姪 no Warning
「予想以上に広いな……マリリンとセンねぇちゃんとの合流を最優先で動いているというのに、あれからもう結構な時間が経っているぞ。どれだけ落とされたんだ、俺達は」
レイ君が一発で悲鳴をあげそうなグロテスク度120%の筋肉肌ゾンビちゃんを斬り捨てながら俺は先を急ぐ。次々と左右の通路から降って沸いてくる敵には目もくれない。
これまで進んできた道程を脳内地図に描きながら、同時にそのダンジョンの癖を現在進行形で推理し続ける。既に5階分も階層を上っているため、だいたいの道程は予想は出来ていた。
だからダンジョンちゃん、裏をかかないでね?
「カズミ氏、もう全然隠す気は無いんですね。逆になんかちょっと寂しいです」
「いやいや、ちゃんと色々隠してるから安心してくれ。それにこのゾンビ達は動きが遅いからな。攻撃を回避するなど朝飯前だ。それにササメさん印の短剣もあるし」
「今使ってる短剣はどう見ても店売りの安物に見えるんですけど。しかもオートバトルアシスト機能をOFFにしていてこの威力ですか。どこまで非常識なレベルになっているんですか」
「さーて、何の事やら」
素知らぬ顔をして目が裏返ったゾンビちゃんの顔を斬っちゃいます。その手応えからして蟻くんよりもずっと柔らかいですね。倒すの簡単です。
それより、このゾンビちゃんからいったい何のアイテムが取れるんでしょうね。モンスターさんからアイテムを手に入れるためには直接剥ぎ取る必要があるんですけど、うーむ、このゾンビちゃん達は裸で何も身に着けてないから……。腐った目玉とか腐った内臓とか、たぶん錬金術の素材とかになりそうな予感が。持ちたくないけど!
「あと、出来ればこのゾンビであれば律儀にトドメは刺さないで先を急いでくれると助かるのですが」
「なんでだ? シン君は経験値うはうはだろうに」
「職業レベルだけを考えれば確かにそうですね。ですが、レイさん達とレベル差問題が発生したり、職業レベルが急激にあがってしまうとスキルレベルと熟練度があがりにくくなってしまうんです」
「クラスチェンジすれば良いだろうに」
「確かにそれも手ですね。ですが、クラスチェンジした回数によっても微少補正が発生するんです。なので高位のスキルを覚える前にクラスチェンジを繰り返していると、後の方で非常に苦労する事になるんです」
「色々大変なんだな」
「……そう言えばカズミ氏にとっては他人事でしたね」
んにゃ、別にそうでもないけどね。ユキちゃん用のVR機器が手に入ったら新しいキャラで再スタートする予定だから、思いっきり関係してくると思いますよ?
『あー、あー。こちらスネーク。カズミどうぞ』
『はいはい、こちらカズミ。今、ピンクなゾンビちゃん達に囲まれています。どうぞ』
『イーーーーーヤーーーーー!』
シン君の希望によりゾンビちゃん達を生殺しにしながら進んでいたら、行き止まりにぶつかった瞬間に大変な事になりました。これ、どうしよう……。
『えっと、ユリアです。カズミさん、わざわざ嘘を吐いてまでレイを虐めないで下さい。ほんと、後が大変なんですから』
『シンです。カズミ氏の発言の真意は兎も角、多数のゾンビに囲まれているというのは本当です。こちらは大丈夫なので、とりあえず話を進めて下さい』
両手のトンファーでゾンビちゃん達をボコボコしながらシン君がフォローしてくれました。ところで、真意ってなんでしょうね~。俺ちゃんはただ現状を報告しただけなんですけど~。くすっ。
『カズねぇ。こっちはボス部屋以外のエリアは全部捜索し終わっちゃった。下に行く階段見つからない』
『カズミちゃん達が落ちた穴は、どうもボス部屋を通らないと帰って来れない二重の罠みたいですね。だから、合流を目指すなら私達も落とし穴に落ちた方が良いかもしれません。ただその場合、帰り道でこの先にいるボスを倒す必要性が発生しちゃいますけど』
『僕としては、落とし穴に落ちるのはあまりお勧め出来ませんね。僕達が落ちた穴でも、最大HPの95%ほどのダメージを受けています。落ち方が悪ければ、簡単に即死してしまうトラップと考えた方が良いでしょう』
『そうなんですか。そんな穴に落ちて、シンはよく無事でしたね。カズミさんなら助かった理由は分かるんですけど』
『カズミ氏がクッションになってくれて助かりました。もしかしたらそのせいでダメージ量があがっているかもしれませんが、流石に今はそれを確かめる気にはなりません』
会話はシン君に任せて、俺ちゃんはシン君の前に出てゾンビちゃん達と遊びます。ゾンビちゃん達ったら、袋小路の通路に満員列車の如く殺到しようとしてるから、隣あった者同士の筋肉肌がぎゅむっとくっついててなんとまぁ気持ち悪い事か。レイ君に見せてあげたいですよ。
あっ。あまりの圧力で潰れていくゾンビちゃんまでいる。身体が腐ってるから耐えられないんですね。うへぇ、この光景はレイ君じゃなくても悲鳴をあげたくなりますよ。
とりあえず、斬りまくりでっす。たまに後ろから押されて急激に前進してきちゃいますけど、斬撃の雨あられで倒しちゃいます。そして死体となったゾンビちゃんの上を別のゾンビちゃんが乗り越えようとして、下敷きになったゾンビちゃんがぶちゅっと。時間経過で消えてくれなければ、今頃この辺りは肉汁塗れになっていたかもしれませんよ。
うは、そんな事を思い浮かべていたら、超絶な怖気が……。って、シン君が背中に当たっただけでしたね。俺ちゃん本人でも知らなかった弱点を発見!?
『とりあえず、ダメ元でボスに挑んでみるねー。適当に戦ってみて、どの程度の強さか確認してみるー』
『無理をするつもりはありませんので、シン達も無理はしないで下さいね』
『分かりました』
『んじゃ、レッツゴー!』
『ボス戦に入るので、一端チャットをきりますね』
『了解です』
PTチャットが切れました。
「キャーーーーーーーーーッ!?」
「え?」
その直後に、遠くから誰かの悲鳴が聞こえました。女の子の様な甲高い悲鳴です。
「……今の悲鳴、何でしょう?」
「いや、俺に聞かれてもな。もしかしたらこっちもボス部屋に近いのかもしれない。もう一度チャットが入ってくるまで少し待ってみるか」
「はい」
何となく不安を感じながら、暫く待ちます。その間にゾンビちゃん達は綺麗サッパリ片付けました。だって気が休まらないんだもん。
チッチッチッチッチッチッチッチッ。
暫く待ってもPTチャットが入ってきませんでした。同時に、ボス戦中のためかこちらからのPTチャットも受け付けないみたいです。ボス部屋って、もしかしたら外部からは更新出来なくなる特殊フィールド扱いなのかな?
だんだん不安になってきました。もしあの悲鳴がマリリンかセンねぇちゃんのものだったとしたら……と考え始めてしまうと、もっと不安になってしまいます。
コツコツコツコツ、と足を踏みならしてみたり。行ったり来たりしてみたり。何だかそわそわして落ち着きません。
「そんなに落ち着かないんでしたら、僕達もボス部屋まで向かいます? まだ距離はかなりあると思いますが……」
「向かおう」
即決でシン君の案を採用して、いきなり全力ダッシュ!
「え? あ、ちょっと! カズミ氏、僕を置いていかないで下さいよ!?」
えーい、面倒な。
キキキッと急ブレーキして踵を返す。そしてまたダッシュ。
「え? わっ!」
シン君の身体をガシっと掴んでまた反転。再び全力ダッシュだ、いえぃ。
む、前方に邪魔な奴等が。飛び越えちまうか。
「わーっ!? そんな強引な!?」
壁を蹴って三角飛びで飛び越えちゃいます。おっと、後ろにもゾロゾロいたのか。
仕方ない。てめぇら雑魚如きに使うにゃ勿体ねぇが、ここは一つササメさん製の短剣を使わせてもらうとするか。あの世で後悔しな、雑魚ども。
それにしても、ボス部屋直前だからって敵さんやたらと多すぎませんか? このゾンビちゃん達って、もしかしてあの家の元の持ち主によって放り込まれた哀れな犠牲者さん達なのかね~。上の階層にはいませんでしたし。
それに、上の階層に行こうとしてボス部屋で足止めされてます的な状況であれば、この数にも少し納得がいきます。というか多すぎです! 足の踏み場もありゃしませんよ。邪魔ジャマじゃまJAMA!
「なっ……い、一瞬であれだけの数の敵を瞬殺ですか。それにこの機動性と回避力。カズミ氏が実は強い事は分かっていましたけど、まさかこれほどとは……」
シン君には色々とまた知られちゃったみたいだけど、まぁその問題は後回しだ。今はマリリンとセンねぇちゃんの安否を確かめる事が先決。
VRゲーム内の事象として死ぬのはどうでもいい。だが、精神的にまいってしまっているのは怖い。
一度不安になったらもう止まらない。
超特急で俺はボス部屋へと急行した。




