姪 no Duel!!
青き修羅が走る。降り注ぐ赤い炎の雨を左右に避けつつ、避けきれなかった邪魔な炎を水を纏った剣で剣士は斬り裂いて進む。その瞳に映るのは狂喜する魔女。その唇に浮かぶのは嬉々。
赤き修羅が走る。その手に持つ杖から数多の炎をうみだし青い剣士へと放ちながら、魔女は剣士に負けず劣らずの機敏さで岩山を飛び越えていく。その瞳に映るのは鬼喜する剣士。その唇に浮かぶのは歓喜。
白き詩人が走る。いや、発熱する二人のバトルに巻き込まれ、その余波で吹っ飛ぶ。ところ構わず降り注ぐ炎弾の雨と、その中を縦横無尽に走りながら炎を消し去るために放たれる水弾の雨とがぶつかり合い、あちこちで水蒸気爆発が引き起こされる。安全な場所はどこにもなく、かといって2人のバトルを見届ける義務があるために逃げる事も叶わず。その双瞳に映るのは修羅と化した剣士と魔女。その唇に浮かぶのは引きつった笑い。
リアルの時刻ではもうそろそろ夕方になる頃。日差しが少しずつ弱くなってきて、食材の買い出しに行きたくなる時分。しかしこちらの世界での時刻はまだ明け方。
青き修羅ことセンねぇちゃんと、赤き修羅ことマリリンが後光を背にして激しくぶつかりあっていました。白熱バトル中です。
但しそのバトルの中に白き詩人こと俺ちゃんも含まれています。2人の決闘は、その決闘を見届けている俺ちゃんをいれたバトルロイヤル形式で行われていました。
リアルの俺ちゃんを取り合ったササメさんとリンネちゃんは――実際には俺は全然関係無くて、短剣の修理する権利を取り合ってただけですけど――リンちゃんの提案によって決闘する事になりました。
但し、リアルで戦う訳にもいかず――剣道してるササメさんが100%勝っちゃいます。体格的にもハンデありますし――かといってオンラインで勝負付けるにしても今現在ササメさん達はスリフィディアを持ってきてません。持ってきていても2人とも昼間にログイン出来るだけの余剰時間がありませんので無理です。それに、仮にオンライン上で戦ったとしてもやっぱりササメさんが圧勝してしまいます。リンネちゃん弱いんだね。
んで、どうなったかと言いますと、こうなりました。
リンちゃんとチーちゃんが代理バトルする事になりました。俺がコツコツ貯めていた余剰時間を使って……。
この勝敗の行方が、俺の持つ短剣を修理する人が決まります。リンちゃんにベットしたのはリンネちゃん、チーちゃんにベットしたのはササメさん。どちらにも通じるものがあるのでしょう。リンネちゃんは同じリンちゃん繋がりとして、ササメさんは剣士繋がりとして。
ただ、それだけではバトルする当人達のご褒美が無くて張り合いがないという事で、何故か勝利者には俺との1日デート券が授与されることなりました。勝った方には俺ちゃんが大人の財力を見せつけるかの如く色々と買ってもらえるそうです。あれあれ、俺ちゃんの意思は何処にあるのかな? 何処にもありませんでした。
ん~、俺へのご褒美はあるのかな? デート出来るだけで十分でしょうと言われました。あ、デート券ってバトルするリンちゃんチーちゃんだけじゃなくて、その二人に賭けているリンネちゃんササメさんも含まれてるんだ。ちなみにユキちゃんは無条件でデート券ゲットだそうです。今は夏休みですからね。どこかへ遊びに連れて行く口実が出来て少しだけ気が楽です。
とりあえずそんな訳で、リンちゃんもチーちゃんも物凄く気合いが入っています。実は俺とのデートはどうでも良くて、何か買って欲しい物があるみたいです。だから本気です。マジバトルです。こりゃ負けた方のフォローも何か考えておかないと駄目そうだなぁ。
「なかなかやりますね、マリリン。まさかソロの魔法士が剣士に対しここまで戦えるとは思ってもいませんでした」
「センねぇこそ、予想以上だよ。まさか私の開発した超広域殲滅用の無差別業火弾幕法術をここまで防ぐなんて。センねぇじゃなかったらとっくに殺られてると思うよ」
「……何ですか、その物騒な法術は。いえ、改めて思い返してみますと少し非常識が過ぎる法術でしたね。いったい何をしたら可能なのです?」
「え? カズねぇが毎日量産してる、決して世の中には出せないプチポちゃんシリーズだけど?」
む……何だか最近プチポちゃんの在庫数がおかしいな~と思ってたんですけど、犯人が自白しましたよ。あれ、材料費は確かにほとんどタダだけど、俺ちゃんの労働力が費やされているから全然安くないんですよね。容易く作れる訳じゃないんですけどね。
「まぁこれって効果が切れた後のペナルティがあまりに酷いから、こういう時じゃないと使えないんだけどね~」
「道理でいつまで経ってもマリリンのMPもSPも尽きてくれない訳です。まさかそんなカラクリがあったとは……」
「ちなみに今使ってるの、ペナルティ時間が約1万5千秒近くあるやつね。だいたい3時間ぐらいのやつ」
「くっ……その手がありましたか。まさかお勉強タイムを利用するとは」
「そういうこと~♪」
ちなみにマリリン、計算間違ってます。1時間は3600秒だから、その数値だと約4時間ですよ。お勉強タイムは3時間ですから、ペナルティ1時間分はほとんど何も出来なくなっちゃいますね。
「でも安心して。HPが回復しちゃうのは使ってないから」
流石にそれを使うと最強になっちゃいます。無双出来ちゃいます。いや、マジで。
「効果時間はあとどのくらい残っているのでしょうか?」
「別に言ってもいいけど、絶望するだけだよ?」
「……少なくともこの決闘が終わるまでは確実に保つという事ですか」
一応時間制限があります。その場合の勝敗は残りHPの%になってます。いまのところセンねぇちゃんのHPの減り具合が多いですね。とは言っても、魔法士のマリリンはHPと防御力が低いので攻撃を受ければ簡単にひっくり返されますけど。
「あー、そろそろ決着をつけてくれると助かるんだが。そろそろ買い物に行かないと今晩のメニューが寂しい事になるぞ」
お客さんもいる事ですしね。なんだかそのまま晩御飯まで居着く気満々でした。主にリンネちゃんが。毎日の炊事をしているのはササメさんらしいけど。
「ステーキ!」
「ハンバーグ!」
メニューの希望を聞いた訳じゃないんですけど。
ちなみにリアルでは2人とも俺ちゃんの身体に抱き付いた状態でログインしています。スリフィディアの特性上、相互にやりとりするには双方のスリフィディアを近づける必要があるからです。
先にも説明したように、2人は俺ちゃんのログイン余剰時間を使用して今現在ログインしています。時間譲与は豪華特典版スリフィディアじゃなくても出来ますけど、家族限定でしか出来ないそうです。
時間譲与するにはオフラインモードで一度スリフィディアを立ち上げ、待機モードにして譲与したい相手のスリフィディアに近づけておくだけで出来ちゃいます。その際、譲与する側はスリフィディアを身に付けておく必要はありません。だから2人が単に決闘するだけなら俺ちゃんはわざわざログインする必要はありません。それでなくとも残り少なくなっちゃってるのに……。
では何で俺もログインしてるのか。何でリアルで姪2人に抱き付かれた状態にあるのか。そんな羞恥プレイを、リアルのお客さんを放置してまでしなければならないのか。
裏取引や不正が行われていない事を確認するために、実際の戦闘風景を撮影したものを当事者たる2人が見たいそうです。しかもその映像は第三者の目によって撮影されたものが望ましいとのこと。実際に戦っている2人の視線では何が起きたか分からないまま決着がついてしまう可能性があるため却下だそうです。
なので、俺ちゃんが駆り出されました。猫ちゃん達も含めて男女比が完全に傾いてしまっているため拒否しきれませんでした。また家の中での勢力図が書き換わりそうです。今度は外部勢力まで手が伸びてきましたよ……。
んで、俺ちゃんもダメージを受けて死ぬ可能性があるバトルロイヤル形式で2人が決闘を行っているのは、その形式でないと撮影者である俺は2人と同じフィールドにいられなくなるからです。撮影が出来なくなるからです。
ちなみに撮影といってもリアルには映像データを送れません。記録映像をサーバー内に残し続ける事も外に取り出す事も出来ません。出来るのは、撮影した映像データをフレンドにメールに添付して送る事と、メールを開いた瞬間のみ見る事だけです。しかも撮影出来るのは特典版スリフィディアを購入した人限定です。
何故だか妙にプロテクトが堅かったりしますけど何ででしょうね? 今更ですけどね。 ほんと、メイド社って謎だらけだなぁ。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
「水閃雪花!」
「プチバーニングプラズマ!」
水の剣士の呼吸を読んだ炎の魔女が眼前の空間に灼熱の球体をうみだす。
出鼻を挫かれた剣士が方向転換。視界に再び魔女の姿を映し、次の攻撃用に剣へと力を注ぎ込む。完了と同時に下段に構え、標的へと向けて再度方向転換。疾走を邪魔する牽制の炎弾を舞うように斬りながら徐々に魔女との距離を縮めていく。
魔女は剣士の前進を止められない事を悟り、一時牽制の炎弾を放つのを止めバックステップを繰り返して詠唱時間を稼ぐ。完成と同時に力を放出。炎の壁が地面より吹き上がり辺り一帯を赤く染め上げた。
だがその炎の壁に剣士は迷わず突っ込み、矢のごとく弾丸のごとく走り抜ける。直前に全身を水の衣で守りはするも、その顔や腕には生々しき黒い焦げ痕がうまれ、一定時間のバッドステータスを受けた事を物語っていた。
構わず、剣士は跳躍。逃げる魔女を斬るために刃を振るう。水の膜によって攻撃範囲が拡張された刃が、逃げ遅れた魔女の二の腕に命中。赤い血が飛び散るエフェクトが発生し、魔女のHPを削り取る。
炎の魔女は虎の杖を掲げ、その口に収まっている赤い宝石より火の玉を発生させた。詠唱を必要としないアイテムによる攻撃。威力は低いが、ほぼノータイムで放つ事が出来てしかもノックバック効果と若干の硬直効果を持つ。
先程から繰り返されているパターン。肉を斬らせて骨を断つ。回避不能の零距離で攻撃を受けた剣士が体勢を崩し、その隙に魔女は逃げながら追撃の炎弾を無数発生させて剣士へと撃ち込む。1桁ダメージが羅列し、連続ヒット回数を重ねるごとに連撃ボーナスによってダメージ量が少しずつ増えていく。
一瞬の硬直時間が終了した瞬間、青い軌跡が無数うまれ剣士の間合い内にあった炎弾が一瞬にして霧散。
だがそのタイミングを狙っていた魔女は、剣閃の更にその周囲に無数の炎弾をうみだし、一斉に殺到させる。剣閃の間合い内に入る前に炎弾は爆ぜ、全方位から剣士に爆風が襲い掛かった。
水の剣士は冷静に大地へと剣を突き立て、地面より自らの身体を包み込む水柱を発生させる。それにより爆風による風と炎の暴力は水柱の勢いで上へと流され消滅。後には水も滴る良い美少女がその場に残った。
魔女はその間に距離を取り、次なる攻撃の下準備に入る。
見た目には魔女が優性だった。しかし、たった一撃受けただけで魔女のHPは大きく削られている。反面、時間と共にHPが徐々に回復するスキルを持っている剣士は、魔女がいくら微少ダメージを重ねようともあまり気にしていなかった。
だが剣士は微塵も油断はしていない。何故なら、一撃の火力で言えば圧倒的に魔女の方が上だと知っていたため。
剣士の知る魔女の気性は、こんなねちねちした攻撃を好むようなものでは決してない。一言で言うなら、蹂躙暴殺。周囲一帯を焼け野原に変えてしまうぐらいに力を無駄使いし、その瞳に映らないものですら無差別に暴力を振るって燃やし尽くす。
たまたま近くにいたという理由だけでその犠牲になった者は数知れず。例え生き延びたとしても、生きてさえいれば攻撃を加えてきた相手に襲い掛かっていくモンスター達の大群についでとばかりに襲われ、二度目の死線をくぐる羽目になる。剣士はその惨劇を最も多く見てきた。
「水刃剣!」
そんな大火力による攻撃を行わせないために、剣士は常に前へと出て魔女に詠唱する時間を極力与えないように動く。距離が開きすぎれば最も早い遠距離攻撃技を放ち、それと同時に当たりさえすれば必殺の威力を秘めている技を叩き込むために多少の無理をしてでも接近を試みる。
「フリージングプチプチダスト!」
その意図を当然知っている炎の魔女は、今度は水の剣士にとって対処のし辛い法術で迎え撃った。先端が尖った氷の礫は水の防御壁では防ぎきる事は出来ない。得意系統の法術ではないため威力は低かったが、当たっても水の膜で威力が削がれる炎弾とは違い、その氷礫は当たれば少なからず衝撃が発生し剣士の動きを阻害する事が出来た。
「プチファイア!」
加えて、炎の法術を行使して氷礫を攻撃すれば、魔女は好きな場所に好きなタイミングで水蒸気爆発を起こす事が出来る。真正面ではなく横殴りに襲い掛かってきた爆風に剣士は吹き飛ばされ、少しの間だけ前進を断念。
再び剣士は地面を走る水の刃を発生させた後、斜め横へと疾走し魔女の注意を2方向へと分ける。魔女に時間を与える羽目にはなるが、一撃必殺の恐怖を知る魔女は剣士自身への対処を疎かにする事は出来はしない。
先に迫ってきた水刃を回避しつつ、魔女は剣士とは逆の方角へと逃げる。
だがそれは剣士の罠だった。
水刃が向かってきた線と剣士が走り向かってくる線が90度に交差し、逃げ道を岩山へと誘導された魔女が岩山を小さく飛び跳ねながら登る。その魔女の眼下に剣士が到着。岩を崩し、炎をうみだし、岩と炎の雨を剣士へと降らす。
その攻撃を、剣士は剣を一度帯刀した後、真上に向けて鋭い一閃を放ち邪魔な障害を蹴散らした。そして追撃がやってくる前に岩山を駆け上がる。一直線に、重力を無視するかの如く。
剣士は岩山を跳ね飛び、魔女の高度まで一気に昇る。魔女が杖に炎を灯し、眼前の中空に現れた剣士へと叩き付ける。剣士はその攻撃を柔らかく受け、下方へと弾くと共にその反動で発生した力を自らの滞空時間を僅かながら延ばすために使用。そのまま魔女の身体へと刃を走らせた。
魔女が頭を下げ紙一重で斬撃を躱す。逃げ遅れた髪が風に流され、視界から消えると同時にこの世界からも消滅。左右で長さのバランスが崩れた横髪に魔女はムッとしながらも、続く斬撃から逃れるために身投げする。迫り向かってきた剣を杖で弾き、重力加速に追加の加速を得て直急降下。地面に到達するよりも先に放っていた炎弾が爆ぜ、爆風を利用して減速および方向転換を行う。追ってくる剣士への置き土産も当然忘れていなかった。
剣士が岩山から超跳躍。赤いマントを広げ空を滑るように飛翔して逃げる魔女に、太陽を背にして背後から斬り掛かる。だがその剣士へと向けて、魔女が通り過ぎた後の空間に浮かんでいた灼熱の玉が行動を開始。まるで感知魚雷の如く剣士へと殺到。たまらず剣士は水の盾で防ぐ。
軌道を変えられた事で剣士は追撃を断念。代わりに水の盾を手裏剣代わりに投げ付ける。予想外のその攻撃に、魔女は回避しきれず負傷。風を受けていたマントも斬り裂かれ、急激に高度を落とし地面へと激突した。
それを好機と見た剣士が決着を付けるために再度跳躍。剣先より水を放出し竜を作る。水竜は大きく口を開け、剣士よりも先に魔女の元へと向かう。
次の瞬間。遂にその2人の戦いに決着が着いた。
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