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「まぁ…今から嘆いていても仕方がありませんわね。
できることからはじめましょう」
「お前さんがそれでいいのなら構わんよ。
やってる内にいい案が浮かぶかもしれんしな」
今のところルイの希望を全て叶えられるような案はない。であれば、目の前の問題から片付ければいいだろう。
「当面の目標は一人で出歩いても大丈夫な戦力を身につけること、ですわね。
狙われたときにああもあっさり拐かされては命がいくつあってもたりませんもの」
「わかりやすい目標設定ということでCランクを目指すでいいか?」
「Cランクになれる程度の実力があれば、ああいった手合いが近づいてきても気付けるものなのでしょうか?」
「そこは相手の実力次第としか言えんところがある。
が、お前さんは奥の手があるだろ」
「付与魔法、ですか?」
「あぁ。それと、スキル付与魔法だ」
ルイの強みは多彩な魔法を扱える魔力も勿論だが、真価はおそらく付与魔法での底上げだとウィリアムは考えている。特に食事による付与は鑑定スキルを持ってしてもバレにくい。見えたとしてもとぼけておけば種明かしまでは到達しづらいはずだ。
「つまり、気配を察知できるようなスキルを習得しろ、と。
でも確かスキルの習得って…」
「おう、実戦あるのみだな。
というわけで、暫くは冒険者として実戦できるようなダンジョンがあるところにいくか」
「…はい」
人間相手であれば拷問めいたことまで出来るルイだが、やはり命を奪うことに忌避感があるようにみえる。
「やっぱり殺すことは抵抗あるのか?」
「…そこは、大丈夫だと思います。貴族なんて命令一つで数百人単位で殺す生き物ですし…」
「命令するのと手にかけるのは違うだろ」
「学園で実戦実習もやったのですけれどね。
どうにも不安が拭えませんの。でも、そうも言ってられませんから、努力するつもりはありますわ」
魔法の実戦経験を積むための実習は何度かしている。
命を奪ったことだってちゃんとある。それでも、ルイの不安は消えない。原因は恐らく経験不足。何度か経験を積めばどうにでもなるとは思うモノの、やはり最初の緊張感は拭えないのだろう。
とはいえ、それは大事な感覚だとウィリアムは思う。
「持論だけどな。そういう、命を奪うことに対する忌避感や自分の命を危険に晒しているっていう恐怖は、いつまでも持ち続けてた方が良い」
「そうなんですの?」
ルイは意外そうに言葉を返す。普段あまり表情を動かさない少女なので、本当に驚いているのだろう。
「大体は対魔物だが…時には人間の命も手にかけるのが冒険者ってもんだ。大概は盗賊とか手にかける理由があるもんだが、それでも、だ。
それで段々命に対する感覚が麻痺してきちまうんだよ。麻痺させないと、罪悪感で潰れちまうってのもあるから、それ自体は悪いとは言わないがな」
「理由があれば命を奪ってもいいわけではない、と?
ですが、そういう感覚があれば判断が鈍るのでは…」
「それもある。だから大事なのはバランス感覚だな。
命を扱っている自覚を持たなければならない。けれど、判断を鈍らせるほど忌避感をもっちゃだめだ。
バランスを失った良い例を間近で見ただろ?」
「あの誘拐犯さんですか?」
その通りだ、という意味を込めて頷く。
「あいつを含めたあのクランの連中は、命を軽視しすぎた。
そうじゃなければ、俺と一緒にいるからといって明らかに非戦闘員の君を誘拐するなんて考えないだろうし、人身売買なんてこともしないはずだ」
「…確かに、あの境地にいくのはイヤですわね。
肝に銘じておきますわ」
「ま、偉そうに言ってる俺も似たようなもんだ。お互い気をつけようなって話だ」
明るく笑って話を終わらせる。覚えておくべき事柄ではあるが、深刻に考えすぎると身動きができなくなる問題でもあるのだ。
「ってわけで、早速なんだけど事務スキル付与した飲み物か軽食作ってくれないか?
一件落着で最後の大仕事が待ってんだよ」
「…なんというか、ウィリーさんは大物なのかもしれませんね。
麻痺付与の種明かしまでしましたのに…」
ルイは呆れた表情を浮かべたが、それでもそこに深刻さはなかった。
その後、ウィリアムが口にしたものに何が付与されていたかは想像に任せようと思う。
「……おわっ…た…」
「お疲れ様でした」
机にぐったりと突っ伏しているウィリアムの傍らにはルイが控えていた。
事件が全面解決、及び、被害者としての聞き取りもあるため、ルイは本格的に事務処理の手伝いに乗り出したのだ。無論ギルドの運営に関わる部分もあるため、お手伝い程度ではあるけれど。
「なんか、ほんと色々ありがとう。
まさか一日で片がつくとは思わなかったわ。事務スキルの高さ舐めてた」
「付与できればもっと早かったんですけれども…歯がゆいですわ」
ルイのスキル付与魔法のレベル上げはまだ足踏み状態だ。それでも日を追うごとに安定してきている。この調子でいけばすぐに達人級になるんじゃないかと思う。
「これでこの街ともおさらばだなー。
最後に祝杯でもあげてくか?」
「急ぐ旅ではありませんし、今から出発して野宿よりは宿の方が有り難いですから異論はありませんよ」
ルイの同意も得たので、二人は連れだって街中を歩く。
ウィリアムにはそれなりに見慣れた場所だが、ルイにとってはやはり新鮮だ。
異国の街、異国の空気、異国の文化に触れて知らず顔が綻ぶ。
「やはり、こういう景色を見ると、頑張って冒険者ランクをあげようと思うのですよね」
「研究心をくすぐられる?」
「研究というより…知らないことを知るのが楽しい、と言えばいいでしょうか?
実際私は箱入りでしたので外のことは知識としてしか知らないのです」
環境は苦痛そのものだったが、思う存分研究が出来るのはむしろ楽しかった。押しつけられた雑務だって嫌いではないし、外の世界の知識を得るきっかけにもなった。
だからこそ、今こうして楽しめているというのもあるだろう。
何も知らないまま、婚約破棄からの追放刑になどなっていれば外の世界に希望など持てなかっただろうから。
今まで不運だったとは思うが、嫌な記憶なので無くなってしまえ、とまでは思わない。今こうして楽しめている土台となっているから、許容してやってもいい、と言えば良いだろうか。
「探究心があるのは冒険者としていいことだと思うぞ。
ってか、そういうのが無けりゃ冒険者なんて続かないからな」
「あら、そうなんですか?」
「そりゃ冒険者になる目的なんて色々だけどな。
でも、未知のものにワクワクしないなら冒険者じゃないものになった方がずっと生きやすいと俺は思うぞ。
確かに冒険者は小銭を稼ぐには手っ取り早いが、一生続けられるモンでもないしな」
そんな会話をしながら、宿の食堂へ向う。
いつもならルイは軽い食事を頼んで終わりだが、今日は酒とつまみを中心に頼んだ。大食いのウィリアムに合わせてたくさん頼んだので、ちょっとした贅沢をしている気分である。
「ふふ、そういえばテーブル一杯に食べ物を並べるの、昔憧れたんですよね」
「そうなのか? お嬢だからいつもそんな飯だとばかり…。
いやでもジャナンナならそんなもんか?」
お国柄ではなく、単純に存在ごと無視されていたせいだが、ここで突っ込むのは野暮というモノだろう。
特に否定も肯定もせず、微笑んでおく。
「私一人では絶対に無理な夢だったので、ちょっと嬉しいです」
「そらよかった。ついでに色々手ぇつけて味も覚えて再現してくれたら嬉しいぞ」
「…味の再現、ですか?
確かに出来たら楽しそうですわね」
「あ、やべ、研究魂に火をつけたか?」
どんどん運ばれてくるつまみにちょっと笑いながら、グラスを合わせる。
「んじゃ弟子の成長を期待して乾杯」
「……師匠がお腹を壊さないことを祈って乾杯」
ちょっとしたイタズラをしてみたくて、口にしただけだが効果は覿面だった。
目を見開いて料理をガン見する師匠をよそに、ルイは美味しいお酒に口をつけるのだった。
閲覧ありがとうございます。
これにて第一章完結です。
現在恋愛のれの字すら見えない二人ですが、よければこれから先も見守ってくださると嬉しいです。
昨今のアレコレで区切りすらつけられないのでは?と不安にもなりましたが無事ここまでこれたのも応援してくださる皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
第二章はGW明け頃開始を予定しております。
ここまでお付き合い下さりありがとうございました。




