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師匠であるウィリアムと並んでギルドを出る。
付与道具をその場でいくつか買い取って貰えたため、懐の方はそこそこ暖かくなった。この国の物価はまだわかってはいないけれど、それでも多分なんとかなるだろう。
「とりあえず今晩の宿確保だなぁ。
君がいるなら多少値が張っても安全を買った方がいいか…」
「そうですわね。
護身用魔道具はありますが、何かあれば全く太刀打ちできる気がしませんから」
「でもそうなると飯もついてきたりするんだよなぁ…」
ウィリアムはルイの料理を気に入ってくれたようで、できれば夕食もルイに作ってもらいたいらしい。料理を作る側としては大変嬉しい言葉だ。
本当ならアイテムボックス内にある料理を出してあげたいところではある。
しかしながら、それらは全て付与魔法がかかっていた。鑑定スキル持ちの彼に食べさせて変化に気づかれるのはまだちょっと早い気がする。
信用できる人物だとは思っているが、それでも打ち明けるのは躊躇われた。
(完全な味方なんてどこにもいないのです。
いつ裏切るかわからないのだから、奥の手は隠しておいた方がいいはずですわ)
自分でも過剰な心配だと思う。それでも、染み付いた思考はなかなか変えられないものだ。
そんな自分を少し情けなく思いながら、しかし、そういった感情は全く表情には出さず、ウィリアムと二人で宿探しをする。
いくつかの宿にあたってみたが、料理をしたいという希望と警備がしっかりしているという希望の両方は叶えられそうになかった。
「申し訳ありません。
うちの宿は警備がきちんとしていることをウリにしているため、厨房などの裏方の場所にスタッフ以外の者が入られるのはちょっと…」
こんな感じで断られている。無理もない話だ。
厨房に入れるということは、いつでも毒殺ができるのと同義である。毒でなくても、下剤やしびれ薬など後の行動に影響するものでも構わない。そういった可能性が完全にないと言えるからこそ、警備をウリにできるわけで。
「ウィリーさん、やっぱりここは食事を諦めて安全を取りましょう?」
「まあ仕方ないか。ご飯楽しみにしてたんだけどなぁ」
事情が事情なのはウィリアムだってわかっている。
なので、多少の未練がましさは感じつつも、あっさりと引き下がってくれた。
「その分、今から食材を買いに行きませんか?
私もこの国の食材に興味がありますし、好みの食材があればそれを中心にメニューを組み立てますから」
「ああ、確かに一緒に行動できるうちに買い出ししておくのはよさそうだ。
食料品に限らず、必要なものを揃えた方がいい。着替えとか…。
正直な話、滞在期間は一週間は見た方がよさそうだから」
後半は大変うんざりした口調になっている。
よほど仕事が難航しているのか。詳しいことは聞いてはいけない雰囲気なので聞かないけれど。
「お仕事頑張ってください。
できるだけ好物を用意します…と、言いたいところですが良く考えれば仕事中のお食事ですよね?
その感じだと、まともな昼食時間がとれるかもちょっと怪しいのですが」
完全にデスクワークだけであれば、ちょっと時間を作って食べることも可能だろう。
しかし、あちこち動き回ったりすることを考えると、出来立てアツアツが美味しい料理は避けた方がよいのかもしれない。
「確かに…がっつり昼食時間! っていうのはとれないかも…。
想像しただけで辛い」
ウィリアムが悲壮な雰囲気を漂わせる。
いたずらでジャナンナ飯でも出そうかと思ったが、それをしては一気に老け込む可能性までありそうだ。少なくとも今はやらないでおこう、とルイは心に決める。
「そうなると、やはり重いモノやガッツリ系は避けてパンなどが無難でしょうか」
パンであれば腹持ちもいいし、冷めても大丈夫だ。
具を挟めば栄養の観点から見てもどうにかなるだろう。
宿に帰ってすぐ仕込みをしたっていい。宿内で煮炊きをするのは憚られるが、パン生地をこねるくらいならできそうだ。多少粉が散っても風魔法で掃除すればバレないはず。
そんな算段をつけるものの
「パン…パンかぁ。そうだね、片手でつまみながら食べられる…」
反応が芳しくない。ジャナンナ飯に近いものでも想像しているのかもしれない。もしくは、パンだと腹にたまらないと思っているのか。
「お仕事が減ってきちんと昼食時間をとれるようになったら教えてください。
他の料理も考えますから」
「わかった…」
そんな会話をして商店街を歩く。
ウィリアムにアドバイスをもらって、食材を購入する前に野営に必要な道具やサバイバルセット、それから一応護身用ということで短剣を購入した。
「それくらいの大きさなら間違って自分を傷つけるとかもないと思う。
手入れもめんどくさくなさそうだしね」
「…付与と相性が良さそうですね」
魔力の通りやすいミスリル銀で出来た短剣は、意外とお手頃価格だった。
万一付与に失敗してもこれなら複数本購入してもいいくらいだ。
「そっち!?
まぁ君的には大事なことか。ちなみにどんな付与するつもり?」
「属性魔法はどんな相手と戦うかによって相性が変わってきますね。
身体回復も万一相手に奪われた場合、相手の体力が回復してしまうので却下。
…実用性を考えるのって結構難しいですね」
戦ったことがないので何が必要かがよくわからない。
「あぁなるほど…。実践経験がないと何が面倒とかもわからないのか。
とりあえず一番面倒なのは手入れかな? 高級な素材ほど簡単な手入れですむけど、適当な金属ごちゃ混ぜとかで作った安いやつは頑張って手入れしても傷みが早い。だから手入れせずにダメになったら買い換えるやつの方が多いな」
「具体的な手入れの方法は?」
「まず、何かを切ったらきちんと洗っておくこと。
特にオークなんて切ったあとは油でギトギトになる。で、綺麗にしたらあとは錆止め油を塗る。大雑把に言えばそんな感じだな。
大概は半年に一回くらいの割合で武器屋なんかにメンテに出す」
「…つまり、何かを切ったあと、汚れがつかなければいいわけですね。
そして、汚れは油汚れが多い、と」
「何を切るかにもよるけどな。短剣なら薬草採取にも使えるし」
汚れを落とすだけなら水魔法が最適だろう。しかし、ルイには使えない。それに、油は水だけでは落ちにくいというのは料理の経験上わかっているつもりだ。
肉を切ったあとの包丁のキレがあまり良くなかったのはそのせいだったようだ。
そんなとき、ルイはどうしていたかと言えば。
「じゃあ、風魔法を付与しましょうか。汚れを吹き飛ばせば少なくとも綺麗にはできますしね。錆止め油は一日の終わりに塗れば十分でしょうし」
「…付与ってそんな使い方するの?
もっとこう炎を纏わせた剣で攻撃、とか」
「できなくはないですが直接魔法を相手に打ち込んだ方が効率的です。
それに…この長さの剣だと自分が火傷しますよ?」
「…それは確かに」
「まぁ油汚れであれば焼き落とすのもひとつの手かもしれませんけれど…。
オークの油を焦がしたいい臭いのする短剣って別のものに狙われそうでは?」
オーク肉は食用としても流通している。好みは人それぞれだが豚よりも好きだという人は少なくない。特に油が旨いのだ。その油が焦げた匂いは人間だけでなく魔物もよってきたりする。
「汚れを落とすだけならそっちの方が賢明か。
冒険中にそんないい匂いさせてたら集中力きれそうだもんな」
なにも切るのはオークだけではないだろう、という突っ込みをいれられるものはこの場には誰も存在しなかった。
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