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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
始節 『MADE ONLINE』?『MAID ONLINE』
2/115

姪 to Dream

「!?」

 差し出した紙を見て、店員がなんかちょっと驚いていた。それが3枚あるのを確認すると、更に驚く。いやいや、リンちゃんチーちゃん、いったい俺に何を買わせようとしてるんですか?

 俺が今いる場所は、ただの大型電気店。どこにでもありそうな普通のお店だ。秋葉原にあるけどね。ちょっとばかし遠かったけどバイクをかっ飛ばせば大した距離じゃない。帰りは寒さで地獄だけど。

 店員が奥に向かい、少しして荷物を持って帰ってくる。

 そしてなんたらかんたらとよく分からない言葉を並べながらそれが何であるかを説明して、更に内容物を見せて俺に確認する。ごく一般的な対応だ。でもよく分からない俺は、とりあえずはいはいと頷いて先を促す。なんかすぐ後ろにいた人が驚いていたけど無視無視。そして最後に。

「えっと……一つ、22万9800円になりますので、合計三つで68万9400円になります」

 瞬間。周囲が一斉にざわめいた。俺も一緒にざわめいた。

 え? なにその金額? 俺、そんなに金額の張るもの一度も買った事ないよ? そりゃ、パソコンとかテレビとかなら30万クラスのを買った事はあるけど、一度で50万円以上の買い物をした事なんてありません。

 あ、いやあるか。詐欺に引っかかった時に。いやー、あれは薄々分かっていて払った金額(ローンだよ)だったけど、なかなかにいい社会勉強になったぜ。きっちり重度の人間不信になれたし。人間、なんでも経験だよねと無理矢理自分を納得させました。

 まぁ、それは置いといて。

 念のため、お財布の中には今後暫くの生活費として1万円札が20枚ぐらい入ってるけど、まさかそれでもひとっつも買えないような代物を三つも買わされるとは思わなかったよ!!

 というか、あいつらはいったい俺に何を買わせてるんだ……。

「カードで」

 あー。限度額大丈夫かなぁ。俺の心配をよそに、店員さんったらピピッと気軽に精算終わらせてくれちゃって。ああ、鳥肌がたってきた。

 ちなみに後で発覚。これ、税抜き価格でした。

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 朝早いのに10人以上もいた店員さん達が一斉にお辞儀をしてくれた。穴があったら入りたい気分だ。

 こんな高価な物を持って、寒い中バイクを走らせなきゃならんのかぁ。手が別の意味で震えてる。事故ったらどうしよう。

「ただいまー」

 何事もなく家に着いてしまった。いや、そりゃ無事に家に着くけどね。事故って死にたくないし。バイクで事故ったら死ぬよ、マジで。

「おじさんありがとー!」

「ありがとー!」

 そしたら何だか姪二人に抱き着かれた。どれだけ俺の事を心待ちにしてたというのか。すっかり冷たくなった俺の腕に暖かな人肌が左右から襲いかかってくる。嬉しいな。

 と思ったらその腕が下に引かれて俺の身体を屈ませ、背中に背負っていたバックパック……じゃなくて背負い鞄を開けて、中に入っていた物を取り出す少女二人。

 嬉しさの対象が実は俺ではなく俺が買ってきた物だと気が付いた時には、俺の手に温もりはもう跡形もなく消えていましたとも。おじさん寂しい。

「御前等、俺にいったい何を買わせたんだ……」

 正直言えば、何を買ったのかは知っている。そりゃ、中身を確認しないままあんな大金を払える訳がない。店員もちゃんと丁寧に説明してくれたし。だが、それにしてはやたらと高額すぎて不釣り合いだった。

「なーいしょ♪」

「ちょっとお尻ペンペンするから、こっちこーい」

「きゃー。おじさんのエッチー♪」

 ありゃあ、完全に俺の反応を楽しんでるな。やはり確信犯か。下の姪まで随分とはしゃいでいる。俺のイメージもうガタガタだぜ。

 飛び跳ねる二人。飛び跳ねる床に散らばってるお菓子たち、って何で散らかってるの? 家を出る前にちゃんと片付けとけって言っといたのにな。心ここにあらずだったか。チーちゃんならばきっと片付けてくれると信じていたのに……。

 俺の期待に応えなくて期待を越える。越えちゃってた期待はリンちゃんに対するものだったけどね。俺が家を出る前よりも散らかってるな。

「ああ……愛しのマシンさま」

「意外と小さいねー。やっぱカタログで見るのと実物じゃ全然違うよねー」

「うんうん!」

 二人が手にしているのは、超がつくぐらいの最新型のVR機器。非現実世界である人工的に創造された仮想世界に自意識を飛ばすためのフルダイブシステムを搭載した首輪とアンテナ。かつては頭をすっぽりと覆っていたヘルメット型機器と大容量有線ネット環境は、今ではほとんど邪魔にならない首輪と中継用の無線アンテナ1本だけになっていた。

 時代の進歩というのは、いつもその時代を生きている人間を置いてけぼりにしていく。俺が子供の頃にはまだ据え置き型のコンシューマ機が時代を闊歩していたのに、気が付けば世界の技術はもうこんな所にいやがる。

 流石にその時代の流れについていけるのはいつも若い連中だけ。なのでちゃんと今でもパソコンや携帯電話というのはそれなりに需要があった。主に俺とか。

「そんなにそれがいいものかねぇ」

 旧機種とはいえ、俺も一応VR機器は持っている。ただそれはもうタンスの肥やしであり、やはりゲーム遊びでメインとなるのは今でもデスクトップ型のパソコン君。時代の進歩と共にスペックアップは時々してるけど、それは今でも十分に現役だ。

 後はごくたま~に気が向いたら据え置きコンシューマ機で遊ぶ程度である。いつもどんなゲームで遊んでいるかって? 男にそんな質問するのは愚問です。

「はぁ……おじさん枯れてるね」

「不能です」

 いや、そこは不毛と言うべきだろう? 身内相手とはいえ、そんな間違った言葉は使っちゃいけません。というか女の子が口に出すべき言葉ではありません。

「おじさん、最近ニュース見てる?」

「自慢じゃないが、毎日見てるぞ。朝、目が覚めた時に10分程度だけど」

「ほんとに自慢じゃないよね、それ。じゃ、ネットの方は?」

「目についたものだけ、少し。ほとんど生活には役に立たんものには興味ない。そういえば、最近はまったく見てないな。それが何か関係あるのか?」

 必要じゃない人にはまったく必要ない世界。日々を規則的に生きている人間にとっては、衣食住が満たされていれば、後は適当な趣味だけあれば十分。それだけで元気に生きていく事が出来る。

「おじさんって……世捨て人だったんだね」

 ああ、そういえば昔そんな風になりたいとも思っていた時期があったな。流石に山に籠もって人との繋がりを完全に断つようなものじゃなかったが、世間の雑事に(わずら)わされない長閑(のどか)隠遁(いんとん)生活を夢見ていた気がする。……二十代に入る前に。

「これ、今とんでもなく人気のあるアイテムなんだよ?」

 現実にある品物をさしてアイテムと言いましたか。どっぷり浸かったゲーム世代だねぇ。

「ただの最新型のVR機器だろ? そりゃ、あっちの世界はそれなりに新鮮でこっちとはまるで違うから憧れる気持ちは分かるが、所詮はゲームだ。限りある時間を使って遊ぶんなら、VRに限らずこっちでも色々出来る」

「あ、やっぱり分かってない」

 上の姪が呆れた顔で俺の事を見ていた。まぁこれはあくまで俺の認識であるので、二人には二人なりの見解があるはずだ。

 さて、どのような反論が返ってくるか楽しみだ。

「ねぇ、リンねぇ」

「ん? なーに、チーちゃん」

 と、ここで下の姪が何やら良からぬ事でも思いついたのか、上の姪を横からつんつんとつつく。脇腹をつついた筈なのに上の姪はなんとも動じていない。俺の弱点は、姪の弱点ではないようだ。

 ところでチーちゃん、目がちょっと怖いんですけど?

「おじさんには、説明するよりも……実際に体験してもらった方が、手っ取り早い気が、します……。スリフィディアも、三つありますし……おじさんも、一緒に遊んで貰いませんか?」

 ちなみにスリフィディアというのは、最新型VR機器の名称です。いったいどこからそんな名前を付けたのやら。原型がちょっと思いつかない。

「あ、それ面白そう!」

「俺は面白くなさそうだな……」

 そんな俺の独り言を無視して、上の姪がビシッと俺の事を指さした。なにそのポーズ、とっても格好良いよリンちゃん。……姪に指さされている俺の方は格好悪そうだな、うん。

「という訳で、おじさんも一緒にメイドオンラインで遊ぶの決定ね!」

「拒否権は、存在しません。フフフ……」

 どうでもいいけど下の姪っ子さん。性格まで怪しく変わっていませんか?

「はぁ……別に構わんが、生活に支障が出ない程度にしてくれよ」

「と言いつつも、実は俺、可愛い可愛い姪っ子さんと一緒に遊べる事がとても嬉しかったり。おっとやばいやばい。これは俺の心の中の最高機密だぜ?」

「おーい。勝手に俺の心情を作って喋らんでくれ」

 と言いつつも、内心では本当にちょっと喜んでいたりするのだが、これは秘密です。

 一緒にゲームで遊んでくれる女の子って、今まで身近にいなかったからなぁ。例えそれがちょこっと年の離れた姪だったとしても、やはりちょっと嬉しく感じる所はある。

「というか、メイドオンライン?」

 メイドって、あれだよね? メイドさんだろ? いったいどんなゲームなんだか。メイドさんでも育てて遊ぶのかねぇ。それともメイドになってご主人様につくすゲームなのか? 執事になるなら兎も角、俺はメイドになんてなりたくねぇぞ。男につくす気はない! あ、お嬢様につくすのだったら別に良いかも? と思ってみたり。

「そそ。どんな世界かは、入ってからのお楽しみねー」

「ネットで調べるのも禁止です」

「はいはい。お嬢様がたの(おう)せのままに」

「ゲームは明日の夜からだから、それまでに覚悟を決めててね?」

「いや……どんな覚悟が必要なんだよ、そのゲーム」

 むしろそのVR機器を買う時に使った覚悟の方が辛かった気がする。

「んじゃ、俺は暫く寝るかな。流石に徹夜は疲れた……」

「添い寝いる?」

「……っと。先に風呂に入っておくか」

「おじさん聞いてないし」

 聞こえています。聞き流してるだけです。



♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪



 その日、夢を見た。

 懐かしい夢だった。あれはいつの事だったか。たぶん、俺がまだ学生時代だった頃の景色。なのに、姪の二人がその夢の中で色々とはしゃぎ回っていたような気がする。

 ただその姿も一様ではなく、まるで自分自身の姿や色を自由に変える事が出来るのか、ぽんぽんと移り変わっていく。時には裸にもなっていたが、遠目だったので細部までは見えない。そんな姿を俺はずっと眺めていた。そんな不思議な夢。

「ううん……」

 そして目が覚めた。

 何故か肌に人の温もりが残っている気がしたが、そんな訳がないと思い上半身を起こす。首筋に妙な違和感もあったが、やはり気のせいだと思い無視した。

「おはよー、おじさん」

「夕方ですけど……おはようございます」

「ああ、おはよう。やっぱ風呂に入った後で床につくと、寝付きが少し良いな」

 頭を振って、間延びをする。身体が良い具合に刺激を受けて脳が覚醒していくのが分かる。このまま何か覚醒しないかなー。スーパー的な意味で。

「それにしても、絶妙なタイミングで現れたな御前等。朝でもないのに、起きた瞬間に部屋に入ってくるとは思わなかった。俺の部屋に何か用でもあったのか?」

 夢の中にまで姪の姿が現れたせいなのだろう。たった三日しか経ってないのに、何だか二人との距離が縮まってる気がした。やっぱ家族として考え始めたからなのかな?

「え? ええ!? そ、そんな事はないよ。うん、全然ない!」

「いや、挙動不審すぎるだろ御前」

「リンねぇ、慌てすぎ」

「というか! おじさん、いいかげん私達のこと名前で呼んで欲しいんだけど! 御前とか御前とか御前とか、年頃の娘に使う言葉じゃないよ!」

「です……プラチナむかつく」

 あ、こいつ俺の部屋にある小説を読んだな。そんなマイナーな言葉使ってるの、その小説ぐらいしか見た事がない。なるほど、部屋に用があったのは俺じゃなくそっちの方か。

「あー、はいはい。リンちゃんにチーちゃんね。分かった分かった」

「ちなみに私の名前……覚えてます?」

「……」

 あ、やべ。下の姪の方の名前をまだ思い出してなかったんだった。手紙の中では見たのに、サラッと流して覚えるのを忘れてた。えっと、あの手紙どこやったかな。

「おじさん、後でお尻ペンペンの刑です」

「それは勘弁してくれ」

 結局その後も、俺は暫く下の姪の名前を思い出す事が出来ませんでした。

 罰はお尻ペンペンじゃなくて、頭グリグリというかゴリゴリ。予想以上にダメージ受けましたよ。年頃の娘を怒らせると、ちょっと手加減なくて半端なく怖い!

 あと、手紙はどこいったんだろうな? まさかの確信犯?

♪御意見、御感想をお待ちしています♪


リン「リンちゃんと」

チー「チーちゃんの」

「「あとがき劇場!!」」

リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」

チー「ドンドン、ぱふぱふ」


リン「だいにわっ!!」

チー「わっ! 声が大きいです、リンねぇ。いきなりまっしぐらしなくても……」

リン「ねぇねぇ、チーちゃんチーちゃん」

チー「えと……はい。何でしょうか?」

リン「私達って、いったい何歳なの?」

チー「え? それは……読んでる方達のご想像にお任せするしか……」

リン「うん。つまり年齢不詳なんだね、私達」

チー「一応、設定はされているみたいなんですが……」

作者「フッ……秘密だ」

チー「だそうです」

リン「わっ!! なんかノイズ混じった!?」

チー「えっと……これ、ラジオじゃないですよ? リンねぇ」

リン「そっかー。私達の年齢って秘密なんだー」

チー「また聞いてないし……」

リン「やっぱさ、女性の年齢は永遠の秘密だよね。うん、良い仕事してるね作者さん」

チー「実年齢ぼかした方が妄想の幅が膨らむからじゃ……」

リン「だがしかしっ! 私は騙されないよー」

チー「え? え、え? な、何にですか……?」

リン「勿論、おじさんの年齢! 幾ら年齢をぼかしてもそれだけは私には分かる!」

チー「……」

リン「おじさんはねー、お兄さんじゃないんだよー」

チー「えと……」

リン「そこ、とても重要ね♪ 姪とか叔父とか言葉で誤魔化してるけど」

チー「おじさん、年齢誤魔化してるのかな……?」

リン「実は二十歳そこそこ!!」

チー「えっ!? うそっ……!?」

リン「……に見せかけようとしてる、ただの中年なんだよねー」

チー「私、ちょっとこのコーナー、挫けそう……」

リン「という訳だから。チーちゃん、おじさんに恋しちゃダメだよー」

チー「はいぃっ!?」

リン「あれは中年。年の差なんて、って世間では言われてるけど信じちゃダメだからね」

チー「え、あの……リンねぇ?」

リン「同じ屋根の下で暮らしてると、どうしても惹かれあってしまうのが男と女の常」

チー「そうじゃなくて……私達、姪……」

リン「だからちゃんと……ん? なに、どうしたのチーちゃん?」

チー「うー……リンねぇ、嫌い!」

リン「え!? どしたのチーちゃん!? 何で泣いてるの!?

あ、どこいくのチーちゃん? 待ってよ、ねぇ。

私、何か機嫌損ねるような事した? だったら謝るからさぁ」

リン「……」

リン「……」

リン「……」

リン「えと……」

リン「また見てねー!!」



♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪

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