草を先に教えとくぜ」
ウィリアムから雑草についてのレクチャーを受ける。
一番大事なのは見分け方だ。実際に採取しながら説明を聞く。途中でとても似ている毒草と薬草があり、中々骨が折れた。
何度かクイズの様に問題を出して貰ったり、実際に採取して確認していると随分と時間が経ってしまった。ただ、そのお陰で薬草学のスキルは無事獲得することができた。
「っと、悪い。説明が長引きすぎだな。
今日はここまでにして一旦戻るか」
「あ。いえ。折角来たので終わらせてしまいますよ。
というか、依頼期限日近いですし」
「…近い?」
何か気になることがあったのか、ウィリアムの顔が険しくなる。
そこでルイが今まで持っていた疑念が確信に変わった。
「普通の冒険者さんはこのくらいの納期ですよって言われましたよ。ちなみに、明日までだそうです。
嫌われるようなことはしていないつもりですが…やっぱりこの依頼を勧めてきたことを含め悪意がありましたか」
受付係の態度は微妙にトゲがあった。この辺りは推測するしかないが、大方どこかの世間知らずのお嬢様の物見遊山とでも思われたのだろう。あたらずとも遠からずだし、そういった輩が厄介なのもわかる。とはいえ、こちらはまだ迷惑をかけていないのだから、こんなことをされる謂われはない。
「そりゃ抗議した方がいいなぁ…。
君、もしかしてトラブルメイカーの運命とか持ってる?
まぁこれも冒険者あるあるのトラブルではあるんだが」
「まぁ…国を追い出されている時点で相当なトラブルメイカーではありますわよね。
こういう形で売られた喧嘩は全力でお買い上げしてさしあげますわ」
「具体的には? 今回はあちらさんが悪いとはいえ立証は難しいぞ?
ちなみに俺はアテにしちゃダメだ」
万が一があれば助けるけれども、とは付け加えてくれるウィリアムはやはり甘い。
だが、今回ルイはウィリアムの助力を全くアテにはしていなかった。
「まさかまさか。師匠のお手を煩わせることなどありませんよ。
受付の方に、喧嘩を売る相手は選びましょうねと教えて差し上げるだけですわ」
にっこりと笑い、ルイは両手に魔力を込めた。
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