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今回はおさらいパートになります。
乗合馬車はガタゴトと揺れながら、ダンジョン大国ダリアムの国道を進む。
ルイからしてみると、この道は道と呼んでいいかも怪しいものだった。たくさんの馬車が行き来するために草があまり生い茂っていないだけの野っ原に見えてしまう。
何しろ、ルイは王都生まれの都会育ちだ。慣れ親しんだ道はキレイに舗装された揺れの少ないものなのである。
勿論知識としては知っていたし、視察のために何度か田舎にも行ったため経験はある。ただしそのときはたくさんのクッションがあり、休憩時間も多かった。
けれど、多分これからはこういった移動が普通になるのだ。
なんとなく、それを実感して妙な気分になる。
ルイの本名はルイーゼ・ガルニエ。ここダリアムではなく、隣国のジャナンナ出身だ。ジャナンナは魔法大国と呼ばれ、魔法の能力こそが価値であると公言して憚らない偏屈な国である。
ルイは、そんな国の"水の公爵家"と呼ばれる家に生まれた。しかも、公爵家が代々誇ってきた水魔法の才能が著しく低いというおまけ付で。そんな逆境の中でも、ルイは公爵家令嬢として恥ずかしくないよう振る舞ってきたつもりである。魔法学園では常にトップの成績をひた走り、無駄に低く見てくる家族達がいても領地が困らぬよう実務からは手を抜かなかった。頑張りすぎて球体、もとい、王子の嫁にされるというハプニングも起きたが、それも謹んで承り、次期王子妃として如才なく振る舞ったつもりだ。
それでも、あの国でルイが報われることはなかった。最終的に球体王子から婚約破棄と追放を言い渡されて今に至る。
(思えば、色々矛盾がある国と家族なのよね。
外から見ると一段と変だわ)
水魔法の才能が低いからとルイーゼを低く見る一方で、そんなルイーゼを王子の嫁候補、つまり未来の王妃に据えようとする。
魔法大国を名乗っておきながら、一部の魔法を低く見る。そして、スキルという存在を国ぐるみで隠蔽する。
あと、味音痴。
祖国なので悪く言いたくはないが、あまり良い点が浮かばない。良い部分があるとすれば、研究に対しては真摯だったというところだろうか。例え水の公爵家の落ちこぼれであろうとも、研究を阻害されることだけはなかった。
色々いちゃもんをつけられたり、挙げ句の果てに国外追放なんて目にはあったけれども、その点に関してはルイは感謝すらしている。あの球体王子の結婚相手だけは御免蒙りたかったもので。
(それにしても…)
ちらり、と隣の師匠を盗み見る。
無精髭を蓄えた三十前後に見える黒髪の男性は、現在のルイの師匠であるウィリアムだ。ひょんなことから拾ったり、脅されたりしつつ今の関係に落ち着いた。
鑑定というスキルを所持しているギルドの元密偵。現在はルイの師匠として、普通の冒険者をやる予定らしい。
ルイとウィリアムの関係は、ギルドの定めた徒弟関係というものだ。
ルイが一人前の冒険者になれるようにウィリアムが面倒を見るという約束を、冒険者ギルドが保証している。そうしないと、ルイがジャナンナを穏便に脱出できなかったためだ。
引き換えに、ルイはギルドに囲われることになった。
祖国ジャナンナでは価値が低く、他国への輸出物としてしか価値がなかった付与魔法。それが、ダンジョン大国ダリアムでは大きな価値があった。ルイはその付与魔法のレベルがかなり高く、下手をすると国の勢力図が変わりかねないとウィリアムが危惧したのだ。
そのくらい他国の魔法状況はよくないらしい。
そもそも、魔法を使えない人間の方が多く、使えてもレベルが高くないというのはルイにとって結構なショックだったりする。
そんなわけで、ルイはギルドとウィリアムに守られつつ、自衛出来るだけの手段を身につけるために冒険者となった。そして、今は一人前の冒険者としてギルドに認められるCランクを目指しているところである。
「どした? 体調でも悪いか?」
ぼんやりと今までのことを思い出していると、具合が悪いとでも思ったのかウィリアムが声をかけてきた。
正直、こういった対応にルイはあまり慣れていない。基本的に周囲の人間はルイに対して塩対応だったのだ。こうやって気遣いの言葉を向けられるとちょっと戸惑ってしまう。
ウィリアムは鑑定スキルのせいでルイの素性を全て知っている。そのため、少々人間不信のケがあるようだ。それでもこうして面倒見がいいのは所謂貧乏くじを引く体質というか、根が善良なのだろう。今もきっと「お嬢様育ちの彼女には馬車の旅は辛いだろうか。主に尻が。でもデリケートな問題だし言いづらいだろうな」などと思っているのだろう。
そんな彼に苦笑しつつ、言葉を返す。
「具合は悪くありませんよ。
ただ、これから何処へ行くのか結局聞いていなかったと思いまして」
あまり丁寧な口調になりすぎないように気をつける。
一応他国に出奔できたとはいえ、ジャナンナの人間が追ってこないとも限らない。あと、普通に目立つ。
新しく覚えた"スキル付与魔法"を公開するつもりがない以上、目立たないのが一番だ。
「あぁ、そういやそうか。
行き先は食の都だ」
「食の都…ですか?」
ダリアムは自由がウリの冒険者大国だ。例えば婚姻関係を複数と結んだり、あるいは同性同士で結ぶことも可能。宗教も何を選んでも自由だし、食の制限もない。結構なゲテモノも食す場合があるので一部では悪食の国という呼称もあるくらいだ。
そんな食文化も自由なダリアムの中で、食の都と冠される場所。
趣味が料理のルイとしてはちょっと興味がそそられた。
「メグルっていう街なんだが、食材をドロップするダンジョンが周囲に三つもあるんだ。そのお陰で海に面していないのに海の幸も比較的豊富。冒険者に人気なのはやっぱり肉なんだけどな。
あと普通なら栽培しづらいスパイスなんかもドロップする」
「周囲のダンジョンに合わせて発展した街、ということですね」
「そういうことだな。
ここのダンジョンに潜っていれば少なくとも食いっぱぐれることはない、とまで言われてるな」
駆け出しの冒険者は金の使い方のバランスが下手くそだ。強くなるために装備に金を使いすぎて食いっぱぐれるということはザラ。下手したらそこから犯罪に走る者も少なくない。
その点メグルのダンジョンは大きく稼ぐのは難しいが、食べるのに困ることはあまりないとのことだ。
「ただし、普通のダンジョンよりレベルが高いから、ちょっと慣れてからの方が無難ではあるな。
だから駆け出し期間が終わった連中が多い。」
「…それって駆け出し未満の私が行っても大丈夫なんですか?」
ルイは魔法使いとしてはかなりのレベルであるという自負がある。
しかしながら、冒険者としてはひよっこもいいところだ。何せ命のやりとりがとても苦手だ。ウィリアムはそういう感覚は大事だと言ってくれてはいるが、魔物を倒せないのは良くないだろう。
「サポートするから大丈夫だろ。
最悪メグルの不人気ダンジョンに行っても良いしな」
「不人気ダンジョンですか?
食材がドロップしない、とかでしょうか」
「そういうこと。やっぱ飯のタネがドロップする方が嬉しいもんな。
そっちのダンジョン1階はまぁ普通だからそっちで練習するのもアリ。
…俺は肉ダンジョンに行きたいけど」
「慣れたらそちらにも行きますので、本当に初級のところでお願いします。
お肉は…売ってるものを買って調理しますから」
「自分で獲得した肉は美味いんだぞ~…。
まぁ安全第一なのはわかるけどさ」
「じゃあ私がサクサクレベルアップできるように補助をよろしくお願いしますね」
よっぽど肉に未練があるらしいウィリアムに、ルイは思わず笑みを零す。
乗合馬車はガタゴトと揺れながら、メグルへの道のりを急いでいた。
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