メイド Selection
まぁ、なんの事はない。不利を覆すには、頭をとればいい。
ただ単に、途中で本陣に合流させた味方最強精鋭部隊を、味方右翼を全滅させた敵左翼にぶつけて更に成長させて、途中で離脱。右回りに敵本陣へと向かわせ、こっそり待機。
カモフラージュに左から敵本陣に味方2番目の精鋭少数部隊を突撃させ、敵の意識をそちらに向かせる。部隊は壊滅、更にこちらの本陣は陥落間近。
後は敵が勝利を確信した時を見計らって、待機していた最強精鋭部隊に最速の特攻で敵将のみを討て、と命令した。結果は、ご覧の通りだ。
「納得できねー」
「もともと最初から不利だったんだ。仕方ないだろう?」
「負ける事が前提の戦いなんだから、覆しちゃだめだよおねぇさん。後の進行に影響が出てきちゃうじゃん」
知ったことか。
「ま、苦労するのは僕ちゃんじゃないからいいか」
「いいのか?」
「いいんだよ。さて、とっても急な事でおねぇさんも驚いたと思うけど、実はこれ、今すぐに遊べるようなものじゃないんだ。おねぇさん達がもっと強くなって、遠くまで行って、幾つもの苦難を乗り越えてようやく遊べるものなんだよね」
「バージョンアップを待て、って事だろ?」
「違うよー。実装はもうされてるよ。ただそこまでの道程がとっても長いだけ。今回はサービスでちょっと体験して貰っただけなんだ。いわば宣伝だね」
「宣伝の割には、随分と本格的だったな。それに、結構面白かった」
「ありがと。でもこれ、おねぇさん達みたいな特別な人にだけのサービスなんだ。他の人達の場合は、もっとこじんまりした宣伝なんだよー。ま、そんな事は今言っても仕方ないか。ああ、そろそろ僕ちゃんの時間も終わりみたいだね。おねぇさんとはまたどこかで会う事もあるだろうけど、それまでちゃんと僕ちゃんのこと覚えててねー。では、あでゅー」
「という訳で、今度は私の番ね! 私の名前はピクリ。宜しくね!」
さよならの挨拶をする間もなく、妖精が入れ替わる。ポックルの言葉は最後の方は本当に時間が差し迫っていたのか、とても早口だった。
「私はポックルみたいにのんびり屋じゃないから覚悟してね! まずは……」
こちらのことなど気にすることなく喋りたいことをどんどん喋り続けるちびっ子妖精ピクリちゃんに、俺は慌てて対応する。おーい、チュートリアルなんだから、もうちょっと操作や内容を理解する時間を取ってくれよ。などという俺の叫びも無視して、ピクリちゃんの説明は続く。何度もおいてかれた。
「ま、玄人のあなたには今更説明することなんてないんだけどね」
最後にそう締めくくったピクリちゃんは、現れた時と同様にボンっと言って消え去った。
なんだろう……二度目のプレイみたくショートカットでもされたんだろうか?
「申し訳ありません、おねぇさん。昨日今日と小生達はとっても忙しかったので、ピクリさんはかなり不機嫌になっているみたいでして。いつもはもっと明るい女の子なんですよ?」
ポンっと後ろから肩を叩かれて振り返ると、そこには本日3匹?目となる妖精が宙に浮いていた。眼鏡をかけ、手に本をもったちょっと理知的な学者タイプの妖精君。
「最後に、小生からは各種ステータスおよび戦闘に関して、おねぇさんをサポートさせて頂きます。あ、申し遅れました。小生は妖精三賢者の頭脳担当、プクーラといいます。以後、お見知りおきを」
「……また妙な設定が出てきたな。三賢者なのに、頭脳担当って……」
「あまり気にしないでください。そもそも、ポックルとピクリさんが賢者である事自体、おかしなことですので。では、説明に入りたいと思います」
要約すると、【職業】【スキル】【レベル】【熟練度】【称号】に関しての説明だった。しかし何故かその説明の合間に所々「詳しくは語れませんが」が多く出現し、ほとんど説明になっていない。だが分かった事をあげると、以下のようになるらしい。
【職業】は敵を倒す事でレベルアップし、その度にステータスが上昇する。ある一定値までレベルを上げると他の職業に転職出来る。その際、職業レベルは1に戻り、例え元の職業に戻してもレベルは1になるという。
【レベル】は……まぁ、字の如し。
【スキル】には職業などによって覚える事の出来るもの、スキルの成長によって上位派生したり解放されるもの、特定条件下で覚えられるもの等々、他種類ある。スキルはスキルポイントを消費して取得する。スキルにもレベルが存在し、また同時に熟練度も存在する。スキルを忘れるとレベルと熟練度は0に戻る。
【スキルレベル】や【スキル熟練度】をあげると色んな特典がつく。スキルレベルなら技が使えるようになったりするのだが、スキル熟練度が上がるとダメージアップなどの効果がつくようになったりする。どのスキルにどんなボーナスが現れるのかは、実際に自分で確かめてみてと言われた。
最後に【称号】に関して。こちらも熟練度と同じように色んなボーナスがつく。但し成長はしない。プレイヤーの行動内容、イベントやクエストの報酬等で取得出来る。基本的にプレイヤーは任意で取得した称号を自由に付け替える事が出来るが、中には一定期間、半強制的に付けられる称号もあるらしい。そして何より注意するのは、称号によって得られるものは、必ずしもプラスとは限らないとの事。成長阻害とか不幸度アップとか。簡単には外せなくなる呪われた称号には特に要注意。
「さて、説明が済みましたので、今度はおねぇさんに小生からプレゼントをしたいと思います。これはおねぇさん達みたいな特別な人にだけのサービスとなっています。これから表示します職業から、好きな職業を選んで下さい。その選んだ職業に、おねぇさんを小生が転職させます。大した職業はありませんが、ね」
と言われて表示された職業を眺めていくうちに、俺は頭を抱えたくなる。
「なぁ……」
「はい、何でしょうか?」
「これ、いったいいくつの職があるんだ?」
いくらスクロールさせても終わりの見えない職業名の羅列がそこにはあった。
「最下級職と下級中位職だけですので、ほんの二千ちょっとですよ」
「多すぎるだろ!?」
「小生もそう思います。ですが、それだけ幅が広ければ他の人と能力が被るという事は滅多にありませんし、この世界では他人のステータスは安易には見れませんので、あまり気にする必要はないかと思います」
「それにしても限度はあるだろ……」
というか、これが職業全部じゃなくて、下っ端の職業だけでそれだけあるというのにも問題がありすぎる。全部合わせると一万職は超えているかもしれないな。攻略情報を扱おうとしている人達はさぞ困り果てていることだろう。
ああ、そうか。メイドオンラインのメイドとは、もしかしてmadeの事か。意訳としては色々ととれるのでどれかはハッキリしないが、その可能性が高いかもしれない。
オンライン製のゲーム、作られたオンラインゲーム、にわか作りのオンラインゲーム、成功間違いなしのオンラインゲーム、オンラインにはうってつけのゲーム。
もともとの意味が多彩なのでなんともいえないが、3番目あたりとか結構怪しい。もっとも、俺の英語力自体が怪しいので、それこそなんともいえないが。
「小生は本を読んでますので、決まったら教えてくださいね」
こんなにあるならやはり事前に情報が欲しかった。事前に決めていれば……ああ、面倒だな。お? 吟遊詩人がある。俺は前衛って柄じゃないし、後衛とも違う。どちらかというとサポート系なので、洒落っ気の優雅さも兼ねて、これにするか。
「……決めた。吟遊詩人で頼む」
「ふむ……おねぇさん、本当のその職業で宜しいのでしょうか? 小生としてはお勧め出来ない職業なのですが」
「構わない」
「そうですか。では……おねぇさんは今より吟遊詩人です。次に、スキルを覚えてください。おねぇさんは特別な人ですので、サービスとして3つスキルを覚える事が出来ます」
「3つか……この中から、3つね」
いや、膨大すぎるだろこれ。いったいどれだけプレイヤー泣かせなんだか。
「とりあえず武器スキルがいるか。まぁ、最初の得物は短剣術でいいか。それと……別に本気で遊ぶつもりもないし、時間潰しの内職用に錬金術で」
「……あと一つは何にしましょうか?」
今ちょっと間がなかったか?
「そう急がせるな。本でも読んで待ってろ」
「もう読み終わってしまいました」
「早いな!? ……って、何だ? このBGMってスキルは。なんか吟遊詩人に通じる所でもあるのか? 面白そうだし、覚えてみるか」
「……重ね重ね問うようで心苦しいのですが、本当にそれで宜しいのですか?」
「時には遊び心も必要だろう。その3つで頼む」
「分かりました」
スキルポイント3が0に変化し、代わりにスキル欄に【短剣術】【錬金術】【BGM】が現れる。たった3枠しかないのに数あるスキルのうちこんな構成で覚える奴なんて、他にいるような気がまったくしなかったが、まぁこれも個性という事だろう。
後悔する時が来たとしても、それはその時だ。未来を気にしていては、歩ける道も歩けなくなる。とはいえ、最初からわざわざ踏み外す事を選択するのもどうかと思うがね。
「このチュートリアルも残りあと二つ。まず先に、おねぇさんにはサービスとして、この世界に2つとないおねぇさん専用の豪華装備を贈呈致します。といっても基本性能は初期装備とだいたい同じですし、ただ見た目が違うというだけの代物ですが。【短剣術】スキルを覚えていますので武器としてナイフを、職業が吟遊詩人となっていますのでそれらしい服にイメチェンしたいと思います」
「ささやかなプレゼントだな」
「あまり優遇させすぎるというのも問題がありますからね。少しは控えめにしておかないと、おねぇさん自身が困りかねませんので」
「そうだな……って、この服、やたら豪華すぎないか!?」
「吟遊詩人ですので。これでもかなり控えめかと。尚、チェンジは出来ませんので、気に入らない場合は新しい服を買って下さい。もともと性能は低いですしね」
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「やっほー。第6話だよー♪ みんなちゃんと見てるー?」
チー「見てないと、悲しいです……。折角、こんなに……頑張ってるのに……」
リン「あー、前回の反動が出ちゃったかー。チーちゃんモードになってる」
チー「ちょっと……無理……しすぎ、ました……」
リン「仕方ないねー。それじゃ、チーちゃん今回は休んでて良いよー」
チー「はい……ごめんなさい、です……」
リン「というわけで! 突然ですが、特別ゲストのご招待でーす♪」
ポッ「どもー。ポックルでーす。仕事終わったから来ちゃいましたー」
リン「あれ? カズねぇを特別ゲストに呼んだ筈なのに、なんで?」
ポッ「あの綺麗なおねぇさんは今取り込み中だから、召喚無理なんじゃない?」
リン「あ、そっか。まだチュークエ中だったんだっけ」
ポッ「そそ。だから僕ちゃんが代わりに来ちゃいました♪」
リン「どうでもいいけど、ポックルちゃん、名前表示がちょっと変だよ?」
ポッ「だって仕方ないじゃーん。しっくりくるのがなかったんだからー」
リン「二文字規制だからねー。どうしてもそういう人出てくるよねー」
ポッ「うんうん」
リン「話は変わるけど、ポックルちゃんは妖精三賢者の一人なんだよね?」
ポッ「うん、そうだよ。僕ちゃんはすっごい賢者なのだ。えっへん」
リン「なら、すんごい魔法教えて♪」
ポッ「無理」
リン「……」
ポッ「……」
リン「え~と……ポックルちゃんは、すっごい賢者なんだよね?」
ポッ「うん、そうだよ。僕ちゃんは超がつくぐらいすっごい賢者なのだ。えっへん」
リン「なら、超がつくぐらいすんごい魔法教えて♪」
ポッ「無理」
リン「……」
ポッ「……」
リン「ねぇ……本当に賢者なの?」
ポッ「うん、そうだよ。ちゃんと職業名に『妖精賢者』って書いてあるし」
リン「それ、誰が書いたの?」
ポッ「僕ちゃんだよ」
リン「……」
ポッ「……」
リン「ちなみに、妖精三賢者の中での担当は何なの?」
ポッ「知謀担当だったと思う」
リン「疑問系?」
ポッ「……」
リン「……」
ポッ「さよなら!」
リン「あ、逃げた」
ピク「ちなみに私は知識担当ね」
リン「わっ! ピクリちゃん。……って、もういない!?」
チー「リンねぇ……そろそろ、締めて下さい……」
リン「あ、そうだね。うーんと、え~と……お後が宜しいようで?」
チー「また見て……下さい……」
リン「バイバーイ♪」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




