もちろん、入学。
学院前の喫茶店で、クリスと軽めの昼食を兼ねたお茶を楽しみ、合格者の氏名のみ掲載した羊皮紙が貼り出されている掲示板の前へと向かう。
左から成績順に記された氏名を視線で辿ろうとし、最初にイヴの名を見つけ困惑する。予想以上に良い結果だ。何も学年首位でなくとも、学年30位以内であるか、何らかの研究成果を残すなりした者が希望した際に、飛び級やら早期卒業が出来るようになっている。次に王子の名が続いており、今後の苦労を思うと涙が出そうだった。どうか面倒な王子ではありませんようにと願うばかりだ。昨夜、父に伺った所“少々自己顕示欲ならぬ王族としての誇りを持つ大変高貴なお方”と言われた為、期待はしていない。
目頭を揉んで、一息吐く。それから、クリスの名前を探すが見つからない。もう一度左から一つずつなぞるように見ても、無い。ちらりとクリスを覗くと、泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。
「どうしよう…どうしようイヴ!」
「えっと、どうしよっか」
「終わった……。来年頑張るしかないのかなぁ。でももう援助は終わりだし本当にどうしよう。」
「援助?」
「私の家ね、あんまり裕福じゃなくて、受験する為の勉強する余裕もなかったの。だから一度だけの約束で挑戦したんだけど…分不相応だったみたい。」
そんなことないよ、とは言えなかった。
受験は運と実力が試されるし、ここで家やお金の力使ってコネ入学させても喜ばないだろう。
「ごめん。野暮だけれど、家柄や、話せるなら爵位とかも聞いていい?」
「えっ。いいけど…家柄は没落貴族の平民。爵位は子爵。代々雪魔法が得意なんだけど、世渡りが下手で、王族の不興を買って没落。資産は没収されなかったけど、元々弱小貴族だったから蓄財もなくて、みたいな感じ。」
「そっか。うん。話してくれてありがとう。」
クリスの話を聞いて確信した。
これは、何とかなるかもしれない。
王族の不興を買った元弱小貴族ならば、父にとって敵の敵は仲間だ。交渉の余地はあるだろう。
「ねえ、クリス。」
「何?」
「一年後さ、もう一度受けたい?」
「それは、出来るなら勿論。」
「まだわからないけど、僕が君に勉強を教えて、試験までサポート出来るかもしれない。」
さすがに自分の事を疎かにしてまで助けると怒られそうだし、爵位からして順調に育てば王女の婿になる可能性もあるから貴族としての教育も欠かせない。それでも、ここで出会ったのは何かの縁だ。
「有り難いけど、イヴはイヴで大変でしょ?」
「それはクリスの理解度次第かなー」
「イヴ!!もう。…それ期待してもいいの?」
期待して叶わなかった時の不安からか、眉を下げてこちらを見るクリスが豆柴のようで撫でまわしたくなった。猫派だけど、前は犬アレルギーで触れなかったから余計に撫でたい。顔つきは少し吊り上がった目に、スッと高く通った鼻、小ぶりで薄い口、とともすれば冷たそうにも見えるのに、話せば柴犬。このタイプに覚えがある。そうだ。社会人になって後輩にモテるタイプだ。
「お父様に話してからになるから、ちょっと待ってほしい。」
「わかった。連絡先は、うーんどうしよ。」
「心配なら来週の12時に喫茶店でどう?」
「そう、ね。それしかないか。またお願いしてもいい?」
「勿論!」
「諸々、お願いします!」
「いえいえ。また来週宜しくね。」
心の中で目の前の豆柴を愛でつつ、約束を取りつける。貴族と平民ともなると、連絡先の交換さえ簡単には出来ない。手紙がすり替えられたり、貴族へのやっかみが平民へ及ぶ可能性が高いからだ。非常にスマホが欲しいけれど、構造の想像さえ出来ない上に、魔力以外の電力が普及していない世界に適応した形態のスマホとなると、等と考えては断念する。下手の考えにしかならない。
屋敷へ帰り、合格報告をすると兄や母は手を上げかねない勢いで喜んだ。平常通り無に近い仏頂面を引っ提げてくいと口角を上げる。その勢いのまま、食事後に時間を貰えないかとお願いすると、今日は時間がないからここで話せるなら話せと言われ、クリスと出会った事から助けたいと思っている事、勉強は私が見るので援助願えないか、と伺えばあっさり許可された。父からは友人は大事にしろと言われ、母からは生暖かい笑み、兄からは憮然とした表情を向けられるという三者三様の返答を頂いたが、気にせず自室に戻る。
入学準備は貴族の次男らしくお任せし、クリスに会える日、再来週の入学式を楽しみにベッドに入る。こちらの家族は温かい。居場所がある安心感と、心を預ける怖さ、これからに思いを馳せていたらいつの間に寝ていたのか朝になっていた。




