もちろん、貝寄風。
「呼び出された理由は分かるか。」
ラスア語準備室と書かれた札の下がった扉を開け、ソファに座らされるや否や問いかけられる。どう考えても遅れた事が原因だけれど、特に時間指定されておらず、その上アルに引き留められていたのだから仕方ないだろう、なんて言える訳がない。入学早々学院の不手際だと喚く訳にも、殿下の責にする訳にもいかない。
「講義へ遅れてしまい、大変申し訳ございません。」
アルはソファにゆったりと腰を掛け、ただ前を見る。
何も話し出しそうにない様子に焦れたのか、教諭がアルへと厳しい視線を向ける。
「殿下はどう考える。」
「何か問題がありましたか?」
「何だと」
「時間を定められていなかった。それなのにそれが理由で呼び出されたとなれば、まるで己のルールに従わない者は処罰する独裁者だ。僕らがそんな事をした時には下手をすれば革命が起きる。数多くの子供の学舎ともあろう学院の教師が、そのような判断もつかないとは思えない。だから僕には心当たりがありません。」
口を開いたかと思えば、喧嘩を売った。
アルの言葉を聞き、眉間をマリアナ海溝へと変化させた教諭にどうしてか申し訳なさを覚える。
「…成る程。何か勘違いをしているようだが、学院においては教師の方が目上となる。気を付けよ。」
「僕が話した言葉を理解していないみたいだね。理解力が乏しいならそう仰って下されば良いのに。」
「アル、正論は必ずしも正解じゃないよ。」
「……もう結構だ!二人共出ていきなさい!!」
アルを諌めたのに、文句を言う暇も与えず一緒に追い出され、廊下で顔を見合わせる。
「レフティ先生も勝手だね、呼び出しておいて。」
「仕方ないよ。アルが怒らせるんだもの。」
「イヴも怒らせてたよ。」
「俺はアルを止めただけだよ?」
「さすがに白々しい!」
「自分でもそう思う。ごめん。」
「…こちらこそ、先生を怒らせてごめんね。」
お互いに謝った後、何だかおかしくなって笑いあった。前向きに考えれば、たった一人に嫌われたところで大して痛くもないし、罰を言い渡されるよりマシだったかもしれない。今更何を言ってもどうしようもない。なるようになるだろう。
「暇になったね。」
「執務とかはないの?」
「まだ10歳だよ?さすがに任せてこないよ。下手に手を出して王位簒奪戦に参加したくないし。」
到底10歳の発した台詞には思えないが、王族とはそうでなければ生き残れないのだろう。何もしなければ穀潰し、何かすれば命の危機、前者は民から白い目を向けられ、後者は頑張っているにも関わらず死と隣り合わせでは割に合わない。
「頑張ったね。お疲れさま。」
哀れむのも違うかと無難に労いの言葉をかけると、アルは目を丸くし、泣きそうな顔で笑った。彼の苦労は計り知れないけれど、在学中ならば愚痴位は聞こう。
帰りは各々迎えに来た馬車に乗り下校する。
後少しで泣きますといった顔をしていた王子様にハンカチを渡して、あれこれ男女逆では、いや今は関係ないか、でも見ようによってはアルが女の子みたいだしどうなんだろう。いや、ないか。とひとりごつ。
一人目は失敗したが、他の教諭とは親しくなれるよう願いながら本日配布された教科書を眺めていると、なぜか寒気を感じた。もう春なのに冷えたのかなと開けていた窓を閉め、床に就く準備をする。季節も暦も日本と似ているのに、外見や文化の違う世界。どこか空想の世界に紛れ込んだような感覚が抜けないのに、つねった腕は痛い。冷えた肌を布団でくるみ、朝を待つ。魔法なんていらないから、家に帰して欲しいと思った。
いい苺の日ですね。
苺は風邪予防や疲れ目にも良いみたいです。
作中とは違い寒さも続いておりますので、皆様ご自愛くださいませ。




