Victim --犠牲--
「こっちきたぁーーー!?」
プレイヤー達の悲鳴を聞きながら俺もその屋上へと向かう。野次馬していたプレイヤー達がどうなろうと構わないが、殺すべき敵がそこにいるのなら俺もそこに向かわざるをえない。
様々な家具で築き上げられたデコボコしたバリケードの上を走り、最も建物に近く最も高い場所を蹴って屋上の端に手をつく。良かった、届いてくれたか。そのまま身体を屋上へと引き上げ、状況を確認。丁度、三人の男性プレイヤーが仲良く串刺し団子にされた所だった。
それに何ら思う事なく、屋上の上で疾走を開始。二つの隙間を軽く飛び越えて突き向かう。
急停止し、右へと跳躍。一瞬後を投げ捨てられたプレイヤーの身体が飛んでいく。背後で轟音。その建物の屋上への入口が破壊される。
俺に対する攻撃意識は残っている。より楽しそうな場所を発見して、戦闘位置を変えたという事か。
右手のキラーナイフと左手の試し斬りの短剣の存在を再度確認し、疾走。しかし高速移動した敵の姿を見失い、一時断念。独特の狂った気配を右に確認し、急角度で左に逃げる。振り返りつつ踵を返し、振り抜かれた腕を上に斬り弾く。間に合わず、三角帽子を被ったまんま法術士らしき少女プレイヤーの顔が斬り裂かれる。口から上を失った映像を間近で見せられ不愉快さがアップ。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
その俺と狂人鬼の横の空間を、唸りをあげて大剣の刃が斬り向かってくる。隣にいた脳筋プレイヤーが咄嗟に攻撃を繰り出したか。しかもあの法術士少女すら無視しての攻撃。
攻撃を再び断念し、回避。本来、プレイヤー同士では街中で戦闘出来ない仕組みになっているので別に避けなくともいいのだが、この状況下でその選択肢は絶対にない。インパクトの瞬間から一定時間双方に硬直ペナルティが発生してしまうからだ。つまりペナルティを受ければ、その瞬間に狂人鬼によって殺される。甘んじて攻撃を受けるのは自殺行為だ。
狂人鬼が大剣の刃を簡単に躱す。何故か躱す。いや、自動的に躱したのか。オートバトルアシスト機能を使用した攻防には自動的に命中回避判定が下される。格下からの攻撃だったため狂人鬼は回避判定を受け、それまでとは異なった機敏で正確な動作で脳筋プレイヤーが放った自動全力攻撃を回避した。と同時にカウンター判定でも発生したのか、瞬時に振り上げられた腕の一撃を受けて攻撃を放ったプレイヤーが即死。
何事もなかったかのように狂人鬼が顔を動かし、俺を見る。
応じて、俺も何事もなかったかのように前進する。
交差する鋭い刃と頑強な腕。斬撃の豪雨が狂人鬼の身に降りかかるが、それをものともせず規則性のない狂腕が振るわれ続ける。一つ一つを丁寧にさばきながら、お返しとばかりに斬撃を繰り出す。速度重視で適当に振るう。
斬撃の威力が足りないならば、斬撃の威力を高めるしかない。短剣術スキル熟練度は現在91。強敵を斬っているためか、その上昇速度は恐ろしく速い。
限界値が99程度ではない事を祈りつつ、手数によって熟練度を稼いでいく。
「きゃぁ!」
しかし、狂人鬼はすぐに移動しようとする。戦いの最中にプレイヤー達の姿を追い、片手間のように殺していく。その度に移動させられ、斬撃回数重視で繰り出した技が空を切る。
9連続刺攻撃のペネトレイト・ノインロズレーを7撃目で中断し、消えた狂人鬼を探す。狂人鬼の攻撃速度はほとんど大した事はないが、圧倒的な筋力から生み出される瞬間最大移動速度は脅威だ。その脚力がタックルなどの攻撃に回される事がないのがせめてもの救いだが、こちらの攻撃を無視して移動するのは本当に苛つく。
標的にされ襲われた女性が悲鳴をあげる。無視して俺は攻撃を繰り出す。
血飛沫の中を刃が走る。心臓を貫いた腕が90度回転。女性の胴体が右に千切れ、破壊されたアクセサリーの欠片が舞う。絶命した女性の最後を看取る事なく、迫った腕をキラーナイフで受け流す。その間に左手は払いから突きに転じる。左に抜け、右の刃を暴風と化し飛び散る宝石ごと狂人鬼の身体を斬り刻む。
血に濡れた腕が円運動から一度引かれ直線に変化。腕の切っ先が俺の肩を掠り、衝撃で吹き飛ばされる。ただそれだけで体力がごっそりと失われる。
それを知っても尚、前へと出る。次なる標的へと向けて移動した狂人鬼を追う。銃でもあれば移動されようがその距離を縮める間も攻撃を出来るのだが、生憎と手持ちには弓すらない。法術も使えない身で、唯一届かせる事が出来るのは音のみ。BGMスキルのみ。
無い物強請りは今更だ。三足で踏み込み、左の短剣で払い抜ける。間合い外まで行きすぎた後、反転。正面へと躍り出て斬り合いに挑む。右腕を上に弾き、返す刃を胴へと振り降ろす。まるで金属を斬ったような手応え。その度重なる繰り返しに、さしもの短剣も徐々に刃毀れが目立ってきたが、俺は攻撃の手を休めない。可能な限り全力で腕を振るい、兎に角斬撃を叩き込んでいく。
視線が俺から外れたのを確認。新たな標的を見定めたのか。動きを見せると同時に俺もその機動を先読みし跳躍。初期加速と直線移動速度では絶対に敵わないが、一瞬でも早くその移動先を特定すればロスは少なくなる。
その狂気と鮮血を振りまく狂人鬼が標的としたプレイヤーは見捨てて、ただその身に攻撃を叩き込む。また移動される。それを追って背後から強襲し、前へと出てまた撃ち合う。視線を読み、移動先を読み、確実に後手となろうともひたすらに攻撃を繰り返す。
一歩深く踏み込み、危険地帯の中で弾丸の如く短剣を回転させながら突きを放ち続ける。ガトリングスティンガー。高速で刃を振り降ろすと同時に振るわれた腕の攻撃を回避し、身体を旋回させ更に刃を振り降ろす。後、高速で振り上げる。龍尾旋風返し。剣先に意識を集中。明鏡の境地に至り、ただその一突にて目標の一点を貫く。貫けなくとも貫く。その意志を以て切っ先を加速させ、鋭い突きを狂人鬼の喉元へと突き入れる。クリアスタライズ・アクセルスナイパー。
視線が動いたのを確認する。瞬時に顎を撃ち、その行動を阻害する。次いで、姿勢低く右膝を斬り裂きながら抜ける。そのまま半回転しながら脹ら脛を何度も斬って反対側の後ろへと移動。姿勢は低くしたまま左膝を裏から斬って前へ。最後にまた両膝へと刃を噛むように這わし、重点的に下半身を攻撃する。まるで蛇が絡むが如く。マイティスネークバインド。
突き降ろされた腕を左に避け、右腕をしならせながらキラーナイフをその腕へと叩き込む。蛇蝎閃。続けて両腕で同時に突きの一閃。キルバイピアーズ。地面すれすれから試し斬りの短剣の刃を跳ね上げ、狂人鬼の腕を撃ち払い体勢を崩す。時計回りに旋転し慣性を重力を余すことなく右のキラーナイフへと乗せて振り降ろす。ダブル・サーキュラー。
また視線が別のプレイヤーに向かう。この屋上にいる野次馬の数は確実に減っているのに、逆にその頻度が増えている気がする。BGMスキルによる集敵効果が徐々に薄れているのか? あの洞窟で出会った当初から必ず俺へと意識を向けていたのは、集敵効果があると思われるBGMスキルを俺が常に使用し続けていたからではないのか?
「くそっ! やられてたまるかよ! や~ってや……」
台詞を全て吐き終える前に血気盛んな青年プレイヤーが狂刃に沈む。これで近くにはもうプレイヤーはいなくなった。こちら側の建物上で遠巻きに見ている者はまだいるが、あの距離では標的とするまい。
足払いも兼ねた連続の斬撃を繰り出す。シャドウステッチ。新たな標的を失った狂刃が俺にのみ振るわれる。一つ一つを確実にとらえさばいていく。掠った際に受けた瀕死ダメージは既に自然回復で全快した。だからといって掠らせる訳にはいかない。
両腕の刃を連続で振るい最後に同時に斬りつける。ローカス・エクセルセドラ。右腕を両刃で斬り弾き、左腕をまた両刃で斬り弾き、ガラ空きにした胴へと逆袈裟に両刃を振り降ろす。刃を返し、右に斬り上げる。軌跡はVの字。無々明舞千鳥。
回避後、跳躍。重力を利用した大振りの斬撃を振り降ろす。着地と同時に重心を下げ身体の捻りのみで刺突を放つ。突いた姿勢のまま短剣を回転させ、振るわれた剛腕を掻い潜り刃を振り上げる。再び跳躍。側にあった屋上入口の壁を蹴り、狂人鬼の顔目掛けて斜めに斬り抜ける。漂移無双肆段。
短剣術スキルの熟練度が100を突破する。だが特別な何かが追加される訳でもない。全体的に少しだけ補正値があがっただけ。
まだ足りない。この程度の力では眼前の狂人鬼を殺す事など不可能。これでは遠すぎる。
距離を取り瞳を閉じる。弦の音を徐々に静音へと絞る。
錬金術スキルの熟練度を確認する。まだようやく15を突破した程度。しかし補正の中に『集中』という能力を発見。意識を向けると選択肢が出現。常時発動型ではなく、指定型の補正か。選択肢に表示されたのは短剣術とBGM。迷わず短剣術を指定する。
その効果を確認する暇なく、漆黒に染まる視界の奥で不穏な気配が生まれる。瞳を閉じたまま上半身を反らす。刹那、鋭い風の音と共に何かが頬の横を通り過ぎた。弦の音を消した今、すべての雑念が表層に存在しない。現実世界では決して行う事の出来ない心眼の境地へと至る。データの海でならば可能な極技。
己を一つの刃とイメージする。眼前の敵を斬る鋭き刃と成る。呼吸を停止する。
そして、斬る。無空剣。
心を空にしたまま瞳を明ける。眼前に迫った兇悪な腕の一振りを流水の如く躱し、その額へとキラーナイフの刃を静かに当てる。力を入れず、下に引く。白刃の宣告。
躱し、斬る。受け流し、斬る。往なし、斬る。払う。
払い流し、斬る。払う。躱し、払う。受け弾き、斬る。払う。
全てをさばき間隙を縫う。
斬り薙ぎ、斬り弾き、受け流して払い、往なし斬る。払い、斬り流し、払い斬り、払い流し、斬り、薙ぎ払い、躱し、払い薙ぐ。
徐々に速度をあげていく。その度に新たに紡いだ音色を強めていく。
斬り薙ぎ、往なし弾き、斬り躱し、弾き薙ぎ、払い、撃ち弾き薙ぎ、払い薙ぎ、受け払い薙ぎ、斬り薙ぎ躱し、薙ぎ払い、撃ち流し払う。薙ぎ払い斬り裂き、弾き薙ぎ躱し撃ち、払い斬り上げ薙ぎ払う。
全ての意識をこの斬撃へとむける。
躱し往なし撃ち払い、唐竹斬り払い斬り薙ぎ、払い薙ぎ撃ち払い躱し、斬り降ろし振り薙ぎ払い、撃ち薙ぎ払い弾き斬り返し、突き払い斬り返し振り薙ぎ斬り上げ、躱し払い薙ぎ斬り受け斬り上げ袈裟斬り返し斬り上げる。
無想・阿修羅千手。
たった1音による静かなる協奏曲を奏でながら、人の顔をした人でない者の額に再びキラーナイフの刃を静かに当てる。一瞬の静寂。刹那後、刃を真下に走らせる。鼻を斬り、唇を斬り、顎を斬り、胸を斬り、腹を斬り、股を斬り、そして地面へと刹那の間に刃が至る。白刃の閃き。
両側からこの身を掴み取ろうとする腕を避け、フェンシングの如く試し斬りの短剣を構える。そして顔目掛けて突く。左太股付け根を突く。右肘を突く。左肘を突く。右太腿付け根を突く。再度にまた顔の頂点を突く。スターリィ・ティアー。
狂人鬼が拳を振り上げ、振り降ろす。強力な一撃を受けて屋上の床が破壊される。足場を失って狂人鬼の身体が階下へと消えていく。
否。落下中の床を蹴って高速移動。多少は頑丈かと思われる屋上の端の方へと逃げる俺の背後へと一瞬で回り込む。そしてまた豪腕が振るわれる。躱す事には問題なかったが、代わりに屋上の端もその一撃で崩れ去った。再び自ら足場を壊し、狂人鬼の身が大通りへと投げ出される。
流石に今度は蹴る場所がなかったため、狂人鬼はそのまま眼下へと落ちていく。だがその先にはこちらを見上げるNPC達の姿。いつの間にか構築されたバリケードの奥まで屋上を伝って移動してしまっていたか。
悪い予感がして俺は屋上から飛び降り、壁を蹴って狂人鬼へと目掛けて飛翔。BGMの音色を強めて狂人鬼の身に迫る。
背中から地面に落ちた狂人鬼の胸に、勢いそのままキラーナイフの先端を押し当てる。かつてない程の衝撃がこの身を襲う。天魔剛斬空。痺れる腕を押さえながら前方回転し、身を縮めた姿勢のまま地面を滑り、振り返る。ついでにキラーナイフの刃を地面すれすれに走らせる。刃は熱を帯びるだけでなく発火した。何故だ。構わず、起き上がろうとする狂人身へとその燃える刃を斬りつける。フレイムストライク。
一閃すると刃から炎が消え去る。狂人鬼の身に僅かに焦げ痕が見えたが、それが傷でない事はすぐに分かった。プレイヤーからの返り血が燃えたのだろう。血の焦げた嫌な臭いが鼻につく。
狂人鬼が立ち上がり、更に追撃を放とうとした俺を腕の一振りで後退させる。
「くっ……なんてことだ。自分達で築き上げた壁が、逆に俺達を閉じ込める壁になろうとは」
手に金槌を持った男の一人がそう吐きすてながら、じりじりと後退していく。同じように、屋上から落ちてきた狂人鬼に戦慄しながらも思い思いの武器を手に持ったNPC達が退路を塞ぐバリケードを背に警戒を強める。反対側では家具を取り落とす音。まだ逃げ道がある者達は一目散に大通りを駆けていく。
「予定より少しばかり早いが、覚悟を決めなくてはならないようじゃのう」
そう呟いたどう見ても簡単には死にそうにない老人が……次の瞬間、その言葉通りに死体へと変わった。
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リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場スペシャル!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「まだまだ続く! 第39話でーす♪」
チー「今回はプレイヤーさん達がどんどん死んでしまってるのです」
リン「野次馬なんかしてるからだよー」
チー「リンねぇもまだログインしてたら見に行ってません?」
リン「見に行ってるかも♪」
チー「ですよね♪」
リン「さて、ここで質問です。今回はいくつ必殺技を使ったでしょうか?」
チー「答えは19個なのです」
リン「あ、チーちゃん酷い! 次の話で答えを発表しようと思ったのにー」
チー「ちなみに私のお気に入りは、スターリィ・ティアーです♪」
リン「訳すとどんな言葉になるの?」
チー「スターリィは星が多い、ティアーは涙ですね」
リン「つまり、星の涙がいっぱい!」
チー「なので、とりあえずいっぱい突いておけばOKな技なのです」
リン「でも、カズねぇは星の形に突いてるだけだね」
チー「普通は5回も連続で突けば十分に多いですからね」
リン「私的には2、30回ぐらい突いて欲しかったなー」
チー「それは多すぎです……腕がとても疲れちゃいます」
リン「だけど100連続攻撃を軽く越えてそうな技、カズねぇ先に出してるよ?」
チー「無想・阿修羅千手ですか?」
リン「うん。名前通りなら、千回攻撃だね♪」
チー「一応数えてみましたけど、カウントしづらいのが多くて無理でした」
リン「まぁ、あの短時間で千回攻撃はそもそも無理だから絶対に違うけどね」
チー「千回攻撃は私でも流石に無理なのです」
リン「でもこの勢いでいくと、合計で千回分は攻撃してそうだよねー」
チー「スキル熟練度の上昇がウハウハなのです」
リン「もう100越えてるかな?」
チー「恐らくは。ただ上がり方が異常なのです」
リン「カズねぇレベル1だからねー。レベル差が影響してるんだと思うよ」
チー「そうですね。洞窟行く前に聞いた時点で、既に48でしたし」
リン「チーちゃん、今一番高いスキル熟練度でいくつぐらい?」
チー「14なのです。リンねぇはいくつですか?」
リン「12だよー」
チー「既にその時点で3倍以上も開いているんですよね」
リン「うん。シンちゃんも言ってたように、一週間なら15が関の山だよね」
チー「それがもう100……」
リン「レベル差と手数って偉大だよねー」
チー「カズミちゃんは高レベルの蟻さんと単独で闘っていたんですよね?」
リン「チーちゃん、今度転職したてのレベル1で闘ってみる?」
チー「遠慮しておきます。いったいどれだけの時間闘えば勝てるのか……」
リン「あまり考えたくない戦闘時間だよね」
チー「ですです」
リン「うーん、私達もそれなりに強さを自負してるつもりなんだけど」
チー「自信がなくなってきちゃいそうなのです」
リン「今日はそろそろこの辺りで終わっとこうかな」
チー「そうですね。むしろ少し長すぎた感が否めないです」
リン「体力温存! それじゃそういう訳だから、みんなさよならだよー」
チー「ぐっばいばいなのです♪ またなのです♪」
リン「あ、私の言葉取られた」
チー「ふふふなのです♪」
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