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「しかし、身体魔法にそんなものがあるとはなぁ….。
使い方によっては最強じゃないか?」
しびれクラゲと同じように敵を麻痺させられるとしたら、どんな相手でも楽だろう。と、単純にウィリアムは考えたのだが、ルイは首を横にふった。
「いえ、麻痺は実戦ではかなり使いづらい魔法です」
「そりゃまたなんで…」
「対象に触れなければ発動しないからです。
か弱い魔法使いが命がけで前線に出て、相手に触れられるとお思いですか?」
「あー…なるほどな」
魔法使いは普通の冒険者に比べて身体能力が劣るというのが定説だ。ごく稀に肉弾戦ができるようなムキムキ魔法使いもいるが、それは例外中の例外だ。魔法の研究と肉体の鍛練は並行してやりづらいのだ。
「魔力の増強だけでへとへとになりますのに、更に体を鍛えよう、とは少なくともジャナンナにいた頃は考えもしませんでしたね。
…これから冒険者Cランクを目指す私は、これからそれなりに鍛えなければとは思いますけれど。
ただ、今から頑張って鍛えたとしても、現在鍛えている人に敵うようになるとは思えません」
「まぁその辺りはもって生まれたスキルにも左右されるし、ぶっちゃけ男女差もあるわなぁ」
ルイのことをしっかり鑑定したが、彼女には身体能力を底上げできそうなスキルは皆無だった。また、戦闘術に関してものびしろはあまり期待できない。
生粋の魔法使い系というわけだ。
多少慰めの言葉を口にしてはみたが、それで現状が変わるわけでもない。
少なくとも現時点では、ルイが前線にでて麻痺させるという戦法はとれないだろう。もしこれが出来たのであれば、ルイのCランク昇格は早まったのだろうがなかなかうまい話はないらしい。
「そんなわけで、麻痺を戦闘に組み込むのは難しいんです。
今回の場合は無防備に私の前で飲食してくださったお陰で活路が見えた、という感じですわね」
「事情は把握した。
いやでも無事でよかったよ。
まさかギルド内にまで内通者がいるとは思わなかったからな…」
件の誘拐犯は、内通者の協力を経てギルド内に侵入していた。
ルイとウィリアムの関係性もそいつが漏らしたらしい。ちなみに、その内通者はギルド内のアレコレに従って現在地獄を見ているところだ。法律を犯したわけではないので犯罪奴隷にはできない。が、冒険者ギルドの鉄の掟を破ったということで厳罰だ。厳罰と犯罪奴隷、どちらの方が楽かというのは正直ウィリアムには判断がつかない。
「あまりにも杜撰な計画を口走っていましたので、すぐに助けがくるとは思っていましたけれど…。
ともかく、師匠さんはしばらく飲食にはお気をつけくださいな」
「えっ…」
一件落着だな、と胸を撫で下ろしていたところに、ルイから爆弾発言が飛び出る。
「今回の件は師匠の落ち度ですよね。冒険者ギルド内なら安全だというお言葉を信じておりましたのに…。
ということで、怖い思いをした弟子からのちょっとしたプレゼントだと思っていただければ幸いですわ」
わざとらしくヨヨヨと泣き真似すらしてみせるルイ。確かに怖い思いはさせたとは思うが、いくらなんでもそれはあんまりではなかろうか。
とはいえ、確かにこれはウィリアムの、ひいてはギルドの落ち度であるためひたすら謝るしかない。
「えっと…いやあの、ほんと巻き込んですまないとは思ってる」
「大丈夫ですよ。
洒落にならないイタズラはしませんから」
今回の一件で、ルイの付与魔法は自分が作った料理でなくても発動するということがわかった。よく考えれば購入したアクセサリーなどに付与できるのだから当然のことなのだけれども。
つまり、ルイの作った飯を食っても食わなくてもイタズラの餌食になる可能性はある、ということだ。
「大変申し訳ない、勘弁してください。
…ほら、店開くことがあればあちこちで宣伝するしさ」
「…それなのですが」
話題を変えると、ルイは表情を曇らせた。
ルイの最終的な目標は、ダリアムで料理店を開くことだと認識している。魔法使いとしての才がちょっと勿体ない気もするが、本人がそう望んでいるのだから仕方在るまい。
そう考えていたのだが、何やら心境の変化があったようだ。
「私は料理をするのが好きですし、美味しいと言って貰えることも大変嬉しいです。
といっても、ウィリーさんくらいしか食べてくれたことはないのですけれど」
「先に言っておくが、俺の味覚は異常ないからな? たぶん」
最近はずっと昼食をルイに作って貰っていた。ルイが"あの"ジャナンナ出身ということを知っているカイムからはずっと奇異の目で見られていたのだが、少なくとも今まで生きていて味覚異常を疑われたことはない。
「そこは言い切ってくださいな。
まぁ、問題はそこではなく…私は料理を作ることを、言わば研究の一部と捉えていたようなのです」
「ほう?」
ルイが少し言いよどむ。
時間はあるのだから、彼女の言葉を待った。
「なんと言いますか…。
様々な味を掛け合わせるのが楽しいんです。しかもその上、私の研究結果である付与もできるでしょう?」
食事に付与できる、というのは少なくともウィリアムは知らなかった。
ジャナンナでのルイの研究結果だと聞いているし、彼女が周りに漏らさなかったのであれば現時点では彼女固有の魔法と言っても差し支えないだろう。
「飯に付与ってのは、君の発見なんだったか。
まだまだ研究の余地があるならそりゃあ研究したいよなぁ」
「そうなのです、そこなんです!」
ルイの声が大きくなる。
「私は料理と付与を研究したいのであって、正直店を開くことに拘りはないと気づいたんです。ですが、研究する上でそれなりの量の料理ができてしまうでしょう?
折角作っても私一人で食べるのはあまり楽しくありません。更に言えば研究用に大量に作るはずですので、私一人ではとても処理しきれません。
言い方は悪いですが、処理のために誰かに食べて貰いたい。美味しく作れるように努力するので、処理に協力して貰いたいというのが本音なのです」
「ほー…」
そういえば、ルイ自身はかなり小食だった。
ウィリアム自身が大食漢というのもあるので安易に比較してはいけないだろうけれど。
「ですから、処理に協力してもらうという気持ちなので、お金をとるのも気が引けると言いますか…。
それと、普通の料理店では注文を受けてから料理を作るでしょう?
それだと私のやりたいこととは違うのです。
なので、店を開きたいというのは少々目的からズレているのですよ」
「っはー。なるほどなぁ。
確かにそれだとなんか違うってなるわな」
料理は作りたい。それを美味しく食べて貰えれば嬉しいけれど、あくまで目的は料理を作ることと、それに付与する魔法の研究。どうやら彼女は生粋の研究者気質なようだ。
「…ぶっちゃけ駆け出し冒険者連中なら喜んで協力すると思うけど」
駆け出し冒険者はいつでも金欠だ。飯を犠牲にするか、寝床を犠牲にするかは人それぞれだが、もし彼女が格安で飯を提供してくれるのであれば喜んで飛びつくだろう。
「…ですが、作り置きは味が落ちてしまうじゃありませんか」
「あ、そこは気にするんだ」
「当然です。食べてもらうなら美味しく食べていただきたいですわ」
そんなことを言うあたり、料理人としてのプライドは持ち合わせているように思うが。
しかし、ルイの望みを叶えるのは中々厄介そうである。
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