メイド start
朝起きたら、姪二人のテンションがやたらとおかしい。
「なぁ、なんでそんなにニヤニヤしてるんだ? そんなに夜が待ち遠しいのか?」
「え? あ、うん。そうだね! とっても待ち遠しいよ!」
「廃人道、まっしぐら……」
「いや、年頃の娘さんを預かってる身としては、断固としてそんな道に進むのは阻止したいんだが……」
俺の苦言にも二人は変わらずニヤニヤと笑っている。下の姪は気分晴れ晴れといった感じだったが、上の姪の方はもう完全に見た目がやばい。
こっちは朝早くから起こされて朝飯を作らされている身なので、テンションやや低め。その朝御飯中にやたらとテンションの高い二人と対面していると、温度差が激しくてちょっと辛い。というか、その年でもう廃人道つっきっちゃうんだ……。
「その辺はたぶん問題ないよー?」
「御前、グフっ……」
そういや御前って呼ぶなって言われてたんだったか。テーブルの下から飛んできたキックが腹にめり込むなんてまるで想像してなかった。リンちゃん、足長い。
「リンちゃんを見ていると信じられん」
「あ、酷い。じゃ、チーちゃんを見てると?」
もはや手遅れな気がしてきてる、などとは言えない。
「チーちゃんは大丈夫だろう。少なくとも俺がそうはさせない。リンちゃんの毒牙から守ってみせる」
「不束者ですが……よろしく、おねがいします……」
「うん、チーちゃんその台詞は未来の旦那さんに言ってあげてね? おじさんには絶対に本気で言っちゃだめだよ? マジで狼になっちゃうから」
「ならんわ!」
まったく、子供の相手は疲れる。テンション低くてもきっちり応対しとかないと、子供はすぐに愛想尽かしてグレはじめるので、気が抜けない。
昨今の虐め問題の拡大急増は、間違いなく親の愛が足りないせいだと俺は考えている。親がもっと近しい関係で頻繁に子供に接していれば、あんな大惨事は度々起こらないだろうに。まぁ、俺はこの二人の肉親という訳じゃないが。それでも、二人をほっぽってどっかに遊びに行った誰かさんのように、放り出す気はさらさらない。ほんと、何処に行ったのかねぇ。
「ぶー。お昼はチャーハンなんだ」
「簡単、すぎ……」
「文句言うなよ。流石に一日二日で料理の腕はあがらん。作って貰えるだけ有難いと思ってくれ」
ああ、そうだ。忘れてた。仮にも二人は女の子なんだから、料理ぐらいは作れるんじゃないか? なんでこんな簡単な事を俺は見落としてたんだか。
「そうだ、夜は二人で何か作ってみるか? リンちゃんもチーちゃんも女の子なんだから、お母さんから何か料理の一つぐらい手解き受けてるだろう?」
瞬間、チャーハンをすくって口に運んでいた二人の手が止まった。ん?
「え~っと……」
「おじさん……死にたい?」
はい、料理下手フラグきましたよ。
「そうか……今度一緒に料理しような。簡単なものからでいいから、俺と一緒にゆっくりレベルアップしていこうか」
「レベルアップなら任せてよ! これでも私、レベル上げには自信あるんだから!」
「いや、料理はゲームじゃないし、現実じゃレベルなんていうステータスも存在しないから」
「でも、繰り返し行えば、確実に、成長します……価値も、あがります……」
「いや、まぁそうなんだがな」
「それに、料理には毒がつきもの」
つきません。ああ、駄目だ。教える前から二人の中には料理に対する才能が欠如している気がしてくる。昔ならいざしらず、今の時代の料理には毒物生成のレシピはそんじょそこらには転がっていません。
そりゃ毒抜きとかの調理技術はあるし失敗して毒が混じる事はあるけど、意図して毒料理を作る事はない。少なくともこの国にはね。世界だとどうなのか知りませんよ? どこかの民族さんとかだったら今もせっせと毒料理作ってるかもしれませんねー。これを見事食べきる事が出来たら御前は大人だ!とかいうルールを作ってる民族とかいても別におかしくない。身体に穴をいっぱい空ける民族とかいるぐらいだしね。
世界は今も神秘に包まれています。
「お? お? 久々に殺人シェフの触手が動く?」
チーちゃんが親指をたててグッドを作る。ああ、いつの間にか二人の間ではもうゲームの中の話になってたのか。
「あー、はいはい。二人とも、今は現実の料理の腕を先に磨こうな」
「毒料理なら、こっちでも、得意……」
「それ作ったら、毎日おやつ抜きにするからな」
などと漫談していたら、いつの間にか夕方。俺は現実の話をしているのに、二人はすぐにこれから始める新作ゲームの話をし始めるので、なかなか会話が進まない。
聞き出したい事は山ほどあったが、まだ話し足りない二人を夕飯の買い出しに無理矢理連れ出して、家に帰ったらまずは米の洗い方から教える。その間、俺は包丁を握る。さてさて、この野菜どうやって切るんだったかな?
そして夜になった。
「じゃ、おやすみなさーい」
「おやすみ、なさい……」
「おう、おやすみ」
時刻は夜九時。子供は寝る時間。
だが俺は寝ない。俺の就寝時間は夜十二時。起床は七時。これは決められた生活サイクル。
二人の姪に言われた通りに最新型VR機器の事は調べず、件のメイドオンラインなるものの情報も一切調べない。適当に漫画や小説を読んだり、パソコンに向かってカタカタする事、三時間。
「さて、寝るか」
俺は、首輪を付けて床についた。なんか猫になった気分だにゃー。
ああ、猫飼いたい。一緒に面倒見てくれそうな姪もいる事だし、いつか飼おうかな。うん、そうしようそうしよう。猫を飼いますか? YES。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
最新型VR機器スリフィディア。
それと同時にリリースされたVRMMORPG、メイドオンライン。
初め、俺はそれを他のコンシューマ機ゲームや携帯ゲーム、パソコンゲーム、VRゲームのようなものだと考えていた。だがそれは違った。これは、本当に最新型だった。
何しろ、眠っている間に遊ぶゲームだったからだ。
最初は「は?」と当然なった。いったいどうやって?とも思った。だが姪二人の説明を聞いている内に「まさか!?」という思いへと至った。
そう……そのまさか。奇跡とも言える技術の結晶がここにはあった。
「これはね! 睡眠中に遊ぶゲームなんだよ! しかもなんと、三倍速!」
この世界の技術は、既に脳の認識速度を調整出来るまでに至っていたらしい。
「この最新型VR機器であるスリフィディアの最大の特徴は、なんといっても現実の生活時間をほとんど浸食されないという点にあります。従来のゲーム機では、どんなに頑張っても起きている間にしか楽しむ事が出来ないため、取捨選択した上でゲームというジャンルの嗜好を楽しむ必要がありました」
誰にでも経験がある事だろう。学校で勉強している時、スポーツをして身体を動かしている時にはゲームは出来ない。その逆も然り。
しかし時間は有限なので、何かを犠牲にしなければ何かをする事は出来ない。結果、例えお金や興味があっても人によって手を出せない部類の嗜好が出来てしまう。
時は金なりとはよくいったものだ。
「しかしスリフィディアは違います。これは、人が寝ている間にゲームをする事が可能になるマシンなのです」
「しかも三倍速だよ!」
いや、リンちゃんの言ってる事はまるで訳が分からん。なのでチーちゃんに話を促す。なんかゲームの話をする時だけチーちゃん饒舌だなぁ。喋り方も何だか違うし。昨日今日と、チーちゃんの人格を三つぐらい見ている気がするのは気のせいなのかなー?
「だが、寝付きの悪い俺とかだと、うまく機能しないんじゃないか?」
従来のVR機器は、意識を飛ばすだけで身体も頭も起きている。だが寝ている間の意識を飛ばすとなると、寝ている事が前提条件となってしまう。
「その辺も大丈夫だと思います。このスリフィディアには強力な睡眠促進機能も搭載されています」
いや、強力って。α波とかβ波とかのあれだと思うけど、そんな強い作用を出すような機器を使って大丈夫なんだろうか? まだ世間ではそういう装置は全然出回ってなかったと思うけど。技術が確立されたという話も聞いた事がない。
「百歩譲って、そうだとしよう。なら、さっきから隣でうるさい三倍速というのは何なんだ? まさかどこかの赤いMSさんみたいに三倍速で動けるようになるとでも言うのか?」
「はい」
ああ、はいときましたよ。どこまでチートな性能を持ってるんだこのスリフィディアというやつは。他のVR機器とは違うのだよ、他のVR機器機器とはってか?
「起きている間にはまだ技術的に不可能だった認識速度の向上は、寝ている間であれば可能である事が判明しました。これは、その技術も搭載した物凄いマシンなのです」
マジかよ……。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
いやいやマジでした。
という訳で、俺は今、その最新型VR機器――スリフィディアと名付けられた首輪です。にゃー――を付けて、その唯一のゲームであるメイドオンラインの世界にフルダイブでログインした。
ログインしたのだが……。
ズドーーーーーーーーーーン!
バリバリバリバリバリ!
ビリッビッッビッビッビッ……シュゥゥゥゥゥウ。
何だか物凄い轟音を発した後、バリバリと放電して最後に煙まで吐いてその世界に降臨していた。
「おいおい、なんて演出だ」
現れた本人がそう感じるのだから、周りにいた者達もきっとそうだったのだろう。周囲を見渡すと、明らかに度肝を抜かれましたといった人達の視線が俺に釘付けされていた。何これ恥ずかしい。
「お、おい……あんた、大丈夫か?」
「ん? ああ、何ともない、な。たぶん大丈夫だ。ありがとう」
親切心からか声かけてきた男に言葉を返す。あれ? 心なしか、そう答えた後の方が男は驚いていた。さて、何か変な事を俺は言っただろうか?
それよりも、やっぱりこういう事態は普通起こらないんだな。俺だけ特別という訳なのか。いやいやもしかしてバグ? そうだったらやだなー。
「えっと……失礼ですが、お名前を窺っても宜しいでしょうか?」
そしていきなり名前を聞いてくる、と。サービスが開始されたばかりのオンラインゲーム序盤ではよくありがちな、とりあえず何かしらの縁とかハプニングが起きたらフレンドになっておけモードか。偶然PTになった者達同士でフレンド登録とかよくやったなー。
しかし、名前ね。よくよく見ると、俺は周囲にいる誰の名前も見る事が出来なかった。つまり、このゲームは秘匿性の高いゲームなのだろう。プレイヤー情報をほいほいと見れるような事はさせず、それすらもより現実に近い仕様の演出として利用する。
実際には、現実と仮想との区別が出来ていない者が度々起こすトラブルへの事前対策の一つだったりする訳なのだが。
「済まないが……」
「スマナイガ、さん?」
いやいや、それどんな名前だよ。そりゃ、中にはどうやって読めばいいのか分からんような名前をほいほい付ける奴はごまんといる訳だが。間違っても俺はそんな変な名前は付ける趣味はない。ああああとか。
「いや、違う。済まないが、俺は気軽に名前をあかすつもりはない」
「おっ、おっ、おっ……!?」
「ん?」
「俺っ娘キターーーーーーーーーーーーーー!!」
な、なに!? なんで突然に……。
耳をすますと、周囲がやたらとザワザワし始めている。『え、マジ?』『俺っ娘? そんなレアキャラ、リアリー?』『く……なめてたぜ、メイドちゃん。まさかしょっぱなから俺の想像を超えてるとは』『おお……俺は今、神の啓示を聞いた気がする』『グッジョブ』『お姉様と呼ばせて貰おうかしら……』『戦闘レベル、ターゲット確認。フレンド登録開始』などという怖ろしい言葉が羅列している。いや、なんで……。
そう考えていると、突然に頭にピンポーンという聞き慣れた軽快な音が聞こえてきた。
いったい何事かと考えてると、すぐにそれが個別チャットの申し込みだという事に気が付く。それも限定された特殊な相手からの申し込み。しかし俺の方には心当たりがない。
いや、あったか。ああでも、この機能の使い方が分からない。その間にも周囲のざわめきはどんどん大きくなっていく。
……とりあえず、逃げるか。
「失礼」
俺は落ち着いた振りをして、その場を足早に抜け出す。しかし途中で後ろから何人もストーカーさん達が追従している事に気が付いて、めちゃくちゃ恐怖を感じた。なので、通りを曲がった瞬間に全速力でダッシュ!
「くそ! あいつらいったい、俺のアカウントに何しやがった!」
男の俺が追われている理由がまるで分からない。VR機器では性別はまず変えられない。ならばそこには俺の知らない何かしらの別の理由がある。それが可能なのは、どう考えても二日前からひそひそと明らかに良からぬ事を考えていたあの二人以外には考えられない。
最初の街を突っ切り、裏路地に逃げ込み、それでも諦めなかったので街の外まで飛び出し、更にはその先にあった森の中に逃げ込む。流石に森の中だと彼等も諦めたのか、振り返ると人影も見えず気配も感じられなかった。……たぶんだよ? 俺、超感覚を持ったなんとか人じゃないですし。
ようやく息をついて座り込む。疲れたー。
「なんで俺がこんな目に……」
悪態をつきながらよろよろと立ち上がり、すぐ近くにあった小さな池へと足を伸ばす。見た目が綺麗だったので、飲み水には丁度いいと思った。水筒持ってたらきっとアイテムを手に入れられると思う。そういう仕様があればの話だが。
膝をつき、池の水をすくう。予想通り透き通っていて濁りのまるでない水。その水に触れた手も冷たくて気持ちよかった。
手ですくった水に顔を近づけ、喉を潤す。仮想の世界であっても、この感覚の再現は見事なものだと褒めざるをえない。それほど現実に近い感覚だった。
「ふぅ……生き返る」
腰を下ろし、一息吐く。
そしてもう一度、今度は直接水を飲もうと顔を近づけた時。
綺麗な顔とバッチリ目があった。
「お、おんなーーーーーーーーー!?」
俺は、自分が女性キャラとしてここに存在している事を今初めて知ったのだった。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
俺様「あー……俺様の~」
リン「あとがき劇場!! わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
俺様「……」
リン「って、何でおじさんがここにいるの!?」
俺様「それは俺が聞きたい。なんかチーちゃんが代わりに出てくれって」
リン「そうなんだ」
俺様「二人とも、喧嘩でもしたのか?」
リン「喧嘩? してないよ?」
俺様「でも、チーちゃん泣いてたぞ? お願いだから仲良くしてくれよな」
リン「私達とっても仲良いよ。おじさんなんかとは天と地中ぐらい違うよ」
俺様「なんかって……。しかも埋まってるのか、俺……」
リン「というかさ。何で『俺様』なの?」
俺様「だって、名前は二文字でっていうから。俺だと一文字だろ?」
リン「普通にリアルネーム使えばいいじゃん」
俺様「作中で俺の名前、出た?」
リン「あれ? そういえば出てないよね。チーちゃんの名前もまだだ……」
俺様「設定されてないなんて事はないと思うが、な~んか暫く出てきそうにないよな」
リン「伏線だね、伏線♪」
俺様「いや、なんか違う気がする……なくても良いという判断なんだろ」
リン「チーちゃんの名前も?」
俺様「そっちは分からん。俺に聞くな」
リン「うう……可哀想なチーちゃん。きっと泣いてるのもそれが原因なんだね」
俺様「俺の勘だと犯人は目の前にいそうなんだがな……」
リン「とりあえず、タイトルコールからやり直そっか」
俺様「何でだよ。もうこのまま進めちまえよ。そんなに長く書けないんだから」
リン「え、書けるよ? 2万文字まで書けるから、バリバリいけるよ?」
俺様「いや、気力の問題でそんなには絶対に無理だ」
リン「えー」
俺様「というか、そんだけ書くなら普通に本編投稿にしちゃえよって感じだな」
リン「というかさ、おじさん。その話、全然本編と関係ないよ?」
俺様「このあとがき劇場、本編に関わる内容を話す場所だったのか……」
リン「うん。いつも脱線しちゃってるけどね」
俺様「いったいどこに向かってるのやら……」
リン「まぁまぁ。それじゃ、今度こそタイトルコールね」
俺様「まだそこに拘るのか」
リン「どわぃさんわ!! これが噂のメイドオンライン?」
俺様「あーはいはい。ようやくその世界に旅立ちましたねー。まだ3話だけど」
リン「女の子になっちゃったね、おじさん」
俺様「いきなりそこから突っ込む!? もうちょっと優しくいこうよ!」
リン「女の子になっちゃったね、おじさん。嬉しい?」
俺様「二度言ったし……。全然うれしくねぇよ」
リン「女の子になっ……」
俺様「三度目はいらん。話し進めろよ、司会者」
リン「あ、時間だ。そろそろ寝るね、おじさん。後よろしくー」
俺様「……」
リン「みんなも、また次回も見てねー。ばーいばーい♪」
俺様「何となくチーちゃんの気持ちが分かってきた気がする……」
リン「ん? なんか言った?」
俺様「んにゃ、なーんにも」
リン「ふわぁ……ねむねむ。それじゃ、おやすみー」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




