メイド to Trap
次週へ続く、と言ってみましたものの、明日へと続くのかすらもまだ分かっていない状況ですが、何か?
「よく考えたら、このプチポちゃんのドロドロピンクな液体って、ゾルゾルゾンビちゃんに似てるよな」
「イヤー!」
クエスト斡旋所の壁に貼ってあった筋肉が溶けたようなスライム系ゾンビの事を思い出して告げてみます。色は分かんなかったけど、ゾンビならきっとそんな生々しい色をしていると思いました。
いやぁ、相変わらずレイ君は良い声で鳴いてくれますね。
「カズミさん。レイを虐めるのは程々にお願いしますね。結構尾を引き摺るタイプですので」
「例えば?」
「ユダちゃんとの馴れ初めは、ホラー映画を見させられた後に怖くてユダちゃんの布団の中に一晩中潜り込んでいた事が切っ掛けだそうです」
うは。それがいったい何歳の時の事なのかは知りませんけど、レイ君ったら逃げ込む場所を間違えている気がしますよ。ユダちゃんってああいう性格だからね~。怯えるレイ君にさぞ喜びを感じたんでしょう。それが恋に発展してしまったと。
あれ、これって尾を引き摺るっていう例え話になってます?
「その後、夜這い疑惑でお父さんにミッチリ絞られたり、おねしょまでしてしまったのでお泊まり禁止令が出されたりと、レイは踏んだり蹴ったりになってました」
引き摺るんじゃなくて、ぱよえーんって連鎖反応してますね。ふぁいやー。
「落ちたゲンコツは数知れず。結局その事件が切っ掛けでレイは男の子なのにホラーに弱くなってしまい、二度と一緒にホラー映画を見てくれなくなったんです」
固ぷよもガンガンと落ちてきたと。うーむ、トラウマ化するまで引き摺っちゃったんだ。それはご愁傷様です。
「そういえばマリリン。この前見たナイト・オブ・デッドゾンビってホラー映画なんだが、今の俺達の状況とよく似てないか?」
「イーーーーーーーヤーーーーーーーーっ!!」
あ、レイ君がしゃがみ込んで耳を塞いじゃった。そんな事をしてもPTチャット使えば直接脳に声が響くんだけどねぇ。
「カズミさんって、結構Sっ気ありますよね……」
「そう? 私はカズねぇはMだと思うんだけどな~」
「ふっふっふっ。俺は二刀流だ」
表はS、裏はMというような両刃じゃありません。SもMも同時にいける二刀流です。
勿論、嘘だけどね~。俺ちゃんはノーマルですよ?
「という冗談はさておき。奥の方に見えるのは宝箱じゃないか?」
「あ、ほんとですね」
「今度は私があけるー。何が出るかな、何がでるかな」
ぱぱぱぱんぱん、ぱぱぱぱん。って、何でそれ知ってるのよ。
まぁ有名ですからね。今でも色んな所で使われたり、こそっと口ずさむ人とかいますから。あ、もしかして俺からぱくったのかなー?
みんなが見守る中、マリリンが宝箱の留め金をバキッと壊して宝箱を開けます。カギなんて見当たらないからいつもこのパターンです。普通、モンスターさんがカギを持ってる事なんてありませんよね。それに年代物は鍵穴が錆びててピッキングツールも機能しません。
意外と脆い作りなんですよ、宝箱さんって。だから普通に力尽くで壊せちゃいます。
「何だろコレ……上を見ろ?」
その分、罠も絶賛発動しやすくなっております。
あ、このパターン読めました。あれです。
「上ですか? あ、下を見ろと書いてありますね」
「下って、宝箱の下の事かな?」
俺が見守る中、マリリンとシン君が二人がかりで宝箱を斜めに傾けて、その下にある地面を覗き込みます。あれ、マリリンは兎も角、シン君もこの手の罠を知らないんだ。意外です。
というか明らかに罠だと分かるのに、二人とも随分と不用心ですね~。実は搦め手には弱いのかな?
「何て書いてあったんだ?」
宝箱の下を覗き込んだ後、ちょっと固まってしまっていた二人に話し掛ける。勿論その答えは知ってるけど、子供達の夢と冒険に満ちあふれたピュアな心を汚しちゃいけません。
ちなみに、その宝箱の右横には、何故かその宝箱を移動させやすいような謎空間があったりします。普通はそっちに宝箱をずらして地面を見るんじゃないですかね~。
「ざまあみろって書いてあった! むかつくむかつく!」
「ハハハ。こういう子供だましの様なトラップもあるのですね。面白い仕掛けです」
そのトラップの目的はもっと別な所にあるんだけどな~。どうしましょう。ここはそれとなく指摘した方が良いのかな?
「珍しいですね。マリリンがハズレを引くなんて」
「たまにはそういう事もあるっすよ」
「あーもう! とってもむかつくから、マリリンキーーーーック!」
ゲシっとマリリンが宝箱を跳び蹴りしました。その宝箱くんには罪は無いんだけどねぇ。悪いのはその宝箱を設置した誰かさんなんだけどな~。
「……え?」
と思っていたら、急に何故か浮遊感が!?
え、え? なにこれ? なんなのこの絶望的な状況! 地面が突然に消えちゃいましたよっ!?
「カズミ! シン!」
叫び声が聞こえ急激に視界が下がっていく中、俺は咄嗟にマリリンの姿を確認する。すると、マリリンは飛び蹴りを加えた拍子に反動で後ろへと大きくジャンプしていたため、そのトラップの有効範囲からは外れていました。ちょっとほっと致します。
となると、残りは……。
「キャァァァァァァァァァァァッ!」
隣で盛大にそんな甲高い悲鳴をあげているシン君の腕を掴み、こちらへと無理矢理に手繰り寄せる。そしてそのままシン君を胸に抱いて、真っ逆さま。
「きゃーーーーー」
後は野となれ山となれ。助かる見込みなんて全然ないと思いますけど、シン君の命だけは助かってくれるように願いながら、俺は長い垂直落下の経験を久しぶりに体験致しました。
いやぁ、久しぶりに落とし穴に落ちますけど、たまにはこういう絶叫感覚を味わうのもいいものですねぇ。めっちゃ鳥肌たってます!
あーれー。
おたすけをー。
……。
あ、終着点だ。
……ぐぇ。




