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徒弟関係は据え置き。
少なくとも今は結論を出さず、きちんと悩んでから考えるということになった。
「それでは現状はそのままということで構いませんね?」
「勿論。
あぁ、出来れば当座の活動資金のためにアクセサリーをいくつか売りたいのですが、よろしいですか?」
バッグの中に付与アクセサリーを見て、提案する。
現金が全くないわけではないが、こちらの物価を知っているわけでもないので有って困ることはない。ついでにここではどのくらい売れるか相場も聞いておきたいところだ。
「どれも品薄ではありますが…。
現在需要が高いのはやはり水魔法付与と火魔法の付与ですね」
「大変申し訳ありませんが、水魔法付与だけは今後も入荷はないと思って下さい」
火と水は冒険者に限らずあれば便利なものだ。
が、残念なことにルイは水魔法を使えない。その他の属性はあるのに口惜しいことだ。
「であれば火を多めに、それ以外は一種類ずつ購入させて貰います。
商業ギルドに卸すよりも安価になるのは諦めて下さいね」
「それは承知の上でしたので。
…ちなみに特Cランクになると仮定して、毎日いくつ作れとかいうノルマはありますの?」
「どうでしょうね?
一度も品切れが起こらないとなると、値が暴落する恐れがありますから…」
「やっぱ腹黒商人じゃん」
実際問題値崩れが起これば生産者が困るのは確かだ。
値段を一定にするためにも、店頭に並べる数は絞った方がいいだろう。魔道具はあれば便利だが何も生活に必須というレベルではないのだからあまりやりすぎるのもどうかと思うが。
「低レベルの火魔法であれば誰だって量産できるでしょうに…」
思わずポロッと言ってしまう。
魔法を何かに定着させる、つまり、付与するにはちょっとしたコツが必要だ。しかしそのコツさえ掴んでしまえば簡単だ。
少なくともルイはそう思っていたし、簡単だから必須ではないというのがジャナンナ国の主流の考え方だ。
が、そんなルイの言葉を拾った二人が呆れと驚愕を同時に顔に浮かべる。
特に普段はわざとらしく表情を作っているウィリアムがわかりやすい表情を浮かべるのは少し面白かった。
「…なるほど。確かに特Cよりもウィリアムさんがいた方がマシかもしれませんね。
後の騒ぎを考えれば妥当かもしれません」
「いやぁ…俺もこれほどとは」
「何がですか?」
大体わからなくもない。要するにジャナンナの常識はダリアムの非常識のようだ。
しかも相当矯正が必要なレベルだと憶測できる。今までの常識を捨て去ってしまえれば話は早いのかもしれないが、そんなこと誰にも出来やしない。
「…えーと、出身国によって常識が違うなぁと言う話」
ウィリアムが最大限言葉を選んで伝えてくれる。
「遠慮なさらず仰って下さい。
恐らくジャナンナの知識とダリアムの知識は非常に差があるのでしょう?」
「それを自覚してるのなら話は早い。
一応聞いておきたいのですが、あなたの見立てではこの指輪一つでいくらくらいだと思いますか?」
「…宿代の倍くらい、でしょうか?」
ジャナンナの宿は大体素泊まりで5000ゾルくらいだ。
そこから警備のしっかりした高級宿になれば値があがっていくし、中央に近ければ更に上がる。逆にジャナンナ最果てのカランの街であれば、身の安全を買うための高級宿であっても同じくらいで泊まれるはずだ。
正確な金額を提示しなかったのは、ジャナンナの宿代とダリアムの宿代が大きく違う場合を考えて、だ。
「何故その値段に設定したか聞いても?」
「王都で商業実績を積むために売りに出したときが大体宿の1.5倍程度でしたので。
国も超えましたし倍は出してくれると良いなぁ、という期待を込めてでしょうか」
実際付与するために使った元のアクセサリーはオモチャの指輪に近い代物だ。
本来であればミスリルなどの魔法を通しやすい素材を使うべきなのだろうが、ルイはもうしっかり付与術のコツを掴んでいる。だからこそ料理に付与するなんていう技を身につけているのだ。
が、その料理にすらも付与できるということが希有な才能であることを、まだルイは知らなかった。
男性陣の唇から重苦しいため息が落ちる。
「これ、どこから説明すればいいか悩みますね」
「いやぁでもジャナンナで泊まったことある身からすると大外れでもねぇんだこれが」
「…かなり正解からは遠いのでしょうか」
「考え方は間違っちゃいない。俺はジャナンナの王都に行ったことねぇが、多分王都の普通ランクの宿とカランの最高級の宿は多分同じくらいの値段だろう。
そこから考えると多分、ルイが考えてる宿代は5000ゾルくらいなはずだ」
違うか? と問われたので、5000ゾルを想定していたと答える。
「で、王都での売値を覚えていて、そこからもう少し高く買って貰えるだろうという予測も間違っちゃいない。
ただなんて言えばいいんだろうな?」
「あなたが思っている以上に、魔法を使えない人間は多いのです。
ジャナンナ出身かつ中央の学園出身であればそんな考えが浮かばないのも仕方ないことではありますが…」
「う、うーん…」
そういえば、ウィリアムの身体回復がとてもお粗末だったことを思い出す。
が、アレがこの国の平均値であればルイは大幅に考えを修正しなければならない。
「あの、失礼ですがウィリーさんは身体回復魔法はこの国基準ですとどのくらい使える部類に入るのでしょう?」
「どのくらい…どのくらいだろう?
割と?」
自分のこととなると少し自信が無いのか、ウィリアムはカイムに説明を求めるように視線を向けた。
「ウィリアムさんは密偵として危険と隣り合わせの任務についています。しかも密偵ですので単独行動が基本です。それでもこの歳になるまできちんと命が繋がってるのは身体回復魔法がそれなりに使えるから、と言って差し支えないかと」
「だ、そうです」
「………なるほど」
表情に出さないように気をつけたが「あれで?」という言葉を飲み込むために少々時間が必要になってしまった。
あの感じで身体回復の使い方が上手い方らしい。
そうか、という以上の感想が浮かばなかった。
「あーあとアレだ。
カイムの姪っこちゃんがジャナンナの辺境の学校に留学してんだけどな」
「あぁ、そちらの方がわかりやすいかもしれませんね。
うちの姪っこは手前味噌ではありますが、この国の基準ではかなり優秀と言われています」
「かなり優秀ってか、神童扱いだなぁ」
そういえば、そういった前評判で入学し、挫折していった学友を何人か見た覚えがある。
故郷ではかなりの腕であっても中央では…というパターンはかなりあった。
以前、水魔法が心のよりどころの留学生に侮辱され、相性の悪い火魔法で相手の使った水全てを蒸発させてやった覚えがある。彼は今頃どうしているだろうか。
「えぇ。かなり優秀な8歳です。
が、それでも光・水・風の三要素と身体魔法が僅かに使えるのみです」
「使える要素が多いからといって優秀とは限りませんが…」
全属性が使えるからと言って研鑽を怠っては、どこかの球体と同じになってしまう。
「では魔力量の話をしましょうか。
神童と呼ばれる姪が一番得意なのは風魔法です。ですが、彼女が全力でやって出来るのは精々犬小屋を風で吹き飛ばす程度でしょう。
しかもそれをやってしまうと倒れてしまいます」
「ま、まぁ…幼い内は魔力の使い加減がわからないことも多いですから」
「気を遣わなくて結構です。
中央の学園にいた貴方であればそのくらいで倒れるなど信じられないことでしょう?」
「…こちらの魔法がどのようなモノかよくわかりましたわ」
カイムの姪の話題には言及しないでおいた。だが、この国の魔法がどのようなものかはよくわかってしまった。
「言葉を飾らず言えば、私は規格外ということになりそうですね」
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明日も12時頃更新予定です。




