巫女侍 no School girl
「あなたはカズミ殿でしょうか?」
突然、そんな事を聞いてきたマナー違反の女子高生のお嬢さん。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は皇和己という。表札に書いてある通り和己で間違っていないが、それが何か?」
本邦初公開。俺ちゃんの名前です。そう……つまり俺ちゃん、リアル名とオンライン名が同一だったりするのです。
なんでそんな事をしてるかって? 犯人はもちろんリンちゃん達です。キャラメイクはリンちゃん達がしちゃいましたからね。勝手に決められてました。俺の名前、男女共用で通じちゃう分、そこがまた面倒な事になってる理由にもなってるんですけどね。はぁ……。
まぁそれはそれとして、努めて冷静に俺はそう返しました。まるで何の事だと言わんばかりにです。ぶっちゃけ、誤魔化しました。
「カズミ殿……ですよね?」
「俺の名前は和己だな。親からもらった名前だ」
「いえ、そうではなく……」
姪3人衆猫3匹衆と一時休戦して居住まいを正す。まだ名前も知らないお嬢さんも同じ様に居住まいを正し、正座致しました。その前には長袋が置かれます。
俺ちゃんもその前に正座しつつ、チーちゃんに目配せしてあるものを取り寄せます。
「ルールは分かっているな?」
「? この家の流儀は分かりませんが、これに勝てば私の質問に正直に答えてくれるのでしょうか?」
俺はにやりと笑う。その後ろでは姪3人が次の対戦相手の座をかけてじゃんけん勝負していました。
「最初はグー、じゃんけんポン!」
勝負は一撃で決まってしまいました。お嬢さん、早ぇ……。
「では、答えて頂きましょうか」
神速の如く剣を振り、じゃんけんで負けた俺に強烈な一撃をくらわせてくれたお嬢さんが柔らかい笑みを浮かべてそう言ってきます。柔らかい笑みってところが凄く怖かったです。まさか鍋の蓋を掴む事すら出来なかったとは。
え? 一体何をしてるのかって? なんかお嬢さんの佇まいがそれっぽかったので、叩いて防いでじゃんけんポンをしてみました。遊び心は大事です。
「その前に、私も自己紹介がまだでしたね。改めまして、私は東雲彩華と言います。メイドオンラインではササメと名乗っています」
お嬢さんは淀みなくそう言って自己紹介してくれました。
え~と……まさかの展開? それともずっと気付かないようにしていただけ?
「私はメイドオンラインではササメと名乗っています」
二度言われた!?
「観念して吐いてもらって結構です。リンちゃん達とは既にリアル割れしている仲です」
……聞いていなかった事にして口笛吹いちゃいましょう。ピーヒャラピーヒャラ、パッパパラパー。
「頭を強く撃ちすぎましたか……ならば、もう一度ショックを与えれば……」
「リンちゃーん、チーちゃーん」
「ん? なに、おじさん」
「はい?」
ちょいちょい、こっちきなさーい。じゃんけんゲームはまた後でね。ウェルカムでーす。ウェルカムDEATH。
可愛い悲鳴が2つあがりました。
「さて、次はお嬢ちゃんの番か。記憶を消すには、やっぱり斜め45度でチョップを入れるのが一番か?」
「あまり冗談が過ぎますと、今度は本気で叩っ斬りますよカズミ殿」
ササメさんの目がキラン。うっ……この目は剣士の目だ。リアル剣道少女さんっぽいです、ササメさん。
「もう一度聞きます。本当にカズミ殿ですか?」
「本人だ。リンちゃん達から聞いてるなら別に聞く必要はないと思うが?」
「確信はしていましたが、やはり本人の口から聞きたかったので」
「そうか……だが、出来れば確信していても知らぬ振りをして欲しかったな。お嬢ちゃん、マナー違反だぞ」
「申し訳ありません。疑念を抱いたままでいるのはどうも落ち着かなくて。例えどの様な結末になろうともハッキリさせておきたい性分なのです」
後になって後悔するよりも今後悔する方が良いというタイプですね。リンちゃんと同じ攻撃型です。流石に猪突じゃないとは思うけど。
「あと、こちらの世界では彩華と呼んでもらって構いません」
「分かった、彩華」
「呼び捨てはすみませんが止めて下さい」
注文多いね、ササメさん。あと、そんな眼で睨まないで下さい。ゾクゾクしちゃいます。
「リンちゃん達とリアル割れした経緯を聞いても良いか?」
「はい。たまにチーちゃんがラジオ体操後に向こうの世界でのユーザー名でリンちゃんを呼んでいたのを聞いたからです。加えて、リンりゃんの言動振る舞いがマリ―ベル殿と似ていた事でしょうか。決め手はユキちゃんへの質問の解答によってです」
「ユキちゃ~ん」
「はいですの。なんですの、おじさま」
もう一つ、可愛い悲鳴があがりました。
「カズミ殿は、本当に男性の方だったのですね。お二方より聞いてはいましたが、今日に至るまでずっと信じられませんでした」
「まぁそうだろう。普通は性別を弄れないからな。あれは特殊な事例が重なった事によって起きたバグだ」
「その点を詮索する気はありませんのでご安心下さい。私が知りたかったのはカズミ殿が身も心も男性なのか、それとも身体が女性で心は男性なのか、という点でしたので」
頭脳は男、身体は女! 実際にそういうキャラはメイドオンラインにも若干数いるそうです。その逆も然り。オンライン/オフラインで性別が逆転している例は俺だけだと思うけどね。但し実際に調べた事はないので何とも言えません。
「逆に一つ、聞いて良いか?」
「一つ答えるにつき、私からの質問にも一つ答えてもらえるのであれば」
等価交換です。手を合わせて輪を作り超常現象じみた力を発生させるというあれじゃありません。
「彩華ちゃんは女子高生なのに既に子供を産んでいるのか? 失礼を承知で聞くが、実年齢はいったい……」
さっきのお返しなのか、姪3人衆の半身である猫3人衆がそのタイミングで襲い掛かってきました。
クロヒメちゃんが俺の頭の上から身を投げ出し、髪を掴んでぶら下がります。いてて……。
シェラーリちゃんが頬に猫フックの嵐を撃ち込んできました。ぷにぷに気持ち良いね。
そしてエルフちゃんが得意の魔法を……じゃなくて、俺のお膝でふかふか攻撃を行い、俺を魅了しています。癒されるだけでした。気力回復でっす。
最後に、ササメさんが長袋から竹刀を取り出し……わっ、マジで攻撃してきた。きゃー。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
何となくササメさんとリアルバトル致しました。
「はぁ……はぁ……」
疲れ果てた俺ちゃんとササメさんが仲良く膝をついて酸素を貪っています。
あ、ユキちゃんタオル有難うね。それと、着替えてきたんだ。なんで?
「カズミ殿は……あちらと同じで、防御はからきしなのに回避は物凄く高いのですね。本気で斬るつもりだったのですが、私の剣をここまで徹底的に躱されるとは思いませんでした」
本気だったんだ……いくら竹刀とはいえ、俺ちゃん吃驚なんですけど。
「次の一撃が最後です。これも躱すというのであれば今回は諦めます」
今回は、って。次回あるんだ。というか他人様の家の中で暴れないで下さい。マナーが悪いとか以前の問題ですよ。と言っても、この家ではドタバタするのはいつものことですけどね。主に一番大きな姪ちゃんが。それにいつも付きあわされてる俺ちゃんが。
「行きます」
宣告いりません。来ないで下さい。
あっ……汗でササメさんが足を滑らせた。回避を中断。一撃覚悟でササメさんの身体を受け止めます。お、意外と……。
「すみません……」
「気にするな」
やや屈辱の表情を浮かべたササメさんが、顔を紅潮蒸気させながら俺の身体にしがみつきます。
「大丈夫か?」
「申し訳ありません。力を使い過ぎたようです。まだまだ私も未熟ですね」
本格的に身体を預けてきたので、腰に手を回してササメさんの身体を支える。そのままベッドのある部屋に連れ込も……もとい、休ませるために連れて行こうとした瞬間。
「やっほー。リンちゃんチーちゃん、遊びに来たよー。予定よりちょっと遅れたけどごめんね~……って。こら~っ!! 私の娘にいったい何をしているか~っ!!」
たった三歩で距離を詰めてきた謎の少女が水平に飛び、飛連蹴を放ってきました。
もちろん、クリティカルヒットをいただきましたとも、ええ。歯が折れるかと思いましたよ。顔面はヤバイって。
「んで、この暴漢は誰? 倒して良い敵だよね? それとも警察に通報しとく? 経験値少なそうだし」
突然現れた謎の少女から必殺技をくらいHPを零付近まで減らされた俺ちゃんは床に倒れていました。
その俺の頭を少女がぶみっと踏んできます。とても勇ましい姿です。が、その格好って色々と俺ちゃん有利なんですよね。顔と視線を動かせばアレが見えますし。何より俺ちゃんまだ動けるので足を掴んでひっくり返す事も逆吊りにしちゃう事も出来ます。
でもここは我慢です。下手に出ましょう。周囲の目があるので下だけを見ましょう。
……チラっ。
一悶着あった後、ササメさんと謎の少女をテーブルの向こう側に座らせ、話を聞きました。背後でリンちゃんが俺の口をイーって広げてたので凄く喋り辛かったですけど、聞く分には問題ないため放置でOKです。
「カズミ殿、こちら私の母親で東雲かり……」
「はい、ダウト。ハハオヤ、チガウ。イモウト、オーケイ?」
「うん、今のでもう疑いの余地なくなっちゃった。どこからどう見ても犯罪者だけど、確かにカズミお姉さんだ」
失敬な。誰が犯罪者だ。俺はただ少女を侍らせて喜んでいるだけの普通の人だろうに。
「おじ、さん……クーラー、つけて……いい?」
いつものように反射で昼間のうちはダメと答えたら、あろうことかチーちゃんは服を脱ぎ始めました。あの、お客さんが目の前にいるんですけど……いくら暑いからといってここで脱ぐのは止めて下さい。お客さんの目の色が変わっちゃったじゃないですか。
「粗茶ですが、どうぞ」
今度はメイド服に着替えたユキちゃんがご奉仕モードで現れました。一家に一人は欲しいと思うとてもプリティーなメイドさんです。お客さんの目の色が険悪から嫌悪に変わりました。怒りの色から冷たく凍えるような色へ変わりました。ゾクゾクしちゃいます。
少女が粗茶をズズズと飲んだ後、ドンとテーブルを叩く。
「こんな男に娘はやらん!」
「母上。別に私はカズミ殿とつきあっている訳では……」
「彩ちゃんは黙ってて。あんた、いい年こいて娘に何て格好させてるの。なんて羨まし……じゃなかった。恥を知れっ!」
うーん……少女の言葉がまるで耳に入ってきません。本音が漏れてますよーっとツッコめません。ねぇササメさん。母上って何ですか? もしかして、この少女の名前はハハウエさんというのですか? 変な名前ですね。
「いくら自分の娘だからって、リアルにメイドとしての教育を施すのはやり過ぎじゃない?」
「娘じゃなくて姪だな」
「姪ですの」
「尚悪いわ! 他人様の娘を勝手に調教するなっ!」
別に俺が仕込んだ訳じゃないんだけどなぁ。犯人はこの家にはいません。俺の妹で、ユキちゃんの母親が犯人です。現在その犯人は足取りが掴めず現在地不明でっす。
「さて、ここで一つ重要な問題が発生した。この問題を解決しない限り世界に平和は訪れない」
「あんたを三枚下ろしにして世界から抹消すれば世の中平和になると思うけどね~」
「個の中に一人だけ嘘を吐いている者がいる」
「あんたしかいないでしょ」
「犯人は御前だ!」
「……私ですか?」
まさか自分が指差されるとは思っていなかったのか、ササメさんはきょとんとしていました。まさか自覚がないとは……。
そして俺は指を向ける相手を変える。
「コレ、ハハオヤ、チガウ。イモウト、オーケイ?」
ハリセンが飛んできました。何処に仕込んでたんだろ。
「彼女は私の母です。母の東雲花櫚と言います。あちらの世界ではリンネというユーザー名を使用しています」
「ピピー、ピピー、ガガガ……エラーハッセイ、エラーハッセイ。ソッコク、ゲンインヲハイジョセヨ」
「全ての元凶であるあんたが言うなっ!」
真剣白刃取り失敗。スパーンという軽快な音がもう一回、室内に響き渡りました。顔がめっちゃ痛かったです。




