表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第一節 『VALKYRJE SONG』
43/115

Death Trillion Star --死兆星--

 こいつは俺が必ず殺す!

 殺す殺す殺す! 斬り殺す! 殺して殺して殺し尽くす!

 殺の一文字、その身に刻め。さすれば一文字、牙となる。

 刃を振りかざし、ただこの殺意のみで斬る。刃・梵(ジン・ソーマ)

 狂人鬼の腕が振り上げられる中、回避動作を取らず同じように俺も短剣を振り上げる。そして狂人鬼の腕とタイミングを合わせて同時に短剣を振り降ろす。腕は紙一重で俺の身体をとらえられず、短剣は紙一重先へと刃を走らせ狂人鬼の身を斬り裂く。無形の位・舞刃。

 試し斬りの短剣を斬り上げ、狂人鬼の腕を弾き回転させる。そして回転させたまま狂人鬼の右胸へと投げ付ける。フィンスカイドライブ。再び弾かれ宙を舞った刃を、振り降ろした右腕で掴み取りそのまま斬る。後方に跳躍し、薙ぎ払われた腕を斬り弾く。再び懐に入り、刃を狂人鬼の腰へと当てる。そこを支点に自ら走り一回転。狂人鬼の胴をえぐるように削り斬っていく。ラウンドスライサースピン。

 左に跳躍した瞬間、また狂人鬼の姿が掻き消える。予想する出現点に向けて先行して刺突を叩き込む。切っ先は狂人鬼のその硬質な身体をとらえ、突き飛ばす事に成功する。先読みの一刺し。プリディクションスピア。

 多々良を踏むという珍しい光景を見ながら、狂人鬼の胸へとまた突きを放つ。それも七つの星の軌跡を。天枢ドゥーベ、天璇メラク、天璣フェクダ、天権メグレズ、玉衝アリオト、開陽ミザール、揺光ベナトナシュ。活殺七星衛。

 ついでだ。六つの星の軌跡もその身に刻み込む。天府アスケラ、天梁ヘカテボルス、天機ヌンキ、天同ナント、天相カウス・ボレアリス、七殺ポリス。滅殺六星衛。

 突きすぎた。利き腕の右腕が少し辛い。左手に再び試し斬りの短剣を渡しつつ距離を取って少し休む。家具を山の上を飛び跳ね少し前進。その俺に目掛けてまた岩タイル砲弾が投げ飛ばされる。

「死兆星が見えた!」

「お前はもう死んでいる……衰弱11回だっけか?」

「さっきまたあの化け物に殺された。絶賛記録更新中でーす! ぐはぁっ!」

「直撃!? 御前運悪すぎだろ!?」

 斜め上に投擲された結果、屋上にいるプレイヤーの群れの中に砲弾が突っ込む事になったがNPCはいないのでヨシとする。直撃していたみたいだが死亡者は1名。誤差の範囲内だ。

 崩れゆく家具の山の中から目的のもの、懐かしきキラーナイフを掴む。バリケードの上から飛び降り、そのまま狂人鬼を誘う。爆走はしてこなかったが、進行を阻む家具など気にもとめず蹴散らしながら向かってくる。NPC達は必死にこのバリケードを構築していたようだが、本当に効果があったのだろうか?

 どこかで見た事のある蟻くんのような姿をしたぬいぐるみのお腹を突き刺したままの右腕が迫り来る。どう斬り弾くか一瞬迷い、迷ったあげく躱す事を選ぶ。目の前に蟻くんの顔が迫る。少し笑える。

 ――俺はこれでも真面目に闘っているつもりなんだがな。

 少しむかついたので、腹いせにその蟻くんのぬいぐるみをズタズタに斬り裂いた。最後の一撃はキラーナイフの刃に炎を宿らせ燃やす。飛び散った綿が発火し、周囲に散乱する家具へと降り注ぐ。あ、やば……。

 すぐさま両の刃を高速で振るい、その軌閃から発生する風刃で消そうと試みる。勢いよく燃え広がった。げ……。

 その場から逃げるように待避。消火活動はプレイヤー達のボランティア精神に期待する。だが、肝心の狂人鬼が動かない。火が燃え広がる中、暢気にも地面に腕を突き刺し岩タイル砲弾を撃ちまくる。

「ど派手な登場まで演出するとは、活きだね~」

「いよいよメインステージ! これまでも十分に凄かったが、この後はいったいどんな戦いを見せてくれるんだ!」

 完全に炎に包まれた狂人鬼の側には近づけないため、岩タイル砲弾を避けたり斬り割ったりしながら更に後ろへと下がる。たまに炎に包まれた砲弾が飛んでくるが、それだけは流石に斬らずに必要以上の距離を取って躱す。

 そしてまた飛んできた岩砲弾を躱すために後ろへと飛んだ瞬間。

 左右の壁が急に開け、その場で待ち受けていた大勢のプレイヤー達が一斉にあげた歓声が俺の耳へと届けられた。

 一瞬ビックリしてしまい、俺は両の手を下げて少し見渡してしまう。しかし狂人鬼の攻撃は止まらない。

 炎の中から一歩前に出て、眼下に敷き並ぶ岩タイルの一つにまた腕を突き刺し持ち上げる。その岩タイルは燃えていた。狂人鬼の虚ろな瞳が俺へと向けられ、そして射出される。それまでにない高速度で。

 はっと気が付いた時、炎の弾岩がもう目の前まで迫っていた。避けるにはもう間に合わない。

 故に、斬った。予備動作もなく、その一撃で死ぬ事を覚悟した上で、キラーナイフの刃を下から上に腕だけの力だけで斬り上げる。

 刹那――巨大な炎の弾丸が綺麗に割れ、しかしその後に視界が真っ赤な炎に包まれる。

 心なしかまた盛大な歓声があがったように思う。が、今はそれどころではなかった。

 熱い! 当然だ。炎に包まれたのだから。

 すぐさま炎を掻き消すべく両腕の短剣を振るい、炎を蹴散らしていく。瞬間、背後より悪寒を感じ右に跳躍。一瞬前まで俺の頭部があった場所を狂人鬼の赤く彩る腕が突き抜け、周囲を赤く染める。

 まだ命が残っていた事に感謝しつつ、地面を強く蹴って前へと出る。ようやく火災現場から抜け出てきてくれたのだ、歓迎してやらなければならない。

 残炎でまだチリチリと焼ける服と肌を気にしつつ、右腕を大きく引き絞り、そして真っ直ぐに思い切り突く。予想通り、キラーナイフの刃は霜を纏い進行上の炎を掻き消した。

 但しその一撃だけでは当然狂人鬼の赤く彩る肌を冷ましきる事は出来ない。むしろ逆に突いた瞬間、キラーナイフの刃の方が少し熱くなった。氷の追加効果を発生する事は出来ても、その補正値がまだ低すぎるか、もしくは相性があまりよくないのかもしれない。ちなみに氷の属性もこの世界にはない。恐らく【水】属性に含まれるのだろう。詳しくはシン君まで。

 繰り出しにくい氷の刺突はやめ、普通に斬撃を叩き込む事に集中する。

 最も間近にあった腕の手首付近を2本の短剣で3度ずつ斬りまくる。真横に振るわれたその腕を避け、瞬時に懐へと入りキラーナイフを斬り上げて顎を断つ。振り降ろし、左肩から右腰までを斬り、刃を返し右に薙ぎ抜ける。振り返るままに刃を振るい二の腕を斬り、後ろに軽く跳躍。再び眼前を行き過ぎた腕を斬って更に遠ざけた後、目の前にさらけ出された左半身に無数の刃を叩き込む。

 この広場に来て急激にBGMスキル熟練度が上昇していく。それはあっとういう間に100を越え、125を越え、そして今150を越えた。その境界値を越える度に音源が一つずつ解放され、奏でる事の出来る旋律を増やしていく。

 左に飛び、着地と同時に身体を一転させながら姿勢低く構える。引き絞られた身体が一瞬止まる。反動で加速。逆手に持った試し斬りの短剣を走らせ狂人鬼の胴を斬り裂き抜ける。抜けた瞬間に片足を支点して反転。回転の勢いのままキラーナイフを走らせ斬り抜ける。また反転しキラーナイフを走らせ斬り抜ける。両腕を開き、身体を高速回転させ回転斬撃で斬り刻む。デルタナブラサークル。

 回転したまま少し離れる。狂人鬼の腕を躱し、身体を半分捻った状態で止まる。その捻りの力を利用して腕を高速で横一文字に振るい斬る。そのまま身体を一回転させ、遠心力を縦向きに変え縦一文字に斬り上げる。十文字斬り。その十字に重なるように2本と短剣を重ね合わせ、そのまま押し込むように斬る。グランドクロス・オーヴァ。

 狂人鬼の身体がその攻撃に吹き飛ばされて、僅かに下がる。これまでにないぐらいの確かな手応え。最初の頃はいくら斬ってもまるで意に介さなかったというのに。徐々にだが、短剣術スキル熟練度の上昇効果が現れ始めている。

 それを実感して、身体に更なる熱が籠もる。

 感じてはいけない喜びが徐々に俺の心の中に溢れてきてしまっていた。

「……動きが、止まった?」

 この戦いは、心が麻痺する程の恐怖を感じながら落ちていった姪と、その悔しさに涙したまま落ちざるをえなかった姪の、その二人のための仇討ちだった筈だ。復讐だった筈だ。それをした狂人鬼に憎悪し、その憎悪を以て殺意とし、その殺意を力に変えた。

 しかし憎悪だけではこの狂人鬼を屠る事は出来ない。そう考え、憎悪を封じ確殺の意志を胸に……殺意を糧に俺は戦い続けた。

「これは何かがきそうな予感だね」

 それが間違いだったのだろうか? 憎悪、確殺の意志、殺意。それとは別の感情が今、俺の中を満たそうとしている。

「お? おっ? おっ? おっ!?」

 この熱い感情には覚えがあった。心の内から身体の隅々まで広がってくる、浸食してくる心地好い何か。抗う事の出来ない喜び。

 心だけでなくこの身体さえも喜ばす絶対的な感情。

「来るか……全てを満たす者よ」

 その何かに突き動かされるままに、俺はいつの間にか仮面に手を当てながら新しき音色を奏で始めていた。

 ――最初は始まりを告げる予感の旋律をゆっくりと響かせる。

 BGMの音源が劇的に増えたため、もう狂人鬼の意識は俺へと釘付けになっていた。いつの間にかこの戦闘ライブのステージと化した広大な広場の中央へと向けて、狂人鬼を誘導しながらゆっくりと向かう。

「おお! これはまさかの!?」

「零と無限を統べし真なる闇! 黒き旋律!?」

 優遇しなくとも勝手に物凄い勢いで増えていくBGMスキル熟練度に、錬金術スキル補正『集中』を解除し、全スキル熟練度が均一に上がりやすくなるようにする。

 BGMスキルはもう放っておいても必要な条件を満たす事だろう。

 故に次は、錬金術スキルの中に隠されている何かを解放する。それは果たしてこの戦いに決着を付ける事の出来る秘められた力を持っているのか、それともやはり何もないのか。

 それを見るために、後は兎にも角にも錬金術スキル熟練度を鍛えていく。他のスキル熟練度をあげると何故か勝手に増えていく錬金術スキル熟練度をあげていく。

 錬金術スキル熟練度は『集中』を使用していると上がりにくくなる。錬金術スキル自体を『集中』で選択しても、他のスキル熟練度が上がりにくくなるため必然的に錬金術スキル熟練度も上がりにくくなり、結果的にはマイナスになってしまう。故に錬金術スキル熟練度だけは近道は存在しない。通常職のようにスキルが10個もあればまた違うのだろうが……無い物ねだりをしても仕方がない。

 そして短剣術スキル。最後には必ずこのスキルが必要になる。その時が来るまで、ただひたすらに鍛え続けるのみ。

 ――予感の旋律を終え、一気に音源を増やしサビへと入る。テンポを劇的に上げ、4小節ごとに音源を増やしていく。パーカッションも派手に。ギターとベースも熱を入れて弾く。

 そしてそれまで身に付けていなかったもう一つの装備を解放し、演出に色を付ける。


 背装備:吟遊詩人カズミの舞奏外套 防御力+1


 邪魔だと思い身に付けていなかった所謂マント。吟遊詩人というこの職にして、必要不可欠ともいえるこの装備を身に纏った瞬間。風が吹き、マントを大きくまくれ上がった。

「本気モード、キターーー!!」

 短剣を鞘から引き抜き、主旋律を奏でると共に俺は再び狂人鬼へと斬り掛かる。

 マントを風になびかせながら。これまでとは違った抗えない熱い想いでこの身を燃え上がらせながら。

 仮面を付けた道化師が――また、踊り始める。

♪御意見、御感想をお待ちしています♪


リン「リンちゃんと」

チー「チーちゃんの」

「「あとがき劇場スペシャル!!」」

リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」

チー「ドンドン、ぱふぱふ」


リン「どわぃよんじゅうさんわ!」

チー「ちなみに前回は12個の必殺技が使われていたのです」

リン「なら今回は?」

チー「10個ですね。でもちょっと凄いのが二つあったのです」

リン「それって、最初に使った技の事?」

チー「違うのです。活殺七星衛なのです」

リン「あー、あれね。なんか変な名前を先に並べてたやつ」

チー「あれ、何だか分かりました?」

リン「ううん、ぜーんぜん。サッパリ」

チー「それじゃ、まずはヒントなのです。7つの星で思いつくのは?」

リン「ひでぶー」

チー「いきなり飛びすぎなのです!?」

リン「うそうそ。北斗七星だね」

チー「ですね。北の空で見える、おおぐま座の腰から尻尾にあたる星なのです」

リン「それとこれと、何が関係してるの?」

チー「んにんに……やっぱりなかなか察しが悪いのですね、リンねぇ」

リン「んにんに」

チー「真似られたのです」

リン「それはいいから、早く教えてチーちゃん!」

チー「天枢、天璇、天璣、天権、玉衝、開陽、揺光というのはですね」

リン「漢字が多い……頭がぷすんぷすんいってる……」

チー「北斗七星の七つの星を、中国名で言った場合の名前なのです」

リン「あ、そうなんだ。じゃあ、カタカナの方は?」

チー「アラビア語から由来してたと思います」

リン「へー、そうなんだー。でもなんで中国名とアラビア名の二つを繋げてるんだろ」

チー「その辺はカズミちゃんの感性じゃないでしょうか?」

リン「なんとなくその方が格好良いかも、だね♪」

チー「余談ですけど、2つ星を追加して北斗九星とされてた時代もあったのです」

リン「とてもいらない知識だ……」

チー「ここまで言えば活殺七星衛がどんな技なのか分かりますよね?」

リン「あ、だから本編の会話の中であの台詞が出てきたんだ」

チー「あの人はきっと通なのです」

リン「胸に七つの星を刻む必殺技! かっこいー♪」

チー「そしてそして、それと対をなすついで技の滅殺六星衛なのですが」

リン「南斗六星だね」

チー「なのです。南の空に見える、いて座の上半身と弓の一部からなってるのです」

リン「チーちゃん博識♪」

チー「でも流石に北斗七星ほど有名じゃないので、星の名前は知らなかったです」

リン「天府、天梁、天機……ぷすんぷすん」

チー「リンねぇに漢字は大敵なのです。残りは天同、天相、七殺ですね」

リン「七殺と聞くと、なんか北斗七星を目の敵にしてるみたいだねー」

チー「北斗と南斗は対ですからね。北斗が死、南斗が生を司ってたかな?」

リン「チーちゃん博識♪」

チー「星は何でも知っているのです。私は知っている事しか知りませんけど」

リン「あ、なんかアレンジされてる」

チー「ふふふなのです」

リン「あ、そろそろ終わりだ。チーちゃん今日も色んな知識ありがと♪」

チー「知識担当はカズミちゃんなんですけどね」

リン「それじゃ、みんなバイバーイ。また来てね~♪」

チー「さよならです♪ また見て下さいなのです♪」



♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ