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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第一節 『VALKYRJE SONG』
36/115

Avenger of blood --復習者--

 ビィィィィン。音が響く。

「もっと家具を集めろ! 少しでもあの化け物の進路を塞ぐんだ!」

「子供達は絶対に前に出すなよ。あれは洒落にならん」

「離せ! 離してくれ! あいつが父さんを、父さんを殺したんだ!」

 細い通路の先から聞こえてくる喧噪が徐々に大きくなっていく。しかし、まだ遠い。この細い通路の中にも何重ものバリケードが構築され、敵だけでなく味方すらも通りにくいようにされていた。

 足下の安定性を確認しながら、ゆっくりと確実にそのバリケードを越えていく。目の前の椅子をどければ簡単に通れた事に、越えた後でようやく気が付いた。

「うぉぉぉぉぉぉ! くらいやがれぇぇぇぇぇっ!」

 破砕音が聞こえる。木で出来た何かが盛大に砕ける音が聞こえる。

「くそっ! あの衣装棚、高かったんだがなっ! まるで効いちゃいねぇ。化け物が」

「あんな重い木で出来た家具をあんな速度で投げ付けられる師匠も十分に化け物だと思いますけど……」

「家具職人の(たしな)みって奴だ。嬢ちゃんもいつかあれが出来るようにみっちり(しご)いてやるよ。手取り足取りな」

「結構です!」

 ビィィィィン。音が響く。

 バリケードと化した家具の一つが邪魔すぎて壊そうとした手が少し止まる。この家具にも歴史あり。少し躊躇われたが、やっぱり壊す。既に傷だらけだったから問題ないだろう。目撃者もいない。一太刀で壊す。

「応援はまだなのっ!? 海の向こうからきた人達はこんな時に何してるのよ! 強いんだから私達の街を守ってよ!」

「喚くなケリー。あいつらは既にあれと戦った。だが勝てなかった。それだけの話だ」

 ビィィィィン。音が響く。静かに音が響く。

「なら、上で見ているだけのあの人達は何なの!? どうして私達と一緒に戦ってくれないの!?」

「知らん! 俺に聞くな! あいつらの事は忘れて、今は前だけを見て動け!」

「役立たず!」

 通路からようやく抜け出て状況を確認する。その大通りに連なっているあらゆる建物にNPC達が出たり入ったりしていた。入っていく者は手ぶら、出てくる者達は家具を手に。巨大な柱時計を6人掛かりで必死に運んでいる者達もいれば、外した戸を単身で運んでいる者もいる。その中にはプレイヤーの姿もほんの少し混じっていた。どうせ緊急クエストを行っているだけだろう。顔に浮かんでいる必死さの違いからすぐに分かった。

 ビィィィィン。音が響く。静かに音が響く。

 その人の流れを見て、標的のいる場所が左右どちらなのかを理解する。再びその歩みを開始する。一歩近づくごとに、その光景がよく見え始めた。

「……は? 何だ御前?」

 俺を見た者が素っ頓狂な声をあげるが、無視して歩みを続ける。

 ビィィィィン。音が響く。約3秒の1回の割合で、静かな音が響き渡る。

 距離が縮まる前に能力を確認し、自身に何が出来るのかを再度確認する。


 職業:吟遊詩人

 レベル:1


「きゃぁ! な、なに……!?」

 新しい家具を取りに向かおうとしていた女性が驚いて立ち止まる。予想出来た反応なので、やはりそれも無視する。いちいち構っていられない。


 右手装備:キラーナイフ+13 攻撃力+33 斬属性+6 突属性+6

 左手装備:試し斬りの短剣+7 攻撃力+17 斬属性+3 突属性+4


 両手にその凶器を持ったまま、まだ構築中だったバリケードの一つを横目に過ぎる。

 ビィィィィン。音が響く。三味線のような弦を打つ音が、静かに鳴り響く。

「お、おい! これ以上先に行くと危な……い、ぞ?」

「……なんだありゃ。新手の道化師か?」

 その率直な感想も無視する。敵の姿はまだ見えない。構築されたバリケードと、そこに集まっているNPC達が邪魔で、まだ見えない。まだ近づく必要があった。


 胴装備:吟遊詩人カズミの舞装礼服 防御力+4

 腕装備:吟遊詩人カズミの舞奏手袋 防御力+1

 脚装備:吟遊詩人カズミの舞踊佩楯 防御力+2

 足装備:吟遊詩人カズミの舞闘脚絆 防御力+1


 初期装備ではなく、特典版で貰った恐ろしく煌びやかで恥ずかしい装備を身に纏い、歩み続ける。詩人らしくとても派手な衣装。にも関わらず、その色彩は黒をベースとしており、華やかというよりは異様に近い。だがまるでそれを感じさせない数々の装飾、装飾品。下品でもなく、ベースである黒の基調を霞ませる事なく、逆に際立たせるかのように配置されたそれら装飾品が陽光に煌めき、美しさと麗しさの両方を醸し出す。

 ビィィィィン。音が響く。その音はほとんど誰にも気付かれる事なく静かに鳴り響く。

 この姿を初めて見た者達は、一様にしてまず驚いた。

 最前線に構築したバリケードの後ろで必死に闘っている種々様々な準戦闘職のNPC達も……。新たな防衛ラインを構築しようと(せわ)しなく家具を運び続けている非戦闘職のNPC達やそのクエストに参加中のプレイヤー達も……。大通りに軒並み建つ建物の屋上でその様子を観戦もしくは偵察している衰弱中のプレイヤー達も……。

 突如としてその戦場へと現れたこの俺の姿を見て、まず驚く。

「……おい、あれなんだよあれ。変なのが来たぜ、ギャハハハハ」

「やべ……あれマジで厨だ。厨二だ。すげぇ」

 ビィィィィン。音が響く。周囲の喧噪に一切構わず、鳴り響く。

「NPC、じゃないよな? 名前が見えないから、あれ明らかにプレイヤーだよな?」


 顔装備:吟遊詩人カズミの舞踊仮面 防御力+1

 頭装備:吟遊詩人カズミの舞装帽子 防御力+1


「また変なのが……たまにいるのよね。ただ目立ちたいってだけのバカが」

「く~! 激写っすよ激写! 激写したいのに、ああなんで! なんでこのゲームは写真撮影も動画記録も出来ないんですかっ! 酷いですよ! 訴えてやりますっ!」

「……バカばっか」

 問題ない。素顔すら隠すこの特典版装備一式を着ている間は、俺という存在は正体不明(アンノウン)となる。直接着替える所を見られない限りはまずばれる事はない。

 故に、聞こえてくるそのすべての声を無視して、バリケードへと近づいていく。振り返ったNPCが何やら言いたそうに口をぱくぱくさせるが、すぐに現状を思い出したのか、視線はすぐにバリケード先にいる敵の姿へと戻る。

 ビィィィィン。音が響く。弦を打ったような音が周囲に鳴り響く。

 バリケードの隙間から、ようやく敵の姿が映しだされる。

 殺すべき敵の姿を確認して、一層に2本の短剣を握る手に力が籠もる。


 スキル名:短剣術

 スキルレベル:1

 スキル熟練度:49.11889


 レベル補正:なし

 熟練度補正:斬属性+2 突属性+4 攻撃力+7 命中+15 回避+15 必殺+2


 積み上げられたバリケードの中で一番低い場所を探す。もしくは飛び越えるための段々となっている足場がないかを探す。中央付近がそうだった。

 より目立つ事になるだろうその事態に何を思うまでもなく、俺は躊躇う事なくその選択肢を選ぶ。

 ビィィィィン。音が響く。すべてを無視して鳴り響く。


 スキル名:錬金術

 スキルレベル:1

 スキル熟練度:4.77083


 レベル補正:なし

 熟練度補正:なし


 使えそうなものは何でも使う。それがいったい何の役に立つのかは今はまだ分からない。だが、確認だけはする。何かをする度に増えていくその熟練度。期待は、しない。

 上を見上げ、一段と高く積み上げられたその場所を見る。次にそこまでの経路を見る。手を使って上る必要はなさそうだという事を改めて確認する。

 ビィィィィン。音が響く。音が、鳴り響く。

 飛び乗り、崩れる前にまた次の足場へと飛び乗る。それを数度繰り返し、そして問題なくその頭頂部へと至る。

 ようやく、殺すべき敵の全身すべてをこの瞳に映す。

 狂人鬼は、その手に既に絶命したNPC女性を持っていた。ズタズタに斬り裂き、既に人であったフォルムは失われ、ただの肉塊と化したアイナの姿。

 ビィィィィン。音が響く。一層に強く、その音が鳴り響く。

「……なに、この音?」

「……そういえばさっきから鳴ってるな? なんだ?」

 その音にようやく気が付いたNPC達が、プレイヤー達が耳を傾ける。


 スキル名:BGM

 スキルレベル:1

 スキル熟練度:15.00015


 レベル補正:なし

 熟練度補正:音質変更 音響範囲+1


 繰り返し行い続けてきたスキルの使用に、熟練度が一つあがる。それまでにない程の熟練度の上がりよう。無制限で音を鳴らす度に熟練度が急激に増えていく。それにいったい何の意味があるかなど考えない。使えるものは何でも使う。

 ビィィィィン。音が響く。醜態を晒したままここまで引き摺られてきたアイナを思い、悲しき旋律で音を鳴らす。

 その音に、狂人鬼が気が付く。その音の出所に気が付き、瞳を向ける。

 狂人鬼が通って来た道程を見ると、そこには多数の死者の骸が散らばっており、血の惨状が広がっていた。砕き壊された家具、斬り飛ばされた腕や足、飛び散った血の痕、胸に穴の空いた子供の姿、首から上を失った女性、捻り切られた腹部から臓器を晒す老人、斬り刻まれ肉片と化した元は何であったか分からない者。

 広場でも見たあの光景の結果が、消え去る事なくそこには残っていた。

「瞬殺に一票」

「玉砕に一票」

「名乗りをあげた後、逃走するに一票」

「票を投じるんじゃなくてお金を賭けろよ御前ら。意外と健闘、一撃を与えるに1ドル」

 ベェィィィィィィィィィィィン。一音下げ、余韻を伸ばす。

 すべての音を掻き消す。喧噪を掻き消す。雑音を掻き消す。風の音を掻き消す。

 そして世界が静寂に包まれ、その時を待ち焦がれる。

 見下ろす俺と、見上げる狂人鬼の瞳がぶつかり合う。

 ――殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!

 殺意で心を満たすと同時に、弦の音を連続して鳴らし続ける。

 そしてバリケードから飛び降り、俺は狂人鬼へと向けて疾走する。

♪御意見、御感想をお待ちしています♪


リン「リンちゃんと」

チー「チーちゃんの」

「「あとがき劇場スペシャル!!」」

リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」

チー「ドンドン、ぱふぱふ」


リン「第36話!」

チー「第36話!」

リン「やっほー。ご無沙汰してましたー。リンちゃんだよー♪」

チー「どうも。少しばかりお休みして申し訳ありません。チーちゃんです♪」

リン「なんか本編がシリアスな話しになってきたねー」

チー「ですね。本編から一時退場した私達がここにいて良いのでしょうか?」

リン「ん~、良いんじゃない? ここは一応、本編とは繋がってないから」

チー「あ、そうだったんですか」

リン「うん。でもたまにお仕事で本編に出かけないといけなくなるけどねー」

チー「だから3回も休んじゃったんですね」

リン「だよー。ちゃんと代役は召喚しておいたから、問題なっしんぐ♪」

チー「お部屋も汚くなってるかと思いましたが、却って綺麗になってますね」

リン「最後にシンちゃん呼んだからね。きっと掃除してくれたんだよ」

チー「計画的犯行です?」

リン「ふっふー。私は三姉妹の中で知謀担当だからね。えっへん」

チー「それよりも、本編ではカズミちゃんが何やら凄い格好になってますね」

リン「あ、サラッと無視された。そうだねー。すごい服装だよねー」

チー「まさかあんな奇抜な格好で戦場に向かうなんて……」

リン「驚きを通り越してちょっと呆れちゃうかも」

チー「私達の特典装備もそれなりに煌びやかですけど、カズミちゃんのは……」

リン「恥ずかしくて面は絶対に歩けない服だよねー」

チー「仮面で顔を隠せなかったら、確実にお顔が真っ赤っかです」

リン「いやー。私達の仇を取るためとはいえ、なんかこっちも恥ずかしくなっちゃう」

チー「でもなんで弦の音なのでしょうか?」

リン「あ、それ私も気になってた! 吟遊詩人ならやっぱ竪琴だよね!」

チー「竪琴も弦楽器ですけど、裏で鳴ってるのは三味線の弦みたいです」

リン「無駄に和風だ……」

チー「吟遊詩人というより、芸者さん?」

リン「おいらんおいらん♪ 仮面を外したら、実はそこに白化粧があるんだね♪」

チー「もしかしたら、七変万化もあるのかも」

リン「一つ脱ぐごとに、だんだんと薄着に……じゅるり」

チー「りんねぇ、ヨダレヨダレ」

リン「あっと。ごめんごめん。ふきふき」

チー「後でそのハンカチ、洗って返して下さいよ?」

リン「うん。カズねぇがちゃんと洗って返してくれるよ。きっと」

チー「カズミちゃん任せなんだ……」

リン「ねぇチーちゃん、七変万化するとしたら、どんな職に変化するのかな?」

チー「そうですねー。最初は吟遊詩人で確定ですけど、その後は」

リン「芸者に花魁、奇術士、魔術士とかかな?」

チー「あと、仮面を活かして怪盗猫さんとかも良いですね♪」

リン「カズねぇは大変なものを盗みました。それは私の心です!」

チー「あれ? 盗まれちゃったのです?」

リン「ううん、まだだよー。それに、盗むのは私の方!」

チー「盗んだ後、二束三文で売っちゃだめですよ」

リン「他には、仮面の騎士様とかも入れておく?」

チー「あの服の下に騎士衣装は入らないような」

リン「あ、なら水着! え~と、そうなると職業は……」

チー「ライフセイバーさんとか海女さんとか、海賊さんとか?」

リン「海賊さん良いね! 水着に帽子、眼帯!」

チー「水着姿だけど、色々と身体に付いてて露出控えめなんですね」

リン「うん。折角、海に面してるんだから、今度カズねぇ誘って泳ぎにいこ♪」

チー「はいです♪」

リン「それじゃ、そろそろ今回のあとがき劇場も終わるねー」

チー「カズミちゃんの水着姿、楽しみです♪ みなさんも心待ちにしてて下さいね♪」

リン「バイバーイ。また見てねー」

チー「さよならなのです♪」



♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪

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