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「参ったね…。やっぱりそういうカンが働くのって過酷な環境で揉まれてきたから、かなぁ?」
「…どういう、意味です?」
嫌な汗がツウーッと背中を流れていった。
もしかして、という疑念が膨らんでいく。
表情を見る限り、おじさんは多分敵ではない。それでも、返答を間違えればあっという間に敵に回る相手な気がした。
今は相手の出方を探った方がいいだろうと判断して言葉を待つ。
自分の心臓が大きく跳ねているのが感じられた。
「君はかなり頭が回るみたいだし、回りくどいことやめるわ。
俺は鑑定スキルが使える。
だから、君の本名も素性もわかっている。なんなら使える魔法とかもね」
「鑑定…スキル…」
鑑定魔法では無いのか、という疑問はあったものの、概ねおじさんの言いたいことは理解してしまった。
ルイの知る鑑定魔法は、魔力を使わないと相手の才能などを見ることができない。スキル、というのは恐らく魔力を使わない、もしくは常時発動しているようなものなのだろう。
目の前のこの人は、いつでもこの首を国に差し出せる人だ。思わず後ずさりしそうになる体をなんとか押し止める。
やろうと思えばいつだってできた。こうやって真実を話さなくても良かった。
しかし、おじさんはわざわざ情報を開示してくれた。その意図をきちんと汲まねばならない。
「こっちの国ではスキルって馴染みが薄いんだっけ?
あ、誓って言うけど見ようとして見たわけじゃないんだ。死にかけて朦朧としてたときに見えちまったんだよなぁ…そこに関してはすまないと思う」
「…それが事実かどうか確認する術はこちらにはないのですが」
それでも疑う理由は特に無い、と続けようとしたところでおじさんが言葉を続けた。
「ルイーゼ・ガルニエ嬢。称号は王子の"元"婚約者。魔法の才はどれも天才級だが水魔法のみ適性が薄い…って感じで信じて貰える?」
見た目や会話だけでは知り得ない情報が羅列される。
正直なところ、称号については大分文句を言いたい。誰だ、そんな黒歴史を称号にした奴は。
「…個人情報を暴露されなくても鑑定スキル…でしたか?
それをお持ちなのは疑っておりませんでしたよ」
「え? あ、そうなの!? ごめんごめん」
「まぁ…いいですけれど。
それで、要求は弟子となり貴方の駒になれということですか?」
そんなものはゴメンだが、現状おじさんに従う以外の選択肢がない。
弟子をとれるだけの実力のある冒険者と、出奔してきただけの公爵令嬢では勝負にすらならなかった。ここで断れば彼のネットワークを駆使して出国を妨害されるだろう。その後待っているのは、おそらく碌な未来ではない。
であれば大人しく数年捧げるほうがまだマシだ。
彼が何を望んでいるのかはわからないが、ジャナンナ国外に出てしまえば最悪逃げ出すことも出来る。
それに、おじさんはそこまで悪人に見えない。
自分の料理を美味しそうに食べてくれた人を悪人と思いたくないだけかもしれないけれど。
「駒…いやまぁ…悪い言い方をすれば駒か…?
順を追って説明するな」
おじさんの鑑定スキルで見えたものは、とんでもない高レベルの魔法の数々。
その中でも付与魔法がかなり高い点が気になったらしい。
「そりゃあ、努力しましたもの」
「ジャナンナが攻められないわけだよ。君に及ばないながらも魔法のスペシャリストがごろごろしてるわけだろう?」
「実戦ができるかどうかは別問題ですけれどね。
それで? 付与魔法のレベルが高いことの何が問題なのですか?」
「付与魔法ってそちらの国ではあまり重要視されていないのが不思議なんだよな。
付与された装備一つで誰でも魔法が使えるようになる。もちろん、元々の魔力が低ければどうしようもないけれど、そんなものは訓練次第だ。
付与術士を一人抱えるだけで国の兵力がどれだけ増強されると思う?」
簡単な付与であってもバカには出来ない。
例えばレベルの低い火魔法であっても、戦闘中唐突に使えば脅しには十分。相手に隙ができれば剣で斬りかかれば良い。
そうでなくても、火起こしの種火にだって使えるし、暗い場所での灯にだってなる。様々な必要物資の運搬をレベルの低い火魔法を付与した装備で賄えるのだ。
そう考えると確かに侮ってはいけない。
「魔法も万能ではありませんし、対応策もありますが…言いたいことはわかりました。
このまま無防備に商業ギルドに行けば、国に情報を売られるか食い物にされるか…どちらにせよ、あまり良い結果にはならなさそう、ということですね」
「うん、そういうこと。
そしてそれは冒険者ギルドにとってはあまり嬉しくないことなんだ」
おじさんの言いたいことが見えてきた。
国に売られる前に、冒険者ギルド所属にならないか、ということだ。
ダリアムはダンジョン大国であり冒険者の国だ。冒険者ギルドの権力もそこそこ強いはずだ。それが後ろ盾になってくれるのであれば有り難いことではある。
「俺はダリアムの冒険者ギルドの密偵だ。
普段は一応普通の冒険者としての活動もしている。けど、本来の仕事は不正を働いたクラン…パーティ連合とでも言えばいいかな? そういうものの摘発だよ。
と言っても、今はこのザマなんだけどね。ほとぼりが冷めるまでは普通の冒険者をやっとくしかない。面が割れちゃったからな。
だから、君を密偵に付き合わせるつもりはない」
「密偵に付き合わせるつもりと言われたら一も二もなく逃げ出しましたけど、そういう事情であればまぁ…。
それでも、よくわかりませんわ。
何故私を助けるようなマネを?」
心からの善意というモノを、ルイはあまり信じることができない。
明確な利害関係でないと人は動かない、と思っている節がある。そもそも、他人を信じること自体ルイには少し難しい。
今まで信じられた人などいないからだ。
「飯と命の恩人を見捨てるのは気分が悪いってのと…。
商業ギルドに行かれるよりは、冒険者ギルドでその付与道具売って貰えるといいなってところだな。
軍事利用されるよか冒険者の手に渡る方が俺としては嬉しいってだけの話」
「そうですか。私が弟子になることで、おじさんにも明確な利益が出るのであれば信用できそうです。
完全な善意だけだと、どうしても疑わしく感じてしまうもの」
おじさんにとっての利が明確になった。
商業ギルドではなく、冒険者ギルドに付与道具を売ればそれがおじさんの利になるらしい。事情が事情なのもあり、多少商業ギルドより買いたたかれることになるだろう。しかし、それで冒険者ギルドに恩を売れるのであればコチラとしても悪くは無かった。
「んーそう言われると複雑だなぁ。
出来ればね、信頼関係を結びつつ保護させて欲しいんだけど」
「…一応、信用できるとは思ってます。
少なくとも面識のない商業ギルド相手に一か八かの賭けをするよりはよっぽど良さそうですね」
「じゃあ、登録しにいく、で構わないな?」
「えぇ。よろしくお願いします。
なんならこれから師匠と呼んだ方がいいですか?」
「…ガラじゃないなぁ…。まぁウィリーさんでいいよ」
そういってウィリアムは複雑そうな内心を表すような苦笑を浮かべた。
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