姪 no Jump
ニューステージへようこそ。これからまた新しい冒険が始まっちゃいます。え? さっき大変な冒険が終わったばかりなんですけど?
「なんでしょう、ここは」
「マリリン、ここマリリンのおうちの中っすか?」
「私んちにこんな広い部屋ないよ。カズねぇ、錬金術で隠し部屋とか作った?」
いや、そんなもの作れませんって。
マイホーム地下のプライベートダンジョン内にあった謎のワープ装置を使った俺達6人を待ち受けていたのは、ゾンフラちゃんと戦った部屋と同じぐらいに大きな部屋でした。ただ、暗いです。真っ暗です。マリリンのMPが回復して炎の光を灯すまではずっと何も見えませんでした。
「あの……カズミ氏、そろそろ離してもらえると」
「ん~、もう少し」
「はぁ」
暗かったので、近くにいた誰かの手を握って互いの存在を肌で確認しあってました。俺はマリリンとセンねぇちゃんの手を握ったつもりだったんですけど、どうやら片方は間違えたみたいです。実は確信犯?
「あ、あそこに上へあがる階段がありますね。とりあえず上に行ってみましょうか」
「もう少し回復してからにした方が良くないか?」
「もう少しカズミちゃんニウムを充填したいです」
俺の右手を抱いているセンねぇちゃんが妙な言葉を作りました。ガンダニウム合金とかムスコニウムエナジーとか、そういうのりですね。じゃ、俺ちゃんはシンニウムを充填でっす。
「シン、気付いてるっすか?」
「ええ、はい」
謎の階段をゾロゾロと上り始めてすぐ、シン君とレイ君が何やら気が付いたようです。でも、不思議そうな顔を向けても答えてくれませんでした。さて、何だろう。
階段を上りきると、そこには廊下が待っていました。右を見れば奥に続く通路。左を見ればなんか外が見えます。となると、この階段は地下室へと繋がっているみたいです。
「誰かの家の中みたいっすね」
みたいじゃなくて、そのものに見えます。
「センさん、確かあのダンジョンはさる王族の方が使っていらしたって事ですよね?」
「はい。となると、やはりそういう事なのでしょうか?」
「うーん、そういう事になるのかも」
マリリンとセンねぇちゃんが買ったマイホームは、元は俺達が拠点にして活動している港町エルファシルを含む付近一帯を治めていた亡国の王族が使っていたという屋敷。しかもやんごとなき理由で表に出せない王族を幽閉していた家だったそうです。バーイ、屋敷に取り憑いているメイド幽霊さんからのお話。
つまりその事から推察するに、地下に作ったあの部屋の転移方陣を使って、これまたヤバイ事をしていた可能性も大という訳ですか。もしくは隠していたとか。
表玄関からあのマイホーム幽霊屋敷に何人もの奴隷が連れ込まれているのに、何故か誰も家から出てこない……そんな噂が流れたら嫌ですからね。転移方陣を使って人も物資もコッソリ輸送でもしていたのかもしれません。
それなら、あの地下ダンジョンにゾンビさんが大量にいたのも頷けます。公に出来ない罪人処刑場だったのかも? かも?
「さて、どっちに進む?」
「ひだり!」「右ですね」「左でどうでしょう」「私は右で」「右に一票っす」
俺は左に進んで外に出たかったんだけど、意見を言う前に右多数という事でマリリンに押し切られました。おーい。
「あ、誰かいるっす」
再びゾロゾロと6人で通路を歩いて行くと、若い男の人と出会う。兵士の格好をしてるので、プレイヤーじゃないですね。あ、NPCだ~。
「この家に住んでいる人ですかね。話し掛けてみましょう」
ゲームの中なので怖い物知らずです。俺達、一応勝手に人様の家に上がり込んだ不審者なんですけど~。気付いてます?
「すみ……フガ」
率先して話し掛けようとするレイ君の口を強制的に塞いで、代わりにユリアちゃんを前にだす。レイ君、そのやっばい形状の鎧姿で話し掛けないで! 自覚しようよ。
「すみません。ちょっと道を尋ねたいんですけど、宜しいでしょうか?」
「はい。なんで……なな、何ですかあなたたちは!? 衛兵! だれか衛兵を! って衛兵は僕の事か。って、そうじゃない。貴様等、いったいどこから入ってきた!」
おお……一人ボケ一人ツッコミしてる。って、気にするのはそこじゃないでしょ。
問答無用で攻撃されました。やっぱ不法侵入だったようです。
「さて、どうする?」
「逃げましょう」「にげる!」「とりあえず逃げの一手ですね」「殿は任せるっす」「あわわ……」
満場一致で逃げ出しました。
「怪しいやつめ! 成敗してくれる!」
衛兵さんの叫び声を聞いた他の衛兵さん達が次々に現れる。でも幸いにしてみんな後ろから。前からは現れません。ただ、一様にして殿を努めるレイ君の姿を見て一言。うん、納得の構図です。
「向こうからも……このままでは取り囲まれてしまいますね」
転移してきた地下室へ続く階段を素通りして外へ。先頭を走っていたシン君が素早く索敵し、ちょっと絶望的な顔を浮かべる。
外に出てみると、そこは広い庭園の一角だった。後ろを振り返れば豪華な屋敷。やはり貴族や王族が住むような立派な建物の中だったみたいです。ただ悠長に鑑賞している余裕はありません。
屋敷の中からは衛兵さん達。目の前にはやたら高い壁。左を見ればこの敷地の入口らしき門が見えたが、そこからも異常に気付いた門番さん達がこちらへと向かってきていました。そして右からも衛兵さん達。どこか一方を強引に突破する事は可能だが、出来ればバトりたくないなぁ。NPCを攻撃するとお尋ね者になっちゃうし。
「ここは私達の出番だね! センねぇ!」
「はい!」
などと困っていたら、即決でどうするか決めたらしいマリリンとセンねぇちゃんが走り始めた。まさか玉砕覚悟の特攻……じゃなかったみたい。
先に壁へと辿り着いたマリリンが背中を壁にピタッとくっつけて腰を落とし、手を前に出す。そしたらその手にセンねぇちゃんが足をかけて、よいしょっと! おお……まさかのハイジャンプ。センねぇちゃんが壁越えを致しました。
「僕達も行きましょう」
「うっす」
マリリン達が見本を見せてくれた事でその逃走方法を理解したシン君とレイ君が、同じように壁へと走る。今度はシン君が飛ぶのかな~っと思ってたら、二人とも壁に背中をくっつけて下になる気満々の御様子。もしかしてレディーファースト? 見た目は女、中身は男。俺ってキャラは本当にややこしいな。
「お先に失礼します」
どうすべきか一瞬躊躇した俺にそう一言告げて、ユリアちゃんがシン君を土台にジャンプ。って、ユリアちゃんスカート姿なのに良いんですかね……あ、縞模様だ。ごちになります。
「カズミ、早くするっす!」
仕方ないので、俺も飛ぶ。でもちょっと息があってなかったせいでうまく飛べませんでした。
「うげ」
仕方ないのでレイ君の頭も踏み台にしてジャンプ。残念、跳躍力が足りない。でも手を伸ばしたら上にいたセンねぇちゃんが拾い上げてくれました。
「次はレイさんの番です。流石に重たいので二人がかりで投げてしまいましょう」
「おっけー」
シン君とマリリンが協力して土台となる。その土台はほとんど地面すれすれ。レイ君がその低い土台に向けてジャンプ。ほとんど飛んでないじゃん。というか、レイ君を本当に持ち上げられるのか?
「とりゃー!」「せいっ!」
でもそこはゲーム世界でした。2人は難なくレイ君の身体を上に飛ばす。ああでもやっぱり飛距離が足りない。センねぇちゃんとユリアちゃんがめいいっぱいに手を伸ばしてレイ君の身体を引っ張りあげました。
ちなみに、俺はLv2なのでほとんど筋力がありません。重たそうな鎧を着たレイ君を引っ張りあげるなんてもってのほか。代わりに、引っ張り上げる2人の腰を抱いて踏ん張る係になってました。いや、腰細いね君達。
「次、失礼します」
地上に残った2人でまたペアを組んで、今度はシン君がジャンプ。余裕綽々で壁の上に着地。10点満点です。パチパチパチパチ。
――あれ? そういえば最後に残ったマリリンはどうするんだ?
「センねぇ、いっくよー」
そんな俺の疑問を尻目に、マリリンが地面を蹴ってジャンプ。更に壁を蹴って2段ジャンプ。お、すごい。ああ……でもまだ高さが足りない。一番身長がある俺が手を伸ばしてもまだちょっと届かない距離。捕まえても引っ張り上げられないと思うけど。
「「チェンジ!」」
などと思っていたら、例の瞬間入れ替わり技をマリリンとセンねぇちゃんは使いました。パパッと入れ替わったセンねぇちゃんが、何もない空中を蹴って壁に向けてジャンプ! 更にもう一度、壁を蹴ってジャンプ!
すげ……こんな使い方もあるんだね。4段ジャンプだ。
「では、行きましょうか」
何事もなかったかのようにセンねぇちゃんがすました顔でそう言いました。でもきっと内心ではフフフッと笑っているんでしょうね。
「待て! 逃げるな貴様等!」
待ちませんよ。壁を降りてスタコラサッサ。
降りた時に落下ダメージを受けたけど、最大HPに対する%ダメージ処理なので問題なし。若干1名。、重量オーバーによる追加ダメージが発生しているみたいですが、戦う訳ではないので大丈夫でしょう。
「レイ君、その鎧目立つからちゃんと脱いでね」
「うう……また臨時出費っす。お金が~、お金が~」
仕方ない。後でカンパしてあげようかな。俺ちゃん、いつの間にかお金持ちになってるしね。くすっ。




