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「言葉を飾らず言えば、私はこちらの国では規格外ということになりそうですね」
言葉にしてみると、なんとなく腑に落ちたような気持ちになる。
そもそも、次期王子妃、ゆくゆくは王妃になるべく教育された身だ。平凡であっては困る。その地位に相応しくなるだけ努力してきたという自負もある。
もうその地位にはつけないし、未練だって欠片もないけれど、それまでしてきた努力は本物だ。
規格外はむしろ褒め言葉ですらある。
「自覚があって何よりだ。
ってか、ちょっと誇らしそうなのがなんだかなぁ」
「少なくとも弱いよりは強い方がいいでしょう?
あとはこちらの常識に合わせて振る舞えれば問題はありません」
「なんで自分が常識的に振る舞える前提なんですかね…」
頭を抱えられるが、こればっかりはどうしようもない。ただ、経験上出来ないと言ってしまうよりは出来ると言い切ってしまう方がマシだ。出来ると思い込んだ方が出来る確率があがる。
むしろ出来ないと鬱々としているよりよっぽど効率的だと思う。
「で、結局おいくらなんです?」
「火や水より需要の劣る風の付与アクセサリー。
これ一つで2万程度です。
ちなみに買う場合は、商業ギルドであれば手数料が上乗せされて大体3万。運よくギルドの店頭に並んでいればその値から1割引くらいはしてもらえるでしょうか」
「…うわぁ」
ルイの感覚で行けば大層なぼったくりだ。しかし、魔法が使えない人間が魔法を使えるようになることを考えると確かにそのくらいはするのかもしれない。
実際、どんなに怪しげな薬や道具であっても「自力で水魔法が習得できる」と言われたらルイはそのくらい出すだろう。多分、そういう感覚なのだ。
ないものねだりの代償と考えれば確かに安い。
「ついでに言うと、こっちの宿の相場は500だな。
ただ、飯がついてる場合もあるが…」
「…10分の1じゃないですか」
「そっちが高すぎる…ってわけでもないんだろうな。部屋ごとに防音だの色々魔法対策してんだろ?」
「あぁ…なるほど」
ふんだんに魔道具が使われているのがジャナンナの宿の常識だ。というよりも、家や研究室であってもそれが通常運転である。
「こっちではそんな大層なモンはほぼない。
宿自体が防音素材で出来てる、とか専用の警備の人間を雇ってるとか、そういうのが高級宿だな。
あとは温泉がついてるとか、飯がうまいとか」
「でもやはりジャナンナの場合は食事がついてないのですから、ボッタクリな気は否めませんけどね」
「…ついてるところもないわけではないかと…
他国の方専門の宿もありましたし…」
一応反論を試みるが語気は弱い。
そういった店はジャナンナの中では美味しい料理を出しているはずである。が、そもそもジャナンナでわざわざ美味しい料理を振る舞うよりも、他国で店を開いた方がいい反応を得られるのがわかりきっている。
ジャナンナなのに美味しい料理が食べられる店という触れ込みで売り出すことも考えられるが、少なくともルイの記憶にそういったものはなかった。
「うん、まぁ…触れないでおこう。ジャナンナの料理は」
「まぁそういうわけで、こっちで付与道具を買おうと思うと、何ヶ月も宿代を我慢したりして節約する。それでやっと手に入れるような高級品ってことだ」
「冒険者の場合命を預ける武器防具を優先しがちですからね。どうしても優先度は低くなり、結果嗜好品あるいは高級品という扱いになります」
「よくわかりましたわ」
あれば便利。しかし、流通が少なく、他に優先すべきモノも多い。冒険者の憧れのアイテムのうちの一つ、という扱いなのだろう。
それが無造作にごちゃごちゃと袋に詰められていれば多少驚くのも分かる。
「そうなると…私がもってきたものは大分余りそうですね」
それだけの高級品をギルドに大量には卸せないだろう。
ギルドにも予算というものがあるだろうし。
「うちの支部で大量購入は無理ですね。
本部か、あるいはダンジョンの多い街に行って貰えればある程度は大丈夫かと思いますよ」
「多量の在庫後生大事に抱えてたってしゃあねぇってことなら、紹介状でも書いて貰えばいいんでないか?」
「まぁアイテムボックスがあるのでそこまで持ち運びが大変というわけでもありませんが…」
話し合いの結果。
とりあえずこの支部で付与アクセサリーを三つ買って貰えることになった。当座の資金としては十分な額だろう。家から持ち出してきたお金もあるし、これからは宿で人間らしい暮らしが出来るはずだ。
「で、ルイとしてはさっさと本部で売りさばきたいかもしれねぇんだが、ちょっと待ってくれるか?
今回の俺の仕事がまぁまぁめんどくさくてな…」
「構いませんよ。
お手伝いできればしますけれど…」
事務能力はそこそこあると自負している。伊達に領主代行はしていない。その能力が冒険者の書類にどこまで通用するかはわからないが。
ウィリアムはその提案に一瞬表情を明るくするもすぐに首を振った。
「一応弟子にする前の機密事項っちゃ機密事項だからなー。気持ちだけ貰っとく。
…あ、そうだ」
「なんでしょう?」
「弟子にお願いしたい!
飯作ってくれ。仕事の合間につまめるようなやつ」
「…はぁ。構わないですが、どこで作れば…」
そんな師弟のやりとりを、カイムはちょっと胡乱な目つきで見つめてくる。
先程からジャナンナの食に対する評価は最底辺だ。そのジャナンナ出身の人間に食事を作らせるなどと正気か? と言いたいのだろう。
わからなくもないが、ハッキリ態度に表されると大変面白くない。このカイムという人物は少々癖があるようだ。平たく言えばウマが合いそうにない。
「よろしければ、ギルド内で煮炊きをしても構わない場所を教えて貰えますか?
それと食材の補充もしたいのですが…」
「とりあえず今日は一旦宿とって出直すから、宿の厨房借りればいいんじゃないか?」
「あぁ、なるほど。作り置きでも構わなければ宿で作って持って行ってもいいですものね。
ですが、ギルド内で料理ができれば熱々を食べることができますよ?」
ウィリアムが妙にウキウキしているのを、カイムは怪訝そうな顔で見ている。
こういう顔をされると、後でとびっきりのものを出してやろう、という気になるではないか。ウィリアムという荷物持ちもゲットしたことだし、この国の食材にも興味がある。
ルイは俄然やる気が出てきた。
「あー…それは捨てがたい…。
なーギルドにも簡易料理スペースくらいならあったよな?」
「それは、まぁ…」
「彼女もギルド内にいれば多分安全だし、明日来たときに案内してやってくれよ」
「はぁ…ウィリアムさんも物好きですね。
ジャナンナの結界を浴びたせいで味覚もおかしくなったのでしょうか」
ルイとウィリアムに大変失礼なセリフで、その日はお開きになった。
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